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瀕死に陥る男

 ――瑞希達は街に溢れる魔物の進行の中心である南の区画で住民を守りつつ抗っていた。

 時には魔物を殺すため、時には魔法使いの魔法を防ぐため、時には住民の怪我を治すために、無茶な魔法の使い方をしている瑞希の行動にシャオは歯がゆさも感じていた。


「くっそ……数が多すぎる。せめてこの辺の住民の避難が出来たら……」


 瑞希はそう言いながらも風魔法で作り出した黒雲を上空に滞在させる。

 シャオもチサも瑞希が何故水魔法を多用させたのかは理解出来ている。

 理解できているからこそ、逃げ遅れた住民の避難を待つこの時間が長く感じているのだ。


「にゃ~ん!」


 瑞希に迫るのは今までの魔法よりも、しっかりと魔力が込められた土球だ。

 シャオは瑞希に迫る土玉に向け氷の壁を作り出すが、瑞希の魔力操作をしながら急を迫られた氷の壁は、土魔法と共に砕け散った。


「――あは~は~! 今だお前等~! 放て~!」


「……魚さん! 球状の……!」


 チサが言い終える前に、瑞希達に様々な魔法が迫る。

 瑞希はチサとシャオをかばう様に抱きしめると、背中でその魔法を受け止め、遅れてチサが発生させた魔法は瑞希達を囲う様に氷が生み出され、残りの魔法をかろうじて受けきった。


「にゃー!」


「……ミズキ……?」


「やっと当たったな~! お前等~! 次の魔法の準備だ~!」


 魔法の残滓が晴れ、抱きしめられた状態のチサが瑞希の顔を覗き込むと、口の端から一筋の血が溢れ出した。


「……ミズキっ!」


 瑞希はチサの呼びかけに気付いたのか、チサとシャオに怪我が無い事を理解すると優しく微笑みながら横たわる。


「だい……じょうぶだ……」


 瑞希は魔法耐性のある革鎧を着てこなかった事を悔いるが、今はその後悔よりも目の前の状況を打破するために、そして二人に心配させるまいとどうにか体を起こそうとするが、力が伝わらない。


「……ミ、ミズキ! 早く回復魔法を使て!」


 朦朧とした瑞希の意識は、回復魔法を使う事よりも先に二人を守る方法を考えており、チサの言葉は届かない。

 そしてそれと同時に急激な気温の低下が訪れた。


「にゃー……」


 シャオが二人の前に降り立つと、地面を歩く毎に足元が凍り付いて行く。


「……シャオ! そんな事よりミズキを治して!」


「……にゃー」


 シャオは瑞希の背中に広がる大きな血の染みを見て、その燃え盛る様な視線を外す。

 瑞希達を仕留める為か、はたまた魔法使い達の準備の時間稼ぎの為か、シャオに飛び掛かって来た魔物達はシャオに近付いた所で次々罅割れ、崩れ落ちていく。


「にゃー!」


 シャオの怒りを込めた鳴き声は、瑞希が作り上げた黒雲から辺り一面に鋭い氷柱を次々に打ち下ろしていく。

 その氷柱に触れた者から悲鳴が上がるが、腕や足を貫かれたにも関わらず魔法使い達は次の魔法を撃とうと魔力を込め詠唱をしていた。


「……シャオ! はよせなミズキが死んでまう! 早くっ!」


「シャオ……大丈夫だから……お前は……」


「にゃー!」


 瑞希の制止する言葉も聞こえないのか、シャオの咆哮に呼応する様に大規模な魔法が生み出され様とした所で、何とか手を伸ばした瑞希が、そっとシャオを抱きかかえ、懐へと抱き寄せた。


