サルーシ家当主からの通達
部屋に着いた瑞希は、シャオと手を繋ぎ、心配そうな顔をしているミミカの頭に手を置く。
「アンナ……」
「すみません……今日のミミカ様の髪の毛は手強くて……」
「そっちですか!?」
「状況を察するに俺が何かやったみたいだけど、まだ話を聞いてないからな。それより、人前に寝癖でいる方が淑女として心配だよ」
瑞希はミミカの髪の毛を霧吹き魔法で軽く濡らし、ドライヤー魔法で即座に乾かし手櫛で直す。
ミミカもまたシャオと同様に心地良い時間が短い事に落胆するが、話の内容を思い出したのか再び慌て始めるが、ミミカの寝癖が直ったタイミングを見計らい、オリンが会話に加わる。
「もう宜しいですか? 率直に言いますが、ミズキさんとチサさんがグラフリー家からお呼びがかかったそうです」
「名指しでですか?」
「いえ、ダークオークを狩った冒険者と、大きなブルガーを連れた少女がジュメールに居るから探しておけと、父からの通達が先程届きました」
「あぁ……間違いなく俺達ですね……」
「……うちも?」
チサは自分を指差しオリンに尋ねた。
「えぇ。書面にはその様に書いてありました……。呼ばれる理由は定かではありませんが、父のブルガーを駆けさせての連絡ですから相当焦っていたのでしょう」
「ダークオークの方は貴族が依頼を出していたから納得はできますが、チサが呼ばれる理由が分からないですね?」
「ミズキ、ギルドの前に居た太った少年を覚えてる?」
チサがブルガーを連れて行動をしていたのを思い返していたドマルが瑞希に質問をする。
「あぁ、ヴォグを欲しがった子だよな? そう言えば姉さんに言いつけるとか何とか言ってたけど……あの子もしかして王家の子か?」
ヴォグの飼い主であるムージが反応を示す。
「そんな話は聞いてないぞ?」
「チサに対してヴォグを寄越せと掴みかかりそうになったのを、ヴォグが咥えて軽く放り投げたんですよ。その時軽く怪我をしていましたが、回復魔法もかけましたし、ブルガーは飼い主以外に懐かないって説明もしたんですけどね」
「初対面で人のブルガーを寄越せとか失礼なやっちゃな~!」
瑞希の説明にカエラが言葉を返すが、オリンとムージは思い当たる人物がいたのか、片や舌打ちをし、片や項垂れていた。
「そいつはおそらくグラフリー家の末弟で、お前等が俺の兄とくっつけようとしている女の弟に当たる者だ」
「あぁ、だから姉に言いつけると……えっと、もしかして俺達は罪に問われます……よね?」
「王家の子息に怪我を負わせたんですよ? 禁固刑なら軽い方で、最悪は死刑ですね」
「……うちら捕まるん?」
不安そうに尋ねるチサの頭を撫でながら、瑞希はあっけらかんと言い放った。
「大丈夫、大丈夫。ムージさんにどうにかして貰おう!」
「どういう事だ貴様っ!?」
「いや~! 昨日の騒ぎで使った魔法は難しかったな~! 魔力がまだ回復しきってないみたいですよ~。解決してくれるなら昨日の貸しはチャラで良いんですけどね~?」
瑞希は棒読みで昨日の出来事を振り返ると、それにミミカが手を叩き便乗する。
「そうですね! 私も魔法に魔力を込めすぎて、今日は中々起きれなかったですっ!」
アンナはミミカの台詞に苦笑する。
「ぬぐ、ぬぐぐぐぐっ!」
「それにアリーも初めて魔法を使ったみたいで、起こしても起きませんでした!」
「そ、それはこいつが……」
ムージがシャオに指を差した所で、動きが止まる。
シャオが殺気を放ち、それを感じ取れる練度を持ったムージが抗おうとしているからだ。
シャオはふっと殺気を払う。
「こやつがわしを虐めるのじゃ~」
シャオもまた瑞希に便乗する様に泣き真似をすると、溜め息を吐きながらオリンが止める。
「止めろムージ。お前があの冒険者に引っかからなければあの騒ぎは起きなかったんだ。馳走を用意して貰った好意を無下にしたのは俺達の方だ」
「下手な交渉やなミズキはん」
カエラは笑いながら瑞希に駄目出しをする。
