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カエラの謝罪

 ――ここまで来る道中、キアラは時折現れる魔物を見てはシャオに尋ね、チサを拾った場所を通る時はチサの話に涙し、冒険者でもなく、ある意味お嬢様育ちの筈にも関わらず野営も楽しんでいた。


 瑞希も瑞希で初めて見た魔物を狩っては試食をしてみるスタンスは変わっておらず、懐かしのビッグフロッグを見かけた際は、いの一番に仕留めに行った。


 そして瑞希にとっては二度目の、キアラにとっては初めて訪れた街、水の都ミーテルに到着した。


 一先ずウィミル・カエラの住まうウィミル城に向かっているのだが、キアラは誰よりもはしゃいでいた。


「凄いんなー! 聞こえて来る喋り方も皆チサみたいなんな! ドマル! あの野菜はなんな!? ウォルカにはないんな!」


 御者台にドマルと座るキアラは、目に入った物を指差してはドマルに質問をしていた。


「チサ、この街から船で移動になるけど、本当にヤエハト村には寄らなくて良いのか?」


 馬車内でシャオの髪を櫛で梳かしながらチサに尋ねるのは瑞希だ。

 チサもイナホをブラシで梳いていた。


「……おとんにも会うたし、ヤエハト村に行ってたらまた二、三日かかるやろ? 戻って来てからでもええよ。出かける前に家の掃除すんのは嫌や……」


 チサはそう言いながらげんなりとした様子で溜め息を吐いた。

 心配性なチサが、コバタで出会った父であるザザに問い詰めるのは至極当然であり、問い詰めた内容はまるで母が一人暮らしの息子にする様な確認事であった。


 ザザはチサの尋問をのらりくらりと交わしていたが、一端の魔法使いとなったチサが取った行動は師匠譲りの魔法を使った脅迫であった。


「……まったく。おとんは直ぐ散らかす。糠床もコバタに持って来てたけど、酢っぱなっててうちのと全然違う味やったし」


「わはは! 糠床には個性が出るって言ったろ? 酸っぱくなり過ぎてるのは発酵の進み過ぎだけど、チサの糠床が美味しいのは混ぜる手も違うし、何より想いが違うからな」


「……想い?」


「料理は愛情。ってのは誰の台詞だったかな。でも相手を想いながら作る料理は自然と美味くなるもんだ。チサの糠漬けは俺やシャオも食べるだろ? でもザザさんが一人暮らしだったなら作った糠漬けは自分しか食べない。そうなると少々不味くても良いかって妥協してもよくなる。少しでも美味しく、少しでも綺麗に……って考えて料理を作るだけでも愛情が入ってるってもんさ」


「くふふふ。ミズキの料理はいつも美味いのじゃ」


 黙って髪をいじられていたシャオが、話を聞いてピンと来たのか嬉しそうにそう告げる。


「そりゃ可愛い妹のためにたっぷり愛情を込めてるからな!」


「くふふふ!」


 思っていた答えが返って来たのが嬉しいのか、シャオは御機嫌の様だ。


「……うち等には!?」


「心配しなくても俺は料理人だ。食べる人の事を想いながら料理するのは当たり前だよ。それはどんな仕事をしてる人でも同じだ。俺の装備もそうだけど、チサの装備にだってクミンさんの想いが……そう考えると気持ち悪いな……」


 瑞希の脳裏にはウィンクをしながら投げキスをしてくるクミンの姿が浮かび、苦笑してしまう。


「……料理は愛情か」


「料理に限らず、どんな事でも相手を思う心はいつでも大事だ。ザザさんだってチサに怒られながらも、どこか嬉しそうだったしな」


「……せやろか?」


「傍から見てたらそうだったって……よし。シャオの髪の毛完成っ! 良い暇潰しになったな」


「暇潰しとはなんじゃ!? さっきまでどんな事でも愛情が大事じゃと言うておったのじゃ!」


「わははは! ちゃんと愛情を込めたって。チサだってそうだよな?」


「……ふわふわになった!」


 イナホのブラッシングを終えたチサも満足そうに毛並みの感想を告げる。


「あふっ!」


「こやつと同じにするでないのじゃっ!」


 本人は気付いていないが、地団太を踏みながら悔しそうにするシャオの後頭部は、とても暇潰しとは思えない様な編み込みが施されており、本日のシャオも一際可愛らしく仕上がっていた――。


