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瑞希の教え子

 王宮内の広間では、火傷や骨折をしてうなされている者達に対し、ララスは汗を掻きながらも治療を行っている。

 しかし、いくら魔法の才能があろうと魔力は有限であり、魔力量の多いララスでも重症患者を治療するのにはかなりの魔力を使用している。

 魔力薬を飲みながらドレスが汚れる事も厭わず、懸命に魔法を使う少しふくよかな姿は、民衆達も噂に聞いていた聖女という言葉を思い浮かべていた。


 そんな中ミミカは大きなボウルの中にジラの果汁を並々と絞り、そこに瑞希から分けて貰っていた蟻蜜を混ぜ込み、静かに詠唱をし始める。

 キーリスの辺りでは寒い季節に差し掛かっているのだが、遅れながらもこの辺りも冷え始めている。

 とはいえ大量の人に溢れている広間は蒸し暑くなっており、怪我をした者の中には熱を出している者もいる。

 ミミカが詠唱を始めるとひんやりとした空気が広がるが、当の本人は苦手な系統のためか、慣れた系統の魔法よりも魔力が失われていき、少し呼吸が荒くなる。


「大丈夫ですかミミカ様……?」


「平気っ! あいすくりーむをいつでも作れる様にこれだけはいっぱい練習してたから……」


「でもジラの果汁であいすくりーむは出来ないっすよ?」


「うん。私も初めて作るんだけど、ミズキ様にお話しは聞いてたから……。凍り始めたら混ぜるんだよね……」


 ミミカはキンキンに冷えたボウルを布越しに掴み、凍り始めた部分から木べらで混ぜていく。

 シャリシャリとした感触とまだ凍っていない部分を混ぜ合わせると、ミミカは再び詠唱をする。


「う~……アリーもちゃんと魔法が使えたら手伝えるのに……」


「家に帰ったら一緒に練習しようね。それにお姉ちゃんはまだまだ大丈夫だから」


「料理に魔法を使うのってやっぱり難しいんすね」


「ミズキ殿とシャオ殿が当たり前の様に使っているからな」


「ミズキ様達が規格外なのっ! 無詠唱で魔力を使ったら私でも倒れるわよ! 実際初めてシャオちゃんに瑞希様と同じ様な魔法の使い方をして貰ったけど、小さな火を出しただけで倒れそうになったもん!」


