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キーリスの英雄?

 ――その夜。

 ジュメールの街を楽しんだミミカなのだが、瑞希が戻って来てから暫くは膨れっ面を見せていた。

 原因は当然、瑞希に纏わりつくフィロという存在である。

 瑞希が邪険にしている様子なのだが、フィロはへこたれず、どうにか瑞希との関係を深めようと必死なのだ。


 帰り道ではフィロが一方的に話す瑞希の武勇伝を聞き、自身もゴブリンから颯爽と助け出された記憶が蘇り、アンナを巻き込みフィロに対抗する様に語るが、フィロも負けじと助けられた回数を武器に張り合う。


 そんな中、朧気ながらも瑞希に助けられた記憶があるアリベルが、ふと魔法を使った入浴が気持ち良かったという話を話した事で、フィロとミミカの言い合いの勝者はアリベルに軍配が上がる事となった。

 その時アンナは視線を泳がし、誰にも気付かれぬ様に装っていたが、わずかに頬を赤らめていた――。


◇◇◇


 夕食を終えた頃、サルーシ家当主夫妻が戻って来た事で、件の瑞希とチサ、そしてテオリス家とウィミル家が呼び集められた。


 使用人に案内され、オリン達が使っていた部屋よりも広い部屋に通されたミミカ達の目の前には、オリンに良く似た夫人と、サルーシ家当主である、渋みのある男が席に着いていた。


「遅くに呼び出して悪かったね。私達もオリンから事情は聞いた上で、急を要すると判断したんだ」


「ミズキさんとお連れのチサさんがグラフリー家からの呼び出しというのは、どういう事なのですか?」


 話し始めた当主に対し、オリンが質問を投げかけた。


「あぁ、まず、今王家を当主代行をしているのは第一王子であるバング・グラフリーというのは知っているな?」


「はい。暴君という噂も聞いておりますが、魔法の才能と王位継承権の順から考えても妥当かと」


「私達が王家へ顔を出したのは保守派の動向を見るのと、バング・グラフリーの王としての器を計りに行ったのだが……あれはやはり駄目だ。このままでは民が飢え、離れてしまう……」


「ガジス様の容体は……?」


「会う事が出来なかったわ……。王子の取り巻きに何かと理由が付けられてね……」


 憂いを帯びた顔で当主の隣に座る夫人が告げる。


「王宮の内部は徐々にバングによって塗り替えられていると言っていいだろう。グラフリー派の人間も自分達が甘い汁が吸えればそれで良いのか、それともバングを泳がせて見極めようとしているのか、民の様子は見て見ぬ振りだ」


 当主は力ない様子で首を左右に振る。


「それでは何のためにミズキさん達に声がかかったのですか?」


「あぁ、その件だが……ミズキさん、率直に聞こう。キーリスの英雄とは君の事か?」


 茶を啜っていた瑞希は、急に尋ねられた当主の言葉に茶を噴き出してしまう。


「きちゃないのじゃ……」


「……な、何ですかそれ?」


「何、噂だよ。キーリスの街が襲撃された話はこちらでも噂が流れていた。行商人達が酒場で面白おかしく話していた様な噂話だが、その英雄は冒険者でありながら民の傷を治し、料理を施し、その料理が今まで食べたどんな物より美味いそうだ。心当たりはないかね?」


 心当たりがあり過ぎる瑞希は己の噂の事を考え、黙っていると、興奮したミミカが話に加わった。


「ミズキ様の事ですっ!」


「でしょうね。回復魔法を使ったという話は本人に聞いていますし、料理が美味いというのは実際に食べた私が保証します」


「まぁまぁまぁ! 貴方がキーリスの英雄なのですね!?」


 サルーシ家の夫人は嬉しそうに顔を綻ばせるが、瑞希は暗い面持ちだ。


「止めて……止めて下さい……。恥ずかしすぎて死にそうになる……」


「それにミズキさんは剣の勝負でもムージに勝ってますから間違いないでしょう」


「あれはこいつの剣が俺のより優れていただけだっ! 打ち合える剣なら結果は変わっていたはずだ!」


 オリンの言葉でムージとオリンが揉めだすが、当主の大きな咳払いで場に静けさが戻る。


「それでだ。ミズキさんを呼んでいるのはバングに次ぐ王位継承権を持っているララス・グラフリーなのだが、ダークオークの納品が成された事と、テオリス家がこちらに来ている事で、キーリスの英雄という人物を結び付けた訳だ。そしてその男に会ってみたいと珍しく話を持ちかけられたのだ」


