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瑞希の土産

 ――マリジット地方にある水の都ミーテルに行く前に、瑞希達は少し寄り道をしていた。

 その街はかつてミタスが支配していた街であり、残された野盗が荒らしまわったコバタである。


 瑞希達はコバタに続く道を馬車で走らせながら、開拓したであろう大地を眺めていた。


「……凄い。来年にはペムイがいっぱい出来てそう!」


「こっちには力が強いモームがいっぱいいるから、ペムイ畑を作るのも簡単に出来そうだね」


「あふっ!」


 チサの頭の上ではイナホが外を眺めながらブンブンと尻尾を振り回している。


「凄いんな~! コバタでペムイがいっぱい出来たら、うちの店でも安く買えるんな!」


「……かれーペムイは美味しい!」


 チサはキアラの言葉を嬉しそうに頷きながら、以前食べたカレーライスならぬカレーペムイを思い返していた。


「昨日食べたシームカ(うなぎ)も美味しかったんな! サランから聞いてたけど、実際に食べてみると驚きの美味さなんな!」


「くふふふ! あれもミズキが考えた料理なのじゃ!」


 瑞希の膝の上に座るシャオは、自分の事の様に胸を張る。

 瑞希はシャオの頭を撫でながらシャオの言葉に答えた。


「俺じゃなくて、先人の方達だよ。でもオラグさん達も捌くのが上手くなってて良かったよ」


「まだ他の街じゃあんまり見向きもされないって言ってたから、ウォルカに帰ったらいっぱい買うんな!」


「うなぎカレーか……。俺だと先入観があり過ぎて想像し辛いけど、先入観のないキアラなら美味しいカレーにしてくれそうだから楽しみにしとくよ」


 キアラの店で雇っているサランの故郷で一泊した一行は、サランに頼まれていた土産を手渡すのに、突然ではあるがオラグ達を訪ねる事となった。

 サランの弟達はイナホとシャオの取り合いに興じ、人を使う事に慣れているせいか、年の近いキアラが一喝した所で、何故か弟達はキアラの言う事を守り始めた。

 キアラ曰く、子供の扱いはモンド商会の従業員の子供達で慣れているとの事で、その子供達の中でキアラは年長の方なのだそうだ。


「……シームカは丼が一番!」


「わかんないぞ? カレーに使う香辛料がシームカの味を広げてくれるかもしれないし、チサが初めて食べた時のムニエルだって美味しかっただろ? 俺の故郷じゃシームカをゼリーにする料理だってあるからな」


 瑞希は笑いながら記憶にある鰻料理を口にする。


「……シームカをぜりー……? なんか想像しただけで気色悪いんやけど……」


 瑞希がスライムを使って作り上げる果実ゼリーを日常的に食べる事のあるチサは、シームカをゼリーにするという言葉を聞き、どんよりと気持ち悪そうな顔をした。


「わははは! 料理に正解はないからな。美味けりゃ正解だ。俺は物心ついた頃から蒲焼で食べてたから、シームカを調理するならまず蒲焼が思い浮かんじまう。けど、そういう料理があるのは本当だぞ? そういう発想力ってのは先入観が少ない程面白い発想を思いつくんだよ。だからこそ俺はシームカを焼いて食べようとは思うけど、カレーにしようとは思わない、というより思えないんだ」


「シームカならきっとカレーにも合うんな!」


「勿論俺もそう思うけど、下手したらシームカの旨味すら隠してしまうかもしれないだろ?」


「どういう事なんな? かれーはどんな食材でもかれーになるんな」


 キアラが首を捻りながら瑞希との問答を真剣に悩む傍ら、瑞希はキアラの言葉を聞きながら素直に頷いた。


「そういう事だな。カレーを作ろうと思えばどんな食材でもカレーになる。カレーってのはそれだけ料理として強いんだよ」


 瑞希の言い方は少しキアラに引っかかった様だ。


「かれーじゃ駄目なんな?」


「駄目って事はないさ。食材を引き立たせたいのか、カレーみたいに香辛料を食べさせたいのか、ってのは料理人の好みだろ? キアラは香辛料を使ったカレーを作る職人なんだから、シームカを使った美味いカレーを作るのは正解だし、俺はシームカ自体の味を強調させたいから香辛料を使うとしても、脂のしつこさを消すぐらいの香辛料にするって違いなだけだ。こないだ渡したお土産のトッポの使い方も面白かっただろ?」


