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食材の使い方

 ――納豆作りを終えた瑞希は、シャオの要望に応え、シャオとアリベルが纏めたミンチ肉を串に刺していた。


「えへへ~。砂遊びみたいだね~?」


 楽しそうなアリベルとは対象に、ハンバーグではない事を察したシャオは肩を落としていた。


「はんばーぐじゃないのじゃ……」


「ララスさんの食事の献立も兼ねてるからな。でもこれもシャオは絶対好きだぞ?」


「ならたくさん食べたいのじゃ!」


「わかってるって。チサ、出汁の用意は出来たか?」


「……マク(昆布)メース(かつおぶし)って二回出汁とってもええの?」


「今回澄まし汁じゃないしな。香りは一番出汁のが良いから、それはペムイに使って、二番出汁は汁物に使うんだ。汁の具はキャム(レタス/きゃべつ)シャマン(ねぎ)の野菜にしよう」


 瑞希の言う一番出汁と二番出汁との違いは出汁の取り方の違いだ。

 一番出汁は鰹出汁を取る際にそれ程時間をかけず、湯から食材を取り出し、鮮やかな香りと瞬間的な旨味を取り出すのに対し、二番出汁はその出し殻をゆっくり加熱し、旨味をじっくりと取り出す。


「そうそう。そうやって二番出汁は取り出したマクとメースを絞っても構わないからな」


 チサは布を丸めてぎゅっと出汁を絞り出していく。


「何故いつもは一番出汁を汁物に使っておったのじゃ?」


「和食の出汁はそのまま飲んだり茶碗蒸しにしたりすると雑味が邪魔なんだよ。でも今日はアレがあるから、汁の濁りも気にならないし、旨味も多い方が楽しめるんだ」


「……むぅ……ミズキの食材の使い方に無駄がない」


「家庭料理ならそこまで出汁は気にしないけどな。でも今日は人に食べさせる料理だし、チサの勉強も兼ねてるからな」


 チサが用意していた食材を聞き、瑞希は同じ食材で別の料理を作っている。


「……やっぱり鶏の胸肉をそのまま焼くのはあかんの?」


「いけないって訳じゃないけど、ララスさんの好みを考えてあげるのも料理人の仕事だ。とはいえ急な言いつけをきちんと守って料理を作れてたチサは充分凄いんだぞ?」


 瑞希はチサの頭に手を伸ばし撫でながら褒め、チサは俯きながらも顔がにやけていた。


「鶏の胸肉に目を付けたのも偉いけど、そのまま焼いても固いだろ? 固い肉を食べやすくするなら?」


「……そっか! みんちにする!」


「正解! だから今日はハンバーグの鶏肉版とも言えるつくねを作ったんだ」


「つくね? それはパサパサしてないのじゃ?」


「おいおい、シャオとチサは似た様なのをもう食べた事あるだろ?」


 瑞希の問いかけに二人は頭を捻り、ある料理を思いついたのか声を合わせて答える。


「「ちゃんこ鍋 (なのじゃ)!」


「その通り! 鶏団子と似た様な物だけど、今回はパルマン(玉ねぎ)とかケルの根(ショウガ)を使う。それに繋ぎは片栗粉と卵の白身を入れてふわふわにしたんだ」


「でも何故、黄身は使わんのじゃ? 勿体ないのじゃ」


 小皿に分けられた卵の黄身を見ながらシャオが問いかける。


「黄身はつなぎより良い使い方があるからな。それにミミカの菓子作りでも黄身は余るしな」


 ミミカは菓子作りの為のメレンゲを一生懸命に作っている。


「本当にミミカはビーターの使い方が上手くなったな! みるみる内にメレンゲになってるぞ」


「お姉ちゃん頑張れ~!」


 つくねを丸めながらも、アリベルは笑顔でミミカの応援をする。


「は、はいぃ! でもこれはミズキ様の魔法でささっと作れるんじゃ……」


「勿論手伝うけど、ミミカも自力で作っといた方が良いだろ? それにこうやって何回も同じ作業をする事で無駄な力はどんどん使わなくなるしな。ミミカも最初に比べて余計な疲れは少なくなってるんじゃないか?」


「そう言われれば……」


「ホイップクリームで鍛えた甲斐があったな?」


「もうっ! ミズキ様っ!」


 ミミカはビーターから手を離して、拳を振り上げる。

 その調理場の光景を嬉しそうに見ているのはジーニャとアンナだ。


「なんか懐かしく感じるっすね」


「テオリス城ではないからミミカ様も気を張ってお疲れだったのにな」


「ぷくく。アンナも訓練に身が入ってなかったすもんね~?」


「それはお前もだろうがっ! 訓練の度にいつ帰って来るかしつこくぼやいてた癖に!」


「う、五月蠅いっすね! 心配だったんすよ!」


「ほう~? それは何の心配だ?」


「むぅぅ~! アンナが言い返す様になったっす!」


「私だって日々成長しているからな」


 アンナは胸を張り応える。


「胸はリルドに負けてるっすけどね?」


 そしてジーニャがその張られた胸を指差しながら、悪戯顔でにやついてる。


「余計なお世話だっ!」


「わわわっ! お嬢~! アンナがお腹を空かせて怒ったっす!」

 

