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無意識の要求

 ――呆気なく倒れたミタスはバングの命により兵士達によってどこかへと連れ去られて行く。

 瑞希はミタスがどうなるかをグランに尋ねたが、瑞希が気にする様な事ではないと一蹴されてしまう。

 ミタスの残した言葉も気がかりではあるが、今はその事よりもいつまでも感じる苦みの様な味に嫌気がさしていた。

 ララスが魔力薬を飲みながらも怪我をした者達の治療を行っている中、瑞希はシャオが居なければ魔法が使えない歯がゆさを噛みしめていると、隣にアリベルもとい、マリルが腰を掛けた。


「其方、気怠さや違和感はないのか?」


「あれ? マリルに怪我したって言ったっけ? 回復魔法が使える兵士さんに治して貰ってこの通り元気だぞ?」


 怪我の心配してくれているのかと感じた瑞希は、大袈裟に両肩を回すが、マリルは瑞希をじっと見つめる。


「其方は怪我をしても自分で治せるであろう?」


「それが大怪我してたのと、別の事に魔法を使おうとしてたりしていつもの様に回復魔法が使えなくてな? そこにバージ達が来てくれたから良かったんだけど、大怪我をある程度治してくれた兵士さんは魔力切れで倒れちまったんだよ。やっぱり回復魔法って相当魔力を使うんだな」


「全快、ではなくある程度の治療でか?」


「ん? まぁ痛みが引いてく感じはあったけど、意識がはっきりしてからは自分の魔法を使ったからな」


「ならば其方の魔力が枯渇する方が道理ではないか?」


「あぁ、俺の魔力はシャオから言わせれば馬鹿みたいに多いらしいぞ。自分の魔力は未だに感じれてないから俺には分からないけどな」


 瑞希が笑いながらそう説明していると、ふと口に広がる苦みが薄れている事に気付く。

 瑞希はその事に首を傾げていると、近くに居た兵士達からざわめきが起きた。

 それは王宮に戻って来たバージ達を出迎える声と、巨大なベヒモスの姿をしているシャルルを連れて来たからだろう。


「マリル、アリベルはまだ寝てるか?」


「……あぁ。もしやあれがシャルル・ステファンか?」


「シャオはアリベルの魔力の匂いに似てるって言ってた。それにミタスの言葉を信じるなら間違いなくそうだろうな」


「どうするつもりだ?」


「マリルとシャオで何とかベヒモスの魔力を取り除けないか? 二人でならどうにかなるかもしれないってバージに無理を言って連れて来て貰ったんだ」


「シャオだけでも魔力は取り除けるであろう?」


「シャオは魔力が混じり合いすぎてて難しいって言ってた。けど、マリルが協力してくれたら出来るかもしれないし、もし出来なくても最後ぐらいはアリベルの姿を見せてやりたかったんだ……。俺の勝手なエゴだけどさ」


 マリルは瑞希の腰をぽんぽんと優しく叩く。

 

「シャルル・ステファンを探して欲しいと言ったのは童だ。其方が業を背負う必要などない。それに其方のおかげで一つ方法を思いついた。むしろ鍵となるのは其方とも言える」


「本当か!? 手伝える事なら何でもする! だから――」


――アァァァイィィベェウゥゥ!


 アリベルの魔力を感じたのかベヒモスの姿をしたシャルルは雄叫びを上げる。

 その声は必死にアリベルの名を叫んでいた。

 

「まずはシャルルを眠らせてやろう……」


 マリルはそう呟くと瑞希と共に、アリベルを懇願するシャルルの元へと駆けて行くのであった――。


◇◇◇


――貴方があの少女の母親ですか。


――貴方から娘を奪った貴族が憎くありませんか?


――ふふふふ。なら貴方がその力で復讐すれば良い。


――私が娘と会わせて差しあげますよ。


――アリベル……私の可愛いアリベル……。


 マリルの魔法で物理的に眠らされたベヒモス改め、シャルルは王宮の花園で横たわっていた。

 バージはバングに事情を説明し、関係者以外をこの場から遠ざけさせた。


「で? この後はどうするってんだマリル・ルベルカ様?」


 瑞希から説明を受けていたバージがマリルに問いかける。


「マリルで良い。童はここには居ない筈の人間だからな。ミタスはアリベルの死体を見せ、負の感情を呼び起こしシャルルの人間性を取り戻させようとしておった。ならばこちらから魔力を送って無理矢理にでも引っ張って来れれば良いのだが……」