 瑞希はそう言いながらその時の出来事を思い出し、くつくつと笑いだした――。


◇◇◇


「――はぁ~、今日も忙しかったねぇ~」


 最後の客を見送ったサランは、店に戻ると本日の繁盛ぶりを口に出して振り返る。


「キアラちゃんから店を任された時は出来るか不安だったけど、お客さんが満足してくれてるみたいで良かったよ。なっ!」


 クルルはそう言いながら、キアラの代わりに厨房に入った女性に笑みを浮かべ問いかける。


「こ、こんなに忙しい中、キアラちゃんは毎日かれーの試作をしてたんですか……?」


 そう呟くのは新人従業員で大きな眼鏡が特徴のフニ・サッシバルだ。


「キアラちゃんの場合はかれーを混ぜながらでも、別の香辛料の組み合わせを考えてたりしてたからな~。私達も賄いで味見をして意見を言い合うってのが毎日だしな」


「そうそう。それに時には滅茶苦茶辛いのが出てきたりするんだよ」


「――わははは! そういや俺もキアラに初めて食べさせて貰ったスープは滅茶苦茶辛かったっけな」


「あの時はミズキの舌がおかしくなりそうで心配したのじゃ」


「あの時はすまなかったんな!」


 店の中で談笑するサラン達に唐突に混ざるのは、仲の良さげな兄妹達だ。


「やっと顔をだ――「本当ですよ。ミズ――「キャー! ミズキ様じゃないですか!? 本物のっ! 英雄のっ! 覚えてますか!? 私以前……」」」


 クルルとサランを押しのけ、瑞希の手を握り上機嫌に飛び跳ねるのは、この店では新人のフニだった。


「……誰これ?」


 瑞希の手を掴みブンブンと上下に振るフニの姿を尻目に、チサがキアラに尋ねた。

 キアラは怒り心頭の様子で瑞希とフニの間に入り、フニを叱りつける。


「ミズキは観劇に出る様な役者じゃないんな!」


「あう……。でもミズキ様に会ったのも久しぶりですし……」


「フ~ニ~?」


「フニちゃん?」


「あうあうあう……」


 先輩二人と雇用主から怒りの表情で迫られるフニは、どうしようもないという気持ちが声に出ていた。


「「「私達もミズキさん(兄ちゃん)に会うのは久しぶりなんな(だ/です)っ!」」」


 三人がフニを叱ると、フニは落ち込みながらも納得した。

「――あぁ、キアラん家の厨房に居た子か!」


「そうですっ! ぷりんを教えて貰った者です!」


 フニが改めて自己紹介をすると、瑞希は初めてキアラの家に居たフニを思い出した。

 瑞希は納得しながら勝手知ったる店の厨房で、三人の御土産を取り出していく。

 それは瓶に詰めた見慣れぬ物だ。

 

「何だこれ?」


「黄色いのと、白いのと、赤いの……」


 瑞希が取りだす物に見覚えのない、クルルとサランが首を傾げる。


「王都では砂糖とかマンバ(ばなな)が手に入ったからな、時間もあったし作ってみたんだ。……一応そのままでも食べられるぞ?」


 瑞希は少し悪戯めいた顔をしながらそう説明する。

 サランは見覚えのある瑞希の顔に、懐かしさと同時に嫌な気配を感じ取った。


「ミズキさんが悪い顔してる……。きっとどれかは変なのがあるよ」


「てことはそのハズレ以外は、美味いんだよな?」


「私もこの御土産は聞いてなかったんな……」


 三人はチラリと瑞希の顔を見るが、当の瑞希はまたもフニに質問攻めをされていた。


「じゃあ私はこれっ!」


 クルルは即決したのか黄色い物が入った瓶を手に取る。


「ずるいんなっ!」


「こういうのは早い者勝ちだろ? それにこれが当たりかわかんないしさ」


「じゃあ私はこれなんなっ!」


「私はこっちっ!」


 お互い狙っていた物が違ったのか、キアラは白色を、サランは赤色の瓶を手に取った。

 クルルは瑞希の作った物が楽しみなのか、早々に瓶を開け、小匙で掬い上げると、口に運んだ。


「あまっ! ん? 苦……あ、これジラの皮を使ってんの!?」


「お? クルルはマーマレードを取ったのか? ジラの実の皮と砂糖で作るんだけど、お茶に入れても良いし、パンに付けても美味いんだ。ジラの柑橘系の爽やかな香りと、時折感じる苦みが砂糖の甘さに合うだろ?」


「こっちは甘酸っぱいんな」


 キアラの瓶を見た瑞希は、誰が何を取ったのか分かったのか、笑いを隠し切れずにいた。


「わははは! やっぱりというかなんというか……、キアラが取ったのはボアグリカ地方から王都に伝わったマンバって野菜を使ったチャツネだ。ケルの根や酢、アピーなんかを混ぜて作るんだけど、俺の故郷じゃカレーに混ぜたり、カレーの添え物として……「かっらぁ~いっ!!」」


 瑞希の説明はサランの雄叫びによって掻き消される事となった――。

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