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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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モーム乳の可能性

 瑞希とシャオがタバスの座っている酒場のテーブルに朝食を並べていると、二階からテミル達の足音がしてくる。

 店の扉からはドマルが戻ってきた。


「ミミカ様申し訳ございません! 主より遅く目覚めるなど……」


「昨日は怪我もしてたんだからしょうがないでしょ! それよりも今日の朝食は私も手伝ったんだから感想聞かせてよね!」


「あら? ミミカの手作りなの? 楽しみね」


「美味かったら何でも良いっすよ~……ぐぅ……」


 階段からは四人の話声がどんどんと近づいてくる。

 ドマルは手を洗うと、シャオの横に座った。


「皆お早う!」


 瑞希の朝の挨拶に各々が返事を返す中、テミルがニコニコしながら瑞希に近づいて来た。


「ミミカの髪形を可愛らしくして頂いてありがとうございます。私達を起こしに来てから大はしゃぎで自慢してきたんですよ」


 テミルは小声でクスクス笑いながら二階でのミミカの行動を瑞希に報告する。


「テミルー? 何の話してるの? 早く食べようよ?」


 ミミカは二人で立ち話をしているテミルを席に呼ぶ。


「何でもないわよ。じゃあ早速頂きましょうか」


 全員が席に着いたので瑞希が号令をかける。


「では皆が揃ったので頂きましょうか! 頂きます!」


 テミルはまずサラダに手を伸ばした。


「あら? このサラダにかかってるドレッシングはさっぱりして美味しいわ! それにパルマン(玉ねぎ)が生なのに辛くない……?」


「それは良かったです。そのドレッシングはミミカが作ったんですよ? パルマンは辛みを抜いてるので生でも美味しいでしょ?」


「本当に……ドレッシングもとっても美味しいわミミカ!」


「美味いっすお嬢!」


「確かに爽やかな味で美味しい!」


 周りの上々の反応にミミカは顔を赤くして恥ずかしそうにしているが、その顔からは溢れんばかりの笑顔がこぼれ落ちていた。


「むおっ! さすがに小僧のスープも三回目で驚かんつもりじゃったが、このスープは特に美味いな!」


「それはホロホロ鶏の骨からスープを取ったんですよ!」


「またこいつは捨てる様な物からこんな美味い物を作りおったのか……」


 そう言いながらタバスはスープを啜っていく。

 シャオはふわふわとしたオムレツをこれまた大きく頬張り、頬っぺたを押さえている。


「とろとろふわふわで美味いのじゃ~……」


 シャオが卵の余韻に浸っている横ではドマルがポムソースに驚いていた。


「卵もだけど、このソースが美味しい! 昨日のポムの実(トマト)スープも美味しかったけど、それよりも濃厚だね!」


「ミネストローネと違って水を一切使って無いからだな。水分はポムの実だけで作ってるから濃厚なんだよ」


「ミズキ様? さっき作ったばたーは出さないんですか?」


「オムレツにもスープにも使ってるからな。さすがに偏りすぎるのもどうかと思って……代わりにこれを乗せて食べてみてくれ」


 瑞希はミミカにカッテージチーズを差し出すと、言われるがままに食べてみる。


「わずかに酸味が在って美味しいですね」


 しかしながらやはりバターにある様な脂肪の旨さがない分少しばかり見劣りがするとミミカは感じていた。


「いまいちだと思っただろ? そしたら次はその上にポムソースがかかったオムレツを乗せて食べてみてくれ」


 別々に食べて美味しい物が合わせて食べて変わるのだろうか?

 ミミカは疑問を持ちながらも瑞希の言うとおりに食べてみる。


「何でっ!? 別々に食べるより美味しい!」


「美味いだろ? こういうのも料理の面白い所なんだよな」


「不思議です! なんでこんな事になるんですか!?」


「確かにこうやって食べた方が美味いっす!」


 ミミカを真似てジーニャも同じ様に食べてみたが、やはりミミカと同じ感想の様だ。


「チーズの酸味と、ポムの実の旨味、オムレツの甘みとバターの油分が一緒に口に入ったからだよ。もちろん色んな味が合わされば美味いって訳じゃないけど、チーズとポムの実は特に相性が良いんだよ」


