アスタルフ家の悪足掻き?
王宮がある街ディタルは、王都というだけありかなりの広さと人口の多さを誇っている。
冒険者達もある程度の学を収めている必要があり、貴族からの仕事も多い事で、ランクの高い冒険者もかなりの数を保有している。
もちろん王宮が抱える兵士達も同様だ。
テオリス家の兵士とは違い魔法使いで構成される部隊も存在している上に、グラフリー家に仕える兵士達も自分達は優秀な人材だと自負していた。
その様な者達が守るディタルの街から火が昇り、住民達は阿鼻叫喚していた――。
「な……んだよこれ……」
城が揺れた事で、火球が飛び出した窓から外の様子を見たバージは、煙が上がっている事と、上空を飛び回る鳥型の魔物を見て思わず言葉が濁る。
「何したんだお前っ! おいっ! 起きろっ!」
バージは魔力の枯渇で倒れているアスタルフ家当主の胸倉を両手で掴み、無理やり聞き出そうと力任せに体を持ち上げる。
「は……は……は。グラ……フリー家が消えれば、この国は……魔法……使いの物だ……」
「馬鹿かっ!? ディタルには魔法使いより、魔法が使えない人間の方が圧倒的に多いんだぞ!? 全員が魔法使いの言いなりになる訳ないだろっ!?」
「そんな……もの……これから魔法使いを……生めばいい……」
「そんな簡単に生まれるわけないだろうが! 第一そんな方法があるなら貴族間で揉める必要も……」
「そこに……証人がいるではないか……」
アスタルフ家当主がアリベルを指差した事でバージはある事を思い出した。
「感情の高ぶりかっ……!」
「く……は……は。この状況のディタルならば……かなりの数の魔法使いが……」
その言葉の途中でバージは胸倉から片手を離し、男を殴り飛ばした。
「くそ野郎がっ! 起きろバングっ! 王宮にいる正気の兵士を片っ端から集めさせろっ! 怪しい奴は納豆を食わせてなっ! ムージとオリンは家に戻って増援を呼んで来い! ララスっ! 俺は怪我人を王宮に誘導させる様に動くから、他に回復魔法を使える奴と共に重態の奴に回復魔法をっ! こんな奴等の思い通りにさせるなっ!」
バングはバージに呼びかけに応じ、何とか起き上がり、力ない足取りながらも、事の急用性を理解し動く。
ムージとオリンは颯爽と部屋を出て行き、ララスはその場で返事をする。
「わかりました! 爺や、貴方は治療院の魔法使いを集めて来て! ボングは……「姉様っ! 僕も戦えますっ!」」
ボングは腰に差した短剣を抜き、戦う事への意思表明をする。
「駄目よ。貴方はまだ幼く、もしもの事があれば王になり得る可能性もあるんだから」
「王にって……兄様や姉様もそうではないですかっ!」
「私達はもう大人です。私には人を癒す力があり、お兄様はグラフリー家として今回の責任を取る必要があるの」
「だからと言って姉様達が死地に向かう必要がどこにあるんですかっ!?」
「それが民を預かる王家としての責任なのよ」
駄々を捏ね続けるボングの頭に大きくごつい手が置かれる。
「姉ちゃんの事は俺が絶対に守る。俺の大事な嫁だからな」
見上げるボングに、嬉しそうな笑顔を見せるのはバージだ。
ララスの貴族として、王家としての振る舞いに、自身が惚れたのはそういう所だと再確認できた様だ。
そんなララスやバージの姿を見ていたのは周りの貴族もだが、ガジスも真剣な面持ちで見ていた。
グラフリー派と呼ばれる、アスタルフ家を筆頭とした魔法至上主義者はアスタルフ家の暴走だと喚き狼狽えているが、反グラフリー派の貴族達も意見は違えど現状に狼狽えていた。
「狼狽えるなっ!」
そう一喝したのはバージだ。
「ララスも言った様に民を守るのは貴族である俺達の仕事だ! 街で今何が起きているかは分からないが、こんだけの貴族が雁首揃えてるんだ、恐れる必要はないっ!」
その言葉に反グラフリー派の貴族達が頷く。
次いでララスも声を上げる。
「グラフリー家を取り込もうとしていた家もあるでしょうが、民あっての貴族なのです。大事な民が苦しんでるのであれば私達が率先しなければどうするのですか! 今ここで魔法至上主義者が言う国にして本当に皆に幸福が訪れるのですか!? 魔法が使える事を誇るならば弱き者を助けるために使いなさい!」
それは魔法至上主義者である貴族達に向けた叱咤であった。
