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早朝の招集

 ――懇親会の翌早朝、チサは腹を出して寝ているジーニャを尻目に、抱いて一緒に寝た杖を寝起き早々に嬉しそうに眺めている。

 その杖は瑞希とシャオからプレゼントされた物で、チサは昨晩のクミンの説明を思い返した。


◇◇◇


「貴方があの杖を渡された子ね?」


 騒動が落ち着き、皆の腹も膨れた所で、クミンは瑞希の側で杖を持ったチサに話しかけた。


「……にへへへ。綺麗な杖作ってくれてありがとうな」


「うふふ、どういたしまして。貴方は澄んだ魔力をしてるわね……。あの子から話に聞いた通り良い魔法使いだわ」


「……魔力が見えるん?」


「私はちょっと変わっててね。ぼんやりと視覚で魔力が見える様になったの。貴方の魔力は綺麗だわ」


「……そうなん? うちは人の魔力とかあんまわからんけど」


「私は仕事で集中してる時にぼんやりと魔石が輝いて見えたのがきっかけね。最初は疲労のせいだと思ったけど、魔力だと気付いて感覚を養って行く内に意識しなくても見える様になったわ」


「……集中して見る……」


 チサはクミンの言葉を聞き、目を細めて側に居た瑞希とシャオをじっと見る。


「チサも見えるのか?」


 チサは瑞希の言葉に首を振り否定する。


「……何も見えん」


「感覚は人それぞれだからね。お嬢ちゃんに合った感覚があるんじゃないかしら? それよりその杖の説明をしておくわね。作る前にミズキちゃんには説明したんだけど……」


 クミンがチサに説明をしてる中、瑞希も近くに居たシャオをじっと眺める。

 そこにはいつもと変わらぬ佇まいで、リボンで髪の毛を括った可愛らしい女の子が立っているだけである。


「くふふふ。そんなにわしが好きなのじゃ?」


「あほ。意識すればシャオの魔力が見えるかと思ってな?」


「あほとは何じゃあほとは! 魔力が見えるというのはクミンの気付き方じゃ。言うたじゃろ? 魔力の気付き方は人それぞれじゃ。クミンに合っていても、お主とは合ってないかもしれんのじゃ」


「人それぞれねぇ……」


「お主は気付いてなくとも、魔力は怒りと共に溢れてる時があるのじゃ。さっきのあほの剣を斬った時も魔力がわずかに籠っておったのじゃ」


「それは薄々感づいてるんだけどな……感じ方ねぇ……」


 瑞希はシャオとの会話でますます魔力という物が分からなくなる。

 首を傾げながらぼんやりとチサを見ていると、ショウレイで金魚を生み出し、その金魚はチサの杖に吸い込まれる様に消えていく。


「はい。これで完成ね。貴方のショウレイも嬉しそうにしてるわね」


「……にへへへ。これってこの子は消えへんの?」


「貴方が暇な時とか魔力が余ってる時に魔石に補充すれば大丈夫よ。この魔石から呼び出す時は、新たに生み出す時より早いし、消費魔力も少なく済むわ」


「……これは便利!」


「喜んで貰えて嬉しいわ。大事にして……って言わなくても大事にするわよね?」


「……当たり前! にへへへへ!」


 チサは杖とローブを大事そうに抱きしめる。

 瑞希とシャオはお互いの弟子であるチサの喜ぶ顔を見てから、顔を見合わせると共に笑顔になるのであった――。


◇◇◇


「……せや、ミズキに梳かして貰わな!」


 チサは寝ているジーニャを飛び越え、鞄から櫛を取り出した。

 チサは元々最初からジーニャとの相部屋を宛がわれていたのだが、いつもなら、瑞希達と離れるのを嫌がり、シャオのベッドに潜り込んででも、三人一部屋で寝ていた。

 だが、依頼の帰り道でジーニャから聞いた話で、少し気恥ずかしくなったチサは、珍しく瑞希とは別室で就寝したのだ。

 しかし、毎朝行われているブラッシングは違う。

 気恥ずかしさよりも、気持ち良さが勝つため、チサはジーニャを起こさぬ様に部屋を出た。

 

