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瑞希の料理教室

 瑞希が厨房で料理人の女性達に囲まれる姿は最早見慣れた姿であり、アンナ、シャオ、チサが助手の様に瑞希の横で生地を混ぜており、昨日料理を食べた者は一生懸命にメモを取っている。


「――とまぁ、この料理で大事なのは生地です! 甘い物を作る時は生地に甘味を入れて、甘くないのを作る時は砂糖を入れないで下さい。今日はどちらも作りますが、予算の関係で砂糖が使えないのであれば、こちらの甘くないのを覚えて下さいね」


 中には手を挙げ質問をする者もいるので、瑞希は丁寧に答える。


「これですか? これは生地をふっくらさせるために入れます。私は天然酵母と呼んでいますが、パンを焼く時にコロンの実を漬け込んだ液体を入れてますよね? これはその液体とカパ粉を混ぜておいた元種です。これを生地に混ぜ込むので酵母菌が発酵させて焼いた時にふっくらとした焼き上がりになります。興味のある方は後程作り方を教えますね」


「こっちの茹で卵は使用人や兵士の方々の朝食に使います。シャオ、ちょっと良いか?」


 瑞希はシャオと手を繋ぎ、ボウルの中に入れておいたマヨネーズの材料をハンドブレンダー魔法で混ぜ合わせ、マヨネーズを作り上げる。


「時短の為に魔法を使いましたが、こちらのビーターを使えば手動でも作れます。このマヨネーズを細かく刻んだ茹で卵と和えて、塩と胡椒で味を調えます……良し、宜しければこのボウルを周して貰って、味見して下さい」


 瑞希は手元の茹で卵ペーストが入ったボウルを近くに居た女性に手渡し、食べた者の中には飛び跳ねている者も居た。


「皆さんの食事は甘くない生地と、この茹で卵、後はリッカ(きゅうり)ポムの実(トマト)を添えて一皿に盛り付けましょう! 後は用意して頂いたスープを添えれば朝食としては充分ではないでしょうか? こちらの甘い生地は予算の関係で城の人達全員には出せないと思いますので、オリンさん達の分として……」


 瑞希の言葉の途中で、料理番の女性達はがっくりと肩を落とす。

 わかってはいたのだが、瑞希の料理を口にした者達は甘い物も食べてみたかったのだ。

 瑞希は苦笑しながら言葉を続ける。


「……焼くつもりでしたが、皆さんは料理人です。料理人は味を覚えるのも仕事なので、皆さんの分は私の奢りで作りますから、これからも美味しい料理を作って下さいね?」


 瑞希の言葉に女性達から歓声が上がる。

 レシピを伝え終えた瑞希は調理に取り掛かる。


「チサ、まずはこっちの細かく砕いたチーズを混ぜた生地から焼いて行こうか」


 瑞希が指定したのは、風味付けにチーズを混ぜた生地である。

 甘い生地には練乳が混ぜてあり、どちらの生地も本来はモーム乳を入れるのだが、今回は水で溶き、甘い生地にコクを出すために練乳で甘味を付けている。


「ミズキ殿、こちらの火を通したマンバ(ばなな)はどうするのですか?」


「それは潰してから練乳を混ぜる。材料が無くて生クリームが作れないから、マンバと練乳でペースト状にして焼いた生地と絡めると美味しいと思うんだよ。それにオリンさんはマンバが好きみたいだしな!」


「くふふふ! 練乳とは便利なのじゃな!」


「向こうで作り置きしといて良かったろ? 俺もシャオとチサが旅の道中に舐め尽くさない様に必死だったんだぞ?」


「……練乳は見ると舐めたくなる」


「目に付く所に置いておくのが悪いのじゃ!」


「食材管理してるのは俺達なんだからどうしようもないだろ……」


 瑞希は鉄鍋に植物油を薄く広げ、高い位置から粘り気のある生地を落とし、少し厚みがある様に広げる。

 それを見ていたチサ、シャオ、アンナは綺麗に丸く広がる生地を見て感心している。


「こうやって高い位置から生地を一点に落とすと自然に丸くなるから、引っ付かない様に何枚も焼いてくれ。皆さんも宜しいですか?」


 瑞希の言葉に一斉に返事をするのは、焼場の料理人達だ。


「では盛り付けをされる方は皿の上にこの卵と野菜を並べて行きましょう。焼けたパンケーキを三枚乗せて、最後にこちらのバターを一欠け乗せたら完成です! じゃあこの試食は……そちらの方達、食べてみますか?」