 ミミカは憤慨しながらも、再び凍り始めた果汁を混ぜていく。

 先程よりも重い手応えだがミミカの力でもすんなりと混ざる。

 ミミカが三度詠唱をするため、魔力を循環させていると腰元に暖かな体温を感じる。

 ふとミミカが後ろを振り返りつつ、自身の腰元に視線を落とすと、アリベルが抱き着いていた。


「こうやったらアリーの魔力がお姉ちゃんに行くかも~!」


「あはは。そんな訳――」


 アリベルが自身の手にそっと重なる様な温もりを感じるのと同時に、ミミカもまた小気味良い音色が薄っすらと聞こえた。

 ミミカは自身が初めて魔力を感知出来た時の音にも似ていたが、その音よりも少し静かな音だ。

 ミミカはそのまま詠唱を続けると、先程迄の脱力感は感じず、それでいて先程よりも潤滑に魔法を使う事が出来た。


「(もう。マリル叔母様ったら人を子供扱いして) アリー、大丈夫? 疲れてない?」


「大丈夫だよ~?」


「(魔力の多さが王位継承権を動かす……か) アリーが元気をくれたからお姉ちゃん楽に魔法が使えちゃった! おかげでジラのしゃーべっと? が完成したわ」


「本当!? アリーも手伝えたの!?」


「うん! さぁいっぱい作ったから熱が出て暑そうな人に配ろう! アリーも後で食べて良いからね」


「うんっ! お姉ちゃんのお菓子楽しみっ!」


 ミミカがシャリシャリと凍り付いた果汁を皿に乗せて匙を添えると、アリベルに手渡す。

 アリベルは近くに居た熱にうなされる若い男に声を掛けた。


「暑い? 大丈夫? 今お姉ちゃんが作った冷たいお菓子があるから少し食べれる?」


 可愛らしいアリベルの姿を視界に入れた男は、冷たいお菓子が何のことかわからぬまま、冷たいのならばとゆっくりと頷いた。

 アリベルは自身の口を大きく開け、男の口を開ける様に誘導すると、匙に乗せたシャーベットを男の口に入れる。


 柑橘類の爽やかな酸味と、蟻蜜の甘さを感じるが、舌の熱でさらりと溶けて冷ややかな液体になり喉元を冷やしながら通り過ぎていく。

 熱で朦朧として意識は、先程よりもはっきりとし始め、可愛らしい幼女が再び匙を口に入れた。

 男は喉が渇いていた事もあり、甘酸っぱく冷ややかな果汁が自身の体を冷やしてくれたのを感じるとゆっくりと起き上がった。


「起きれた? じゃあ他の人にもあげなきゃだから、これ食べれる?」


 男は頷くと、天使の様な幼女の姿を寂し気な目で追いながらシャーベットを口にしていく――。


「美味しいです……」


「ねっ! 初めて作ったけどこれも美味しい! やっぱりミズキ様の御料理は凄いですよね!」


 一先ずの治療を終えたララスは、魔力薬の苦みが残っていた口の中を洗い流すようなジラのシャーベットが、体の火照りも治めていく。


「うふふ。これはミミカ様も食べた事ないのでしょう? ならこれはミミカ様の御料理では?」


「でもミズキ様が教えてくれた物ですから!」


「それでも知識だけの物をこうやって形にして、これを食べた方達は穏やかな顔をされております。勿論私もさっきまで焦っていたのが嘘の様に落ち着いてきました。私はミミカ様に感謝をしたいです」


「そ、そんな! だってミズキ様がジラの使い方を教えてくれたんですし、それに蟻蜜を食べると元気になるって教えてくれたのもミズキ様ですし……」


 慌てるミミカの姿を見てララスはくすくすと笑う。


「もうっ! ララス様っ! 人を揶揄わないで下さいっ! 私は私が出来る事があったから偶々……」


 ミミカはそう言いかけた所で、ミズキの口癖と同じ事を言っている事に気付く。

 何故か恥ずかしそうにしているミミカにララスが話しかけた。


「偶々でも私達は癒されております。もしミミカ様がその知識を実行しようと思わなければこのお菓子だって食べる事が出来ませんでした。それにほら、皆さんも美味しいと仰られてるみたいですよ?」


――ママッ! もっと頂戴!


――駄目よっ! あんたはもう食べたでしょ!


――こ、こんな高そうなの俺達が食べても良いんか!?


 親子で取り合いをする程にジラシャーベットは好評の様だ。

 ミミカからすればそれが誇らしくもあり、照れ臭くもある。


「お姉ちゃん、美味しいねぇ~!」


 隣に座るアリベルも御機嫌な様子でジラシャーベットを口にしていた。

 民衆を無償で癒す聖女。

 民衆に無償で分け与える美少女。

 民衆へ愛嬌を振る舞う天使。


 三人が並ぶ一角を見ていた民衆は思わずその姿に頭を垂れ、崇めたいとすら思えてしまう。


「さぁ、バージ様達が怪我人をどんどん運んで来ます。ミミカ様にもこのお菓子の追加をお願いしても宜しいでしょうか?」


「任せて下さいっ! ミズキ様に代わって私は御料理で癒してみせます! アリーも手伝ってくれるもんね?」


「うんっ! いっぱいお姉ちゃんにぎゅうってするねっ!」


 ミミカは強く胸を叩きながらそう答えたが、瑞希達の無事な帰りを切に願うのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

本当に作者が更新する励みになっています。


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