 瑞希とシャオの部屋はミミカの婚約者という事もあり、チサの部屋より少し離れているが、一人で城の中を歩くチサを見ても止める者は居ない。

 昨日の騒動で良くも悪くも噂が広がっており、瑞希達の認知が行き届いているからだ。


 そうこうする内に、目的の部屋がある通路に到着すると、瑞希の部屋の前で扉をノックするサルーシ家の使用人がいた。

 チサは首を傾げながらも、瑞希の部屋に近付くと、寝起きの瑞希が顔を覗かせた。


「ふわぁ……どうされました?」


――オリン様が緊急の用件との事でお呼びです。


「緊急? 私だけですか?」


 使用人の後ろからチサが顔を出した。


「……どうしたん?」


「さぁ? オリンさんが緊急の用事があるらしいんだけど、なんかしたかな……? 身支度をしますので、少しだけ待って貰っても良いですか? チサも中に入れ」


 瑞希はチサの手に持つ櫛をチラリと視界に入れ、チサを招く。

 瑞希の言葉に使用人がこくりと頷くと、瑞希とチサは部屋に戻り、猫の姿で伸びをするシャオに話しかけた。


「シャオ、オリンさんが呼んでるから支度しろ」


 シャオはぼふんと人の姿に変える。


「早朝から何事なのじゃ……ぬあぁ! わしより先にチサのブラッシングをするとは何事なのじゃ!」


「……にへへへ」


「先に櫛を渡した方からだろ? とりあえずは寝癖を直すだけで、髪形は後でな!」


「ぐぬぬぬぬ! チサ! 早く変わるのじゃ!」


「……自分で櫛を用意しなあかんねんで?」


 三人で一緒の部屋で寝る様になり、自然に出来たブラッシングのルールだ。

 瑞希にブラッシングをして貰う時は、自分で櫛を用意して瑞希に手渡す。

 瑞希としてはどうでも良かったのだが、作られたルールを守るという事をシャオに教えるには良い機会だと思い採用した。

 元々シャオが自分の櫛やブラシを人に使わせるのを拒み続け、チサやキアラ、ミミカが自分の櫛を持って瑞希の元にやって来たのがこのルールの始まりだ。


「もうチサの寝癖は直っておるのじゃ!」


「はいはい、チサ、代わってやれ」


「……しゃあないなぁ」


 チサは瑞希から櫛を受け取り、瑞希はシャオの櫛を受け取る。

 長い銀髪のシャオの髪は滑りも良く、櫛が引っかかる事もないのだが、当のシャオは髪の毛が程良く引っ張られる感覚と、頭皮に軽く触れる櫛の感触が絶妙に心地良いのか、毎朝、毎晩瑞希にブラッシングをされている時は自然と顔が綻んでいる。


 そんなシャオの幸せな時間はいつもより早く切り上げられた。


「いつもより短いのじゃっ!」


「オリンさんが急用だって言ってるからな。それにシャオの髪は櫛を通さなくてもいつも綺麗だって」


「ぐぬぬ……」


 ブラッシングが短い事で憤慨しながらも、瑞希に髪を褒められた事に嬉しさもあり、シャオは何とも言えぬまま唸り声を上げる。

 瑞希はそんなシャオをさておき、さっさと寝間着から普段着に着替えると、部屋の扉を開けた。


「お待たせしました。案内をお願いします」


 使用人は頷き、シャオとチサもいつの間にか普段着に着替えて、瑞希の後に付いて行く。

 瑞希が案内された部屋には既にオリンとムージ、ミミカとアンナに加え、カエラとドマルが席に着いていた。

 そしてその視線は瑞希が登場した事により、一斉に集まり、寝起きでボサボサ頭のミミカの泣きそうな顔が瑞希の印象に残るのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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