「大丈夫だから……何が在ってもお前は俺が守るから……だから……そんなに怒るな……」


 瑞希に触れ、優しく声を掛けられたシャオは、ぼふんと人型になると、横たわる瑞希に泣きじゃくりながら抱き着いた。


「な、なら早く起きるのじゃ! こんな所で死ぬなど許さんのじゃっ!」


 我に返ったシャオは泣きながらも瑞希が魔力を直ぐに使える様に自身の魔力を瑞希に込める。

 しかし、瑞希から魔力が出て行く事はない。


「……シャオなら「出来んのじゃっ! わしには回復魔法は使えんのじゃ!」」


 チサの願いは当のシャオに一蹴される。

 確かにチサは瑞希が回復魔法を当てる所は何度も目にしていたが、シャオが回復魔法を使う所は一度として見ていない。

 シャオが泣きながら只瑞希に魔力を送る状況を見て、チサは絶望の表情を浮かべる。


 瑞希の力ない視線には、泣き顔の二人の少女が写っていた。


「(くそ……早くしないと……二人を守らなきゃ……何か魔法を……)」


 焦る瑞希は二人を守るため、地面に手を当てる。

 しかし、痛みと流血のせいなのか、集中ができず、魔法のイメージが霧散してしまう。


「お前等~! 放てぇ~!」


 慈悲もなく瑞希達に向け、魔法使い達への号令がかかる。


「盾隊っ! 構えぇっ!」


 だが、ほぼ同時に別の声の号令が響き渡る。

 瑞希達の目を眩ませるような魔法の光の中、続けて命令が下される。


「盾隊はそのままミズキを守れっ! 治療士は急いでミズキを治せ! ある程度回復すればミズキなら自分で魔法を使えるっ! 剣隊はあの魔法使い共を捕縛しろっ!」


「あは~は~! 来たかバージ・カルトロム~!」


 先程迄顔を隠していたリーダー各の男が、ローブのフードを取り、嬉しそうな表情でバージを見据える。

 その顔の右目は瞼がないのか大きく見開かれているが、問題のない左目と、片側の髪を耳にかけた特徴的な髪形にバージが舌打ちをする。


「ここに来てベゴリード家かよ……。ミズキの傷はどうだっ!?」


 バージは瑞希を治療する治療兵に視線を向けると、女性兵はぐらりと眩暈を起こし倒れた。


「そうじゃっ! 早く治すのじゃっ!」


 ある程度の傷が治った事で瑞希の意識はイメージに集中できたのか、瑞希から魔力が流れ始めた。

 傷が癒えた瑞希はすぐさま立ち上がり女性兵を持ち上げた。


「助かりましたっ! この人を安全な所へ! あ~もうっ! 心配させて悪かったよ! だからもう泣くな二人共!」


 傷を治した瑞希は近くの兵士に女性兵を手渡すと、腰元に抱き着く二人の少女の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でまわす。


「この馬鹿垂れがっ! 心配させるでないのじゃっ!」


「……もう大丈夫!? 痛ない!?」


「大丈夫だって! それになんかさっきまでより調子良いぐらいだ。悪いなバージ、助かった」


 ぐるぐると肩を回しながら答える瑞希はバージが来た事で先程迄の焦燥感も消え去っていた。


「お前等の装備を持ってきたからさっさと着ろ。それよりこの状況はどういう状況なんだ?」


 バージが瑞希の革鎧を投げ渡すと、瑞希は破けた上着を脱ぎ棄て、革鎧を着込む。


「お~! やっぱり安心感が違うな」


「初めから着ておればこんな目に合わんで済んだのじゃ!」


「……ほんまやで!」


「急だったんだから仕方ないだろ~? バージ、住民の避難さえ済めば一網打尽に出来る様に仕込みはしてあるから頼めるか?」


 瑞希が指差す上空には黒雲が広がり、辺りには様々な魔物死骸や、凍り付いた街並みが広がる。


「わかった……。けど、後で説明してもらうからな?」


 バージは辺りを見渡しながら兵士達に命令をする。


「住民の避難を優先に! 魔法使い達は後回しだ! 戦闘は……「よそ見~するなよ~? バージぃ~!」」


 風魔法を使って加速したのか、ベゴリード家と呼ばれた男が急速でバージに迫る。

 バージは思わず身構えるが、寸前で急転換したかと思えば、建物の壁へとめり込む程に吹き飛ばされていた。

 バージが視線を瑞希に移すと、シャオと手を握る瑞希は、翳していた手を不思議そうに眺めているのであった――。

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