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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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ミミカの別れ

 ココナ村の冒険者ギルドの依頼は少ない。

 少ない依頼も、『畑の収穫を手伝って欲しい』、『はぐれたモームを探して欲しい』等、便利屋さんみたいな依頼が多く、タバスのゴブリン討伐の様に魔物が依頼対象なのは久々だったのだ。

 良くも悪くも平和なココナ村の冒険者ギルドで、テミルは今日も書類整理を行っていた。


「ごめん下さ~い! テミルさんはいますか?」


「あらキリハラさん……ミミカも来てくれたの?」


「約束のお弁当を持ってきたのよ! それにしても暇そうね?」


「暇って事は平和って事よ。こないだ迄はタバスさんが詰め寄って来てたけどね」


 テミルはくすくす笑いながら瑞希が来る迄の出来事を思い出す。


「そう言えば、読み書きの本って貸出は出来ますか?」


「ミズキ様は読み書きが出来ないんですか?」


 シャオの事は知っていても、瑞希の事情までは知らないミミカは疑問に思った。


「そうなんだよ……馬車の中で暇するぐらいなら勉強しとこうかと思ってな」


「なら私が教えます! テミル! 読み書きの本借りても良いよね!?」


「大丈夫よ。キリハラさん。またココナ村に寄った時にでも返してくれたら良いですから」


「助かります!」


「冒険者登録をした時はどうしたんですか?」


「その時はテミルさんに書いて貰ったんだよ。これが冒険者プレートだ」


 瑞希はポケットからプレートを取り出すと、ミミカに渡す。


「これが冒険者プレートですか……テミルの名前も一緒に彫ってあるんですね」


「どっちがミズキの名前じゃ?」


「ん? こっちだよ」


 シャオが顔を覗き込ませながら聞いて来たので、瑞希は思わず自分の名前を指さしてしまう。


「あれ? 読めるんですか?」


「……あ~……ははは」


 別に隠す事でもないのだが、読めるのに書けないという違和感を感じさせないため、冒険者登録をした時もテミルにも隠していたのだが、思わぬ所でバレてしまう。


「つまり……キリハラさんは元の世界でシャオちゃんを助けたら死んで、気付いたら二人ともこの世界で目を覚ましたと?」

 

 誰もいなかったので、瑞希はこの世界に来る前の事から順を追って二人に話す。

 女神の事は余計にややこしくなりそうなので伏せて置いたが。


「ミズキ様……失礼ですが【竜の息吹】に当てられたとかでは……」


 ドマルに初めて会った時に言われた事を、やはりミミカにも言われてしまう。


「そう言われると思ったから黙ってたんだよ……ドマルにも言ったけど、それなら会話が成立してるのもおかしいだろ?」


「それもそうですね……では竜に出会った訳ではないんですか?」


「そんなもんに出会ってたら多分ここに来れてないと思うぞ?」


「ミミカ? キリハラさんが何者でも貴方の命の恩人には変わりないのよ?」


「それは分かってるけど、聞いた事もない話だったから……」


「でもキリハラさんの話を聞いて納得が行きました。【竜の息吹】に当てられた様な方がばたーやちーずの様な素晴らしい知識を持ってるとは思えませんもの」


「俺の世界では当たり前の事なんですけどね? それより竜って何でそんなに嫌われてるんですか?」


 冒険者プレートの刻印も竜に剣が刺さっているデザインな事、またドマルやこの二人が口にする【竜の息吹】という単語から察した瑞希は、疑問を投げかけた。


「私達が生まれる遥か昔に竜が現れて、世界を滅ぼそうとしたんです。その竜は刻印の様に、冒険者だった若者に討伐されたというのが、冒険者ギルドの刻印の所以ですね。御伽噺にもなっているぐらいなので、悪い子は竜に連れ去らわれるよ! と、子供を叱る時に使うぐらいです。」


