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閑話 商品開発 下

 ――いつもは三人で店の事を話しながら仕込みをする場が、今日は嫌に静かだ。


「な、なぁ? 兄ちゃんがミミカ様と結婚するって決まった訳じゃねぇだろ?」


 私の質問に反応したのはキアラちゃんだ。


「でもミミカはミズキの事が好きなんな」


「いやいやいや! 兄ちゃんは俺の事だって、ミミカ様の事だって子供扱いしてただろ? それが急に結婚する訳ないって!」


 自分で言っててムカムカしてきた。

 成人した女性を捕まえて、あれだけ子供扱いするのは兄ちゃんぐらいだ。


「それならクルルより年下の私はもっと子供なんな……」


 今日のキアラちゃんはやけに落ち込むなぁ。

 でも普段の光景からするとそれも仕様がない事だ。

 毎日香辛料を組み合わせたり、調理方法を考えたりしている時に真っ先に出て来るのは兄ちゃんの事だ。

 兄ちゃんに食べて貰いたい、兄ちゃんが驚くか、そんな話がこの三人で毎日繰り広げられてるぐらいだからだ。


「大体、キアラちゃんは兄ちゃんの事そういう目で見てたのかよ? サランちゃんはともかく、キアラちゃんはシャオちゃんみたいに年上の兄ちゃんとして慕ってたんだろ?」


 私の質問にキアラちゃんが少し考えてから口を開く。


「そうなんな……けど、ミズキが結婚するってなったら……なんかここがもやもやするんな」


 キアラちゃんはそう言って胸の辺りを押さえる。


「あ~……やっぱそりゃ恋だな……」


「恋? クルルもこういう経験あるんな?」


「わ、私は経験ないけどよ! 恋したら胸が苦しくなるって言うじゃねぇか!? なぁサランちゃん!?」


 私は助けを求めてサランちゃんに話題を振る。

 だが求めた相手を間違えた。


「ちょちょちょっ! パルマンが無くなるっ!」


「……え? あぁっ! ごめんっ!」


 ぼうっとしていたサランちゃんの近くにはパルマンが花びらの様に散らかっており、その手元には小さなパルマンが残っていた。


「考え事してて……」


「二人共重症だなこりゃ……。でもしゃんとしなよ? 今兄ちゃんが店に来たら二人共怒られるぞ?」


「怒られても良いから会いたいんな~……」


「私も……」


「駄目だこりゃ……」


 私は呆れながらサランちゃんの剥いたパルマンを集め、包丁で細かく微塵切りにしていく。

 どうしようもない私は、食材を仕込みながら明日のかれーなんの香辛料をどうするかという事を悩む事にした。


 重苦しい溜め息が漏れる中、私は賄い用に作った料理を皿に乗せる。


「ほらっ! 今日はホロホロ鶏をよーぐるとと香辛料に漬け込んでから焼いてみたんだ! 結構美味いと思うぜ!?」


 兄ちゃんに聞いてたよーぐるとを使った料理だ。

 塩と胡椒を擦り込んだ鶏肉に、オオグの実とケルの根、香辛料を混ぜ込んだよーぐるとに漬け込んだ……なんていう料理名だっけ?


「……ミズキが言ってた、たんどりーちきんなんな?」


「そうそうっ! それっ! 香辛料は私の配合だけどさ! 作り方は聞いた通りにつくってみたんだよ。作ってる途中は本当に美味くなるか不安だったけどさ、焼いたら香辛料の美味そうな香りが出て来たから安心したよ」


「クルルちゃんが今朝仕込んでた料理ってこれだったんだ?」


「今日はモーム肉のかれーで、キアラちゃんがよーぐるとを使ったからさ、ちょっと使ってみたんだ! 美味かったら次の屋台でも出せそうだろ?」


 私は笑顔でそう告げながら席につき、手を合わせてから骨の端を両手で掴み噛り付いた。


「美味っ! 香辛料もちゃんと効いてるし、肉も柔らかい! ほら二人も早く食べてみてよ!」


 私が声を掛けると、二人は真剣な眼差しで食べ始めた。

 キアラちゃんは香辛料の配分を、サランちゃんは味もあるが調理工程や値段を考えるためだ。


「美味いけど、もう少し辛くても良いんな~。逆にオオグの実はもう少し控えた方が香辛料の香りが引き立つんな」


 さっきまでの凹んだ様子は何だったのか、キアラちゃんは香辛料の配分について駄目出しをして来るので、自分が美味いと思えていても、納得させられる言葉に身が引き締まる。


「でも漬け込んでおいたのを焼くだけなら手間はいらないし、屋台でも出せるね! 問題はミズキさんみたいに魔法が使える訳じゃないから、暑くなって来る時期はちょっと心配かも……。ミズキさんは乳製品は悪くなりやすいって言ってたし。でも私は美味しいって思えるから、すぐ売れる商品だと思うよ。お店で出すならルク酒にもエールにも合うと思うから、食事の時も良いけど、私はお酒と一緒に食べたいかな?」


