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降り立つ鳥

「――はぁ、はぁ……」


 ミミカに母の記憶は殆ど残っていない。

 だが、テオリス家に使える者からはミミカが成長する度にアイカの名前が聞こえて来た。

 それは亡き母と比較される様な事ではなく、ミミカの成長した姿をアイカに見せたいという事や、アイカに似て来た等の、アイカが城の者達に慕われていたという事が分かる様な言葉だ。


 ミミカに物心が付いた時にはバランは既にミミカを遠ざけており、自然と懐いたのは世話係のテミルや、ロベルの為、母という記憶は自然と薄れていた。


 それでも瑞希と出会いバランと和解してからは、バランと共にする時間の中でぽつりぽつりとアイカの話を聞いていた。

 バランに酒が入っている時は、時に上擦った声が聞こえた時もある。

 だからこそミミカは父がどれほど魔法を憎んでいたのかを最近になって理解出来た。


「――ふふふふ。アイカ様を逃がした時は惜しい事をしたと思いましたが、今はそのおかげで研究が進んだとも言えます」


「もう……喋らないで……」


 ミミカは纏まらない思考の中、かろうじて声を出した。

 しかしミタスは何かを確かめようと言葉を続ける。


「愛する者を守れなかった愚鈍な領主には魔法の才能がなかったですが、その娘である貴方にはその才能が引き継がれた。素晴らしい事です。亡き母の代わりに私の手を取りませんか?」


「取る訳……ないでしょぉっ――!」


 怒りに任せたミミカの魔法は、単純な火球を生み出した。

 それはとても熱く、ミタスを飲み込もうとさえしていたが、己自身の腕さえも焦がし始めていた。


 ミタスは右手をふわりと上げると、それに習う様に火球も上昇する。

 ミミカの火球は建物の天井をぶち抜き、触れた箇所から火が出始めた。


「無詠唱にも関わらず良い魔力です。魔力は感情によって揺らぎますが、取り分け憎しみや悲しみという負の感情は非常に強い。先程の燃やしたごみは元々の才能がいまいちであまり使えなかったですが、貴方には期待してるんですよ? ところで、魔力はまだ持ちそうですか?」


「五月蠅いっ! 貴方が居なければお父様が悲しむ事も、お母様が……あぁぁぁっ――!」


「っ!? ミミカ様っ! 落ち着いて下さい! 魔法がっ……!」


「ふふふふ。まだ魔力は在りそうですが、そんな状態で魔法を使っていては死んでしまいますよ? 私なら助ける事も出来ますがどうしますか?」


 ミタスはミミカに手を差し伸べるが、近くに居たグランの声すらもミミカに届いては居ない。

 ミミカの炎は感情に呼応するかの様に燃え上がるが、その炎はミミカ自身をも包み始めている。

 ミミカはその魔力を扱いきれず、息が出来ない事に気付くが、構う事なく両手をミタスへ向ける。

 その炎は確実にミタスを仕留めようとするミミカの気持ちに応える様に、槍の形へと変貌していく。

 そしてその数本の炎の槍が放たれると同時に、ミミカは地面へと倒れ込んだ。


「ミミカ様っ!」


 ミミカを燃やす怒りから生まれた炎は、ミミカを焼き続けている。

 ミミカは息を吸い込もうとするが、自身の炎が邪魔をする。

 首に手を当て、苦しそうに藻掻くミミカを見たグランは、ミミカを焼く炎をものともせずに自身の唇をミミカの口に押し当て、息を吹き込んだ。


 グランはミミカの炎に身を焼かれながらも懸命に息を送り込む。

 すると、意識が戻ったミミカの炎に、鳥の羽の様な物がひらりひらりと舞い落ち、ミミカを焼く炎を吹き飛ばした。


 ミミカの視界がグランの顔を捕らえ、自身の唇に重なる感触に気付いたミミカは、先程迄頭の中を渦巻いていた怒りよりも、目の前の状況に動転し、慌ててグランを押しのけ立ち上がる。