 瑞希は近くに居た女性に出来上がった皿を差し出した。


「この茹で卵もパンケーキと一緒に食べると美味しいですよ」


 瑞希は近づいて来た三人の女性料理人に食べ方を説明すると、指名された女性達は美味しいと騒ぎ立てた。


「うぬぬぬ! わし等の分の試食は無いのじゃ!?」


「お前等は俺の料理を疑ってないだろ? こっちの料理人の方達は昨日の料理を食べてない人もいるんだ。美味しいかどうかも分からない疑心暗鬼な状態で料理を作るより、今から美味しい物を作るんだって思って作った方が美味しく作れそうだろ? それにシャオ達には甘いパンケーキもあるからな。試食で腹が膨れたら美味しく食べれないぞ?」


 瑞希の説明につけ込む隙が見当たらないシャオは、美味しそうに試食する料理人達を眺め悔しそうにする。


「そんな顔するなって。シャオは俺の料理を殆ど毎日食べてるだろ?」


「それでも食べたいのじゃ! ならば、わしの分は瑞希が作って欲しいのじゃ!」


「……じゃあうちのもっ!」


「わ、私もミズキ殿が作ったやつが……その……食べたいです」


「わははは! わかったよ。じゃあミミカ達のは任せるからな。美味しく作ってくれよ?」


「了解なのじゃ!」


 瑞希は手を叩き、厨房にいる人間に調理を始めさせる。

 料理長をしている女性は瑞希から細かな焼き加減や盛り付けを聞くと、瑞希と手分けしながら調理をする人間達に助言をしていくのであった――。


◇◇◇


 朝食の場に並ぶジーニャを始め、グラン達は料理の盛り付け方と、この場にいる瑞希達三人の姿を見て確信していたが、瑞希に尋ねた。


「もしかして今日の朝食はミズキさん達が作ったんすか?」


「おっ、良く分かったな! スープはこっちの料理番の人達に作って貰ったけど、パンケーキは俺達が作ったんだよ。蜜がかかってるのが甘い奴で、卵が添えてあるのは甘くない奴な。それじゃあ頂きまぁす!」


 瑞希が手を合わせると、シャオとチサも手を合わせてから、待望のパンケーキに取り掛かる。

 ジーニャも慌てて手を合わせると、まずは甘くないパンケーキから手を付けた。

 フォークを突き刺すと、ふわりと柔らかな手応えを感じるパンケーキを切り分け、バターを絡めて口に運ぶ。


 バターの旨味と、生地に練り込まれたチーズのコクを、柔らかな生地が受け止める。

 普段食べるパンよりも柔らかなその食感に身悶えしていると、瑞希が話しかけた。


「ジーニャ、その卵を乗せて食べてみても美味いぞ?」


「これってもしかしてあれっすか!?」


 ジーニャは慌てて卵をパンケーキに乗せて口に入れる。

 ジーニャの大好きなマヨネーズのこってりとした味と、卵の柔らかな甘さは、チーズ風味の甘くないパンケーキと合わさり、口の中は幸福状態になっている。


「まよねーずと卵の組み合わせは無敵っす! いつまでも食べてられるっす!」


「食べ過ぎは良くないけど……まぁ、偶にはこんな朝食も良いだろ? グランもいつもの様に無言になってる事だしな」


 ふとグランを見れば、二種類のパンケーキを味わいながら無言で頷くグランの姿がそこにはあり、瑞希はグランの賛辞と受け止めるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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