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ドマルの昔話

 ――ドマルは子供の頃から少し臆病な少年だった。


 近所の子供達と遊べば、泣かされて帰って来る事もあり、血の気が多い父親はやり返して来いとドマルを叱った。

 勿論ドマルはやり返すどころか、父親の気迫でまた泣き出したりもした。

 少し成長すると、母親の仕事を目で追う様になった。

 父親が手に入れた鉱石に、母が細工を施し、商品にする。

 魔鉱石や魔石を使っていない商品でも、母が細工をすれば街の人や、行商人が買って行く。

 

 街に人が集まる時は露店に出したりもしていた。

 その露店で色々な人が目にする様になり、ますます売れる様になっていく。

 父から聞く鉱山での武勇伝よりも、母から聞く細工をする時の話が好きだった。


 この鉱石は鈍い輝きをしているから、少し派手な装飾をしてあげる。

 この鉱石は強い輝きをしているから、少し淡く見える様に磨き上げる。

 鉱石によって色々な性格があるんだから、貴方が臆病だとしてもそれは悪い事じゃない。

 臆病だというのは言い換えれば少し慎重なだけ。

 鉱石がより人の手に取って貰える様に、私達職人が手を加えるの。

 貴方の臆病だと思ってる性格も、きちんと認めてくれる人が居てくれたら、貴方にしか見せられない輝きが生まれるわ。

 

 母親はそう言って楽しそうに鉱石に細工を施していく。

 

 ドマルが色々な物を目で追う様になったのもこの頃からだ。

 父が鉱石を持って来ては、母に渡す前にじっくりと観察する。

 そして母が細工をしていく時も何故その細工をするのかを考える。

 子供同士で遊ぶ時は、相手にどんな物が似合うかを想像する。

 

 一緒に遊んでいた男勝りな女の子にふと、草むらに生えていた花で花冠を作り、頭に乗せてみた。

 自分では単純にその花の色がその子に似合うと思っての行動で、実際に男勝りな女の子に良く似合っていた。

 その子は近くにあった建物のガラスに映る自分を見て、何度もドマルに悪態を吐くのだが、決してその花冠を取ろうとはしなかった。

 

 そしてその花冠は数日で枯れる事になるのだが、その時に泣き出してしまったその子を見て、悪態を吐きながらも実は喜んでくれていた事を知り、自身は少し嬉しさを感じていた。


 ドマルが成人を迎える頃、何度か父に連れていかれ、鉱山夫の仕事に触れたが、全くと言っていい程に興味が湧かなかった。

 自分が選んだ物を、喜んでくれる人に売ればお金が貰える上に、幸せな気持ちにもなれる。

 そんな言葉を家に出入りする行商人から聞いた時に、ドマルに電流が走った。

 家では荷物運びをさせるウェリーを育てているし、物置にある古くなった馬車を直せば使える。

 色々な物が集まるレンスの街で育ったおかげで、商品の目利きにはそれなりの自信もある。


 行商人をやろうと思ったドマルが、父親に相談した所、父親から飛んで来た返事は鉄拳だった。

 母はいきなり殴りかかった父親の前に立ちはだかり、父親の暴行を止めるが、行商人になりたいというドマルの言葉には良い返事をしなかった。


 ドマルは両親の考えを理解する事が出来ずに、家を飛び出す様にして行商人を始めたのはそれから間もなくしてからだ――。


◇◇◇


「――何で今帰って来やがった!?」


 恫喝する様な父親の言葉に、ドマルは「こういう人だった」と半ば諦め気味に返事をする。


「何でも何も、こっちで仕入れたい商品もあったし、友人達に僕の生まれ育った街を紹介したかったからだよ。父さんは相変わらずみたいだね」


 ドマルは溜め息を吐きつつ父親の拳に手を乗せる。

 父親は堪える様にドマルから手を離すと、振り向いて家の中に戻ろうとする。


「ちょっと待って! 父さんが怒るのは予想が付いてたけど、母さんや従業員の人達はどこにいったんだよ? それにこの時間に店を開けてないのも――「ごちゃごちゃうるせぇっ! さっさとどこかに行きやがれ!」」