「どこにでも御伽噺ってあるんですね~俺の世界では頭に角が生えている鬼って言われる怪物とかを退治する話でしたよ」


「角ですか? 魔物の中には角が生えたオーガと呼ばれる非常に好戦的な魔物もいますので、キリハラさんが見かけたらしっかりと退治してくださいね?」


「いや……俺が戦ったら多分逆に退治されちゃいますよ……」


 テミルはうふふと冗談を交えながら説明をする。

 瑞希はもう一つの疑問をテミルに聞いてみた。


「魔物って食材になったりしますか?」


「それは普通にありますよ? オークと呼ばれる魔物の肉は美味しいですし、結構高値で取引されます」


「私もオークの肉は好きです! モームの肉と違って柔らかいんです!」


「(名前から察するに多分豚肉なんだろうな……) シャオ? オークを見かけたら狩ろう!」


「言われんでもその肉でミズキに料理を作って貰うのじゃ!」


 瑞希とシャオはがっちりと手を組むと、まだ見ぬ異世界の食材に心を躍らせた。


「やっぱり折角来たからにはこの世界ならではの食材を料理してみたいよな!」


「他にも食材になる魔物はいるんですか?」


「魔物によって、武器の素材に使われたり、食材になったり様々ですね。代表的なのがオークや巨大なロック鳥等ですね。ある程度は冒険者ギルドで鑑定致しますよ?」


「冒険者としての楽しみも出て来ました! シャオ頑張ろうな!」


「わしに任せるのじゃ! ミズキは美味い物を作るのじゃ!」


「任せとけ!」


 二人が大笑いしている姿を、テミルは呆れた目で見ていた。


「食材だけが目当ての冒険者なんて初めて見たわ……」


「ミズキ様らしくて良いじゃない? 私もミズキ様が作ったオーク料理は食べてみたい!」


「それもそうね……わざわざお弁当を持って来てくれてありがとうね。ミミカももうすぐここを離れるのよね?」


 テミルにそう言われるとミミカに寂しさが一気に押し寄せて来る。


「ううっ……折角会えたのにもうお別れだなんて……」


 ミミカが泣いていると、カウンターから出て来たテミルがミミカを抱きしめる。


「二度と会えないわけじゃないでしょ? 次来るときは勝手に来ちゃ駄目よ?」


「私の料理でお父様と仲良くなって、もう一度テミルが働けるように説得してみる!」


「それは……そうね。もしそうなったらこんな脱走まがいの事は許しませんからね! ……でも久々に会えて本当に嬉しかったわ……ミミカ」


「うわぁ~ん! テミル~!」


 二人の姿を見ている瑞希はやるせなさを感じていた。


「いくら魔法が嫌いだからって、かわいそうな事をするよな」


「わしらが愚痴ってもしょうが無い事じゃよ」


「それはそうなんだけどさ……」


 ひとしきり泣き喚いたミミカは落ち着くと、弁当に入っている料理の説明をする。


「お弁当はね、さんどいっちっていう料理なの! 野菜のさんどいっちは私が作ったからね! 絶対食べてよ!」


「当たり前じゃない。今日のサラダもとっても美味しかったわよ」


「えへへ! じゃあ私達は一旦宿に戻ってから馬車で行くからね!」


「最後の御見送りに後で村の入り口まで行くわ」


 二人がもう一度ぎゅうっと抱きしめ合うと、ミミカは瑞希達と共に宿に戻って行った。


◇◇◇


 宿に戻ると準備を済ませたドマル達三人がウェリーのボルボと共に待っていてくれた。


「お待たせ~! 調理器具と調味料は買えたよ!」


「モームの肉とかもさっき届いてたから馬車に積んどいたよ!」


「ミミカ様! 問題はございませんでしたか!?」


「もう~! 別に問題なんてなかったってば! ……えへへ」


 ジーニャは、ミミカが大事そうに持っているビーターに気付く。


「お嬢? それはなんすか?」


「これはびーたーって言ってお料理に使うの! ミズキ様に貰ったのよ!」


