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シャオの企みと想定外の出来事

 会場に戻った瑞希達に駆け寄って来たのは、アンナとグランだ。

 アンナは焦りながら、グランは怒りながら瑞希に詰め寄る。


「ミズキ殿! あの女性は何者なのですか!?」


「ミズキ! 貴様はどういう立場でここに来ているのか忘れていないだろうな!?」


「もうフィロが何かしでかしたのか……ジーニャかチサはどうしたんだ?」


 瑞希はジーニャとチサなら事情を知っていると思い、二人に尋ねた。


「ムージ様が連れて来た女性を口説いていると、二人がムージ様に、連れて来た女性は男だと伝え、その言葉に怒ったムージ様は女性を庇って言い合いを……」


「懇親会とはいえ、侍女であるジーニャや、平民のチサが戯言を言ったというのが気にくわなかったムージ様と、その二人を庇おうとミミカ様が間に入ってだな……」


「何やってるのかしらあの子……少し痛い目を見せなきゃいけねぇな」


 瑞希と共に話を聞いていたクミンは、瑞希の肩に手を置き、フィロの元へと向かう。

 これまでもムージの面倒事に立ち会って来ていたオリンは何度目かの溜め息を吐き、クミンの後に付いて行く。

 アンナとグランはクミンの姿にぎょっと驚きながらも、瑞希に尋ねた。


「貴様……まさか……そっちの気が……」


「あほかっ! フィロもクミンさんもこの街で知り合った人だっ! 良いから俺達も止めに行くぞ!」


 瑞希達はミミカの元へと走って行く――。


◇◇◇


 瑞希達の到着を待つ会場では、ムージがフィロを庇い、ミミカはチサとジーニャを庇いながら言い争いを続けていた。


「貴方はうちの者達が嘘を吐くとでも言うのですか!?」


「お前こそこの可憐な女性を男だと言うのか!? ここに居るどの女性よりも美しいだろうが!?」


「あ、あの、ムージ様?」


 フィロは自分が思ったよりも大事になった事に焦りを覚え、ムージを制止しようとする。

 そんなムージはフィロに良い所を見せようと思っているのか、それともミミカと単純に反りが合わないのか、ミミカに対して辛辣な言葉を告げる。


「大体、貴族の女子ともあろうものが慎みはどうした? それに比べてこの女性を見てみろ。淑やかで慎ましく、女性らしさも兼ね備えているではないか」


「その女性らしさという物がどこを指しているかはさておき、貴方こそ貴族の男子として紳士さにかけるのではないですか? 女性を比べる等、貴族として、紳士としてあるまじき姿だと思いますわ」


「……確かにミミカちゃんはまだ成長中やもんな……」


「カエラ様っ!」


 ミミカとフィロの胸を見比べながら苦笑するカエラに、ミミカが一喝する。

 フィロはと云えば、どう収集をつけるべきか考えている中、視線の先に走り寄って来た瑞希の姿を見つけ、思わず声を上げてしまった。


「ミーちゃん!」


「「ミーちゃんっ!?」」


 ミミカとムージはフィロが叫ぶ瑞希の渾名に反応し、思わず声を合わせ視線を瑞希に向ける。

 そして、二人の矛先が瑞希に向かうと同時に、クミンは指を鳴らしながらフィロを捕まえる。


「フィロ、来る前に騒ぎは起こすなって言っておいたわよね?」


「ち、違うのお姉様! フィロはここ迄大事にするつもりじゃ……違うのぉ~!」


 クミンに顔面を掴まれ持ち上げられるフィロは、じたばたと動きながら言い訳をする。


「クミンさん! 一先ずフィロの御仕置きは誤解を解いてからでお願いします!」


「ちっ、フィロ、逃げんじゃないわよ?」


 クミンはムージが剣に手を掛けているのを確認すると、フィロを下ろし、フィロは凄い早さで頷く。


「ミズキ様!? この方とはどういう御関係ですか!?」


「ジーニャかチサから聞いてないのか? ギルドの依頼で助けた冒険者の男だよ」


「おと……「何を訳の分からん事を言っているんだお前はっ! この子のどこが男だっ!」」


 瑞希の言葉にミミカを押しのけムージが剣を抜き、瑞希の前に突き出す。

 瑞希は一歩後ろに下がり、間合いを取ると、ムージに説明を始める。


「見た目はこんなんですが、こいつは間違いなく男です。フィロ、埒が明かないからここに居たいならさっさと証拠を見せて差し上げろ」


「しょ、証拠……ですか……?」


「その胸も作り物だろ? それを取り出すだけでも……うおぉ!?」


 瑞希がフィロに話しかけている途中に、ムージは瑞希に向け横薙ぎに剣を振るう。

 先程間合いを開けていた事もあり、瑞希に当たる事はなかった。

 勿論ムージとて牽制のつもりで仕掛けたのだが、その切っ先は近くにあったグラスを弾き飛ばし、グラスの割れる音が鳴り響く。


「ムージっ! 好い加減にしろ!」


「好い加減にするのはこいつの方だ! 今なら許してやるから虚言を吐いた事を撤回しろ」


 瑞希はその言葉も含め苛立ちが募っていた。

 そして、その言葉を皮切りに言い返してしまう。


「貴方こそ人の婚約者に暴言を吐いた事を謝って貰えませんか? この場は懇親会だと言っているのに、その馬鹿のせいで台無しにするつもりですか?」


「俺は忠告したぞ?」


「私達もその馬鹿は男だと再三伝えましたよ?」


「ミ、ミーちゃん……」


「があぁっ!」


「お兄ちゃんっ!」


 フィロが瑞希を止めようとした声を切っ掛けに、ムージが瑞希に斬りかかる。

 ムージの行為を目で追ったアリベルが瑞希を呼ぶが、瑞希はムージの行動が読めていたのか、腰に差していた剣を抜き、上段から斬りかかられた剣を受け流した。

 ムージは勢いが殺される前に瑞希に向け蹴りを繰り出すが、瑞希は剣から片手を離し、空いた手で蹴りを叩き落とすと、ムージが構え直した剣に向け、力を込めて横薙ぎに剣を振るう。


