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砂糖の罠

 瑞希は食事の大切さを語る前に、実例として二人の少女を紹介する。


「ここに居るチサとアリベルですが、私と出会った時は痩せており、髪の毛もぼさぼさでしたが、ララスさんから見て二人の見た目はどうですか?」


 ララスは瑞希の言葉を聞き、もぐもぐと咀嚼する二人の少女をじっと見つめる。

 サラサラと艶のある黒い髪の毛に加え、トロンとした垂れ目が可愛らしい。

 一方アリベルはふわふわとした癖のある髪の毛だが、柔らかそうであり、くりくりとした目がこれまた可愛い。

 両方の少女の肌は綺麗で程良い肉付きであり、じっと見つめるララスの事をきょとんとした顔で見つめ返す。


「今でも可愛いですが、成長すればきっと美人になるでしょうね」


「二人の食事全てを私が作ってる訳ではありませんが、テオリス家の料理番の方にはしっかりと知識を教えています。まぁ子供なので少し好き嫌いはしますが、概ね食べて貰えてますね」


「……モロンは苦手」


「アリーも……」


 二人は申し訳なさそうに呟くが、瑞希は微笑みながら言葉を続ける。


「まぁ子供に美味しく食べて貰える様に考えるのも面白いんですよ。二人共ハンバーグとかオムライスに入れたら食べれるもんな?」


「……にへへ。ペムイが在ったら余裕」


「どっちも美味しいもんね~!」


「アリベルももしかしたらグラフリー家の食事を続けていたら健康を害していたかもしれませんし、チサは下手をすればそう遠くない未来に死んでいたかもしれません……」


 ミミカは膝に乗せているアリベルをぎゅっと抱きしめ、チサの頭には瑞希の手が乗っていた。

 二人共信頼している大人に触れ、照れ臭そうにはにかんでいる。


「食事とはそれ程に大事なのですか……?」


「食事は腹を満たすだけの物じゃなく、明日の自分を作り上げる物なんです。どんな食材でも薬にも毒にもなりますし、砂糖なんかはその筆頭にある様な物です」


「先程……私の見た目が想像通りだと言っていたのは……?」


「ララスさんは多分、昔から砂糖菓子を良く食べてるのだと思いますが、砂糖は多量に摂取すると、老化や肌荒れの原因になります」


 瑞希の言葉に心臓を跳ねさせるララスは、思わず自身の顔を触る。


「ララス様は緊張から砂糖菓子に手を付けていましたよね? それは甘味に緊張をほぐすという良い効果もあるからなのですが、甘味は癖になりやすく、その甘さに慣れると、舌や脳が甘味に対し鈍化もしますので、同じ効果を得ようとした時により多く摂取する事になります」