「グ、グ、グランっ! 急に何よ!? わた、私は初めてなのよっ!? そ、それにこういう事は愛し合う二人が……ちょっとグランっ!? ねぇ聞いてるっ!? グラン!?」


 赤面するミミカが慌てながら振り返った先には、荒い呼吸を繰り返しながら横たわるグランの姿があった。

 その頬には深い火傷を負っていた。


「も、申し訳……ありま……」


「グラン!? ……グランっ!」


 グランがミミカに何とかそう答えると、忌々しそうな声色のミタスが話始めた。


「もう少しでミミカ様は感情に飲まれたというのに……。魔法が使えないクズにしては機転が利くではありませんか?」


 ミタスはミミカが放った炎の槍を空中に浮かべ、槍の矛先をグランに向けた。


「仕える主君の魔法に焼かれるのならば貴方も本望でしょう?」


「駄目っ! グラン!」


 にんまりと微笑むミタスはそのまま腕を振り下ろす。

 槍がグランに到達する前に、薄い緑色をした梟の様な鳥がグランの胸に降り立つと、グランに迫る炎の槍はグランに触れる前に消し飛んだ。


「グランっ! 大丈夫なのっ!?」


「グラン様!」


 慌ててグランに触れようとするミミカの肩にその梟が留まる。

 ララスはグランの体に触れると、急いで回復魔法の詠唱をし始めた。

 ミミカはその梟がなぜ生まれたのかは理解出来ていないが、自身の味方だという事はわかった。


「ララス様、グランをお願いします! 私はこの子と時間を稼ぎますから! 行けるわよね!?」


 ミミカの確認に、肩に留まっていた梟がばさりと羽ばたくと、ミミカの周りを旋回し始めた。


「(痛っ! でも私を助けたグランはもっと辛かったんだから我慢よ私! それにこの子は風のショウレイみたいね。チサちゃんと同じショウレイなら……ミズキ様がいつも使う魔法も出来るかも!)」


 ミミカは火傷を負った腕の痛みを我慢しつつも、瑞希が普段良く使う魔法をイメージし、その言葉を発した。


「私の想像は伝わってるわよね!? 行きなさい! はんどぶれんだー!」


 梟がミミカの言葉に呼応する様に空中で激しく羽ばたくと、ミタスの元へと加速しながら迫っていく。

 ミタスが煩わしそうに短文詠唱をし、土魔法で壁を作り出すが、梟に触れた瞬間に渦巻く様に土壁が粉々になっていき、遂にはミタスに届いた。


「なんです……この魔法は……!?」


 ミタスはその勢いを押し殺す事が出来ず、壁へと激突しそのまま外へと弾き飛ばされて行く。


「……やった……初めて……成功した……」


「す、凄い威力っす……ってお嬢!?」


 ミミカは慣れない魔法を使った上に、それまでに使用していた魔法で、魔力が底を着いたらしく、その場に倒れ込んだ。


「だ、大丈夫……魔力が枯渇しただけだから。それよりグランは……?」


「グラン様ももう大丈夫です! もう少しすれば目覚めると――「ふふふふ。本当に才能ある魔法使いの成長は嬉しいですね」」


 ララスの言葉を遮る様に、建物内にミタスの言葉が反響する。

 その言葉から遅れながら、先程吹き飛んだ壁からミタスが姿を現した。

 その姿は片腕が千切れているにも関わらず、ミタスは余裕の表情を浮かべていた。


「あぁ、この腕の事ならお気になさらず。ですがそろそろ面倒臭くなってきたのでそろそろ目的を果たさせて頂きましょうか」


 ミタスは残った腕を上空に掲げながら詠唱する。

 その魔法は大地を揺らしながら、建物内の床から何十本もの石柱生み出し、建物を次々と破壊していく。

 倒れているグランとミミカの側にいたジーニャとアンナが二人を守ろうとするが、その行為を嘲笑うかの様に瓦礫の雨が降り注ぐ。


「――貴様の様な奴と得意系統が同じな事に虫唾が走るな」


 降り注ぐ瓦礫の雨は散弾銃の様な石礫に次々と砕かれて行く。

 音が鳴りやむと二人に覆いかぶさっていたジーニャとアンナが恐る恐る顔を上げた。

 それはリルドとフィロに守られていたララスも同様だ。


 そして魔法を使用したであろうバングの姿を捉えたジーニャ達とは別に、アリベルを守るため、父であるガジスはミタスの腕に胸を貫かれていた。


「病人のくせに邪魔をしてくれますねぇ?」


「この子には……何もしてやれなかったからな……」


「お父様ぁぁぁー!」


 父の姿を見たララスはただただ悲鳴を上げるのであった――。

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