 ミミカは自慢げに二人にビーターの説明をする。


「そうですか……ミズキ殿から……(うらやましい!)」


 瑞希は部屋にあった自分の荷物と調理器具等を馬車に積み込むと、大事な物を買い忘れてた事に気づく。


「しまった! カパ粉を忘れた!」


「小僧! これを持って行け!」


 タバスは大きな袋をミズキの前に置く。


「これって……カパ粉(小麦粉)じゃないですか! 良いんですか?」


「良いんじゃ! わしはお前が気に入ったと言ったろ? わしのカパが小僧の役に立つなら眠らせておくのはもったいないじゃろ!?」


「タバスさん……何から何までありがとうございます!」


 二人はぎゅっと握手をすると、瑞希が奥さんの事を思い出す。


「奥さん早く良くなると良いですね」


「うちのばぁさんにも小僧の料理を食べさせたかったがな……うちのばぁさんの料理もいけるぞ?」


「それは買い物の時に噂を聞きました! 俺も食べてみたかったです! 次来るときに会えたら宜しくお願いします!」


「ミズキ―! そろそろ行くよー?」


 瑞希とシャオ以外は全員馬車に乗っている。


「じゃあタバスさん! お元気で!」


「小僧もな!」


 瑞希とシャオは馬車に乗り込み、タバスは大きく手を振っていた。

 村の入り口に着くとテミルが待っていた。

 ミミカ達三人は各々テミルに別れを告げている。

 ボルボの馬車の近くに別の馬車が止まる。

 その中から松葉杖を突いた老婦が下りて来た。


「ばぁさん大丈夫かい?」


「大丈夫ですよ。私の足より、一人になってる主人の方が心配よ」


「ならもう俺は街まで戻るから、気を付けて帰んなよ?」


「歩いたらすぐつくわ。乗せてくれてありがとね」


 馬車が走り出すと、老婦はよろよろと松葉杖を突きながら歩いていた。


「シャオ……ちょっと一緒に来てくれ」


 瑞希は老婦に近づくと、タバスの事を聞いてみた。


「あの……もしかしてタバスさんの奥様ではないでしょうか?」


「あら? うちの主人の知り合いかしら? それともお客様?」


「はい! 昨日からお世話になってました! お体の方はもう大丈夫なんですか?」


「お医者様には止められたけどね……あの人を一人にしておく方がよっぽど心配よ」


 御婦人はうふふと笑いながら返事を返した。


「タバスさんには色々お世話になりましたし、お土産まで頂きました。これはそのお礼です」


 瑞希はシャオと手を繋ぎ、瑞希に触れられた足は発光するとすぐに治まっていく。

 老婦は急に痛みが無くなった事に驚くと、そのまま足を着いてみる。


「他に痛いとこはありませんか? ついでに治しますよ?」


「じゃあ背中もお願いできるかしら?」


「お安い御用です!」


 瑞希は先程と同じ様に治療する。


「どうでしょうか?」


「どこも痛くないわ! まぁまぁ何と御礼を申し上げたら……」


「違いますよ。これは俺の御礼なんです」


「でも見ず知らずの方に……」


「じゃあ早くタバスさんに顔を見せてあげて、ココナ村の酒場に美味しい物を出して上げて下さい! 俺もまたここに来たら食べに来ますので!」


「そんな事で良いのかしら……じゃあ絶対にうちの宿に来てくださいね?」


「もちろんです!」


 瑞希の姿を見ていたミミカ達四人は目の前で起きた事に感動している。


「本当に素敵な方ね……」


「あんな魔法の使い方を知ってくれたならきっとお父様だって……」


「ミズキ殿……」


「これはアンナが惚れるのも仕方ないっすね」


「もうそろそろ行くよー?」


「悪い! じゃあ行こうか!」


 瑞希達を乗せた馬車はキーリスを目指し向かうのであった――。

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