「そ、そんな……砂糖は、砂糖石はこの地域を支えている物なのです! い、今更そんなに害があると分かると……」


 ララスは震えながら瑞希に告げるが、瑞希は笑いながら返答する。


「今のは悪い例ですよ。私の妹達も甘い菓子は好きですし、ミミカだって一時は毎日の様に私が教えた料理を作ってましたしね」


「ミ、ミズキ様!? 知っていたのですか!?」


 ミミカは瑞希の言葉に慌てふためく。


「いくら何でもホイップクリームを作る手さばきが慣れ過ぎてたからな。でも、ちゃんと太らない程度に食べるなら別に構わないさ」


「うぅ~恥ずかしいぃ……」


 ミミカは赤面しながら、抱きしめるアリベルの頭に顔を埋める。


「ミズキが毎日どーなつを作ってくれんのはそういう事じゃったのか?」


「いや、それは単純に面倒臭いだけなんだけど……」


「面倒臭いとはなんじゃっ! なら毎日作って欲しいのじゃっ!」


 瑞希はシャオの願望に腕で大きく×を作り答える。


「駄目ぇ~。それに色んなお菓子を食べるのも楽しいだろ?」


「それは……確かにそうなのじゃが……そうなのじゃがぁ!」


 シャオは大好物のドーナツを毎日食べる事と、まだ食べた事のない未知の菓子で揺れ動く。


「シャオにおやつは作るけど、毎日同じ物は駄目だ。それにペムイを使ったお菓子とか、まだまだ作ってないのもあるんだぞ?」


「……団子じゃないん?」


「団子じゃなくてお菓子だな。またその内作るさ」


「……ペムイを使ったお菓子は楽しみ!」


 瑞希達の内輪話にオリンが一つ咳払いを入れる。


「おっと……。とまぁ、うちの子達も甘い物は大好きですし、砂糖は大事な物ですので、害があるだけって訳じゃありません……どうしました?」


 ララスは瑞希達の会話に出て来た菓子と思われる料理名を聞き、そわそわとしていた。


「い、いえ! 続けて下さい!」


「ですので、もしもララスさんが綺麗になりたいのであれば食事を変えてみて下さい。それに、気にしている事が無くなれば自然と自信も湧きます。今まで着れなかった服を着て、似合わないと思っていた装飾品を付け、軽くお化粧でもすれば皆の視線も気にならなくなりますよ」


「わ、私がお化粧なんてっ! 似合いませんよ……」


「いやいや、例えばこいつの見た目はどうでしょう?」


 瑞希は連れて来ていたフィロに視線を向けさせる。


「……やっと私の番? ミーちゃん私を忘れてるのかと思った」


「出来れば忘れたままでいたかったけどな……」


 瑞希から距離を置いた場所に座るフィロは、テーブルに両肘を置き、顎を乗せながら瑞希にウィンクをしたが、ミズキはげんなりとした様子で返答をした。


「あの、こちらの可愛らしい女性がどうされたのですか?」


「実はこいつ化粧もしていますが、男なんですよ……」


「えぇっ!?」


 瑞希は苦笑交じりに簡単にフィロを紹介すると、男と紹介されたフィロはむくれた表情をする。

 その表情すらも可愛らしく見えるため、ララスは疑問交じりに何度も瑞希とフィロに視線を向ける。


「ミーちゃんの言う通りよ。あんただってその程度の肌荒れぐらい化粧でどうにでもなるわよ?」


「ほ、本当ですか!?」


「でも化粧を過信しちゃ駄目よ? 肌が綺麗な事に越した事はないんだから。それに痩せればドマルちゃんの持ってきた服も似合うでしょうし、ミーちゃんの言う通りにやってみたら? あんた元の顔は悪くないんだから勿体ないわよ」


「私が綺麗に……」


「勿論ララス様の努力も必要ですけどね。でもそうなればバージさんの縁談を考え直しては貰えませんか?」


「私がバージ様の御側に居ても、バージ様の恥にはなりませんか……?」


「恥どころか羨まれますよ。どうですかムージさん? 肉親としてララスさんが綺麗になればバージさんの好みに当たりますか?」


 瑞希に促されたムージは不躾な視線でララスをじろじろと眺める。

 ララスは恥ずかしそうに俯いていると、ふん、と鼻を鳴らしてから答えた。


「俺の知っているバージとララス様の思うバージでは好みは違うかもしれんが、あいつは昔から肉が多い女が好きと熱弁していたな」


 どこの、とは言わないが、大人達は納得している。

 それを聞いても分からなかったお子様達は首を傾げていた。


「……太ってる方が好きなら今のままでええやん?」


「だよね~? ララスお姉ちゃんふかふかして気持ち良さそうだし」


 ボングにも分からないらしく、姉であるララスに聞く。


「バージの好みならば姉上は初めから身を引く必要はなかったではないですか!?」


「ち、ち、違うのっ! そういう意味じゃないのよ!?」


「……じゃあその人が嫌いやったん?」


「き、嫌いな訳ないじゃないですか!」


 ますます意味の分からないお子様達からは、矢継ぎ早に質問をされ、ララスは慌てふためいている。

 カエラとミミカが、チサとアリベルの口を塞ぎ、ララスがボングの頭叩いた所で、ムージが口を開いた。


「親父とバージは今どこにいるんだ? サルーシ家の親父達が戻って来た時に馬鹿げた事を言っていたが、本当にグラフリー派に寝返ったのか?」


 ムージはグラフリー家を敬うつもりはないのか、ぶっきらぼうな言葉使いでララスに言葉を投げかけた。

 その言葉を聞いたララスは言いにくそうな表情で言葉を紡いだ。


「バージ様は叔父様達の様子が変だと感じると、サルーシ家の者に一度王宮を離れる様に伝え、御自身は王宮に残りました。叔父様達は残念ながらバングの虜になっていると思います」


「馬鹿なっ! どういう事だ!?」


 焦るムージにララスはびくつきながらも説明を始めていくのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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