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キアラとムージ

 ――ウォルカでの思い出話に花を咲かせながら瑞希が御者をするドマルの馬車は、コバタの入口へと向かう。

 以前はいなかった門兵に引き止められ、テオリス家の紋章を見せようと思った矢先に、門兵は親し気に瑞希に話しかけた。


 その門兵は以前テオリス城の競技会で競い合った兵士であり、酔っ払った瑞希と相撲を取ったであろう兵士の一人だ。


「――へぇー! じゃあムージは意外にも街の人から人気なのか」


「確かに口調が強いから最初は怖がられてたんだ。けど住民達も毎日街で領主様が姿を見せる事で徐々に警戒心を解いて行った感じだな。ほら、噂をすれば――」


 門兵はそう言いながらこちらへ向かって来る集団に視線を誘導する。

 

「おぉ~いムージ! こっちの暮らしは慣れたか~!?」


 ムージに気付いた瑞希が手を振りながら大きな声でムージに呼びかけると、ムージはウェリーの手綱を引っ張り、方向を変えて瑞希の元へとやって来た。


「貴様っ! ここで何をしている!? アリベルはどうした!?」


「アリベルならちゃんと城でミミカ達と元気にしてるって。それより話は聞いたけど、コバタも大分復興して来たみたいだな!」


「当たり前だっ! テオリス家やウィミル家からあれ程物資を送られているのに復興が進まない等あってたまるか! それより問題は飯だ! キーリスではあんなにも美味い物に溢れているのに、ここの飯は乳製品はあれどそれを扱える人間が居ないのはどういう事だ!? 好い加減お前の飯を食わせろ!」


 そう訴えるムージの顔は、怒りと悲しみが入り混じった様な顔だ。


「そうかそうか! じゃあ今日はここで一泊する予定だから何か作るさ……この子が」


 瑞希はそう言って背中越しに親指で御者台を覗き込んでいたキアラを差した。


「私なんな?」


 ムージは瑞希の指差した少女を一目見てから、視線を瑞希に戻し声を荒げる。


「こんなガキよりお前が作れっ!」


「ガキとはなんな!? こいつは失礼な奴なんなっ!」


 キアラの事を知りもしないムージが興味なさげに瑞希に詰め寄るが、ウォルカの中ではそれなりに繁盛してる店を構えているキアラはカチンときた様子でムージを指差し非難する。


「誰に向かってこいつ呼ばわりを――「はいはい! 止め止め! ムージはそんなんだから住民の皆に怖がられるんだぞ? キアラも誰から構わず突っかかるな。もしもムージが女子供に手をあげる奴だったら危ないだろ?」」


「お前がおかしな事を言うからだろうが!? こんな子供がまともな料理を……いや待て、落ち着いて考えてみればミズキの関係者か……」


「おぉっ! 成長したなムージ!」


「何様だ貴様はっ!?」


「わははは! バージからムージの事を頼まれてるからな。時には煽ってみて誰彼構わずキレたりするなら痛い目にあわせてくれって言われてたんだよ。なっ?」


「なんじゃ。魔力が無駄になったのじゃ」


 シャオはそう言ってつまらなさそうに掌に繰り出した風球を草むらに放り投げると、風球が命中した箇所から暴風が生み出され、残された場所にはぽっかりと穴が空いていた。


 ムージはその光景を見て瑞希に掴みかかる。


「お前の妹は俺を殺す気かっ!?」


「わははは! シャオはキアラの事が好きだからな。ちょっと力加減をミスったみたいだな」


 瑞希の言葉を聞いたキアラが嬉しそうにシャオの顔を眺めていると、シャオは少し照れ臭そうにキアラから顔を背ける。

 そんなシャオに感情をそのまま体現しがちなキアラが抱き着き、シャオは鬱陶しそうにしつつもその行為を拒もうとはしない。


「まぁムージは知らないだろうけど、キアラは俺の教え子で、こう見えて隣り町のウォルカでは人気店を営んでる子だから安心しろって」


 ムージは改めてキアラの顔をじっと見る。

 シャオ、チサ、キアラが並ぶと、ムージにはどう見ても同い年ぐらいの仲良さげな少女達にしか見えない様で、ムージは目頭を押さえながら呟いた。


「お前等を見てるとつくづく自分の感覚がおかしくなる……」


「うちの子達は料理上手だからな! 心配しなくても美味い物を作ってくれるさ」


「……余裕」


 チサはそう言いながら指を二本立て、ピースサインをする。


「かれーなら任せるんな!」


 キアラは胸を張りドンッっと胸を叩く。


「二人共頑張るのじゃ」


 シャオは興味なさそうに二人にそう声を掛け、欠伸をする。


「「シャオも作るんやで()っ!」」


 シャオと仲の良い二人の少女は手伝う気のなかったシャオを、やいのやいのと言いながらもみくちゃにする。

 その光景を見た瑞希と、馬車の中にいるドマルがくすくすと笑っていると、ムージは呆れながらその場を後にした――。


◇◇◇


 ――貴族としての知識を学ぶ時に、今までなら講師と一対一のつまらない時間だったのだが、その場に妹となったアリベルが加わった事で、ミミカはいつもの様にだらける仕草をあまり出さなくなった。

 その代わりと言えば良いのか、アリベルはぶぅ垂れながらつまらなさそうに机に突っ伏していた。


「アリー。ちゃんとしなさい」


「だってぇ……お兄ちゃん達はいないし、お勉強ってつまんない」


 アリベル位の歳の頃、自分が同じ事を言っていたのをミミカは思い出す。


「ミズキ様達はお仕事なの。それに私だって早くお菓子作りしたいわ」


「お姉ちゃんも!? アリーも一緒に作りたぁい!」


 ミミカからの同意を得た事で、上機嫌になるアリベルが机から身を起こし、ミミカの言葉に賛同する。

 いつもならここで監視役のテミルか、アンナ辺りからお叱りの雷が放たれるのだが、ミミカの手はペンを走らせたままだったため、その場には雷が落ちず、静寂のままだった。


「やる事をやってからね。それがお父様との約束だから」


「ぶー……」


「この後はアリーの好きな魔法の訓練でしょ。早く終わらせないと時間が無くなるわよ?」


「あ、そうだった! 早くやらなきゃ!」


 アリベルは思い出したかの様にペンを走らせる。

 ミミカが王都から戻って来てから粛々と勉学に励むのには理由が在る。

 一つは学校でお菓子作りを教える為にバランと交わした約束を守るため。

 もう一つはマリルとの約束を果たすためだ。


「(私達が必ずテオリス家を今以上に強くしてみせます。だって叔母様との約束ですもの)」


 ミミカはそう心の中で呟きながら、ふと窓の外へと視線を向ける。

 空にはふわふわと浮かぶ雲が気持ち良さそうにゆっくりと流れている。

 ミミカはそれを眺めながらもペンを走らせていた。


「(ふわふわしたお菓子ってどうやったら作れるのかしら? けーきの様にめれんげを作ってから……あ、ならめれんげを作ってそのまま焼いたらどうなるのかしら? 試してなかったなぁ。ミズキ様が作ったオムレツも――)「ミミカ様! 集中できてませんよ!」」


「へ? あ、はいっ!」


 アンナの呼びかけに我に返ったミミカは、慌てて机に視線を向ける。

 そこには解答を書いた文字が、途中から菓子作りの分量に切り替わっている訳の分からない文章が並んでいる。

 ミミカはその文字を見て、軽く自分を戒めてから再度目の前の問題に集中するのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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