 逆にサランちゃんは褒めながらも問題点を上げ、客目線の率直な感想を聞かせてくれるので、私は料理を褒められた事に少し嬉しくなる。


「じゃあこれは寒い時期だけにしようか? キアラちゃんが言う様に辛みを増やしたら体も温まるし」


「でもそれだと屋台で子供が買う時は食べれないんじゃないかな? 街で売ってるトッポ焼も子供はあんまり買わないし」


「そうなんな~。トッポ焼は辛いのが好きな人には大人気だけど、シャオみたいに辛いのが苦手な子供達には敬遠されるんな」


「ん~……。兄ちゃんならどうするかな~?」


「「ミズキ(さん)なら……」」


 あ、しまった。

 折角料理の話題で話が反れてたのに、うっかり兄ちゃんの事を呟いてしまった。


「ミズキが屋台で出すなら別の物と一緒に食べさせるとかしそうなんな!」


「そうだね。ミズキさんが屋台で作ってたはんばーがーみたいに、生野菜と一緒になんに挟んだら良いんじゃないかな? そしたら辛さも紛れるだろうしね」


 予想を反して二人は兄ちゃんが出しそうな料理を真面目に考察してきた。

 

「そっか、なんと野菜で辛みを中和させれば……それに屋台で出すならその方が満腹感もあるしな」


 そうだよ。

 それに屋台で出すなら手が汚れない方が良いよな。


「じゃあ骨付きの部位より、肉だけの方が食べやすいよな? それに生野菜を使うなら兄ちゃんが作ってたまよねーずも合いそうじゃない?」


「良い案なんな! ちょっと試しに作ってみるんな!」


 キアラちゃんはそう言って、兄ちゃんから貰って大事に使っているビーターを取り出してまよねーずを作り始めた。


「じゃあ私はキャムの葉を千切っとくね」


「じゃあ私はなんを焼いて来るよ」


 先程迄の落ち込み様はどこに行ったのか、私を含め全員で新たな商品作りに没頭し始めた。

「――出来たんなっ!」


 キアラちゃんの掛け声と共に出来上がった料理は、なんを二つ折りにして、生野菜と先程のたんどりーちきんの肉、そしてまよねーずを挟んだ物となった。


 私は大きく口を空けてその料理に齧り付いた。

 瑞々しい野菜と、柔らかく香ばしいなんが、まよねーずの柔らかな酸味と相まって、香辛料の辛みを抑えてくれる。

 

「美味ぁいっ! これなら子供が好きそうな味だよ!」


「うんっ! これなら子供でも食べれそう!」


「確かに美味しいけど、これだと香辛料の香りが大人には物足りないんな……」


 言われてみれば確かに。

 あちらを立てればこちらが立たずか。


「うぅ……、ミズキさんなら少しの工夫でどうにかしそうなのに……」


「う~ん……。じゃあもう直接香辛料を振りかけるとか?」


「それだと粉っぽくて料理自体が美味しくないんな」


 子供と大人のを作り分けるなら、肉自体の味付けをキアラちゃんが言ってたみたい分けたら良いんだけど、そうすると手間が増えるし、その日その日でどっちが多く売れるかなんて予想が出来ないし……。

 変えるとしたらやっぱり味付けだよな。

 

 私達が料理を食べながら考え込んでいると、三人同時に声を上げた。


「「「まよねーずに香辛料を混ぜるっ!」」」


 悩んでいた箇所は全員一緒だったみたいだ。

 私達は声が揃ったのがおかしくて、大笑いしてからまた試作していく。


 兄ちゃんが側に居なくても、兄ちゃんはちゃんと私達に新たな発見を考えさせてくれる。

 これを食べさせたら兄ちゃんも次こそ驚くだろうな。

 そう思ってるのは二人も同じ様だ――。

長く更新出来ていないのに、

ブクマや評価を頂きありがとうございます。

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