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ララス・グラフリー

 結論から言えば幕を開いたララスの姿は、瑞希からすればどうって事のないただぽっちゃりとした女性であった。

 確かに癖毛で毛量は多い様だが、それは個性であり、不細工と要する箇所ではない。


 ララスは幕が開いたと同時に、恥ずかしさに身悶えしているのか、顔を両手で隠し、少しでも太った体を見せない様に縮こまっていた。


「改めまして自己紹介を。此度お招きを頂きましたミズキ・キリハラと申します。こちらは私の婚約者のミミカ・テオリスです」


「初めまして。ララス様」


 ミミカはにっこりと微笑み、深々と頭を下げる。

 カエラはそれを羨ましく思ったのか、ドマルの脇腹を軽く肘で突く。


「私も紹介させて貰って宜しいでしょうか? 私はドマル・ウェンナーと言いまして、行商人をしております。こちらにおりますカエラ・ウィミルの婚約者です」


「宜しゅうお願いします」


 カエラはにんまりと微笑み、ミミカと同様に頭を下げる。

 ミミカは未だに慣れないのか、澄ました微笑みをしていても、耳が赤い。


「はわわわわっ! らら、ララス・グラフリーでしゅっ!」


 顔を隠していても分かるぐらいに、ララスは緊張をしている様だ。


「ところで……私にはララス様が不細工とは思えないのですが……。宜しければ普段通りになさって頂いても……」


 瑞希は頭に疑問符を浮かべながら尋ねるが、声を掛けられた事でララスはますます縮こまる。


「あ、あまり見ないで下さい……」


「と、言われましても、ララス様が何を気にしているのかが分からないもので……」


 瑞希とは美醜の判断が違うのかと考えるが、顔が見れないとそれも判断が付かなかった。


「あ、宜しかったらまずは私の作ったお菓子でも食べますか? 不安でしたら目の前で毒見もしますが」


――お嬢様……。


「い、良いのっ! 毒見なんか必要ないわ!」


「姉様っ! 怪しい菓子なぞ食べなくても良いではありませんか!?」


「ボングは気にならないの? あちらのミズキ様の御膝に座られているお嬢様の幸せそうにお菓子を頬張るお姿が」


 ララスは興味を惹かれているマドレーヌを頬張るシャオの姿を、指の隙間からチラチラと見ている。


「早く食わんと全部わしが貰うのじゃ」


「……うちも食べる!」


「こぉらっ! 二人共少しは大人しくしてろって。すみませんララス様、こちらの銀髪の子は妹のシャオで、黒髪の子は私達の弟子のチサと言います」


「お兄ちゃん? アリーはぁ?」


 瑞希とミミカの間に座るアリベルが瑞希に尋ねる。


「じゃあアリベルは自分で自己紹介してみようか?」


「うんっ! アリーはアリベル・カルトロムって言います!」


「アリベル・カルトロム!? 私達の妹のアリベルですか!?」


「うん……? でもお姉ちゃん達を見た事ないよ?」


 アリベルは首を傾げながら返答する。

 

「今は俺の妹だっ!」


「ややこしくなるから黙ってたらどうですか? それにアリーは私の妹です!」


 割って入ったのはムージだが、ミミカの言葉も場をややこしくさせる。


「もうそのやり取りは後でやってくれ……。アリベルはガジス様の娘で間違いないです。キーリスで私達が保護しておりました」


「ど、ど、どういう事なのでしょう?」


 ララスの質問に瑞希は事の経緯を細やかに伝えていく――。


「――という訳で、アリベルの処遇も話し合いたいと思い、連れて来たんです」


「私からもお願いします。アリベルが魔法の才能があるとしても、王家争いには参加させないで欲しいんです」


 ミミカは真剣な面持ちでララスに視線を向ける。

 ララスは指の隙間から覗き、真剣なミミカと視線が合ってしまい、狼狽える。


「わた、私は良いと思います! はいっ!」


「という事はララス様とバージ様の縁談を進めさせて頂いても宜しいのでしょうか? 私達としてはそれが一番どちらの派閥も納得する形かと思いますが」


「……それは無理です」


 ララスは落ち込む様な素振りで顔を隠したまま俯く。

 その返答にミミカは首を傾げる。


「先程の話ですが、私達はバージ様が貴方を……その……」


 ミミカは言い辛そうに言葉を濁すが、ララスはそれを汲み取り言葉を紡ぐ。


「バージ様は素晴らしいお方です。醜女である私なんかよりも、美しい女性と結ばれるべきです……」


「「あいつが素晴らしい……?」」


 ララスの言葉にオリンとムージが同時に声を上げる。


「我が兄ながらバージはがさつで、女たらしで、人を苛立たせる事が上手いような奴でしょう?」


「そうですね……私もムージと同じ意見です」


「そんな……あの方は分け隔てなく友好的に接しますし、相手の心情を汲み取れる方です。女性が放っておかないのは仕様がない事だと思います」


「バージが貴族の女性にちょっかいを掛けるせいでどれだけの詫びという金を取られた事か……」


「本当にそうでしょうか? バージ様が手を出したと思われる貴族の家はプライドが邪魔して助けを求められない様な家柄ではございませんでしたか? そして、その貴族達は今、貴方達の派閥に入られておりませんか?」


「馬鹿な!? あの愚兄がそこまで考えている訳が……!?」


「そういうお方なのです。自分が悪者になってでもその先を考えておられます」


「仮にそうならば何故貴方はバージとの縁談を断ったのです? バージからは貴方が……その、好みに合わなかったと……」


「やはりそう……でしょう……? バージ様……あの方の事です、私が縁談を断ったと言えば貴方達が私や、王家に向けて怒りのまま動き出す事を危惧したのかもしれません。バージ様は親しい方には特におちゃらけて嘘を吐かれます」


 ララスに言われた言葉で、オリンとムージはバージの言葉を思い返す。

 バージは幼い頃からオリンやムージに対して、嘘か本当かわからない事を面白おかしく話していた。

 少年心をくすぐられたり、苛立ちを覚えた事もあったが、バージという男を女たらしと勘違いするようになったのは思春期を過ぎた頃からかと。


 オリンとムージが無言で考えていると、ララスはバージの事を流暢に話せていたのが、今更恥ずかしくなってきたのか、その手は菓子を求めて彷徨う。


 気付いた瑞希は、三度自身の菓子を進める。


「ララス様。宜しければマドレーヌを食べてみませんか?」


「あ、い、頂き……ましゅ……」


 瑞希がマドレーヌをテーブルに置いてあった皿に乗せ、ララスの前に差し出した。

 ふわりと香る甘い香りにララスは指の隙間からマドレーヌを凝視する。


 何度も料理を進める瑞希に違和感を覚えたシャオは怪訝な顔をして瑞希に尋ねた。


「ミズキが料理を何度も進めるのは変なのじゃ。何故そんなにも進めるのじゃ?」


 ララスはこそこそとマドレーヌを手に取ると、その菓子をゆっくりと口に運ぶ。

 ボングは姉の体調を心配してか、焦りながらその様子を見ている。


「単純に言うと、この砂糖菓子をあんな風に食べるのって体に悪いんだよ。その点マドレーヌの方がまだ砂糖も少ないし、カパ粉が主だから腹も膨れるだろ? 嫌でも止め時が――「美味しいっ!」」


 ララスの口からは思わず大きな声が漏れだしてしまう。

 顔を隠していた手は驚いた拍子で、放してしまい、隠されていた顔が露になる。

 その顔を見た瑞希以外の人間は声の若さと、見た目の違いに驚くが、瑞希だけはどこか納得しているのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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