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慣れない和食の物足りなさ

 チサが作り上げた朝食の献立は自身の好みと、瑞希に砂糖はあまり使わない様にと言づけられているため純和食に仕上げた。

 綺麗に炊き上げたペムイ、マク(昆布)メース(かつお節)で出汁を取り、葉野菜やデエゴ(大根)を入れたスープ、炭火で焼いた魚、そしてチサ御自慢の糠漬けである。


 サルーシ城に戻ったカエラとミミカを始めとした一行に加え、ララスとボングもサルーシ城で寝泊まりをする事に話し合いで決まった。


 理由はいくつかあるが、バングを始めとする王宮に出入りする貴族が操られているという可能性があるならば、ララスとボングの安全確保が第一と決まった。

 ムージは両親を連れカルトロム家に一旦戻り、サルーシ家はララスを交えグラフリー家の事を話し合っている。


 チサは出来上がった食事を食卓の場へ運ぶ様にサルーシ家の使用人にお願いをする。

 サルーシ家の朝食は卵を使った料理で、中にマンバ(バナナ)を入れており、それに鶏肉の入ったスープとパンが添えられていた。

 オリンがマンバを好む理由としては、それがこの地域の慣れ親しんだ味なのだろうとチサは一人納得をしていた。


 チサが作り上げた朝食はララスは強制的に食べる事になるのだが、カエラは好んでチサの料理を選んでいる。

 そして何故かボング迄ララスに付き合いチサの作り上げた食事を共にしていた。


 サルーシ家の使用人と共にララス達の待つ部屋に到着したチサは、カエラの隣の席に腰を下ろし、手を合わせた。


「おいっ! 何でこっちの食事には肉を使ってないんだ!?」


「……文句言うんやったらあっちの食べたらええやん」


「も、文句ではなく疑問だっ!」


「……肉より魚を食べる方が体にええの」


 チサはボングの言葉を面倒臭そうに答えると、出汁を匙で啜る。


「長居するんやったらうちん所の食器を持って来といたら良かったな」


 普段は箸を使って食事をするカエラが、汁物を匙で啜るチサを見ながら告げた。


「……ミズキ達はすぐ帰るって言ってたし」


「せやなぁ……んふふ、チサちゃんこのぬか漬け前より美味しなってない?」


「……にへへ。毎日きちんと混ぜてるからかな? ミズキは同じ配合でも作る人の手で味が変わるって言うてたけど」


「ほなチサちゃんのお手ては美味しいんやろな」


 カエラは笑ってそう告げると、再び糠漬けを小気味良い音を立てて食す。

 ララスは自身の料理と、向かいに座るミミカの料理と見比べ、ごくりと喉を鳴らした所で、小さく首を振る。


「……あんまり美味しない?」


 チサは心配そうにララスに尋ねるが、ララスは慌てて否定する。


「い、いえっ! そういう訳ではないのですが、こういう食事に慣れてないので……」


「うちの城でもまだペムイよりパンの方が多いわ。うちは好んでペムイを食べる様になったから、朝にペムイ食べる方がしっくりくるけどや」


「……わかる」


 チサはそう言いながらもふもふとペムイを口に目一杯入れ咀嚼する。

 頬袋の様に膨らんだ愛らしい姿をカエラは愛おしそうに眺めている。

 チサは食べたりないのか、ペムイをお代わりする。


「マリジット地方の料理はどれもこれも薄味なのか?」


 咀嚼するのに忙しいチサだが、なんとかボングの質問に答えようと視線をじっと合わせると、気恥ずかしくなったボングがパッと視線を逸らす。

 くすくすと笑いながら代わりにカエラがボングに答えた。


「チサちゃん所みたいに、山の方やと味は濃くなるけど、基本的には薄味やな。砂糖もそないに使わんし、ミーテルみたいに海に近い街は新鮮な魚介をそのまま食うさかいな」


「そのまま……?」


「そう。そのままや。新鮮な魚介は生で、ジャルを付けたら美味いんや!」


 カエラの言葉を聞き、ララスとボングは驚きのまま若干引いている。

 それは山に住むチサも同様だ。