 その刀身はわずかに青く光り、ムージの剣は綺麗に切れた。


「馬鹿なっ!? この剣は名工の剣だぞ!?」


 ムージが驚く中、瑞希は苛立ちの原因である、フィロに向け剣を振るう。

 フィロの胸はパックリと開き、中に詰めていたものがぼろりとこぼれ落ちた。


「これでわかりましたか? こいつはまぎれもなく男です」


 瑞希はフィロの開いた胸をムージの前に突き出すと、ムージは慌てふためいた。


「そ、そんな……この見た目で男だと!?」


「だから何度も言ったでしょう? クミンさん、フィロの御仕置はきつ~くお願いしますね?」


 瑞希はにっこりと微笑みながらクミンにフィロを引き渡す。


「ちょ、ちょっと待って!? ミーちゃん、ミーちゃん!?」


 クミンは瑞希に向け親指を立てると、フィロを連れて闇の中へと消えていき、瑞希は剣を納めながらムージに語り掛けた。


「ムージさん。いくらあいつが好みの見た目だったとしても、この状況をどうするつもりですか?」


「ムージ……お前が女性絡みで騒ぎを起こすのはこれで何度目だ?」


「い、いや待て! あの見た目で男と思う方がどうかしている!」


「カルトロム家の男はいつも女で痛い目を見てるのだからそろそろ学べっ!」


「最低……」


「最低っす……」


「最低やな」


 言い争いの場にいたミミカ、ジーニャ、カエラが見下すような視線をムージに向ける。

 チサは瑞希がムージの剣を切り、懲らしめたので満足が云った様だが、シャオは当然そんなに甘くはない。

 辺りに冷気が渦巻き、大きな氷塊を上空に生み出した。


「ミズキに襲い掛かる輩は死で償うのじゃな」


 とても冷徹な視線をムージに向けるシャオに瑞希がいつもの様に慌てて止めに入る。


「待てシャオ! やり過ぎだって!」


「こやつは先程の剣に殺気を込めておったのじゃ。冗談で済む話ではないのじゃ」


 いつもの怒り方ではないと悟った瑞希は焦った様子で、ミミカに声を掛けた。


「ミミカっ! あの氷塊に向けて炎を頼む!」


「は、はいっ! 我望むは……」


 ミミカが詠唱をする中、氷塊はムージに向け、ゆっくりと落ち始めた。

 辺りからはこの後に訪れるであろうムージの悲劇を想像した者から悲鳴が響き渡る。


「シャオお姉ちゃん駄目ぇー!」


 そう叫ぶアリベルから、高熱の火球が生み出され、氷塊にぶつかる。

 轟音と共に水蒸気が生まれるが、氷壁はまだムージを潰すには充分な大きさを保っている。

 二つの魔法が拮抗する中、詠唱が終わったミミカが加勢する。


「――大火を以て焼き払えっ! エンディードルっ!」


 以前バランに向けて放たれた炎の魔法がぶつかり合う魔法に加わり、シャオの出した氷塊は蒸発し消え失せると、辺りには霧が舞う。

 にやりと笑ったシャオの一連の行動に気付いた瑞希は、傍から見ればシャオを叱るために詰め寄り、シャオの肩に手を置いて言い放った。


「光球っ!」


 瑞希が言い放つと同時に上空は明るく輝き、その空には美しい虹がかかる。

 その美しさのおかげか、はたまた状況を理解出来ていないのか、会場に居る者達は口を開けながら虹を眺めていた。


「え〜……という訳で、私達からの出し物を楽しんで頂けましたでしょうか!?」


 瑞希が言葉を発した事で、虹を眺めていた者達の視線は瑞希に集まる。


「実はオリンさんから、度重なるムージさんの尻拭いの仕返しをしたいと持ちかけられまして、私達の紹介も兼ねて驚かせようという話だったんです! ねぇオリンさん!?」


 瑞希はオリンに目配せをすると、オリンは襟を正し、口を開く。


「皆を楽しませてこその宴会だ。ミズキ殿達が面白い魔法を使えるという事なので披露して貰った! 皆楽しんでくれた様でなによりだ! 素晴らしい演技力と美しい魔法を披露してくれた彼等に盛大な拍手を!」


 オリンがそう締め括ると、会場からはわれんばかりの喝采が飛び交う。

 瑞希はシャオを肩車し、アリベルとミミカの元に近付くと、二人の手を取って大きく上に上げる。

 何とか誤魔化し切れたと、安堵の表情を浮かべる瑞希に、怒りの視線を向ける大人びたアリベルの姿がそこにはあった――。

 

 

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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