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住民の恐怖

 ――バージ達が住民を誘導する中、瑞希達は魔力の集まる場所へと飛び込んでいく。

 その場には見慣れた人型の魔物に加え、虚ろな表情をしている魔法使いが周囲を破壊していた。

 

 瑞希はシャオに指示を出し、シャオは上空を飛ぶ魔物を次々と打ち落としていく。

 瑞希は声を上げ周辺の住民に呼びかけ避難誘導を試みるが、パニックに陥っている住民からすれば魔物を打ち落とす魔法を使う動物、即ち魔物に思えるシャオの側に居る瑞希も恐怖の対象なのか、動きが鈍い。


「――くそっ! シャオ! ある程度打ち落としたらまずは避難させるのが優先だ!」


「にゃ~ん!」


「チサは周りの住民の人達に被害が出そうなら壁を出して守ってくれ!」


「……わかった!」


 瑞希が二人に号令を出すと同時に近寄って来るのはコバタの街で見た大型の魔物、トロルだ。

 それも前回同様魔法使いに操られているのだろう、肩にはフードを被った魔法使いが座っている。

 トロルは瑞希達を捕まえようと掌を伸ばすが、シャオの一鳴きと共にその腕は落とされ、瑞希が剣を抜いたと思えば青色に伸びた刀身がトロルを真っ二つに斬り落とした。


「……二人共すごっ」


「にゃふふ」


「肩に乗ってる奴は怪我しても自己責任だからなっ!」


 瑞希はそう言いながらチサの手を引き、近くの瓦礫を泣きじゃくりながらどけようとしている子供の側へ走る。

 魔法使い達が瑞希達を狙い魔法を放つが、チサの氷の壁に阻まれる。

 しかし多勢に無勢なのか、チサの魔法では堪え切れないのか壁が音を立てて罅が入って行く。


「にゃ~ん」


 シャオは鳴きながらチサの頭に肉球をぽふりと下ろすと、チサの魔法の後ろに角度を付けた氷壁が生まれ、魔法使い達の魔法は滑る様に空へと飛んでいく。


「……そっか……使い方や」


「にゃふふ」


「大丈夫か!? ここは危ないから動けるならさっさと逃げろ!」


 チサがシャオに教えられている中、瑞希は目の前の子供に声を掛ける。

 先程の攻防を見ていた子供は、トロルを斬り伏せた瑞希と、小さな魔物に見えたシャオを見て怯える。

 シャオはその視線を感じ取ったのか、鼻を鳴らし、ぷいっとそっぽを向くと、視線の先にいる魔法使いに向け魔力を練る。


「……はよ逃げえな!」


 痺れを切らしたチサも幼い子供を促すが、子供は怯えた表情のままふるふると首を振り瓦礫を指差す。


「その下に誰かいるのか!? シャオ! この瓦礫をどけてくれ!」


 背中を向けていても瑞希の言葉が聞こえたシャオは二本の尻尾を揺らし、丁度良いとばかりに瓦礫を吹き飛ばす様に暴風を発生させた。

 瓦礫は魔法使い達に飛礫の様に飛んで行き、何人かの魔法使い達に命中するが、瑞希は瓦礫の中から出て来た息も絶え絶えな婦人の痛ましい姿を見て顔を歪める。


――お母さんっ!


「触んなっ! まだ生きてる! チサ少しだけ時間稼ぎしてくれ! シャオ!」


 名を呼ばれたシャオはチラリと視線を瑞希に向けると、嫌そうに溜め息を溢しながら瑞希の肩に乗る。

 目の前で人の生き死にがかかり切羽詰まっている瑞希は、シャオの感情の機微に反応せぬまま婦人に回復魔法を当て、次々と怪我を治していくと、婦人はハッと目を覚まし起き上がった。


「早くこの子を連れて逃げて下さい! ここは危険ですから!」


 瑞希にそう言われるが、状況を理解出来ない婦人に泣きじゃくる子供が抱き着いた。

 瑞希達への魔法が意味をなさないと理解した魔法使い達は、従える魔物をけしかける。


「くっそ! どんだけ統率が取れてんだよ! チサ! 氷柱じゃなくて水球で吹き飛ばせ! シャオは……!」


 迫りくる魔物を避けながら斬り伏せる瑞希の姿を見た親子は、震える足を何とか動かし、その場を離れようとするが、そこにチサが大きな声を上げた。


「……逃げながらでもええからちゃんと御礼言いや! シャオとミズキはあんた等を助けたんやで!」


――あ、ありがとうございます!


