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ミミカ達の御披露目

 ――瑞希は拍手をしながら、周囲の貴族達を眺めていた。


 オリンが調べた情報によると、アスタルフ家を中心に魔法至上主義の貴族達が、王位継承の御膳立てをしているのは間違いないらしい。

 アスタルフ家の兵士をグラフリー家に派遣していたと言うのはタミユ本人が口を滑らしていたし、従者や料理人がグラフリー家に入り込んでいても何も不思議ではない状況だ。


 ララスとボングが王宮を出た事を、これ幸いと、バングの王位継承を早め、甘い汁を吸おうとしている貴族達は、檀上に上がっているララスを始め、ミミカとカエラ、そしてアンナに向けていやらしい視線と、妬ましい視線を送っている。


「私が変化したと思う方が居られたのであれば、是非一度名家であるテオリス家とウィミル家の領地で生み出された素晴らしい食材、納豆をお試し下さい――」


 にこりと微笑むララスの手には納豆が入った器が掲げられていた。


◇◇◇


 貴族が集められたこの場は王位継承の場と言うより、周辺貴族に次期王としてバングに名乗りを上げさせるのが目的であり、ララスやボング、そして王位を狙う継承権下位の周辺貴族の子息に対する牽制の場であった。


 豪華な食事が立食形式で並んでおり、ララスの指示で納豆も並んでいるが、当然納豆を知らない貴族達は、見た目も貧相な豆が糸を引いているという料理には目もくれず、甘く味付けをされた肉や魚を頬張っていた。


 ララスとボングはグラフリー家として、バング陣営に用意された場所におり、ララスは目の前の料理に見向きもせず、辺りを伺っていた。

 

「ボング、御料理に手を付けては駄目よ?」


「わ、わかっております姉様……」


 自分の好物も目の前にあるのと、サルーシ家での減量食の反動で食指が動きそうになるボングにララスが溜め息を吐きながら声を掛けた。


「事が終わればミズキ様にお肉を使った御料理をお願いしてあげます。貴方の好きなジャル味で作って貰いましょう」


「本当ですか!? 約束ですよ!?」


 二人がわちゃわちゃとじゃれ合っている姿を、貴族達が目で追っていた。

 二人の位置からして、グラフリー家所縁の者だとわかってはいるのだが、中にはララスの姿を見た事がない貴族もいる事と、不細工でひきこもりと有名なララスが、表舞台に立ち、そして美しくなっている事で、噂のララスと結びつかない者達ばかりなのだ。

 誰が先に挨拶に行くかを牽制している中から一人、肥えてはいるが紳士そうな男性がララスに声を掛けた。


「――あら、お久しぶりです。以前大怪我をされた御子息もお元気そうで」


 ララスはそう言いながらにっこりと微笑む。

 挨拶に来た貴族はその言葉でララスだと気付き驚く。

 周囲の貴族は、見慣れぬ女性がララスだと理解すると、たちまち挨拶をするためにララスに列をなした。

 それはカエラやミミカも同様だ。

 カエラは領主をしてる事もあり、顔も広く、位も高い上にその美貌で未婚の貴族達を吸い寄せる。

 ミミカの周りにもテオリス家の令嬢が久しぶりに顔を出したと思えば、可愛らしいく成長しており、若い貴族が集まり注目の的になっていた。


 瑞希とドマルがその状況を尻目に立ち尽くしていると、アンナとジーニャが二人の背中を押した。


「御二人の出番っすよ」


「頑張ってください」


 アンナとジーニャに押し出された二人はたたらを踏みながら、ミミカとカエラの元へと到着する。

 カエラはこれ幸いとドマルと腕を組みながら肩にしな垂れかかり、それを見たミミカは真似しようとするも恥ずかしくなったのか、瑞希の服の袖をきゅっと抓んだ。


「そうそう、紹介するわ! うちの婚約者のドマルはんや!」


 カエラの言葉に貴族達がざわめきながらも、ドマルを睨みつける。

 ミミカもカエラに続く。


「こ、この方は、わた、私のこ、婚約者のミズキ様……でしゅ……」


 すると瑞希も若い貴族達に睨まれる様に視線を向けられる。

 ドマルが涼しい顔を作りながらも、内心冷や汗を掻いている中、カエラが言葉を続ける。


「今日うち等が持ってきた手土産もあそこに置いたあるから、良かったら食べてみてや? ドマルはんが仕入れた食材をミミカちゃん所のミズキはんが作り方を考えたんやけど、これがまた美味いねん」