「はぁ……ん? じゃあチサを呼んでいる理由は……?」


「その少女を呼んでいるのは、ララスの弟に当たるボング・グラフリーという王子なのだが、こちらは理由が分からん。もっともこの王子もバングの様に王の器には程遠いがな」


「あいつ身なりが良いと思ってたらやっぱり王子だったのか……王位継承権を持った子供ってのはその三名なのですか?」


 瑞希の言葉に当主は、うとうとして、ミミカに寄りかかるアリベルを指差した。


「そこのアリベル・カルトロムを入れて四人だ。後は王の血筋に当たる分家の者共が継承権を持っているが、そいつらはバングに取り込まれたと言って良いだろう」


「むぅ~……ねみゅい……」


 ミミカは眠たそうに眼を擦るアリベルの頭に手を置き、自身の膝に誘導する。

 ミミカが優しくアリベルの頭を撫でると、アリベルはすやすやと眠り始めた。


「アリーは王を継ぐつもりはありません。正直に言えばこちらの御家騒動も遠く離れた領地の私達からすればどうでも良いです……。出来れば幼いアリーを政治の道具に巻き込まないで下さい」


「それは承知しかねるのだミミカ嬢。オリンから話を聞いてるとは思うが、グラフリー家は腐り始めている。グラフリー家に代わり民を導く王家を、貴族を作らねばならんのだ」


「ですから、それは貴方方カルトロム家とサルーシ家がアリベルとは別のトップを立てれば良いのではないでしょうか? そのための協力はすると、オリン様達との話は着けております」


「そうそう。せや、成功の暁には多少報酬を上乗せさせてもろてええやろか?」


「金かカエラ嬢?」


「報酬とは言うたけど、金やない。認めて欲しいんは領地の線引きや。元々バランはんの治める領地は田舎過ぎて誰も興味ないっちゅう話やろ? ならモノクーン地方の北部やなくて、新しい地域として線引きしてや? んで、うちの治めるマリジット地方はバランはんの治める地方と協力しようと思ってんねん」


「「「……ん?」」」


 カエラ以外の瑞希達一行は顔を見合わせる。


「大体、バランはんの領地は関税を決めてんのも実質王家やろ? これからの発展を考えるとそれでは割りに合わんねん。だからこそ、新しい地方として区切って欲しいんや」


「だけど、そうなるとボアグリカからマリジットまで行商する時に関税が三回も……あぁ、だから協力するのか」


「さすがドマルはん! せや、バランはんの所からうちの所に入る時は税金はとらん。その代わりコバタ辺りの領地を共同で管理するさかい、それを認めて欲しいっちゅうんがうち等への報酬でええで? まぁ勿論ガジス様が復帰するんやったらガジス様に話に行くけどや」


 当主はカエラの言葉を聞き、考える。

 テオリス家とウィミル家は古くから続いている名家であり、所有している領地は一、二を争う。

 だからこそ、サルーシ家はウィミル家との縁談を結び、領地の点に置いても他の貴族に牽制出来る様にしたいのだ。


「別にうち等はこっちの貴族と揉めたい訳やないけど、心配やったらそっちからコバタを治める領主を選んでくれたらええで? 勿論うち等の好きな様にさせて貰うけど、変な事してても情報は行くやろ? 大体ダマズのアホをコバタに押し付けて来たんもうち等に対する牽制の意味合いやったやん?」


 カエラの言葉に当主ゆっくりと息を吐いた。

 当主が悩んでいたのは、反乱という二文字なのだが、カエラの言葉はそんな事をしないという答えだ。


「わかった。元々モノクーン地方は中間に位置する山間で区切られてしまっているし、北部はテオリス家に任せきりになっているのが現状だ。私達の派閥ないし、両派閥が納得のいく結果になるならば私からもその話は提案しよう」


「よっしゃ! ほなこっからはうちの旦那の話を聞いてもらおか!」


 上機嫌のカエラはドマルに話を振る。

 ドマルは緊張しながらも、落ち着いた様子で話し始めるのであった――。

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