 父親はそう言って乱暴に扉を閉めた。

 残された者達はドマルに何と声を掛けたら良いか戸惑っていると、瑞希がドマルの肩に手を置き声を掛けた。


「一旦出直そうか。虫の居所が悪かったのかもしれないしさ」


「……うん。なんかごめんね? 親子喧嘩を見せちゃって」


「別に気にしてないさ。それに親子喧嘩って感じでもなかったしな……。一先ず宿を取って明日もう一度来てみないか? お袋さんに会えば何かわかるかもしれないだろ?」


「そうだね……。こ、こら! 大丈夫だから! 押さないでよボルボ!」


「キュイ!」


「わははは! うちのモモと違ってボルボは優しいから――「キュー!」痛たたたたた!」


 誰の文句を言ってんのよ、とモモが瑞希の頭をガブリと噛みつく。

 モモは痛がる瑞希を尻目に、フンと鼻から息を吐いた。


「キュイ~……」


 大丈夫? とボルボは心配そうに瑞希の髪を舐める。


「大丈夫だって。痛みは在っても加減はされてるからな。お前もモモにちょっかい出す時は気を付けろよ?」


「キューッ!」


 何か言った? とモモが抗議を訴える様に強く鳴く。


「あははは、モモちゃんが聞こえてるって」


「へいへい。じゃあドマルの気分も戻ったし、とりあえず宿に戻って作戦会議しようか? 酒でも飲みながらさ!」


 新たな街で飲まれている酒にも興味がある瑞希は、何のかんの理由を付けて飲もうとしている。

 それを分かっているドマルは、くすくすと笑いながら言葉を返した。


「こっちのお酒は強いよ~?」


「お、じゃあチョコレートに合うかもな!」


「何じゃと!? ミズキ、今ちょこと言ったか!?」


 耳聡く瑞希の言葉を拾ったシャオが、二人の会話に割って入って来た。

 瑞希はしまったという顔をしながらゆっくりと否定する。


「ナイナイ。チョコレートナンテナイヨ?」


 瑞希の白々しい態度にシャオがぷんすかと地団太を踏む。


「誤魔化されんのじゃ! いつの間に作ったのじゃ!? はっ! もしやキアラの家でこっそり早起きしてたのはそういう事なのじゃな!?」


「わははは! まぁここ迄温存出来たし、ちゃんと後で分けるって。チョコレートがあるって知ったら船の上で全部取られそうだったからな」


「わしを騙すとは良い度胸なのじゃ! 覚悟するのじゃミズキっ!」


「ちょ、待てっ! こんな所で魔法を使うな! 今ちゃんと分けるって言ったろ!? チサとキアラも見てないでシャオを止めてくれ!」


 シャオの生み出す氷の飛礫を瑞希は器用に避ける。

 これも日頃行われる訓練の賜物だろう。


「……シャオ、手伝うで!」


「じゃあ私はミズキの動きを止めるんな!」


 二人共チョコがあるなら食べたかったのか、シャオの軍勢に加わる。


「キュー」


 馬鹿ばっかり、とモモが呆れた様子で鳴く。


「キュイ~?」


 止めなくて大丈夫かな、とボルボが心配そうに鳴く。


「あははは。ミズキ達には感謝だね」


 先程の父親の応対を一人で受けていたならば、直ぐに気持ちを切り替えられなかったと思うドマルは、目の前の光景を見ていると再び笑いが込み上げて来た。

 ドマルがちらりと実家の二階部分に視線を送ると、誰かが覗いてたかの様に思えたが、人影はなかった。


「父さん! また明日来るからね! 落ち着いたら話をしてくれるかなぁ!?」


 ドマルがそう言っても父親からは何の返事もない。

 ドマルは、よし、と一つ気合を入れ、シャオの機嫌を取るために、瑞希が件のチョコを使ってお菓子を作るという、少女達が喜ぶ様な希望を見せつつ休戦交渉を持ち掛けるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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