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魔石と女装の意味

 工房に案内された瑞希達は、ずらりと並ぶ魔石とローブの種類、そして屈強そうな体の女装子達の姿に顔を引きつらせていた。


「化け物の巣窟なのじゃ」


 シャオはその光景を一言で纏めた。


「「「あぁん!?」」」


「こらシャオっ! この人達だって綺麗になろうとはしてるんだぞ!?」


「結果が化け物なのじゃ」


 シャオの言葉に腹を立てた男達はシャオの姿を見るや否や苛立ちよりも可愛さに目が行った。

 ぱっちりとした目、美しい銀髪、可愛らしい口に、瑞希にセットされた本日の髪形は三つ編みとリボンを組み合わせた物だ。

 

 その姿を見た男達は悔しそうにハンカチを噛むが、ローブやリボンなど、シャオに似合いそうな物を手に持ち集まって来る。


――やっぱり! このローブなら良いんじゃない?


――リボンと合わないわ! こっちのローブよ!


――この指輪はどうかしら?


 男達は可愛い物に目がないのか、シャオに似合うローブ等をコーディネートしようとしていた。

 ますます顔を引きつらせる瑞希を尻目に、店主は大きく手を鳴らし、男達を止める。


「この子達は私の客よ! あんた達は持ち場に戻りなさい!」


 店主がそう告げると、女装をしている男達は持ち場へと戻って行く。

 瑞希はどうしても気になったのか店主に尋ねた。


「あの、何でここの人達は皆……その、女装をしているんですか?」


「私の仕事はね。男よりも男らしく、女よりも女らしくを心がけているの。男の象徴は筋肉、女の象徴は繊細さだと思っているわ。だからこそ、加工技術に繊細さが足りない男達には女装をさせているの」


「じゃあ、貴方やフィロが女装をしているのは?」


「あの子は仕事で男になったり女になったりするからね。私は趣味よ」


「趣味……ですか……」


 瑞希はここに居る人達は、嫌々女装をさせられたのが、いつの間にか好んで女装をする様になったんだろうと、一人納得してしまう。

 中には、しなを作っている男性までが見受けられるからだ。


「ほら、ここに座りなさい。ショウレイを使う魔法使いの話を聞かせて貰えるかしら?」


 瑞希はチサの話を店主に伝える。

 魔法の使い方や、ショウレイの特徴等だ。

 そしてローブも欲しいと伝えると、話の合間にシャオの背丈よりも少し大きめのローブを部下の男を使い型を取る。


「――という感じです」


「間違いなくショウレイね……だとすると、魔石は水の魔石で杖型の方が良いわ」


「指輪や腕輪では駄目なんですか?」


「駄目って事はないけど、魔石を大きくしないといけないから、見た目が不細工になるのよ」


「ショウレイ使いが魔石を使うとどうなるんですか?」


「ショウレイを顕現させる時間を短くしたり、同じ威力の魔法を使う時に消費魔力が少なくなるのは同じよ」


「へぇ~、ショウレイでもそんな事出来るんですね」


「純度の高い魔石を使えば……だけどね」


 店主はそう言うと席を立ち、棚から青い魔石を取り出すと、瑞希に手渡した。


「これを加工して杖にするの。そこまで大きくはないから子供でも使える重さになるわ。魔石をショウレイの部屋にするのよ」


「お爺さんも杖を使ってたのじゃ」


「シャオの爺さんって火のショウレイを使ってたんだよな?」


「言っとくけどショウレイ魔法って本当に珍しいのよ? 私も滅多に受けない仕事なんだから」


「杖しか無理なんですか?」


「アクセサリーにする魔石より大きくする必要があるから、見た目を考えると必然的に杖になるわね。もちろん普通の魔法使いでも杖を使う人は居るけど、それは純度の低い魔石を大きさで補ったり、単純に魔力が少ない人は大きな魔石を使いたいって人もいるわ」


 瑞希は話を聞く内に気付いた点を聞いてみた。


「という事は、純度の高い魔石というのは値段が高くなるという事ですよね?」


「話が早いわね。その通りよ。この魔石で金貨二十五枚はするわね」


「二百五十万コルか……じゃあそれでお願いします。杖の加工費と合わせると金貨三十枚に届くぐらいですか?」


「即決して良いの? 私が嘘を吐いてるかもしれないじゃない?」


「ん~……信じる理由として一つ目はさっき手に触れた時に職人の手をされていました。二つ目はヒアリーが常連という事、三つ目はバッコさんの弟子だという事。知り合いの少ない俺からしたらこれ以上ないぐらい安心できる人です」


 瑞希は店主の前で指を三つ立てながら、店主を信じる理由を並べる。

 店主としても己の見た目が人からどう思われているかは知っているが、瑞希は見た目については全く触れていない事に驚いた。


「私が男なのに女みたいな仕事をしている事はどうでもいいの?」


「男だとか女だとかでやる仕事は決まらないでしょ? それなら俺も男なのに料理人をしています。外見で仕事振りを判断する理由にはなりませんよ」


 瑞希は照れ臭そうに述べる。

 店主は瑞希の照れた顔を掴むと、瑞希の頬におもむろに唇を押し当てた。

 吸引する音が響き渡ると同時に、咄嗟の事で回避できなかった瑞希が我に返り、慌てて店主を押し離した。


「何するんですか!?」


 瑞希の頬は真っ赤な口紅が付いている。


「殺る……殺ってしまうのじゃ……」


 シャオは怒りのあまり、静かに呟きながら魔力を込める。


「あまりに可愛かったからつい……ね? ちゃんとサービスもするからお嬢ちゃんもその魔力は納めなさいな」


「許さんのじゃ! ミズキの頬が穢れたのじゃっ!」


「こんなに素敵なお兄さんがいるなんて羨ましいわ~。それに御料理も美味しいんでしょ?」


「むぐ……ミズキの料理は美味いのじゃ……」


「良いわね~! お嬢ちゃんはどんな料理が好きなの?」


「わしはミズキの作るどーなつとはんばーぐが好きなのじゃ」


「どんなお料理かしら? 聞いた事もないから分からないけど、お嬢ちゃんの顔からしたら、すっごく美味しいんでしょう?」


「無茶苦茶美味しいのじゃ! はんばーぐは柔らかくジューシーで、どーなつは香ばしくて甘くて……」


「格好良くて、可愛いくて、魔法も剣も使える、料理上手なお兄さんがいるなんて羨ましいわ~」


「くふふふ! そうじゃろそうじゃろ!」


「(まるめこまれてんじゃねぇか……)」


 瑞希は頬を拭きながら、店主に丸め込まれるシャオに心の中で突っ込みを入れるが、怒り狂うよりかは良いかと眺めている。

 店主は上手くいったと言わんばかりに、瑞希にウィンクをするが、瑞希の背筋には悪寒が走る。


「じゃあお姉さんは今から仕事をするわね。さっきのお詫びに急いで作るから今日中に届けるわ。どこに届ければ良いかしら?」


 瑞希は届け先を城に指定するが、店主は驚く様子もない。

 どうやら既に瑞希とシャオは、店主からすれば相応の人物という認識になっていた様だ。

 瑞希は店主を信じ先に金を手渡し、城に戻ってダークオークの調理に取り掛かるのであった――。

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