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予想外の会話

 サルーシ城の訓練所で瑞希は仰向けに寝転がり、土にまみれながら息を切らしていた。

 近くではグランが軽くを息を切らしながら滴る汗を手拭いで拭きとっている。


「だぁーくそっ! やっぱり剣だけじゃグランには勝てないか!」


「当たり前だ戯け。幼少の頃から磨いて来た技術で後れを取る訳あるか」


「でも何本かはミズキが押してたよ?」


 途中から観戦していたドマルが感想を述べる。


「こいつの剣の振り方は捉え辛いんだ! それにしても急に挑みかかってくるとはどうしたんだ? もしや貴様……」


 グランはあらぬ勘違いをしている様だが、ミズキはグランの言葉を無視して話始めた。


「いや、昨日ムージさんと険悪になった時に実剣とは云えすんなり勝っちゃっただろ? もしかしたらグランにも勝てるかと思ったんだけど、気のせいだったな。わははは!」


「「はぁ……」」


 グランとドマルは大きく溜め息を吐いた。


「何だよ二人して?」


「貴様が誰に師事しているのか、どこの兵を相手に訓練しているのかわかってないのかと思ってな……」


「あはは、ついでに言うと誰の剣を振ってるかも加えて欲しいけどね」


「師匠はロベルさんで、テオリス家の兵士と訓練して、カーテルさんが打ってくれた剣をバッコさんに手直しして貰ったんだけど……もしかして実は凄いのか?」


「「凄いんだ(よ)っ!」」


 二人は凄い剣幕で瑞希に迫る。


「バッコさんの話はクミンさんに聞いたよね? 剣を扱う人なら誰でも欲しがるし、駄作と言われている物でも高値で取引されてるんだよ?」


「そんな事、あの剣を見ても言わなかったじゃねぇか?」


「だって……バッコ様の新しい剣があるとは思わないし……ましてや、そんな有名人がココナ村に居るだなんて思わなかったんだよ……」


 ドマル自身、自分が剣について確かな鑑定眼を持っているとは思っていないが、剣の価値は知っている。

 新しく打たれた剣が、まさか剣を打たなくなった事でも有名な鍛冶師が手を加えた物だとは思わなかった。

 瑞希の剣の値段は聞いていたが、誰が打ったか、良く見れば柄も少し手を加えられている事にも気付けてなかったドマルは、己の凝り固まった考え方を悔やんでいた。


 悔しそうなドマルを尻目にグランが言葉を続ける。


「ミズキ、テオリス家が魔法を排除して十年以上は経とうとしていたが、魔法使いが存在しない兵団は、その分剣を磨き、身体を鍛える事で兵の質を保ったのはわかるな?」


「そりゃあ……まぁ……」


「中でもロベル様は各領地の兵士達からは剣聖という二つ名で有名なのだ。王家からも爵位を与えるから仕えないかと、打診があったらしいがその申し出を断り、今でもテオリス家に仕えている御方なのだ。そんな御方や、ロベル様の全盛期を超えたとも噂されたバラン様に剣を教わっているのが、我々現テオリス兵達な訳だ。その中に混ざって訓練しているお前が、他の領地の方より剣を扱えたとしても不思議ではないだろう?」