 ジーニャが、掴みかかろうとするアンナの手を押さえながら力比べの様な体勢になってるのを見た瑞希が笑い出した。


「わははは! 懐かしい光景だな」


「「ミズキ殿 (さん)が言う台詞じゃないぞ(っす)!」」


 瑞希は笑いながらも調理を続けていく。

 湯に溶かしたスライム寒天に砂糖を加え、さらにミミカが作り上げたメレンゲにゆっくりと加えながら混ぜ合わせ、少し深みのあるバットに流し込んでいく。


「後はこれを冷やしたら完成だ。ミミカ、氷は出せるよな?」


「お任せくださいっ!」


 苦手な分野の魔法だが、ミミカは静かに詠唱をして水を浮かべた一回り大きなバットに魔法を作り上げた氷を浮かべていく。

 瑞希はその中に菓子の液が入ったバットを浮かべ、冷やしていく。


「……スライムを使てるからかトロトロしてるんや?」


「冷やして固めたらもっと面白くなるぞ。これは俺の故郷の古くからある和菓子なんだ」


「……これ和菓子なん!? 餡子使てないのに!」


「和菓子でも色々あるからな。勿論同じ様な洋菓子もあるぞ? 結局料理をする人が工夫を凝らすと同じ食材でも違う料理になるんだよ」


「ミズキ、全部まとめ終わったのじゃ!」


「はいよ。なら焼いていこうか! シャオ、火を頼む」


「くふふふ! 任せるのじゃ! 最適な火加減にしてやるのじゃ!」


 瑞希は串に刺した鶏ミンチをシャオの魔法で焼き上げていく。

 そして火が通った所で、別に用意しておいたタレを付け、少し炙ってから再度タレに付けて焼き上げる。

 辺りにはタレが焦げた香ばしい香りが広がっていく。


「味見が必要なのじゃっ!」


「涎を垂らしながら味見と言われても信用ならんのだが……。まぁ我慢させてたからな、はいあ~ん」


「あ~んなのじゃ」


 大きを開けたシャオの口に瑞希は串焼きを少し冷ましてから口に入れる。

 カリッと焼けたタレの香ばしさと、表面の肉肉しい硬さとは裏腹に、中の肉はじっくりと火を通された事と、つなぎを入れた事でふわふわとした食感になっている。

 肉の味に飢えていた筈のシャオは、鶏の胸肉で作り上げたつみれ串でも満足云ったのか、すぐさま二本目を要求する。


「美味いのじゃっ! はんばーぐではないが、これも美味いのじゃ! もう一本欲しいのじゃ!」


「タレ自体は何度も作ってるけど、つくねにも合うだろ? シャオは毎回言うけど駄目。もうすぐ晩飯も出来上がるからそれまで我慢我慢! いっぱい焼いてやるからさ」


 瑞希がシャオへの説得をしていると、他の面々から非難の声が上がる。


「……シャオだけずるい」


「お兄ちゃんアリーもぉ!」


「私も食べたいですよ~……」


「ミズキさんうちも食べたいっす!」


「わ、私も食べたいですっ!」


「わははは! これもいつもの光景だな。味見なんだから一本ずつな? 後は晩飯の分だ」


 瑞希に手渡されたつくね串を各々が幸せそうに頬張っている。

 瑞希はその光景に懐かしさを感じ、再び顔が綻んでしまう。


 味見を終えたチサが本日の献立に対し質問をする。


「……どれも砂糖使ってるけどええの?」


「チサの献立を聞いた時に、砂糖を怖がってる様に思ったからな。このつくねにも、こっちの副菜にも、勿論菓子にも使ってるけど、一回一回の食事で守る必要はないんだ。今日の夕食は一週間頑張ったララスさんのお祝いにもしたいし、ボングだってつくねは好きそうだろ? それに今日の夕食で砂糖を多く感じたなら、明日の夕食に砂糖を使わないって事でも良いんだよ。大事なのは目標の期間に合わせて献立を作る事だ」


「……むぅ……うちは頑張り過ぎたん?」


「頑張り過ぎ……ん~難しいな。大事なのは食べる相手が楽しめる事かな。ララスさんはチサの食事を美味しそうに食べてたか?」


「……時々我慢してたように感じる」


「チサはチサの出来る知識で食事制限の料理を作った。それは凄い事だし、俺も褒めただろ? それに、俺が作るとしても毎日菓子を出す訳じゃないしな。でも今日はその代わりペムイには細工してるだろ?」


「……うん。あれはどういう意味があんの?」


「ペムイの量を減らす為のかさましだな。でもちゃんと美味しいってのは保証するぞ?」


「……にへへへ! 楽しみ!」


「さぁ、じゃあ汁物を完成させて食事にしようかっ!」


 瑞希はそう言いながら壺に入った調味料を取り出し、汁物を完成させていくのであった――。

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