 カエラが指差す場所には、納豆が入った器と、クラッカーにチーズを乗せた単純な物が並べられている。


「トーチャを使った料理は、うちの名産のジャルで味付けしてあるからな。普段は外に出さへんにゃけど今回は特別や。なんせうちに素敵な旦那様が出来たんやからな」


 カエラの美しくスラリとしたスタイルを惜しげもなくドマルに押し付ける。

 それによりますます貴族達の視線が突き刺さるのだが、ドマルはそれ以上に積極的なカエラの行動にも冷や汗を掻く思いをしていた。


 ミミカもカエラに負けじと瑞希に抱き着こうとするが、一瞬躊躇った隙に瑞希がミミカの頭に手を置いた。


「あほ。お前まで真似する事ないだろ?」


「だ、だって婚約者として……!」


「ミミカの歳で焦らなくても良いんだよ。アリベルも止めてるぞ」


「お姉ちゃんばっかりずるい~!」


「ずるくないでしょ!」


 ミミカはしゃがみ込みアリベルの両頬を掴み伸ばす。

 アリベルはわたわたと抵抗しようとした所で、瑞希が二人の頭に手を置いた。


「二人共こんな所で喧嘩するな。皆が見てるんだぞ?」


 瑞希の言葉にハッと気付いたミミカが、慌てて立ち上がり愛想笑いで誤魔化す。

 だが周囲の注目はアリベルへと向けられていた。


――そちらのお嬢様はミミカ様の妹君でしょうか?


「えっと~……「アリベルは俺の妹だっ!」」


 ミミカがどう応えようか言い淀んでいた所に、ムージが声を荒げる。

 その言葉で周囲の貴族達もアリベルが、あのアリベルだと理解するとざわめきが起こった。

 ムージはそのざわめきの中、ミミカの元迄距離を詰める。


「私の妹ですっ! このドレスだってテオリス家の物なんですからね!」


「ぬぐっ……。だが今はまだ俺の妹だっ!」


「止めろあほ! もう何回目だその言い合い!」


 瑞希は二人の頭に手刀を振り下ろす。

 大した痛みはないが、この周辺では有名なカルトロム家の子息であるムージに加え、テオリス家令嬢のミミカに対する暴力行為に周囲の血の気が引く。


 周囲の貴族におけるムージのイメージは、荒くれ者で感情に身を任せ、己の思うままに突き進んで行くような強さを持った男だ。

 その男に対し瑞希が手刀を振り下ろしたのだから、貴族達はゴクリと唾を飲み込んだ。


「ちっ! 確かにアリベルにこのドレスは似合っているな」


「でしょ? これ昔私が来てたドレスを手直しした物なのよ。アリーがこのドレスを見た時気に入ってくれたのよね~?」


「ね~!」


 アリベルは満面の笑みで先程迄喧嘩していたミミカに同意する。

 こういう光景が二人を本当の姉妹と思わせる要因なのだが、周囲に居る貴族の数名が微笑ましいこの場で歯ぎしりしていた。


 また別の場所ではオリンが貴族の女性に取り囲まれている。


「いえ、私に婚約者はおりませんよ。しいて言えば気になっている女性はいますが……」


 オリンはそう言いながら視線をドレス姿でどこか表情を暗くしたアンナに向ける。


「(さてさてシャオ達は上手くやってくれてるかな……)」


 瑞希はオリンとアンナの気持ちなど露知らず、この場に居ないシャオ達の心配をするのであった――。

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