アンナの姿
――グラフリー城内に到着した瑞希達は、馬車から降り立つと、他の馬車に乗っていた面々と合流する。
瑞希の腰元にへばりつくアリベルと、瑞希の背中に上り唸るシャオ。
アリベルの両頬はミミカとチサに引っ張られていた。
ミミカの側が定位置のジーニャとアンナはその光景を見て瑞希に尋ねた。
「馬車の中で何があったんすか?」
「ミミカ様? アリベル様が何かしたのですか」
「人の旦那様を横取りしようとした悪い子はお仕置きしなくちゃいけないわ!」
「……ミズキの隙に付け込んだ罰や」
「いひゃいー!」
溜め息を吐く瑞希がミミカに代わり、二人に説明をする。
「アリベルちゃん大胆っすね!」
ジーニャの言葉に引っ張られていた両頬を押さえながら、アリベル泣きべそかいていた。
「アリーは悪くないもん……」
「ミズキに負担を押し付けるのは約束とは言わんのじゃ!」
「あーもう、それぐらいで勘弁してやれって。それに今は王宮に到着したんだから気を引き締めろ。それに、俺はシャオを頼りにしてるんだからな?」
「くふふ。仕方ないの~! まぁわしはミズキに頼られる存在じゃからな!」
瑞希はシャオの扱いを心得ている。
腰元にへばりついているアリベルはそっちのけで、シャオは瑞希の思惑通り得意気な表情に変わる。
「はい。じゃあこの話はこれでおしまい。アンナ、ミミカを任せても良いか?」
「承りました。ララス様の執事様が案内に来られておりますので、私達も付いて行きましょう」
ララスは顔を隠す衣装を纏い、バージとは距離を空けていた。
ララスの付き人としてフィロとリルドが側に居るのだが、リルドの雇い主であるバージがこっそりとリルドにララスの御機嫌を伺ったが、リルドはじっとバージの顔を見てからふいっと顔を逸らした。
後ろではフィロがにやついているのだが、リルドの反応を見てショックを受けたバージはフィロの表情には気付かない。
そうこうしている内に王宮の執事や使用人達に案内される瑞希達や、瑞希達同様に招待を受けた周辺貴族達は王宮の広い部屋に案内された。
貴族の装いへと着替えるために、貴族毎に個室を用意されているため、瑞希はテオリス家に用意された部屋へと訪れていた。
「用意はしてきたけど、本当に着る事になるとはな……」
「くふふふ。よく似合っておるのじゃ」
正装姿の瑞希を見るのはこれで二度目だが、シャオは普段見ている普段着や冒険者の服装とは違った正装姿の瑞希も気に入っている。
「……変やない?」
かくいうシャオとチサも、以前瑞希がアーモフ商会で購入したドレスを身に纏っているため、お互い余所行きの格好に気恥ずかしさが生まれていた。
「二人共似合ってるから安心しろ」
「お兄ちゃん! アリーは!?」
「私はどうですかっ!? ほら、アンナも隠れてないで早く出て来たら?」
「わた、私は、ミミカ様の護衛ですよ!? 軽鎧で良いですよ!」
ミミカは以前のドレスとは違い薄い黄緑色のドレスを着ており、代わりアリベルが赤色のドレスを着ている。
そんな二人の後ろで仕切りに隠れているのはアンナだ。
「それはグランがやるって言って聞かなかったでしょ!? どっちかがクルシュ家として参席するんだから観念しなさい!」
ミミカによって引っ張り出されたアンナは普段の様相とは違い、両肩を露わにし、アンナのスラリとした体のラインをすっきりと見せる青色のドレスを着ていた。
緊急事態とはいえ、出会いの場で魔法をかけるためアンナの上半身を見た事はあるが、普段から肌を見せる様な服を着ないアンナの姿に、ギャップを感じた瑞希はドキリとしてしまう。
「おぉ~……」
「へ、変ですよね!? 似合ってませんよね!? 女のくせに筋肉もありますしっ!」
アンナは露わになっている両肩を隠そうと縮こまるが、ミミカに阻止される。
「変じゃないから自信を持ちなさい! 大体アンナは普段から男っぽい恰好ばかりしてるんだから偶には良いじゃない?」
