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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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シャオの感想

 八百屋に着いた瑞希達は接客を終えた御婦人に声をかけた。


「お姉さん! 籠持って来ました!」


「えらい早かったねぇ! それにこんなベッピンさんを連れてどうしたんだい!」


 瑞希がお姉さんと呼ぶからにはもっと若い娘を想像していたミミカは、恰幅の良い御婦人を見ると安堵のため息をついた。

 田舎と言われるココナ村という事もあり、御婦人はミミカの正体には気付いていない様だ。


「私は……ミズキ様に料理を習ってるんです! 調味料を買いに行くという事でしたので付いてきたんです」


 ミミカはにっこりと微笑みながら、自分の正体をばらさない事にした様だ。


「お兄ちゃんもこんなベッピンさんが横を歩いてると鼻が高いねぇっ!」


 瑞希の背中をバシバシと叩く御婦人に、瑞希は持ってきていたサンドイッチを手渡す。


「いててて……これ約束の俺が作った料理です。パンで食材をはさんでるので、そのままかぶり付く様に召し上がって下さい」


 御婦人は箱を開けると三種類のサンドイッチを目にした。


「変わった料理だけど、うちの野菜がメインになってるのもあるじゃないか! この茶色いのにかかっている黄色いのは……もしかしてポムの実(トマト)かい?」


「良く分かりましたね? ポムの実を潰してソースにしたんです。オオグの実(ニンニク)も使ってるので物は試しに食べてみて下さい」


「本当にオオグの実を使うんだね……もう少ししたらお客さんも一旦はけるからその時に頂くよ!」


「はい! 俺はこの後キーリスに向かうのでまたココナ村に寄った時にでも感想を教えて下さい!」


「あら!? そうなのかい? そん時はまたうちで野菜を買っておくれよ?」


 そう言うと御婦人は瑞希にハグをする。

 ミミカは慌てて止めようとするが、その前に離れてしまい、次はシャオにも抱き着いた。


「お嬢ちゃんもお兄ちゃんの言う事しっかり聞いて、いっぱい野菜を食べんだよ!?」


 シャオは人間が嫌いだが、瑞希と仲良くしている人間の好意を無碍には出来なかった。

 それに昔感じた人間の嫌な匂いは感じずにいた。


「うむ! お主も元気でやっていくのじゃぞ? 卵の黄色いサンドイッチはわしが作ったのじゃ! わしはまだ食べておらんが、きっと美味いのじゃ!」


「喜んで食べさせてもらうよ! あんた達も元気でやりなよ!」


 御婦人は手を振りながら、瑞希達を見送る。

 シャオは手が空いた瑞希の手を握りポツリと呟いた。


「あのお姉さんは嫌な匂いがしなかったのじゃ……」


「ほらな? 良い人間もいるもんだろ?」


「シャオちゃんは人見知りなんですか?」


 シャオは二人の会話に混ざるミミカの匂いを嗅ぐと……


「お主は色ボケをした女の匂いがするのじゃ」


「誰が色ボケですかっ!?」


 二人は瑞希の周りをくるくると走り回り、その姿を見た瑞希は晴れやかに笑うのであった。


◇◇◇


 パン屋に籠を返した一行は、金具屋と調味料が売っている店を聞き、店の前までやってきた。


「ここが金具屋ですね!」


「鉄鍋とか色々欲しいな……ごめんくださぁい!」


 カンカンと鉄を叩く音がする店の中で、大きな声で呼びかけた。


「そんな大きな声をださんでも聞こえとるぞ~? 今日は何を買いに来たんだ?」


 初老の男が槌を振りながら瑞希に返事を返す。


「調理に使う鍋とかがあれば欲しいんですが」


「男なのに武器じゃなく鍋を欲しがるのか? そこにあるから見てくれ!」


 瑞希達は指を差された場所に向かうと片手で扱えそうな鉄鍋や、丁度良い大きさの両手鍋等を物色する。


「おお! これも良いな! 揚げ物はこれで作るとして、卵用はこの小さいのにするか。この鍋は蓋付きでスープに使えるし……すいません! お玉みたいなのはどこにありますか?」


