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砂糖の魔力

 カルトロム家が他の貴族家と繋がれる強みはブルガーの育成にある。

 ヴォグを始め、ブルガーはマンバという野菜を好み、そのマンバという野菜はサルーシ家が利権を持っているため、昔からカルトロム家とサルーシ家持ちつ持たれつ、領地が重なっているにも関わらず手を取り合って領地経営を上手くやっていた。

 そのブルガーも、育てる事が特段難しいという訳ではないが、カルトロム家で育ったブルガーは一際大きく成長する上に、忠義心も強いため、一度心を許した主人には終生その絆を大事にする。


 当主夫妻が待つ部屋の前には、見張りの兵士と共に、ヴォグよりも少し大きなブルガーが鎮座していた。

 その顔はどこかうんざりしたような雰囲気を醸し出していた。


「……ヴォグよりおっきい!」


 ブルガーが大好きなチサは興奮しながら、そのブルガーに近付こうとするが、直ぐに瑞希に止められた。


「こら。さっきも仕事中のブルガーを触ってヴォグに怒られただろ?」


「……そう言いながらミズキも実は触りたいんやろ?」


 そう。

 瑞希とてもふもふとした動物は大好きなのだが、建前上大人の対応をしていただけに過ぎない。


「わははは! ばれたか」


「ミズキにはわしがおるのじゃ! わしを存分と愛でれば良いのじゃ!」


「誤解を生む様な事を言うな! 俺は単純にもふもふした動物が好きなだけだ!」


 美少女であり、妹と紹介している人の姿をしたシャオが自分を存分に愛でろと言えば、当然誤解も生まれる。

 バージでさえシャオの言い分を聞き、若干引いていた。


「ミズキ……女なら紹介するぞ?」


「余計なお世話だっ! ほら勘違いされてるじゃねぇか!」


「最近わしを甘やかさんミズキが悪いのじゃっ!」


 部屋の前で緊迫感なくお互いの頬を引っ張り合う兄妹の前に、大きなブルガーが二人の間に鼻を差し込み匂いを嗅ぐ。

 そのブルガーは瑞希とシャオから何か感じ取ったのか、大きく尻尾を振り始め瑞希の顔に自身の顔を押し付けた。


「……ミズキばっかりずるい!」


「わははは! 可愛い奴め!」


「うぬぬぬ! さっさとミズキから離れるのじゃ!」


 引き離そうとするシャオの顔にもブルガーは顔を押し付け、先程迄の表情とは打って変わって、穏やかな表情だ。


「……うちも触る!」


 ブルガーの体躯に埋もれていたシャオと共にチサも埋もれている中、瑞希はブルガーの頭を撫でていた。


「ヴォグが懐いてたのも不思議だったけど、ルフがここ迄心を許すってのも変な感じだな」


「瑞希達にはヴォグが家族以外に腹を見せたぐらいだからな。別に不思議じゃない」


 二匹を良く知るバージとムージが、三人に懐いてるルフを見ながら感想を述べている。


「そっかそっか、お前の名前はルフか。ルフ、今からお前の御主人を元に戻すからな。ここを通してくれるか?」


「ばふっ!」


 ルフは一鳴き返事をすると、瑞希の背中に回り込み、鼻先で瑞希の背中を押している。


「……もうちょっと触りたかった」


「全身毛だらけなのじゃ……」


 名残を惜しむチサと、動物に好かれる事が内心嬉しいシャオは、瑞希の後に付いて扉をくぐる。


「誰だ?」


 部屋に入るとバージ達兄弟と同じ様な背丈の男と、対照的に小柄で少しふくよかな婦人が砂糖菓子を食べながら茶を啜っていた。


「俺達だよ。親父達はまた砂糖菓子を食ってんのかよ?」


「あれだけ俺は止めておけと釘を差しといただろうが?」


 バージは軽く、ムージは苛立ちながら返答する。


「王宮の魔法使い様達が砂糖をしっかりと食べると魔法を使える様になると言ってたからな! お前等こそ砂糖を食べて早く魔法を使える様になれ!」


「あのなぁ……、砂糖なら昔から食ってるし、今更そんな事で魔法が使える訳ないだろ? 王宮の魔法使いに誑かされてるんだって」


「王たるバング様とて、砂糖で魔力が増えると言っていただろう? それに聖女であるララス様も砂糖菓子を好むと云うのは知っているだろう!」


