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クミン・ガーレンとムージの誤解

 この街で瑞希の名を渾名で呼ぶのはフィロしかいないと分かっている瑞希は、シャオの手を握り光球を生み出し、慌てて兵士達の元に向かう。

 するとそこには綺麗なドレス姿のフィロと、真っ赤なドレス姿の魔石屋の店主が、荷物を抱え連行されていた。

 瑞希がその出で立ちを見て、顔を引きつらせていた所、遅れてやって来たムージとオリンもその姿を見て呆気に取られていた。


「待て……ちょっと待て……」


 瑞希は手を前にやり、言葉を纏めようと制止を求めるが、ムージは即座に言葉にする。


「この化け物はお前の知り合いか?」


「ほら言ったじゃない。やっぱり赤いドレスの方が良いのよフィロ」


「だってそれだとお姉様との差が縮まらないじゃないですかー!」


「お前の事だ! こんな可憐な子を化け物呼ばわりするかぁっ!」


 ムージは店主を指差しフィロを可憐と言い表す。

 オリンは頷き、瑞希は二人を見て思わず吹き出してしまう。


「あぁっ!? 誰が化け物だって!?」


 店主は兵士の制止を振り切ろうとするが、サルーシ兵も槍を手に持ち店主をなんとか抑える。


「待って下さい! 俺の客人で間違いないので離してください! 店主さんも堪えて!」


「ちっ! 次会ったら覚えてろよテメェ」


「何なんだこいつらは!?」


「魔石屋の店主さんで名前は……そういえば聞いてなかったですね」


「クミン・ガーレンよ貴方達にはバッコの弟子と言えば通じるかしら?」


「バッコ……王家が懇意にしていた鍛冶士のバッコ・ベード様ですか!? あの方は今お元気なのですか!?」


「それはこの子に聞いて頂戴。私はどこにいるかも知らないわ」


「え? バッコさんてそんなに有名な方なんですか?」


「貴方知り合いなのですか!? 彼は今どこに!?」


「今は金具屋をしてますよ? 鍋とか調理器具はバッコさんの店で買いました」


 オリンは瑞希の回答を聞いて、立ち眩みを起こす。


「バッコ・ベード様が武具ではなく調理器具なんかを……今いる若い貴族からしたらバッコ様の剣や鎧というのは喉から手が出る程欲しい物なのに……」


 オリンの言葉に少し苛立ちを感じた瑞希が言い返す。


「バッコさんが作った鉄鍋を始め調理器具は、今も大事に使ってる俺の相棒達です。調理器具を武具より下に見る発言は止めて貰えませんか?」


「ふん。貴方はバッコ様の武具の価値を知らないからそんな事が言えるんですよ。バッコ様が打った武具を持てるのは貴族の中でも一部の人間だけなんですよ? 魔鉱石の扱いに秀でていたあの方は独自の鍛冶で打ち、剣を打てば魔力を巡らせやすく、鎧を打てば魔法を軽減する鎧を作る。あの方の作る武具は剣士として是が非でも手に入れたい逸品なのですよ……。私達若い貴族や剣士からすれば憧れなんです」


「あんた達は師匠を神格化しすぎなのよ。そのせいでカーテルや私が作った物ですら師匠の作品だと勘違いしてたぐらいじゃない?」


「それは剣の才能がない者が手当たり次第集めるからです! バッコ様が打った物なら一目見れば……」


「良い? 剣にしろ道具にしろ、大事にすれば使い手の魂が宿るわ。私達製作者が作っただけで道具が完成するわけじゃないの。いえ、むしろ私達製作者は使い手が宿らせる魂や想いを尊重するわ。数打ちの剣でも使い手が良ければ魂が宿るものよ」


 オリンはクミンの言葉にばつが悪そうにするが、瑞希はクミンがオリンに述べた職人としての在り方を聞き、何度も頷く。


「それに、あんた一目見ればと言ったけど……」


 クミンはチラリと瑞希に視線を送る。


「いや、良いわ。私はこの子に頼まれていた物を届けただけだしね」


 クミンはそう言うと瑞希に包みを手渡す。


「ローブは少し大き目で良かったのよね?」


「はい。チサは成長期ですからまだまだ大きくなります」


「そう。良かったらその子を一目見たかったけど、この状況なら無理そうね」


 クミンは取り囲む兵士を見渡すと、肩をすくめた。

 だが、フィロは諦めきれない様だ。


「えー!? ミーちゃんに会いに来たのにもう帰るのぉ!?」


「いや、お前は呼んでないから。クミンさんは良かったらチサに会って行って下さいよ? オリンさん、少しぐらい構いませんよね?」


「ふざけるなっ! 貴様、婚約者という者がありながら、この様な女性まで歯牙にかけ、あまつさえこの様な扱いをするなど何様だっ!?」


 瑞希の質問に答えたのはオリンではなくムージだ。

 フィロはムージの言葉を聞いて何を思ったのか、顔を覆い崩れる。


「ミ、ミーちゃんに婚約者がいるなんて私……そんなの知らなかった……」


「くそがっ! 貴方が泣く必要はない。俺達は今食事中なんだが、良かったら一緒に食べないか? 珍しいダークオークの肉を食べているんだが」


「良いんですか? 今帰れと言われたのですが……」


「この男の言う事など気にしなくていい。貴方の様な女性が居れば場も華やぐというものだ」


 ムージはフィロに手を差し伸べ、フィロはその手を取りムージと共に案内される。

 瑞希とシャオだけに見えたフィロの横顔は、薄っすらと微笑んでいた。


「おい、ムージっ!」


 オリンがムージに静止を求める様に声を掛けるが、ムージは振り返る事なく片手を上げる。

 溜め息を吐くオリンに瑞希が話しかけた。


「あの……オリンさん」


「カルトロム家の男児はなぜああも手が……何ですか?」


「誠に言いにくいのですが……ムージさんが連れて行った野郎ですが……」


「野郎? まるであの女性が男みたいな言いぐさですね」


「みたいじゃなくて男です。こちらのクミンさんも……」


「その方は見ればわかりますが……冗談でしょう?」


「本当です。あいつはフィロって名前の冒険者で、男です。というか何であいつまでここに来てるんですか?」


「私が商品を届けるって言ったら付いて来たのよ。悪い子じゃないけど、何かしでかしたら私が責任を持って〆るわ」


 クミンはそう言って太ましい二の腕に力こぶを作る。

 オリンは二人の言葉を信じられないのか、未だに困惑していた。


「あの……ムージさんを止めなくて良いんですか?」


 オリンは大きく溜め息を吐く。


「良い薬になるでしょうし、ほっときましょう。クミンさん、先程は失礼しました。宜しければ私に武具の事についてを御教授願えませんか?」


「あら? 殊勝な心掛けね。素直な子は嫌いじゃないわよ?」


 クミンはオリンにウィンクをするが、背筋に走る悪寒を表には出さず、兵士達に指示をすると、クミンを会場へと連れて行く。

 どうにか丸く治まった事に瑞希は胸を撫でおろすのだが、この後会場で起きる一騒動を知る由も無いのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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