「ん!」


 男は無言で鉄や木でできた調理器具の棚を指さした。


「ありがとうございます! お玉もちゃんと鉄製のもあるんだな。でも錆びるかな?」


 瑞希が楽しそうに物色をしているとシャオとミミカが声をかけて来た。


「楽しそうじゃのミズキ」


「少年の様な笑顔をしてますね」


「料理人からしたらここは宝の山だよ! どんな料理を作ろうか考えるとわくわくするんだよ!」


「お前は本当に料理がするのが好きそうだな?」


 嬉しそうにしている瑞希をみて初老の男性が声をかけた。


「はい! 調理器具を見てるだけでも楽しいです!」


「変わったやつだな。冒険者が武器を見てる時の顔をしておるわ」


「俺に取ったら調理器具は武器ですからね!」


「わっはっは! ならお前はそいつらに命を預けるのか?」


「命を預ける……というよりは俺の料理で人の命を助ける手助けが出来たら良いですね。人は食べなけりゃ死にますし、どうせ食べるなら美味しい方が良いじゃないですか!」


「そうかそうか! お前の欲しい調理器具はあったか?」


「実はこんな形の柔らかい鉄で出来たのとか、この木の素材で作った二本の棒とかが何本か欲しいのですが……」


 瑞希はビーターの形と菜箸の説明を男性にする。


「なんじゃそりゃ? 木の棒はすぐ作れるが、びーたーとやらは聞いた事も無いのう」


「作れませんか?」


「なに、簡単なもんだ! ちょうど柔らかい鉄も余っとるしな。何本ぐらい欲しい?」


「少し大きめのを1本と、中くらいのを3本、小さいのが1本あれば嬉しいのですが」


「なら作っといてやる。なに、すぐ出来るから、他の店でも行ってこい」


「ありがとうございます! ならちょっと調味料と、モームの牧場に行ってくるのでお願いしても良いですか?」


「任せとけ! 老いぼれになっても腕はまだまだ若いもんに負けとらんよ!」


◇◇◇


 瑞希達は金具屋に作成を頼み、店を後にすると、近くの調味料店にやってきた。


「おや? いらっしゃい!」


「基本的な調味料が欲しいのですが」


「塩、胡椒、酢、酒、油なんかはこっちの棚。香草なんかはそっちの棚にあるよ」


「砂糖は置いてないんですか?」


「砂糖!? あるにはあるけど……」


「じゃあ砂糖も買いたいのですが……駄目ですか?」


「いやまぁ買うってんなら出すけどどれぐらい欲しい?」


「じゃあ2キロぐらいで」


「キロってのがどれぐらいかわからねんだが、この器で言うとどれぐらいだ?」


 瑞希は小さ目の器を見せられたので、丁度2杯ぐらいで2キロぐらいだと思ったので……


「その器なら2杯分ぐらいですね!」


「そんなに!? 金はあるんだろうな?」


「へ? もちろん持ってますよ?」


「なら良いけど……他のはどうする?」


「なら……」


 瑞希は基本的な調味料を取り揃え、香草も匂いを嗅ぎながら、使った事のある様な香りの物を選び会計をしてもらった。


「じゃあぜんぶで9万コルだぜ!」


「9万!? 高っ!」


「ミズキ様……砂糖は高級品ですので……」


「まじか……ちなみに砂糖以外でいくらになりますか?」


「何だいびびっちまったのかい? 砂糖以外なら1万コルだな」


「妥当な値段だ……まじか……でも欲しい……」


「兄ちゃんどうすんだい?」


 瑞希は買えない事も無い額に頭を悩ますが、日本に居た時の砂糖の価格が脳裏にチラつき踏み込めずにいた。


「ちなみに砂糖があれば何が作れるのじゃ?」


「料理でも色々使えるし、前言ってたドーナツには欠かせないな」


「どーなつ!? 何を迷っとるんじゃ! 早く買うのじゃ!」


「そうは言っても砂糖を買わなきゃ今後色んな食材を買えるかもしれないんだぞ?」


「金ならまた稼げば良いのじゃ! わしが好きになるもんを作ると約束したじゃろ? もしや嘘じゃったのか!?」


「いや嘘をつくわけじゃないんだけど……」


 瑞希はシャオに言われた事もあり、元々この金はシャオが稼いだ様な物だからと、購入に踏み切った。


「いや~この村で砂糖がこんなに売れたのは初めてだよ! 毎度あり!」


 瑞希達は店を後にすると、モームの牧場に向けて歩いていく。


「どーなつ! どーなつ! 楽しみじゃな~どんな形をしておるんじゃろうな~」


 シャオは砂糖があればドーナツが出来ると聞き、上機嫌でミズキの横を歩いていた。


「ミズキ様良かったのですか?」


「砂糖が無けりゃ出来ない料理もあるし、仕方ない。割り切って美味い物を作るさ……ちなみにミミカは甘い物は食べてたのか?」


「城で出されるお菓子などは甘くて美味しかったですね! 城に着いたらミズキ様にも食べてもらいますね!」


「そりゃ楽しみだ! 街のお菓子ってどんなお菓子なんだろうな!」


 瑞希の買い物も残すはモーム牧場のみとなったのであった――。

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