◇◇◇


「――ほんま堪忍え!」


「いやいやカエラ様のせいじゃ――「カエラでええて。もうそっちの呼び方の方が慣れてるやろ?」」


 ウィミル城に到着した一行に謝るのは、ウィミル城の城主であり、カルアリア大陸北西に位置するマリジット地方を治め、その美貌から結婚適齢期を過ぎながらも他の貴族からの求婚が絶えなかったカエラ・ウィミルその人である。


「あははは。さすがにその役目は終えましたしね」


「ええの! うちあんま同年代の友人もおらんし、ドマルはんとかミズキはんは友人やと思っとるからな! それに王都の貴族の前で紹介したんやから気を使われてる方が変やわ」


「そうそう。ドマルが気兼ねする必要はもうないだろ?」


「二人にそう言われると……善処しま……善処するよ」


「んふふ。まぁドマルはんも貴族になったらそんな心配もせんでええ様になるんやけどな」


 カエラはそう言いながら茶を啜っているが、自分が何を言ったのか遅れて理解できたのか、その笑顔には少し焦りが生まれていた。


 そんな中、目の前の甘味にパクついていたチサが感想を述べる。


「……お団子美味しい」


「せ、せやろ!? ミズキはんが教えてくれてから、今ではうちん所の名物やねん!」


 カエラは強引に話の方向を変える。


「……にへへ。なんかこっちに帰って来た感じがするわ」


 みたらし団子のタレを口に付けながらチサは新たな団子を頬張る。


「ペムイからはお菓子も作れるんな~」


 ペムイ料理に感心するキアラの口元も、チサ同様に汚れている。


「……そう! ペムイは偉大!」


「そういやこっちのお嬢ちゃんもシャオちゃんの魔法のお弟子さんなん?」


「キアラはわしの弟子ではなく、ミズキの弟子なのじゃ」


 そんな説明をするシャオの口が一番汚れているのは言うまでもない。


「お前等揃いも揃って口元汚れすぎ。ほれ、こっち向け」


 シャオは顔を瑞希に向けると、されるがままに顔を拭かれる。

 いつもの様にシャオの口元を拭うついでに、チサとキアラの口元も拭う瑞希を見て、カエラはコロコロと笑う。


「そら子連れの英雄て言われるわなぁ」


「あははは。ミズキは面倒見が良いからね」


「面倒を見ておるのはわしなのじゃ。先程の問題もわしが居れば何とでもなるのじゃ」


 シャオはそう言いながら先程謝り倒していたカエラの問題に話を戻した。


「クロツでしたっけ?」


「問題はクロツもやけどそれをエサにするクラーケンの方やね。一回出没するとその近辺に定期的に出没する様になるさかい、頭を悩まさせられるんやけど、今回出たのは一際大きいそうなんや」


「クラーケンって事は足が何本もある?」


「さすが銀級冒険者やわ! 海の魔物やのに知ってるんやね? あいつは頭狙っても、足を千切っても生きとるさかい面倒臭いんやわ」


 瑞希はクラーケンという名と、カエラの言う特徴を聞き、元の世界にいる大王イカを想像する。


「クロツってのが何か分からないですが、イカなら美味そうですね」


 瑞希特有の発言を聞いたシャオが立ち上がる。


「美味い魔物ならばさっさと狩りに行くのじゃ!」


「……ペムイに合うとええなぁ!」


 二人の弟子であるチサも新たな食材の登場に、脳内でペムイと一緒に食べれる食材かを妄想する。


「一応うちは船が暫く出せへんって事を謝ってたんやけど~……」


「あははは。最悪でもシャオちゃんの魔法があれば海上でも逃げれるだろうし、三人共もうやる気みたいだよ?」


 カエラの呟きを聞いたドマルが、興奮する少女達に代わり返答する。


「せやけど、そっちのお嬢ちゃんは料理人で冒険者でもないんやろ?」


「クラーケンってのはかれーの具材にも出来るんな!?」


 どうやらカエラの心配を他所に、キアラは何も不安がっておらず、瑞希に食材としての質問をしていた。


 その光景を見たカエラが大きく息を漏らした。


「ミズキはん達を見てると、自分の感性がおかしなったんか思うわ……」


「あははは……」


 乾いた笑いでしか返せないドマルだが、自分自身も何の不安も感じていない事は隠すのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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