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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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ミミカの三つ編み

 よろよろと歩いて宿に戻った瑞希は玄関先でドマルと出会う。


「お早うドマル!」


「お早うミズキ、シャオちゃん! ……ってすごい荷物だね?」


「この他にも卵と鶏肉も買ったんだけど、ホロホロ鶏の店主さんに届けて貰えて本当に助かった……」


「そう言えば酒場のテーブルに置いてあったけど、あんなに使うの?」


「これから朝食を作るんだけど、今日の昼前には移動し始めるだろ? 移動中に食べる軽食も作っとこうかと思ってな」


「助かるよ! じゃあ移動中の食事は任せても良いかい?」


「おう! あと、人が増える分馬車の重さが増えるけどボルボは大丈夫か?」


「まぁ女の子達だから多少は大丈夫なんだけど、途中で野営してゆっくり行くことにはなりそうかな」


「良いんじゃないか? 朝食が終わったら調理器具と調味料も買いに行くつもりだったし、寝床はテントがあれば馬車とテントで男女に分けられるしな」


「そこでミズキとシャオちゃんに相談なんだけど、馬車を軽くするのに、飲み水を下ろしても良いかな?」


「あぁ、魔法か? 俺は別に構わないけど……シャオ? 頼んでも良いか?」


 瑞希はシャオをチラリと見るが、ブラシと櫛の事で上機嫌になっているシャオはふふんと鼻を鳴らした。


「普段なら人間に魔法で手助けなんかせんが、ミズキの頼みなのであればやぶさかではないのじゃ!」


「ありがとうシャオちゃん! なら今は商品も少ないし、人が増えてもボルボだけで充分走れるよ!」


 立ち話をしていると、瑞希が手に持っている荷物がぐらりと揺れる。


「おっとと! じゃあとりあえず俺は朝食の準備をしてるから、また後でな!」


「うん! ボルボに御飯をあげたらすぐに戻るよ!」


 そう言うとドマルはボルボがいる小屋の方へ走って行った。

 瑞希達が宿の中に戻り荷物を置くと、ちょうど階段から降りてくるぼさぼさ頭のミミカと出会う。

 

