二人の会話
グググっとカーテンを握り締めながら、三人で出かけたミミカ達を二階の窓から覗くアンナの姿がそこにはあった。
「おいっ! ジーニャ! ミミカ様達が出かけてしまったぞ!?」
「さっきの片付けもうちらは来るなって言われたっすよ。ついて行ったらきっとお嬢は怒るっすよ」
「しかしっ! ミミカ様の護衛が!」
「だ~い丈夫っすよ。ミズキさん達が付いてるんだし」
「ぬぐぐ……私も付いて行きたかった……」
「それはお嬢にっすか? ミズキさんにっすか?」
ジーニャは手で口を隠しながらニヤニヤしている。
「ば、ばかっ! ミミカ様に決まってるだろ!?」
「心配しなくてもすぐ帰ってくるっすよ。それにしてもミズキさんの食事は美味かったっすね」
「うむっ! キーリスでもあれ程美味いのは食べた事が無かった!」
「それに色々手が込んでたっすよね? 朝食なんてパンと卵をそのまま焼いたぐらいのと、ポムの実とか果実がそのまま出てくるのが当たり前っすけど、同じ食材であそこまで違う物が出てくるのに驚いたっす」
「それに昨日食べたばたーとやらも凄かったな!」
「あれも超美味かったっす! パンに塗るだけなのに御馳走になったっすよ!」
「テミルさんの言う様にバラン様がばたーを知ったらこの地方に広まるのではないか?」
「じゃあいつでもあれが食べられる様になるっすか!?」
「それにもしかしたらミズキ殿はあれ以上に美味い物もまだまだ知っているとか……」
二人はゴクリっと唾を飲み込むとまだ見ぬ瑞希の料理に想いを馳せる。
「昼食にはすでに軽食が作ってあるみたいですし、夜もミズキさんが作ってくれるっすよね!?」
「しかし、野営で食べれる物などたかが知れているだろ?」
「あのクソ固い干し肉っすかね……」
「モームの肉は筋肉質で硬いからな……ミズキ殿でもあれを美味しく食べれる様には出来ないだろ?」
そう。
二人はまだ食べて無かったのだ。
既に瑞希がハンバーグという美味い物を作った事を。
「そう言えばさっきシャオちゃんが部屋に持って帰った実ってウテナっすよね? あれも食べるんすかね?」
「流石にそれは無理だろ? 子供の頃に齧った事はあるが口から慌てて吐き出したぞ?」
「うちもっす! あの渋さはやばいっす!」
「あれが美味しく食べれたらそれこそ魔法だ」
「吊るしてるだけで美味しくなるなら誰でも簡単に使える魔法っすね」
「そんな便利な魔法があれば良いのにな」
二人は魔法が使えない故に憧れはあった。
しかしもし魔法が使えてもバランの前で魔法を使える事がバレたテミルを知っている手前、なんとも言えない表情になっていた。
「テミルさん戻って来れないっすかね?」
「バラン様の魔法嫌いを知ってるだろ? バレてしまった以上それは無理だろう……」
「でもテミルさんはお嬢がちっさい頃から居たんすよ!? うちもテミルさんに仕事を教えて貰ったんすよ!」
「それは私も同じだ。私も戻って来て欲しいと思っている。……けど、バラン様の魔法嫌いはどうする事も出来ないだろ……」
「どうやったら魔法嫌いが治るんすかね……」
「魔法を悪用する奴がいる限りは難しいだろうな……」
「そんな事言ったら剣だって悪用されてるじゃないっすか!?」
「でも剣は自分達も握れる。私も多少は振れるからな。どんな物か分かっているつもりだ……人は自分が理解出来ない物には恐怖するものだろ?」
「……ならアンナもミズキさんの回復魔法は怖かったんすか?」
アンナは気を失ってる時の事なので正確には覚えていなかったのだが、感じた事はあった。
「……いや。とても暖かくて安心していたよ」
「でもまぁアンナの場合は、ミズキさんの魔法ってのも重要っすよね!」
ジーニャが意地悪そうな顔をしながら笑うと、アンナが顔を赤らめて近くにあった枕をジーニャに投げる。
「ば、馬鹿な事言うんじゃないっ!」
「にししっ! 堅物のアンナがね~? お嬢も懐いてるみたいですし、ミズキさんはモテモテっすね!」
「うるさいぞジーニャ!」
二人がドタバタと走り回る音が宿の中に響いている。
そんな事になっているとは露知らず、村を歩いている瑞希はくしゃみをするのであった――。