「そのバング様と言うのを止めろって言ってるだろうが! 親父達を変えたのはあいつなんだぞ!?」


 飛び掛かりそうになるムージをオリンが羽交い絞めにして抑え込む。

 そんなバージの姿を見た夫人は鼻で笑う。


「魔法の才能に恵まれぬ子を宿した事を今更ですが王家に対して申し訳なく思いますね……。魔法さえ使えればこんな獰猛な獣の様な息子には成らなかったでしょうに……」


 夫人は溜め息を吐きながら、我が子を乏しめる発言をした。

 事前に聞いてはいたが、我が子にさえ辛辣な言葉を投げかける当主夫妻の姿を見た瑞希は苛立ちを感じていた。


 唸るバージに注目を集めている中、瑞希はバージにこっそりと話しかけた。


「バージ、昔からこうだったって訳じゃないんだよな?」


「当たり前だろ……。親父もおふくろも芯の通った人間だ。その両親に育てられた事を誇りに思ってるし、魔法の事でとやかく言われた事もねぇよ」


「ならさっさと納豆を食べさせよう。効くかどうかはわからないけど、戻せるならさっさと戻してあげたい。さっきから親父さんもおふくろさんも言葉とは裏腹に体が抗っている様に見えるんだ」


 瑞希がそう言う理由は婦人の指先だ。

 顔ではうんざりした表情をしながらも、膝に置いている手の指先は力が入っているのか、膝に食い込んでいた。


「やっぱりあれはそうなんだよな……。ならすんなり食わせるためにもちょっと一芝居打つか……」


 バージは、怒り狂うムージの肩を叩き下がらせると、以前にも見たバージらしい軽い口調で当主夫妻に話しかけた。


「話は変わるんだけどよ、魔法使いが大好きな親父達に紹介したい友人がいるんだよ」


「ほう? それはムージの後ろにいる者達か?」


「そうそう。こいつらはテオリス家に仕える魔法使いでな? こっちのミズキがお近づきの印にって珍味を持って来てくれたんだよ」


「おぉ! あの魔法嫌いで有名なバラン殿が認めた魔法使いだと!? どんな魔法が使えるんだ? 火か風か?」


「ミズキ、証拠を見せてやってくれ」


 瑞希は魔法を使おうとシャオと手を繋ごうとしたが、その前にシャオが火球や氷柱を空中に浮かべ、歓喜の表情が二人から生まれる瞬間、夫人の頬を掠るように一陣の風が巻き起こり、奥にある壁に亀裂が走る。


「シャオっ!?」


「くふふふ。ミズキとチサの前で子を馬鹿にする発言は頂けんのじゃ」


「だからってお前……」


「恐れも怒りも無いようじゃがな」


 シャオが二人を指差すと、二人は拍手をしながら立ち上がる。

 だが、夫人の手はわずかに震えている。


「まさか様々な魔法を無詠唱で出現させるとはな!」


「こんなに幼くして、ここまで才能があるなんて……」


 どうやら魔法に対しては何処までも肯定的に捉える様だ。

 瑞希はシャオの手を握りながら夫妻に近づいて行くが、二人はその場から離れる事もなく瑞希達を懐まで迎え入れた。


「妹が驚かせてすみませんでした」


 瑞希が夫人の頬に手を近づけ、回復魔法を使用すると、益々二人は関心した。


「荒っぽくなってしまいましたが、信じて頂けましたか?」 


「素晴らしい使い手ではないか! 愚息に魔法使いの友人がいるとは私も鼻が高いぞ!」


「バージは……いえ、先程もバージが言ってた様に、珍味があるのですが、一度食べて頂けませんか? 私が普段から食べている物で、先日ララス様にもお気に入り頂けた品です」


 納豆の味見をした本日の朝食で、瑞希は納豆をララスの献立に組み込んだ。

 ララスが瑞希の料理を否定する訳もなく、納豆の匂いも気にならなかったので、食べ方の説明を受け、一口啜るとその味が舌に合った様で、珍しくお代わりという言葉が口から出てしまい顔を赤らめていた。


「魔法使い達が普段から食べているとなると食べてみたいな。直ぐに用意は出来るか?」


「お任せ下さい。直ぐにお持ちします」


 瑞希はバージと共に願いを込めつつ、夫妻に食べさせる納豆を用意し始めるのであった――。

 

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