「状況を考えるに、チサちゃんを探している弟様は罰するためだと思うのですが、瑞希達はきちんと説明をしていますし、ムージ様がヴォグを連れて事情を説明すれば事は収まるんじゃないでしょうか?」
ドマルの言葉にカエラが答えた。
「その通りや。カルトロム家の次男とはいえ貴族や。貴族同士の子供のいざこざなんやから当人同士で話付けたら終いやろ? こっちも向こうも細かな情報は知らんかった訳やしな」
「ではミズキ様が呼び出されているのはどういう理由なのでしょう?」
「ミズキは誰も捕まえられなかったダークオークを納品したので、おそらく褒章じゃないでしょうか?」
「でもそのお金は既にギルドからお支払い頂いてるんですよね?」
「そう言われればそうですね……う~ん……」
「まぁ今夜にでも父が帰って来ますので、皆様は本日もこの街に滞在して下さい。早朝から呼び立ててしまいましたが、用件は以上です」
オリンがそう言い終えると、どこからか腹の虫の鳴き声が聞こえた。
犯人のシャオが瑞希の袖を掴み揺さぶる。
「話が終わったのじゃったら朝食を作るのじゃ」
「えぇ~……どうせならここの朝食を食べようぜ?」
「ならんのじゃ! 昨日の昼食からしてわしの口に合わん……「こらっ! 失礼な事言うなっ!」」
瑞希は慌ててシャオの口を塞ぐが、オリンは眼鏡を拭きながら答えた。
「いや、ミズキさんの料理ならば出来れば私達も頂きたい。私を始め、この城の者は昨日の会の料理には驚かされましたからね」
「ほな、今日の朝食はキーリスで流行ってる乳製品はどうや?」
「どうやって言われても、モーム乳は無いですし、あるとすればチーズとかバターぐらいしか……」
瑞希が魔法で冷やして保管している材料を思い出すと、ある料理を思いつく。
「あぁ、簡単なので良かったら作れますけど、やはりモーム乳があった方が美味しいですよ?」
「それは甘い物なのじゃ?」
「どっちでも作れるぞ? 少し生地の配合を変えるだけだしな」
「丁度ええやん! こっちの人等にいかに乳製品が美味しいかわかってもろたら、両家も積んで来た乳製品を欲しなるやろしな」
カエラは微笑みながら瑞希に提案する。
「まぁ、アリベルにもお詫びの料理を作りたかったですし、俺は構いませんけど……。じゃあまた厨房をお借りしても宜しいですか?」
「どうぞどうぞ。宜しければ、当家の料理番にも作り方を教えて頂けると幸いです。勿論食材は好きなだけ使って頂いて構いません」
「教えるのは構いませんが、今日の料理はドマルから乳製品を買わないと作れないですよ?」
「勿論美味しければ昨晩のお詫びも兼ねて購入させて頂きますよ。ムージもミズキさんの料理が食べたいだろうから、それで構わないな?」
「……あぁ」
ムージはぶすっとした面持ちで、オリンに返答する。
「じゃあ厨房が忙しくなる前に作業させて貰いますけど、アンナ達も食べるよな?」
「えっと……私も頂いても宜しいのですか?」
「良いに決まってるじゃない! アンナは私の侍女兼護衛をしてるけど、クルシュ家の人間よ? それにグラン達だってミズキ様の御料理を食べたいに決まってるわ」
「で、では私達も食べたいです!」
「了解。じゃあグラン達のも作るか……カエラ様の所の兵士さん達は……」
「作ってくれるんやったら食べさせたりたいわ~!」
「簡単ですし勿論良いですよ。じゃあアンナはジーニャを起こしてからこっちを手伝ってくれ」
「ミズキ様! 私も手伝います!」
「ミミカはジーニャに身だしなみを整えて貰え。キーリスに戻ったらいつでも教えてやれるからさ」
「はぁい……」
「じゃあチサとシャオはいつも通り俺のお手伝いな。美味しいのを作るぞ!」
「「おぉ~!」」
シャオとチサは可愛らしく手を挙げ、気合を入れる。
どこに居てもミズキは料理をする羽目になるのであった――。
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