オムレツとスクランブルエッグ
ひとしきり大笑いした所で瑞希は軽食を完成させていく。
「じゃあ先に、皆で軽食のサンドイッチを作ろうか!」
「さんどいっちですか?」
「お父さんは仕事をしながら食べるんだろ?」
「軽食を食べてる所を見た事がありませんのでわかりませんが、そんな料理あるんですか?」
「この料理はその昔、どっかの偉いさんが、カードゲームが大好きだけど、食事をするのがめんどくさいって言って、カードゲームをやりながら食べれるように作られた物なんだ!」
「では、父も仕事をしながらでも食べれるかもしれないと?」
「そう! それに、今から作るのは軽食向きだし、自由度が高い料理なんだよ!」
「自由度ですか?」
「パンに挟めば何でもサンドイッチになるんだよ! まずはパンを切り分けてバターを塗る」
瑞希に続き、同じようにシャオとミミカがバターを塗る。
「シャオはさっき剥いた茹で卵を潰して、マヨネーズと胡椒を加えて混ぜてくれ」
「わかったのじゃ!」
「ミミカはバターを塗ったパンに、薄くマヨネーズを塗って、キャム、スライスしたポムの実、チーズを乗せてくれ」
「わかりました!」
「俺は……バターを塗ったパンにチキンカツを乗せて、ポムソースをカツに塗る……。シャオも混ぜ合わせた卵をパンに挟んで、あとはひたすら同じのを何個も作っていく」
三人は各々が担当した食材のサンドイッチを黙々と作っていく。
「後はサンドイッチの上に皿を乗せて、馴染ませておいたら完成だ!」
「ひい、ふう、みい……なんで九個ずつ作ったのじゃ? キーリスに向かうのは六人じゃろ?」
「タバスさん、テミルさん、後は八百屋のお姉さんの分だよ」
瑞希は先程の御婦人との約束をしっかり果たそうとしていた。
「お姉さんって誰ですか!?」
「ん? 八百屋の人だよ?」
「そ、その方はミズキ様がわざわざ料理を作ってあげるぐらいの間柄なのでしょうか!?」
「どうだろう? でも俺にすごい良くしてくれてるな!」
「(良くしてくれてるって何をっ!?)」
ミミカは見た事もない綺麗なお姉さんを想像しながら、自分のライバルが現れた事に戦慄していた。
「良かったら後で籠を返しに行くから一緒に着いてくるか?」
「ミズキ様と二人でお出かけですか!?」
「シャオはどうする?」
ミミカは断れ~という念を送るが残念ながらシャオにはそんな念が効くこともなく二つ返事で承諾したのであった。
ガックリと項垂れるミミカにシャオはポンと肩に手を置くと……。
「残念じゃったのう……小娘?」
シャオはここぞとばかりにミミカを煽っていった。
「くうぅ! シャオちゃんの意地悪っ!」
涙目でシャオに抗議するが、シャオは知らん顔をして瑞希の側に歩いて行った。
「大丈夫か? とりあえず軽食も作り終わったし、朝食を作って行こうと思うんだが……」
「なんでもありません! さぁ作りましょう!」
「お、おぉ……」
瑞希は素早くパルマンを薄切りにして、鍋にバターをいれ軽く炒めると、そこに鶏ガラスープを入れて味を調えた。
「オニオンスープはこれで完成っと……じゃあ朝食のメインはオムレツを作ります!」
瑞希はそう言うと、ボウルと卵を用意して二人の前に置く。
「卵の割り方は、コンコンと罅を入れて、そこに両手の親指を突っ込んだら、パカッと開くと……こんな感じで割れる」
二人がコンコンと台に卵をぶつけると、シャオは綺麗にパカッと割り、ミミカはぐしゃっと潰してしまう。
「なんで~……」
「力を入れすぎなんだよ……」
瑞希はミミカの手に自身の手を重ねると、力加減はこれぐらいと分からせるように優しく握る。
ミミカは急に手を繋がれたため心臓が飛び跳ねそうになったが何とか平常心を保ち、プルプルと緊張したのが功をなしたのか、二個目の卵は綺麗に割れた。
「できたな! それぐらいの力加減で良いんだぞ」
「ひゃいっ! わ、わかりましたっ!」
「そしたら卵を二個割ったボウルにモーム乳と塩、胡椒を入れてかき混ぜる。この時に白身を切る様にしてかき混ぜる事」
瑞希達は菜箸がないためフォークでシャカシャカとかき混ぜている。
瑞希はシャオに頼み、竃の中を中火で維持してもらう。
「後は鉄鍋にバターを入れて、鉄鍋が十分に温まったら卵を入れてかき混ぜて……ほいっと! こんな感じに丸めると完成だ!」
瑞希は器用に鉄鍋を返すと、綺麗に焼かれたオムレツを皿に盛り付けた。
「こ……これは、絶対に無理だ……」
「確かにオムレツは基本だし、突き詰めたら奥が深い卵料理なんだけど、最初は誰でも失敗するんだよ。最初から諦めちゃ駄目だ」
「要は混ぜてひっくり返せば良いんじゃな?」
「まぁそうだけど……まさか……」
シャオは鉄鍋にバターを溶かし卵を入れると、風魔法でかき混ぜ、するんと綺麗にひっくり返し、瑞希が焼いたような見た目のオムレツを作り上げた。
「どんなもんじゃ!」
「そのやり方はお前にしかできねぇよ……」
「じゃ、じゃあ私もやってみます……」
ミミカも負けじと同じ要領で卵を入れたまでは良かったが、卵を木べらで混ぜている内にボロボロと崩れていってしまったのだ。
「はいストップ!」
「失敗しました……」
ミミカは肩を落として落ち込んでいると、瑞希が思いがけない言葉をかける。
「これでスクランブルエッグの完成だな」
「……え? こんな料理があるんですか?」
「正確にはもう少しトロッと半熟に作るんだけど、こういう料理もあるんだよ。オムレツとして出したら失敗だけど、スクランブルエッグなら成功だな。これは俺が食べるよ」
「そんな! 私が食べます!」
「良いの! 教え子が失敗するのは仕方がないし、その尻ぬぐいをするのは師匠の仕事だ。俺もそうやって料理を教えて貰ったんだよ」
瑞希はゆったりと優しい笑顔でミミカに微笑みかけた。
「それにミミカには師匠である俺のオムレツを食べて貰わなくちゃならないしな!」
そう言うと瑞希は素早く人数分のオムレツを作り上げてしまった。
「わしもミズキのおむれつが食べたいのじゃ!」
「えぇ? だってシャオのオムレツは綺麗に出来てるじゃねぇか?」
「師匠は弟子の物を食べるのも必要じゃろ?」
「ならそれはドマルに食べさせよう……」
「わしはミズキに食べて欲しいのじゃっ!」
「わかったよ……ならシャオのも作ってやるからちょっと待ってろ……ほら出来たぞ!」
それは瑞希が調理器具に慣れたのか、シャオのために作ったからかは定かではないが、瑞希の作ったオムレツの中で一際綺麗に焼きあがっていた。
「これはわしのおむれつじゃからな!」
シャオは嬉しそうに焼きあがったばかりのオムレツを確保する。
「誰もとらねぇよ。後はオムレツにポムソースをかけて、パンとサラダとスープを盛り付けたら完成だ。ミミカはテミルさん達を起こして来てくれ」
「わかりました!」
ミミカはそう言うと厨房を出ていき、二階への階段を昇って行った。
「朝から卵四個か……」
瑞希はミミカのスクランブルエッグとシャオのオムレツを前に、食べる前から胃が重たくなるのであった――。