――お兄ちゃんと……ペットの子もありがとうっ!


「にゃっ!? にゃー!」


 ペットと呼ばれた事に抗議をしたいシャオだが、親子の姿は遠のいていく。

 シャオの声を聞き、何故チサが怒りながら親子に礼を求めたのかに気付いた瑞希は、空いている手で自身の顔を叩く。


「チサ気を使わせて悪い。ありがとな……」


 瑞希はチサの頭に手を乗せてから、口元に手を添え、大きく息を吸ってから魔法を使う。


「バージっ! 南の区画っ! 貧民街近くのデカい建物らへんだぁ!」


 拡声器をイメージしながら風魔法を使った瑞希の声は大きく響き渡り、遠くにいるバージの耳にも届く事になるのだが、その声を聞き瑞希に目を付けた一人の男が瑞希の目の前に現れた――。


◇◇◇


「――聞こえたな!? 南だっ! 隊を分けるぞっ!」


 バージの号令に救助に当たっていた兵士達が動く中、率先して動こうとするバージをバングが止める。


「なんだよっ!?」


「大将のお前が先陣を切ってどうする!? ララスを残して死ぬつもりか!」


「連れが名指しで呼んでるなら行くしかねぇだろ? それに死ぬつもりはねぇし、ディタルの街なら裏道迄知ってるから俺が行く方が早い!」


「魔法も使えないお前が行ってどうなる!? 街がこうなったのも俺が魔法至上主義者達に丸め込まれたせいだ! 行くなら俺がっ……「あほか。ふらふらのくせに無理すんな。魔法が使えないのなんか生まれつきだ。魔法なんかなくったって俺は今まで生きて来た。それにいざとなればミズキを頼るに決まってんだろ。それに俺ん家から応援が来た時に王宮近くに居るより街に居た方が指示も出しやすい」」


 バングの心配を他所に、他者へ頼ると言い切るバージの顔を見たバングは苦虫を潰したような顔をする。


「それにボングとララスを守るって約束をしたけど、俺がその代わりを頼めるのはお前しかいないんだよ。王家争いのごたごたに他所者のあいつ等を頼っちまってるのは俺の責任だ。俺は前線にいるあいつ等を尻目に安全な所で口だけ出すなんか出来ねぇよ。それにここら辺もまだまだ救助は必要だろ? バングの魔法なら瓦礫をどけるのも火を消すのも俺なんかよりよっぽど役に立つ。だからこそ俺はここを離れても大丈夫だと思ってるんだ。頼らせてくれよ兄貴」


 バージはそう言いながらバングの胸を軽く叩くと、近くの兵士に伝令を出し隊を分け始める。

 バングはバージに叩かれた胸から、ふつふつと熱が湧き出て来る感覚に陥る。


「(あぁ……そうか……俺はこうやって誰かに頼られたかっただけなのか……) なら約束しろ。絶対に死ぬなよ?」


「当たり前だ! 愛しい女が待ってるのに死んでたまるかっ! それより事が落ち着いたら盛大に祝ってくれよ?」


「あぁっ!」


 バングは自身の熱くなった胸に手を当て、その手に力を込めると声を上げた。


「腕に自信がある者はバージに付け! 南の区画はここよりも酷い現状なはずだっ! 命の保証はできん! だが、どうかこの無鉄砲で馬鹿な友人であり、俺の義弟になるバージを守ってやってくれ!」


「おいおい……」


 バージはバングの言葉を呆れながら聞いていたが、バージの周りには真剣な眼差しを向ける屈強な兵士達が取り囲んでいた。


「言っとくけど俺は本当に頼りないからな!? お前達を守る事なんか出来ないぞ?」


 バージについて行こうとするカルトロム家の兵士は勿論、王宮の兵士や他貴族の兵士もバージが戦力にならない事など知っているのか、クスクスと笑いながら頷く。


「何笑ってんだそこ! ……たく。ならミズキ達が戦いやすい様にするのが俺達の仕事だ! 救助する住民はごまんといるからな! 絶対に全員生きて戻るぞ! そんでその後はここに居る全員で美味い酒を飲みながら武勇伝を語り合うぞ!」


 バージの言葉に周りの兵士が雄叫びを上げる。

 頼りがいのある者達に囲まれるバージは目を細め、嬉しそうに笑う。

 バングはその光景を見ながら自分には想像すら出来なかった、未来の王の姿を思い浮かべるのであった――。

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