「それが出来たら苦労せんのじゃ」


 合流したシャオが瑞希と手を繋ぎながら反論する。

 先程迄の疲労感は多少治まっている様だ。


「あぁ。シャオの言う通り、シャルルとベヒモスの魔力は混ざり合い、膨れ上がっておるからな。だからミズキにベヒモスの魔力を食って貰う」


「……へ? 俺が? 魔力を食う?」

 

 疑問符を浮かべる瑞希にマリルが助け舟を出す。


「やはり気付いておらんかったのか? ミタスの魔力が急激に枯渇したのも、シャオの魔力が底を尽きかけたのも其方が魔力を奪っておったからだ」


「奪うって……もしかして今も……?」


「くふふふ。心配せずとも今は多少治まっておるのじゃ。恐らく死に直面した事でミズキの魔力に異変が起きたのかもしれんが、今はわしの魔力で抑えられる程度なのじゃ」


「それならシャオと手を繋いでるのもやばいんじゃないのか!?」


 瑞希はシャオの手を慌てて離そうとするが、シャオは握る手にきゅっと力を込める。


「誰かれ構わず魔力を奪うよりわしが管理しておる方が良いのじゃ。それにお主がミタスの魔力を奪った事で大分治まって来ておると言っておるじゃろ?」


 瑞希がその小さな手に安心感を覚えるのはこれで何度目だろうかと考えていると、瑞希の元にばつの悪そうな顔をしたミミカ達を筆頭に仲間達が集まって来る。

 そんな中、マリルは一人シャルルに近付きそっと手を触れ目を閉じた。


「ミ、ミズキサマ……?」


 瑞希はついついシャオの愛くるしさや、頼もしさからか、シャオを抱え上げながら抱きしめている。


「み、皆見ておるのじゃ! 早く離すのじゃっ!」


 瑞希はじたばたと暴れるシャオをパッと離すが、当のシャオはそう言いつつも握った手は離していない。


「……むぅ! またシャオだけ甘やかしてる」


 自分も頑張ったのにとふくれっ面をするチサの頭に瑞希は手を置き答えた。


「甘やかしてる訳じゃないけど、頼りになる妹には助けて貰ってばっかりだ。ところでミミカ達も大変だったな? 肝心な時に助けてやれなくてごめんな?」


 瑞希は素直に王宮の襲撃の事を謝るが、ミミカ達が慌てて頭を上げさせた。


「ミズキ殿がディタルの街に駆け付けたおかげで救われた命もあるでしょう? 誰も恨んでなどいません」


「そうっすよ! 聞けばベゴリード家の人が扇動してたんすよね? そっちは大丈夫だったんすか?」


 アンナとジーニャの質問に瑞希は頭を搔きながら答える。


「救えたかもしれないけど、結局俺達がやった事は時間稼ぎで、バージ達が駆けつけてくれなきゃどうにもならなかった。それにシャルルさんもまだ……な?」


 瑞希はそう言いながら身動きのないベヒモス姿のシャルルに視線を向ける。


「ミズキサマ……ア、アノマモノハ――「ていうかさっきから何でミミカは片言なんだ? 本当に大丈夫か? それにこの手の火傷痕……」」


 瑞希は何の気なしにミミカの手を取り、火傷痕を確認しようとするが、ミミカはその火傷痕を視認した瞬間に思わず手を引っ込め、背中に隠した。


「オオオオ、オキニナサラズッ!」


「気になるだろ……? 直ぐに回復魔法を使って治してやりたいけど、今俺が使えてた魔法は暴走中みたいでな。もう少し落ち着いてからでも大丈夫か? アンナ、グランにもそう伝えておいて欲しい」


「兄は一度ララス様の治療を受けておりますし……、その、あの火傷痕もそのままで良いと言っています」


「いやいや、駄目だろ? ミタスにやられたんだろ? 治せる様になったら治すから。別に意地を張る必要もないだろ?」


「ミタスにやられたって訳じゃないんすけど……その……ねぇお嬢?」


「ワ、ワタシニキカナイデ……」


「本当にどうしたんだよ?」

 

 瑞希が赤面するミミカの内情を知らないため困惑していると、シャルルに触れながら集中していたマリル目が開くと、声を上げた。


「ミズキっ! 其方の手を貸してたも!」


「あいよっ!」


 瑞希はシャオと手を繋いだままマリルの元へと駆け寄ると、マリルに促されるままにシャオと共にシャルルの体に触れるのであった――。

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