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商人の街レンス

 ――レンスの街にある商会の一室では、怒号と共に激しい音が鳴り響いた。


「――ふざけるなっ! その情報は確かなのか!?」


「間違いありません。最近では我が商会に属する何人もの鉱夫が騒ぎを起こしています」


「馬鹿なっ……!?」


「ミーテルとの航路において我が商会の船が沈んだのを覚えておりますか?」


「当たり前だっ! あの船にはミーテルに売りつける大量の物資を積んでいたからな!」


「その船が沈んだのも恐らく関係あるかと……」


「馬鹿な……あれは魔物にしか影響がないはずだ……」


 冷や汗を垂れ流す男は、力なく椅子にもたれかかる。

 

「それでは貴族に問題の鉱山を売りつけるのはいかがでしょう?」


「あの鉱山の秘密を知って欲しがる者が居る訳……そうか! 魔法至上主義者か!」


「そうです。魔法至上主義者が多い貴族へ売り渡すのならば、あの人達は喜んで買うでしょう? どう扱うかはわかりませんがね――」


 秘書の男はニヤリと微笑みながらそう告げた――。


◇◇◇


 ――商人の街レンス・港


 十日程の船旅を終えた瑞希達は、荷物を馬車に乗せ、レンスの港から街並みを眺めていた。


「なんか心なしか温かいよな?」


「それに変な臭いがするのじゃ」


 瑞希と手を繋ぎながら顔をしかめるシャオにドマルが答えた。


「レンスに人が集まる理由は二つあるんだ。一つは魔石や魔鉱石が取れる鉱山が豊富な事、もう一つはレンスが温泉地って事なんだよ」


「……温泉!」


「私も入った事ないんな!」


「あぁ、だからこの匂いなのか」


 瑞希はドマルの説明に頷きながら辺りを見回す。

 偏に目を惹くのは、住民達のガタイの良さだ。


「それになんか、カインとかグランみたいにごつい人が多いよな?」


「この街は力仕事を生業としてる人が多いからね。商人の街とは言われてるけど、その根幹を支えているのはそういう人達なんだよ」


「あぁ、そこに商人達が集まって来て人が増えたのか」


「そういう事だね」


 二人は納得しているが、チサとシャオは首を捻っていた。


「どういう事なのじゃ?」


 その質問に答えるのは大商会の娘であるキアラだ。


「住民が欲しい物を街へ持って来るのが行商人なんな。温泉があるならそれを売りにして観光地にも出来るんな。自然と同じ様な考えの商人が集まって来ると、人が増えるんな。人が増えたらまた違う物を欲しがる人が増えて、別の商品を持って来る商人が増えるんな」


「……おぉ! 成る程!」


 チサはポンと手を叩く。


「あははは、そういう事だね。そうやって船を出したり、陸路で行商人が来たりしてレンスの街は色んな地方の人が集まる様になったんだ。モンドさんがキアラちゃんにこの街を見せるのを賛成したのは、そういう所だろうね」