今までのララスからは考えられない強くきつい言い方だが、その本気さは充分に伝わっている。
動けなくなっていた貴族達は何をすべきなのか、バージに指示を仰ぎ、それを伝え終えたバージは瑞希達の元に訪れ深く頭を下げる。
「ミズキ、この地方を任される貴族として言える話じゃないが、キーリスの英雄としての力を貸して欲しい!」
本来ならば同じモノクーン地方とはいえ、遠方の貴族の関係者に助力を求めるのは自分達に力がないと言っている様な物なのだが、バージはそんな一時の恥よりも優先すべき事だと分かっていた。
瑞希はそんな貴族としての内情よりも優先する事があった。
瑞希はバージの肩に手を置き、頭を上げさせる。
「あほ。友達に頼むのにそんなに改まる必要はないだろ?」
瑞希は笑顔でそう伝え、隣にいるシャオは楽しそうに笑っていた。
「くふふふ。こんな騒ぎを起こした奴等を後悔させてやるのじゃ」
「……うちもやったる!」
バージが嬉しさから瑞希の手を両手で握っていると、ミミカが手を挙げて発言した。
「私もララス様とはお友達です! 私もミズキ様をお手伝いします!」
ふんすと力を込めるミミカには当然待ったがかかる。
「ミミカ様それは……」
「お嬢は駄目っすよ……」
「何で!? チサちゃんだって……!」
「チサちゃんは幼いとはいえ冒険者や。うち等にもしもの事があったら自分等の領地の皆はどうするん?」
「で、でも……」
ミミカのやる気を理解している同じ立場のカエラが優しく諭すが、ミミカは口ごもりながらも瑞希に並んで戦いたいが為に反論しようとする。
すると、当の瑞希が話に割って入った。
「ミミカはララスさんの側に居てくれ。あの人……「どうしてですか!? 私だってちゃんと魔法を使えますし、剣術だってちょっとは……」」
瑞希は興奮するミミカの両頬を掴み引っ張ると、言葉を続ける。
「あの人は王家の責任を感じて必要以上に無茶するかもしれないの。それに城の中だって安全って訳じゃない。俺がミミカの側に居なくても大丈夫だと思うのはミミカが自衛できると信じてるからだ。そうじゃなかったらバランさんとの約束を反故にする事になるからな。それにお前にも守らなきゃいけない妹が居るだろ?」
「ひひゃい! ひひゃいでふっ!」
瑞希は泣きそうなミミカからぱっと手を離し、ミミカに抱き着くアリベルを指差した。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫だからっ!」
両頬に手を当てながらもどこか嬉しそうにしていたミミカは、いつの間にか戻っていたアリベルに尋ねられた事で慌てて取り繕う。
ミミカは瑞希の言葉に納得したのか、瑞希と視線を合わせてからこくりと頷いた。
瑞希は振り返り、両手でアンナとジーニャの肩に手を置き、二人の体を寄せ付けてひそひそと話しかけた。
「(ミミカは興奮気味だから二人でしっかり制御してくれよ?)」
「(わ、わかりましたっ!)」
「(りょ、了解っす!)」
瑞希の近さに二人はどぎまぎとしてしまうが、何とか返事をした。
瑞希はそのままグランから剣を手渡される。
「じゃあグランこっちの事は任せて良いよな?」
「誰に言ってるんだ? 何の心配もないから安心して行ってこい。ミミカ様には俺達護衛が付いてるからな」
「わははは! 心配無用だな! じゃあちょっくら街まで行って来る! シャオ、チサ、行くぞー!」
「くふふふ。待ちくたびれたのじゃ!」
「……はよいこ」
シャオは瑞希の背中に飛びつき、チサは瑞希と手を繋ぐ。
瑞希達はそのまま窓に足をかけ部屋から飛び降りようとしていた。
この場の高さを知っている貴族達が焦ると同時に強い風が貴族達を撫でると、その場にはもう瑞希達の姿はなかった。
「シャオ、任せる」
「にゃー!」
瑞希の肩に乗る猫姿のシャオが一鳴きすると、瑞希の周りから水を圧縮したレーザーの様な魔法が四方八方に吹き出し、空を飛ぶ大型の魔物を次々に切り裂いていった。
「お前いつの間に……」
「にゃふふふ」
瑞希が以前オーガキングの皮を剥ぐ時に一度だけ見せた使い方を自在に使いこなすシャオを見た瑞希は、呆れながらもその頼もしさに自然と微笑んでしまうのであった――。
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