「お早うミミカ」


「お早うごじゃいましゅ……」


 ミミカは寝ぼけているのか目を擦りながら瑞希に返事を返す。


「眠たそうだな? 髪の毛もぼさぼさだぞ?」


「……へ? あ……! し、失礼しましたー!」


 瑞希が笑いながらミミカに指摘すると、ミミカは目が覚めたのか、自分の頭をわしゃわしゃと触ってすごい勢いで階段を駆け上がって行った。


「先にテミルさんに櫛を返しておかなくちゃな……」


「小僧! さっき届けてもらった卵と鶏肉は厨房に運んどいたぞ?」


「ありがとうございます! もうちょっとしたら調理しますんで、先に荷物を置いてきます!」


 瑞希達は一旦厨房の方に食材と瓶などを置くと、自分達の部屋にブラシ等を置くついでに、包丁を取りに行く。

 すると二階のミミカの部屋から嘆きの声が聞こえて来た。


「ミズキ様にぼさぼさ頭見られちゃった~!」


 部屋の中には恥ずかしさのあまり、まだ寝ていたテミルに抱き着き悶えているミミカがいるのだが、テミル達は疲れていたのかすぅすぅと寝息を立てている。

 瑞希が小さめに扉をノックすると、ビクンと肩を跳ねさせたミミカが返事をする。


「は、はいっ!」


「今から朝食と、昼食用に軽食を作るんだけど、ミミカも一緒に作るか?」


「えぇっ!? ……その……お料理を習いたいのは山々なのですが、髪の毛が……」


「髪の毛? あぁ……それなら俺がやってあげようか?」


「ミズキ様が!? えっと、あの……その……」


 瑞希に梳いてもらいたい気持ちと、ぼさぼさ頭を見られたくない気持ちの狭間でミミカの気持ちが揺れ動いている。


「ブラシと櫛ならさっき買って来たし、ピンとかリボンがあればセットもできるぞ?」


「このブラシと櫛はわしのじゃ! あんな小娘に使ってはならんのじゃ!」


 シャオは瑞希が買ったブラシと櫛を両手で抱きしめると自分の部屋に持って行き、テミルに借りていた櫛を持ってきた。


「ほれ! こっちの櫛でやれば良いのじゃ!」


「お前も借りた櫛でさっきやられたんじゃねぇか……」


 瑞希が呆れながらシャオの行動に突っ込んでいると、部屋の中からミミカが目だけ出してシャオを見る。

 そこには三つ編みをされリボンを付けたシャオが立っている。


「あ……あの……シャオちゃんの髪形もミズキ様がやられたんでしょうか?」


「くふふ。その通りなのじゃ!」


「シャオちゃん……かわいい……」


「ミミカも三つ編みにしようか?」


「えっ!? えっと……あの……お願いしても宜しいでしょうか……?」


 ミミカはおずおずと部屋から出てくると、瑞希は手招きして自分達の部屋に呼ぶ。


「じゃあテミルさん達の寝顔を見るのも悪いから、こっちの部屋でやろうか?」


「ミ、ミズキ様の部屋で!?」


「……わしもおるから安心するのじゃ」


 シャオはため息をつきながら、瑞希の言葉を変に受け取ったミミカを窘めた。

 瑞希はミミカ達と自分の部屋に移動すると、ミミカを椅子に腰かけさせ、シャオの手を握る。


「なんじゃ急に?」


「いや、あまりにもぼさぼさだから、魔法を使おうかと思ってな。ただ霧吹きとかのイメージって口では説明しづらくて」


「ならやってみるのじゃ」


 瑞希は左手でシャオの手を握り、右手は使い慣れた霧吹きのイメージを水魔法で再現してみる。


「お! できたできた!」


 軽く湿った髪の毛を手でほぐし、次はドライヤーのイメージで温風を再現してみる。


「気持ちいいです~」


 まだ寒い気温の中、瑞希の手から発せられる魔法の温かい風にミミカは身を任せる。

 瑞希はシャオから手を離すと、両手でさくっと髪の毛を直すと、テミルに借りた櫛でミミカの髪の毛を梳いていく。


「シャオと同じ髪型でも良いけど、せっかくだから別の髪形にしようか? 髪留めは何かあるか?」


「普通の紐か、こういった髪留めでしたらありますが……」


 瑞希は金属を曲げた、見慣れたヘアピンと紐を渡される。


「ヘアピンあるんだ……雑貨屋にはなかったのに……」


「キーリスの街にはありますよ? 宜しければ何本か差し上げましょうか?」


「良いのか!? (シャオのために) 欲しい!」


「(キャーッ! 私が使ってた髪留めをそんなに欲しがるなんてっ!)」


 お互いの胸中は噛み合っていないが、瑞希はセミロングで金髪なミミカの髪の毛の両サイドを三つ編みにすると、後ろ髪を残しつつ三つ編みを後ろ側で纏める。


「ほい。こんな感じで良いか? 後ろ髪も全部三つ編みにしてアップにしても良いんだけど、寒いからな」


 瑞希は笑いながら手鏡をミミカに渡す。


「かわいいっ! 何で男の方なのにこんな事まで出来るんですか!?」


「ミズキは昔幼子の髪の毛をいじくっとったんじゃ」


「なんか人聞きの悪い言われ方だな……それに俺も本職じゃないからポニーテールとか三つ編みみたいな簡単なのしかできねぇよ」


「それよりもミズキ……小娘の方が手が込んどるのじゃ!」


「三つ編みが一本増えただけだろ! それにシャオのはリボンもあるから一本で纏めてもかわいいだろ!?」


「まぁミズキがかわいいと言うなら……別に良いのじゃ……」


 シャオがぷいっとそっぽを向くと、ミミカが瑞希の方をちらちらと見ながら声をかけてくる。


「あの……私はどうでしょうか?」


「ん? ミミカも似合ってるよ?」


「か、かわいいでしょうか?」


「……? かわいいぞ?」


 自分が働いていた店に来てた、常連女の子もこんな感じだったな……と懐かしく思い返している瑞希だが、その女の子は五歳児ぐらいなのに対して、目の前にいるのは十五歳ぐらいの女の子であるのだが……。

 瑞希にとってはどちらも同じ様なものであった。


「(ミズキ様がかわいいって……)


 そしてミミカはまた妄想の世界へと旅立って行くのであった――。

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