「つまりここでかれーが受け入れられるならどこでもかれー店を開けるんな!」


「それにこっちにも香辛料はあるし、北部にはない油なんかもあるよ? 食材なんかも……「早く市場に行こうっ!」」


「キュー!」


 乱暴に手綱を引っ張るなとモモが瑞希に抗議の声を上げる。


「あははは! 市場は逃げないから一先ず宿に行こうか。ティーネさん達はどうしますか?」


 そう声を掛けたドマルに対し、船からの荷を受けたティーネ達は、一同綺麗に整列しドマルに頭を下げた。


「本当にありがとね! おかげでレンスの公演に間に合ったね!」


 ティーネはそう言いながらドマルの手をしっかりと握る。


「そんなっ! 無事に航海出来たのはミズキ達のおかげですし、この船もカエラ様の持ち物ですから。御礼を言うのは僕じゃなくて良いですって!」


「勿論皆に感謝してるね! この声が持つ内にきっと御礼を届けるね!」


「あははは、ティーネさん達の楽団ならきっと皆も喜びますよ」


「その時はこの航海の事を歌にしてキーリスで流行らすね!」


「それは恥ずかしいから止めてくれ!」


 既に船の上でお披露目された歌を思い出し、瑞希待ったをかける。


「……え~? ミミカとか絶対喜ぶで?」


「嫌だよ……誰だよあのかっこいい奴……」


「くふふふ! 確かにクロツに気を取られてたとは思えん活躍ぶりじゃったのじゃ」


 美化された歌の中の瑞希は、本人が思うに、本人とはかけ離れた人物の様だ。


「ウォルカではかれーの歌を歌うね! あんな料理初めて食べたね!」


「それは楽しみなんな~、ティーネの歌ならきっと皆口ずさむんな!」


 キアラのカレーを食べたティーネは、瑞希の予想通りその衝撃を歌にした。

 それは所謂CMソングの様な、耳に残りやすい歌だった。


「それじゃあ私達はそろそろ契約してる商会に行って来るね! 時間があったら見に来て欲しいね! 私の名前を出せば入れる様にしとくね!」


「絶対行くんな!」


 ティーネは手を振りながら瑞希達から離れていく。


「あ、そういえば契約してる商会ってどこの商会ですかー?」


「ロイグ商会って所ねー! じゃあねー!」


 商会の名前を聞きだしたドマルは微妙な表情を浮かべていた。


「ロイグ商会って有名なのか?」


 その表情を読み取った瑞希はドマルに質問する。


「え? あぁ……うん。ここら辺では一番儲けてる商会だと思うし、持ってる土地も多いから会場なんかも大丈夫だと思うんだけど……」


「けどなんなのじゃ?」


「行商を続けてる内に結構黒い噂も耳にする様になってさ、表向きは各地方の特産品を相応の値段で扱ってるんだけど、やり方はあまり良い噂を聞かないんだ。街のごろつきなんかも操ってるって聞くしね」


「おいおい……、ティーネ達大丈夫か?」


「さっきも言った様に表向きは問題ないと思うよ。それにギルカール楽団と言えば貴族様達にも知られているし、その最後の公演を行うならロイグ商会が持ってる会場が一番大きいだろうしね」


 ドマルはそう言いながら遠くに見える大きな建物を指差した。


「ここからでも見えるって事は相当大きいんな~」


「ギルカール楽団の劇なら人も集まるだろうし、変な事をしなくても大儲けできると思うんだ。それにそれだけ人が集まる時なら、屋台を出したい商人も多いだろうから場所代でも稼げるだろうしね」


「「……屋台 (なんな)!」」


 ドマルの言葉に食い付いたのはチサとキアラだ。


「よそ者の俺達がいきなり屋台を出せる訳ないだろ……」


「それに何を出すつもりなのじゃ?」


 兄妹は呆れた顔で二人の少女に尋ねた。


「それは今から考えれば良いんな!」


「……四人が居れば何でも作れる!」


「問題は料理より場所だろ? いきなり屋台を出させてくれっても場所はもう決まってるだろうしな」


「ドマル~……どうにかならないんな?」


 泣きそうな顔でドマルに強請るキアラだが、ドマルは困った顔をしながらポリポリと頬を掻いていた。


「どうにかは出来るんと思うんだけど……なぁ?」


「キュイ~……」


 故郷の地に戻って来たドマルは言いどもりながら、付き合いの長い愛馬であるボルボに話しかけると、ボルボも同じ様な返事をする。


「……うちも久々にお店やりたい!」


「こらこら無理強いするな二人共! ドマルだって都合があるだろ!」


「いや、ここに戻って来たなら顔は出そうと思ってたんだよ。僕もそれなりの商人にはなれたつもりだしね!」


 ドマルは自分に言い聞かせる様にそう告げて気合を入れるのであった――。

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