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瑞希の目覚め

――瑞希、貴方が幸せに過ごせてるみたいで安心したわ。


 瑞希の脳裏に聞き覚えのある声が響く。

 瑞希がその声に返答しようとするが声は出ない。


――シャオちゃんも可愛いわね? 私も瑞希をお兄ちゃんにしてあげたいって言ってたのにあの人が先に逝くから……。


 その声は徐々に愚痴になっていき、瑞希は思わず笑ってしまう。


――私に二人目が出来てたらきっとシャオちゃんが生まれて来てたわ。だって私の小さい頃にそっくりだもの。


 今までも母が夢に出て来た事はあったが、ここ迄流暢に語り掛けられるのは初めてだと、瑞希はこれが明晰夢かと感心していた。


――だからこれからもシャオちゃんを可愛がってあげたり、色んな物を食べさせてあげてね? 私がしてあげたいけどそれはもう出来ないから。


 言われなくてもそのつもりだと、瑞希は声を出せない代わりに心の中で頷いた。


――あと、早く結婚しなさいよ? あんたの周りに可愛い子はいっぱいいるじゃない?


 瑞希は余計なお世話だと、げんなりした気持ちになる。


――うふふ。久しぶりに瑞希と話せて嬉しかったわ。いつでも見守ってるからね。


 自分もだと嬉しさが込み上げて来た所で瑞希の意識は途切れた――。


◇◇◇


――瑞希が目を開けるとそこには見覚えのない天井が広がっていた。

 ふと、腹部近くに重みを感じたので、いつもの様にシャオが乗っかっていると思い、瑞希は無造作に右手を伸ばした。


「シャオ、重い……。人型の時のまま寝るなら横で寝ろっていつも言ってるだろ~?」


 寝惚け眼の瑞希は手探りで重さの原因となっている箇所を見つけると、いつもの様に撫でる。

 寝起き特有の鈍い感覚のままサラサラとした髪の毛を撫でていると、手を伸ばしている反対方向の布団の中からもぞもぞと顔を出したのはシャオだ。


「うぬぬ。やっと起きたと思ったらわしを一番に撫でんとはどういう事じゃ!?」


「……ん? あぁ、じゃあチサか」


 ぷんすかと顔を覗かせたシャオを見た瑞希が回らない頭で考えた結論は、チサがまた布団に乗っているのかと納得しながら空いている左手でシャオを撫でていると、ガチャリと扉の開く音が響いた。