「なんでもっと早く言わんのじゃ!」


 オムレツを半分程食べてしまっていたシャオがぷんすかと瑞希に怒っているが、やはり口の周りがポムソースでべたべたになっていたので、瑞希はシャオの口元を拭いてやる。


「料理ってすごい! 本当に魔法みたい!」


 ミミカが目の前で起きた味の変化に驚いていると、シャオの口を拭き終わった瑞希がミミカに問いかける。


「それに、美味いって言われると嬉しかっただろ?」


「はいっ! テミルのお弁当も私が作ったのもあるからちゃんと食べてね!?」


「もちろん頂くわ。料理は楽しかった?」


「うんっ! 楽しいし、嬉しいっ!」


 ミミカがニコニコと返事を返すと、アンナとジーニャがミミカの眩しい笑顔をみて安心していた。


「ゴブリン共に襲われはしたけど、ココナ村に来て良かった」


「本当っす! お嬢のそんな笑顔久しく見てなかったっす!」


「そうなの……」


「違うのよっ!? ただちょっと寂しかったというか……」


「じゃあ次はお父さんに作って、美味いと言わせてやらないとな!」


「はいっ! あの……また料理を教えて貰っても良いですか?」


「もちろん良いよ! ……とは言っても家に届けるまでしか時間はないけどね」


「そんな~……」


 ミミカは分かりやすく落ち込むと、食事の終わったドマルが話しかけて来た。


「このちーずっていうのもモーム乳で作ったの?」


「そうだよ?」


「ちなみにモーム乳から他に何が作れるの?」


「バターとチーズは食べたろ? 主要な物はその二つで、生クリームは作るというよりかは調理の分類だし、運が良ければヨーグルトが出来るか……」


「運っていうのは?」


「正直ヨーグルトは作るというより、成るっていう方が正しいんだ。タルとか革袋に入れてたらドロドロに発酵する事があって、それを普通のモーム乳に混ぜると、混ぜた乳もドロドロになる……」


「なんか話だけ聞くとそれは不味そうだね……」


「まぁ独特の酸味が在るけど、料理にも使えるし、やっぱり万能な食材だよ」


 二人のやり取りを聞いていたテミルに何か引っかかりを感じる。


「ミミカ? バラン様が仕事にばかり時間を取られる様になったのは私が居なくなってからかしら?」


「テミルが居なくなったのが五年前ぐらいだから、その一年後ぐらいからかしら? どうしたの?」


「私が城から居なくなる少し前にモノクーン地方の西側で魔物の大量発生があったでしょ? その地域の復興のためにかなり財政が厳しくなったと思うわ。バラン様は財政を立て直すためにも寝る間を惜しんで執務についてるのじゃないかしら?」


 瑞希は自身では理解の出来ない話についていけなかったが、テミルは瑞希に視線を合わせる。


「キリハラさん。モームの乳からばたーやちーずは誰にでも作れるのでしょうか?」


「え? あぁ大丈夫ですよ? 今日のバターも半分はミミカが手で作りましたし……」


「本当なのミミカ?」


「本当よ! 一生懸命振って作るのよ!」


 ミミカはバター作りの時の動きを再現して腕を上下にブンブン振り回していた。


「キリハラさん……もしかしたらモーム乳がバラン様を救う事になるかもしれません。再三お願い事をして申し訳ないのですが、もし宜しければ冒険者としてではなく、料理人としてバラン様に会って頂くことは出来ないでしょうか?」


「それってつまり……」


「ミミカ様とキーリス迄ではなく、お城まで向かって欲しいのです!」


「えぇぇぇ~!? そんな無理ですよ! 俺は偉い人と会ったこともないし、礼儀もわかりませんよ!?」


「バラン様も元々は兵士からの成り上がったお方です! 寛容なお心を持たれたお方ですのでそのあたりは問題ありません! キリハラさんのモーム乳の知識がキーリスを……いえ、モノクーン地方全体を救うかもしれないのです!」


「そんな……あほな……」


 思わず瑞希が関西弁になってしまうぐらいの展開に、瑞希とミミカを始め誰もついて来れていなかった。

 ただ一人、ドマルを除いては……だが。

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