「……うちも食べた事ないわ」


「嘘やん!? 新鮮なエクマとかめっちゃ美味しいでっ!?」


「……エクマは傷みやすいから火を通して食えっておとんが言うてた」


「いや、確かにそやけど! え、ほんなら魚とかも生で食べた事ないん!? ミズキはんに食べさせてもらわんかった!?」


 チサは焦るカエラの言葉に、首を振って否定する。


「……話は聞いたけど、ミズキも川魚は止めとけって言うてた」


「ほらっ! ほらっ! ミズキはんも知ってる食べ方やん!?」


「……ん~……あ、でも手食い鳥の肝臓は生で食べた事あるで? 甘くて美味しかった」


「「「えっ!?」」」


 お次はチサの言葉に三人が驚く。


「あのステーキに乗ってた奴やんな!? あれって生で食べて大丈夫なん!?」


「……ミズキは新鮮な奴なら大丈夫って言うてた。体にもええんやて」


「鳥の内臓を生て……そっちの方が気色悪いやん……」


「……ミズキは食べれへん物を勧めたりせんもん」


「せやなぁ。ミズキはんが食事関係で言う事は間違いないなぁ。ララスはんも慣れへん内はしんどいかもしれんけど、ミズキはんに言われた事はしっかり守ったらきっとええ結果に繋がるて」


「が、頑張りますっ!」


 ララスはそう宣言すると、目の前の食事をゆっくりと食べ始める。

 瑞希がララスに言い残していたのは三つだけだ。


 チサが作った物以外は食べない事。

 食事は良く噛んで、ゆっくりと食べる事。

 空いている時間は無理のない程度にチサと行動を共にする事。


 瑞希もチサに対しては簡単な制限をかけている。


 自分が帰って来る迄はララスの食事はチサが作る事。

 揚げ物は禁止で、砂糖はなるべく使わない様にして、代わりに甘い食材を使う事。

 肉より魚を、そして野菜を多く食べさせる事。


「……(お昼は何作ろかな)」


 制限を掛けられた事で、チサは今まで使った事のある食材を頭に浮かべ、考える。

 元々甘い食材は使っても良いとの事だったので、煮て甘くなるデエゴは朝食のスープにも取り入れた。

 チサが認識している甘い食材と言えばマンバや、マグム等がそれに当るが、ミズキも菓子作りや揚げ物に使っていたぐらいだ。


 唸りながらも食事を終えたチサに、ララスが話しかけた。


「本日も午前はお散歩ですか?」


「……外に出たらあかんから、城内をヴォグと散歩。お昼からは魔法の訓練!」


「きょ、今日もか!?」


「……うちの師匠が居てる時より全然マシやで?」


「魔法使いは魔法を使えるだけで良いではないか!?」


「……それやと強い魔物と戦えへんもん」


 チサが鋼鉄級の冒険者という説明をした時に二人は驚いていたのだが、それよりも魔法使いの在り方に驚いていた。

 二人が認識する魔法使いは前衛に守られる魔法使いだが、チサが一緒に戦った魔法使いはシャオとヒアリーであり、テミルに教えられる時も魔法使いは動ける方が良いという教えであった。


 ミミカも当然テミルに師事している事で、ララスから質問をされた時に、それが普通なのではないかと言われ、ララスは混乱する事となったのだ。


「……御飯も一杯食べたし、今日こそヴォグに勝つ!」


 チサはふんすと、気合を入れるが、ブルガーの中でも優秀なヴォグに勝つ事は当然難しい。

 ミズキやシャオの様に魔法を使えば勝てるのだが、チサにはまだまだ使いこなせないため、ヴォグと駆けっこをしているだけである。

 だが、それでも城の周りをヴォグと共に何周も走り回るチサの姿に二人は凄いと感じるのだ。


「姉様……僕達はゆっくりと散歩にしましょうね……」


「うん……」


 驚きを通り越して、呆れる二人はチサと共に散歩の準備をするのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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