「……恥ずかしがる必要ないやん?」
「中々似合っておるのじゃ!」
「本当によく似合ってるぞ? グランに見せたらミミカよりアンナの護衛をしそうだな」
「どういう意味ですかミズキ様!?」
ぷりぷりと怒るミミカに瑞希は、妹を守るためだと弁明するが、アンナは瑞希の言葉に鼓動を早める。
着付けをしたジーニャは口に手を当てながらアンナに話しかけた。
「ぷくく。似合ってるっすよアンナ」
「う、うぅぅ……」
「どうせならミズキさんに髪の毛をやって貰うのはどうっすか? 髪用の油もあるし、ミズキさんなら魔法を使ってやってくれるっすよ?」
「で、でも、恥ずかしくて近寄れ……「ミズキさぁん! アンナの髪形もやって欲しいっす!」
「な、何を勝手に……「どんな髪形にする~? アンナは最近髪の毛を伸ばしてるみたいだし――」
近づいて来る瑞希にアンナは固まってしまう。
「アンナはさらっとした髪の毛してるし、偶にはふわっとうねらせてみるか?」
「お、お任せしますっ!」
「じゃあちょっと魔法を使って……」
瑞希がアンナの髪を手に取ると、アンナは緊張のためビクッと体を跳ねさせる。
「わははは! 緊張しなくて大丈夫だって」
「ひゃいっ!」
「熱かったら言ってくれよ?」
瑞希はアンナの髪の毛をある程度掴み、二本の束に分け、くるくるとねじり束ねていく。
次に、ヘアアイロンをイメージしながら束ねた髪の毛を挟む様に熱を当てていく。
「あ、温かいです」
「本当は熱い鉄板みたいので髪を熱するんだけどな。魔法で手にその熱を持たせてるんだけど、俺自身は熱さを感じないからいまいち勝手が違うんだよ」
何度か同じ様に全体的に癖を付けると、魔法を解除し、アンナの髪の毛のねじりを解く。
するとアンナの髪の毛はゆるくパーマが当たった様にふわふわとしていた。
瑞希は鬢付け油の様な甘い香りのする油を手に付けると、薄く掌に伸ばし、アンナの髪の毛にくしゅくしゅと付けていく。
「前髪は開けてる方が良いよな? 真ん中で分け目を付けたら完成。どうだ?」
「可愛い~!」
アンナが感想を述べるよりも先にミミカが絶賛する。
「シャオの髪の毛は真っすぐで長いから、あんまりこういう髪型は作らないんだけど、アンナぐらいの長さだと、髪の毛を束ねなくても良いからこういうのも有りだろ?」
アンナはジーニャに姿見を指差され、恐る恐る鏡を覗き込むと、普段の髪型とは違う緩く癖の付いた髪型と、自身のドレス姿に見惚れてしまう。
「ぷくく。気に入ったみたいっすね?」
「うん……」
アンナはジーニャの質問に、目線は鏡の自分と合わせたまま、素直に頷いた。
「そりゃ良かった。じゃあ次は誰のを――」
瑞希はそう言いながら瑞希に髪をセットして貰いたい少女達の相手をしていく。
最後に侍女であるため、ドレスは着ていないが、折角なのでジーニャの髪をセットし終えると同時に、部屋のからノック音が響く。
「ミーちゃん! ララちゃんの髪型も作ってくれない? あの子の癖っ毛をそのまま束ねるより、ミーちゃんに真っすぐにして貰いたいのよ」
テオリス家の個室を開け、上半身だけ覗き込みながらフィロが瑞希に声を掛けた。
「ドレスは大丈夫だったか?」
「それが、以前の自分に合わせたドレスだと大きさが合わなかったみたいよ? ドマルの持って来たドレスが丁度似合ってたから良かったわ」
フィロは瑞希にウィンクをしながらそう返答する。
「そりゃ嬉しい悲鳴だな? なら髪型はフィロの思う様に作ってみようか。ドマルの持ってきたあれは付けてみたのか?」
「勿論よ! ララちゃんのお腹も引っ込んじゃったわ」
「それならバージに見せるのも楽しみだな」
瑞希はにやりと笑うと、サルーシ家でララスに言われた話を思い出すのであった――。
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