「……騒がしいけどミズキ起きたん?」


 その声を聞いた瑞希の手が止まる。

 そしてその答えを知るべく、目線を左手のシャオから右手へと移す。

 そこには瑞希の布団に突っ伏した状態で赤面しながら固まっているアンナの姿があった。


「――っ!? ごごご、ごめんっ!」


「いいいいえっ! 私の方こそ今起きた所なのでっ!」


 瑞希と同時に慌てて体を起こしたアンナは、瑞希の謝罪を両手を振りながら受け入れる。


「いつまで寝ておるのじゃ! わし等が起きてからさらに丸一日は寝ておったのじゃっ!」


「……良かった。ちゃんと帰って来た」


「ど、ど、どういう事だ!?」


「一先ずお主等は落ち着くのじゃっ!」


 シャオが喝を入れた所で、瑞希とアンナは落ち着きを取り戻すが、アンナはどうやら表面上の事の様で、赤面顔はまだ治まっていない。


「――ミミカ様達がシャルル様に触れてから数刻後にベヒモスの姿からシャルル様の姿へと変わりました」


 赤面も治まって来たアンナが説明をし始める。

 アンナ曰く、人の姿を取り戻したシャルルを含め、気を失ったままの全員を城へ運び、瑞希とシャルル以外は目を覚ますのに二日の時間を要したという事だ。

 その他にもミミカの火傷の原因であるミタスとの対峙についても話を聞く。


「やっぱりそっちも大変だったんだな……。俺が起きるのはそこからさらに一日遅かったのか?」


「そうじゃ! 全くどこで道草を食っておったのじゃ!?」


「いや~……」


 瑞希に思い当たる節はあったが、それも感覚では数分の事だった様に思っていた。

 事情を説明しようにも朧気にしか覚えておらず、覚えてる部分も少し照れ臭くもあるため、シャオの頭に手を置き撫でる事で誤魔化した。


「くふ、くふふ。急になんなのじゃ?」


「シャオは今日も元気だなと思ってな」


「……うちも元気やで!」


「張り合うでないのじゃ! 今はわしの時間なのじゃ!」


「……シャオはミズキの横で寝てたやん! うちにも代わって!」


「ならんのじゃ! それを言うならアンナも寝ておったのじゃ!」


「わ、わ、私はミズキ殿の看病をしてただけだっ!」


 寝起きから騒がしくもあるが、瑞希はいつもの光景を見ながら夢で見た母親を思い返していた。

 騒がしさが聞こえて来たのか、また一人瑞希の部屋へ訪ねて来た。


「お邪魔するっす。ミズキさん起きたんすか?」


「今さっき起きたんだけど……、どうかしたのか?」


「ミズキさん起きて早々っすけど、お嬢に会って貰えないっすか?」


「ミミカに? ……マリルの事か?」


「そうっす。お嬢、起きてから元気ないんすよ。アリベルちゃんはお母さんの側に居て幾分元気なんすけどね」


 ジーニャはそう言いながら表情に影を落としていた。

 瑞希はその言葉を聞いてマリルが言っていた様にこの場に戻って来ていない事を悟ると、瑞希はベッドから降り、凝り固まった体をほぐす様に目一杯体を伸ばした。


「ミミカの火傷痕も消さなきゃいけないしな。ジーニャ、案内してくれるか?」


「こっちっす!」


 瑞希とシャオはジーニャに案内され部屋を後にした――。


◇◇◇


 ――ミミカは瑞希に手を取られながら沈痛な表情を浮かべていた。

 そしてその場にはララスも同席している。


「――マリルも言ってたけどさ、マリルはミミカの姿を見て安心したんじゃないかな?」


「安心……ですか?」


「ミミカは人の為に怒れるだろ? 貴族なのに我が身を心配するよりも先頭に立った。きっとマリルはそんなミミカの姿を見て安心したんじゃないか?」


「でも……」


「貴族からすれば褒められる事じゃないかもしれないけどさ、それでも人の上に立つ人間が頑張ってる姿ってのは仕えてる人からしても安心するんだよ」


「私はそんなつもりじゃなく、ただ母を、父を侮辱したあの者が許せなかっただけなんです……」


「それでもだよ。そんなミミカだからこそグランだって怪我をしてまで助けたいって思えたんだろ?」


「グ、グラン!? ミズキ様はその話を聞いたんですか!?」


 瑞希は疑問符を浮かべながら治療を終えたミミカの手を離す。

 その手からは火傷痕が消えており、代わりにミミカに空腹感をもたらせた。


「何の事かはわからないけど、グランの火傷もミミカをかばって付いたんだろ?」


 ミミカは焦りながらアンナとジーニャに視線を送るが、二人は首を振りながら否定する。


「よし。ララスさん、俺の回復魔法はどうでしたか?」


「無詠唱なのに素晴らしい回復力です! 是非お父様にもお願いしたいです!」


「それは構わないのですが、俺の回復魔法には欠点もあって……」


 瑞希が言いかけた所でミミカの腹の虫がタイミング良く鳴き出し、ミミカは恥ずかしそうにお腹を押さえた。


「こんな感じで体の栄養を傷の手当に使ってしまうみたいなんです。ガジス様はお食事を取られてますか?」


「それが……、傷は塞いだのですが損傷個所が腹部ですので、食欲が戻らない様なんです」


「そうですか……。ちなみにミミカは昨日からちゃんと食べてたか?」


 瑞希はアンナに尋ねるが、アンナは正直に首を振る。

 瑞希はその答えを聞き大きく溜め息を吐いた。


「ミミカ……?」


「少しは食べましたが食欲が出なかったんです……」


「まぁ気が滅入って食べれない事もあるだろうけど、それで食べずにいると体力も気力も出なくなるぞ。それにミミカの事を心配する人達がいるだろ? マリルが言ってた様にミミカやアリベルを想う人達をあまり心配させるなよ?」


「はい……」


 気落ちするミミカに瑞希は明るく声を掛けた。


「でもまぁミミカの体はお腹が空いたみたいだし、ミミカとガジス様の為に何か消化に良い物を作ろうか」


「ミズキ様に作って頂けるなら食べますっ!」


「わしはたくさん食べたいのじゃ!」


「消化の良い物をたくさんって……太るぞ?」


「ふ、太らんのじゃっ!」


 焦るシャオに対し、瑞希は笑いだす。


「わははは! じゃあシャオが太らないためにも少し時間を頂いても構いませんか? 夜にはお出しできると思いますので」


「父も今は休んでおりますので、その方が都合が良いと思います。ミミカ様はいかがでしょうか?」


「ミズキ様の御料理なら待ちますっ!」


 そう宣言するミミカの顔には、顔を合わせた当初の陰気な表情は薄れていた。

 ララスはお願いついでに少しためらいながらも瑞希に尋ねる。


「ミズキ様、ついでで構いませんのでボングにも何か一品作っては頂けないでしょうか?」


「ボング君にですか? どんなのが良いでしょうか?」


「ジャルを使った甘いタレが気に入った様で、お肉料理で何かそういった物は作れないでしょうか?」


「大丈夫ですよ。そちらも何か作っておきます」


 瑞希は構想している料理を浮かべながらシャオと共に厨房へと足を運ぶのであった――。

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