「ロベルさんの全盛期ってどんだけ化け物なんだよ……。そういやシャオも楽しそうに訓練してたな……」


 自分の置かれていた環境を理解した瑞希だが、訓練の時の楽しそうなシャオを思い出し、掻いていた汗に、冷や汗が混じる。

 汗を軽く流そうと思った瑞希はシャオと訓練をしていたチサに声を掛けた。


「おぉーいチサ! ショウレイの具合も見てみたいから軽く水を出してくれ~!」


 トテトテと近づいて来たシャオとチサだが、シャオは悪そうににやにやと笑っていた。


「……怒らんといてな?」


「ん?」


 チサが杖を手に、詠唱という名の願いを口にする。


「魚さん、身を清める水流を……」


 直ぐに杖から現れたチサの金魚は、瑞希の真上に構え、口から滝の様な水を生み出した。


「ちょっ、ちょっと……ちょっと待てっ!」


 辺り一面が水浸しになった所でチサが慌てて止める。

 ポタポタと水滴を落としながら、瑞希はひらひらと空中を浮かぶ金魚を眺めていた。


「シャオ……知ってたな?」


「くふふふふ! 弟子の成長を見守る親心なのじゃ」


「あほっ! 乾かすから早く手を貸してくれ!」


「仕様がない奴なのじゃ……ほれ」


 瑞希はシャオの伸ばされた手を握り、自身と辺りに温風を当て乾かす。


「……むぅぅ、加減が難しい」


「以前と同じ魔力量は必要ないのじゃ。ある程度魔力は扱える様になったが、微妙な調整はまだまだの様じゃな」


「魔石だけでそんなに変わるのか……」


「経由させる箇所が多くなるから慣れが必要なのじゃ。ミズキの魔力を押し出すのもわしじゃから出来ておるのじゃ!」


 シャオが得意気に胸を張っていると、訓練所の出入口にアンナが姿を現した。

 顔を俯けながら、表情が読み取れないが、兄であるグランはその変化に気付いた。


「アンナ。何故顔を赤くしているんだ?」


「べ、別に何でもないっ! それよりそろそろミミカ様達の出かける時間だぞ!」


「あれじゃないか? ここに来るまでに誰かに口説かれたとか?」


 瑞希は冗談交じりにグランをからかおうとしたが、当のアンナは瑞希の言葉を否定せずに固まってしまう。


「ほう……。人の妹に手を出そうとは良い度胸だ……。勿論断っただろうな?」


「あた、当たり前だっ! わ、私なんかに声を掛ける方がどうかしているんだっ!」


「そうか? アンナみたいな可愛らしい子だったら引く手数多だろ?」


「へぁっ!?」


 元々赤い顔をしていたアンナだが、その顔は益々赤く染まる。


「人の妹を揶揄うな馬鹿垂れ!」


 グランは瑞希の頭に拳骨を落とす。


「痛ってぇ!」


 瑞希は頭を押さえながら、シャオに回復魔法を求めるが、シャオとチサはそっぽを向く。


「軽々しく女子を可愛いと言う瑞希が悪いのじゃ」


「……シャオに同じく」


 軽率な発言は妹達の前ではしない様にしようと、瑞希は心に誓うのであった――。


◇◇◇


 時は少し遡り、オリンの自室に招かれたアンナは、オリンに促されソファーに腰を掛けた。


「あの、お話というのは……?」


「そうですね……貴方には婚約者等は居られないのですか?」


「そんな者は居りません。テオリス家と違い、クルシュ家は貴族とはいえ爵位も低いですから。モノクーン地方の端まで求婚に来られる物珍しい方はまだお会いしてないですね。それに……「それは良かった」」


「えっ?」


 オリンは余程嬉しかったのか、アンナの言葉を意図なく遮り、心情を吐露した。


「では私は貴方に交際を申し込んでも問題はありませんよね?」


 オリンの言葉に一瞬の静寂が生まれた。


「えぇぇぇっ!? どう言う事ですか!?」


「そのままの意味ですが?」


「しかし貴方はカエラ様に縁談を申し込んだのでしょう!?」


「それは両親が決めた事ですし、貴方達が断りに来た時点で破談しました。今のこちらの情勢は理解できてますが、本日のミズキさんの料理を食し、彼が言うならばカルトロム家の縁談が上手くいくかもしれないと信じたくなりました」


「それと私にどういう関係があるんですか!?」


「カルトロム家の縁談が上手くいくのであれば、私の伴侶は比較的自由になります。それならば政略結婚よりも、自分が好ましいと思う相手と結ばれたいと思ったんですよ」


「し、しかし昨日はムージ様に女性関係に気を付けろと注意してたではないですか!?」


「ムージは身分等関係無く女性に惚れますからね。それに飽き性で……いや、その話は置いときましょう。私はそれ程女性に興味はなかったのですが、食事中の貴方を見て、何故か心が惹かれてしまった」


「な、な、な……」


「昨日は明るく喜んだ顔で、今日は……ふふ、何故か泣き出していた」


 昨日は初めて食べたダークオークの肉が予想以上に美味しくはしゃいでいた事と、先程の朝食では、好物の甘味で思わず泣いた事をアンナは思い返し恥ずかしくなる。


「そんな貴方が側に居れば毎日が華やかになりそうだ」


「待って下さい! クルシュ家ではサルーシ家とは格が吊り合いません!」


「爵位が低くとも貴族には変わりありません。聞けば長男の方が居られるという事ですので、貴方は嫁がれても問題はないのでは? それに、長年テオリス家に仕えるクルシュ家を単純な爵位だけで評価する者も少ないでしょう?」


「きゅ……急に言われても困ります……」


 アンナは言い返す言葉が思い付かないのか、それともこれ程まで愚直に好意を向けられた事の気恥ずかしさからか、力無い言葉を絞り出した。


「そうですね。まぁ、まだ何も解決してませんし、この話は全てが解決してからでも良いので、頭の片隅にでも置いといて下さい」


 ニッコリと微笑む眼鏡越しの柔らかな視線に、アンナは益々顔を赤らめてしまう。

 アンナは瑞希の名を出せなかったが、瑞希が婚約者というミミカの立場をここに来て心底羨むのであった――。

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