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強烈な印象と複合魔法

 フィロに案内され、魔石を扱う店に着いた瑞希達。

 ジュメールの街の大通りからは外れ、人通りも悪そうな場所にその店はあった。

 フィロは店の扉をノックし、そのまま扉を開けて店に入る。

 瑞希とシャオもフィロに連れられるまま店内に入るが、店の中には誰も居ない。

 店頭には商品らしい物もなく、清掃された受付だけの空間になっていた。


「ここは注文を受けてから作るから、店頭には商品が並んでいないの。お姉様~! フィロよ~!」


――はぁい! 今行くわ~!


 フィロは瑞希の疑問に気付いたのか、店の説明をしてから、店主を呼ぶ。

 店の奥からはお姉言葉の野太い声が返って来た事に瑞希は嫌な予感がしていた。

 店の奥に繋がるであろう通路から、重たそうな足音が近づいて来ると、現れたのは筋肉を搭載している体に、おかっぱ頭の髪形、そして真っ赤な口紅を塗りたくった、濃い化粧をした男だった。


「お姉様! お客様を連れて来たわよ!」


「久々に顔を見せたと思ったら……相変わらず不細工ねぇフィロは。お客様ってのはそっちの……ふぅん……?」


 男は瑞希の足元から頭までを舐める様に見つめる。

 瑞希は背筋に悪寒を走らせながらも、じっと男の行動を我慢する。


「あら~良い男じゃなぁい? フィロの男?」


「んふふ。実はそう……「そんな訳あるかぁ!」」


 ついに我慢の限界に来た瑞希はフィロの頭に突っ込みを入れる。


「お前マジで好い加減にしろよ!?」


「ひどいわ!? いくら愛があっても痛いものは痛いのよ!?」


 その言葉にさらに怒りを覚えた瑞希だが、それ以上に妹の怒りを買った様だ。

 シャオはフィロを覆う様に鋭い氷柱を現すと、フィロに告げた。


「それ以上戯言を続けるなら……殺るのじゃ」


 その威圧感にごくりと唾を飲み込むフィロだが、すぐさま瑞希が止めに入る。


「やるなあほー! お前の沸点も低すぎるだろ!?」


「わひはわるふないのひゃー! こやふがふやけたことをひゅうはらひゃー!」


 シャオは瑞希に頬っぺたを伸ばされながらも、言葉を続けた。

 シャオはしぶしぶ魔法を解くと、瑞希に引っ張られていた頬っぺたを両手で押さえ、瑞希はシャオの頭に手を乗せ撫でる。


「やっぱりお嬢ちゃんもすごい魔法使いなのね~。お兄ちゃんも凄いけど、あんたも大概ね」


「こ、殺されるかと思ったわ……」


 魔法と威圧感を解かれたフィロは肩で息をし、冷や汗を掻いている。


「フィロもあんまりからかうな。うちの妹は冗談が通じないからな?」


「フィロ……ミーちゃんがフィロって呼んでくれたわ……」


「駄目だこいつ……」


 遠くを見つめ呆けるフィロに、瑞希はげんなりとした様子で諦めた。


「フィロが私の店に連れて来たって事は魔石よね? それともローブかしら?」


 店主の男もフィロの様子に溜め息を吐きながらも、瑞希に尋ねた。


「値段によりけりですが、どちらもですね」


「ふぅん……ちょっと貴方、手を見せて貰えるかしら?」


「え? あ、はい……」


 瑞希が店主に掌を差し出すと、店主はその手を取り、両手でべたべたと触りまくる。

 そしてその手は手から肩、胸、腰、そして股間へと移って行く所で瑞希の我慢の限界が来た様だ。


「ちょちょっと!? 何処まで触ってるんですか!?」


 瑞希は店主の手を掴むと、そのまま払い除ける。


「あら、ちょっとぐらい良いじゃない?」


「必要なら仕方ないですけど、買いたいのは俺のじゃないので意味ないですって!」


「あらそうなの? まぁ筋肉の付き方も魔法使いっぽくないし、貴方は良い魔鉱石を持ってるみたいだしね……貴方、どうやってその剣を手に入れたの?」


 店主はそう言うと、瑞希の腰に付けている剣をチラリと流し見する。


「どうやって? 元々はキーリスで打って貰った剣を別の方に手直しして貰っただけですよ?」


「へぇ~あの師匠がね……師匠は元気にしてた?」


「元気でしたけど……師匠? バッコさんの弟子だったんですか?」


「昔ね。でも私は剣を打つより魔石を加工する方が才能があったのよ。私もそっちの方が好きだしね。師匠は男のくせに変わった奴だって言ってたけど、邪険にはせず魔石や魔鉱石の加工を教えてくれたわ」


「わははは、俺も男の癖に料理人をしてるのが変わってるって言われましたよ。でもバッコさんは変わってるとは言いましたけど、馬鹿にはしませんよね。俺の料理も美味しいって言ってくれましたし」


「そうなのよ。まぁあの人自身も変わり者だからね。それよりあんた料理人なの? 見た所魔法も剣も使える様だけど?」


「何かあった時の為に剣も魔法も使いますけど、本業は料理人です。バッコさんにも最初は調理器具を作って貰うのに知り合いましたからね」


 瑞希は笑いながらバッコとの経緯を語る。

 しかし、店主はその話がどこか嬉しかった様だ。


「……師匠に調理器具を依頼するのなんて貴方ぐらいね。良いわ。気に入った! フィロの紹介ってのもあるけど、男だとか女だとかで仕事を選んでないのも好きよ。どんな魔石が欲しいの? ちなみにお値段はそれなりにするわよ?」


「良く分からないんですが、魔石と魔鉱石は違うんですか?」


「魔石は発動させる魔法を増幅、形成する物で、魔鉱石は魔力を込めると変化を起こす物ね。魔鉱石のインゴットは見た事があるかしら? あれは魔力を帯びた鉱石から精製するけど、魔石は自然由来の物をそのまま使うのよ。だから基本は得意系統の魔石を選ぶの。魔鉱石は魔力を込めれば良いから系統は必要ないわ」


「はぁ~成る程。なら知り合いの魔法使いは水系統が得意だから……」


「水系統ならこういう魔石を使うわ」


 店主はポケットから青い魔石を取り出し、手渡した。


「綺麗ですね。それに冷たい?」


「魔石を通して指先ぐらいの小さな水球を出せる? わかりやすい様に無詠唱で出してみなさい」


「小さな水球……これぐらいかな? おぉ!」


 シャオの頭に手を乗せたまま、魔石を通すイメージでビー玉ぐらいの水球を出そうとした瑞希の指先には、野球玉ぐらいの水球が浮かんでいた。


「消費する魔力はそんなに変わってないでしょ?」


 店主はそう言うのだが、普段から無詠唱でばかすか魔法を使う瑞希は体内から魔力が減った感覚を感じない。


「……違いがわからん」


「「はっ?」」


 遠くを見つめていたフィロと、店主が、瑞希の言葉に驚く。


「どういう事? 貴方の魔力量が多いのは入って来た時に分かったけど、自分の魔力なんだからわかるでしょ?」


「いや~……自分の魔力って未だに分からないんですよね。詠唱も普段からしてないですし……料理の時はもっとややこしいイメージで使ってたりするんですけど……」


「ミーちゃん? 普段どういう魔法を使ってるの?」


「普段はイメージして調理する時に使ってるぞ? こんな風に……」


 瑞希はハンドブレンダーの様な風魔法や、洗濯をする時の水魔法、料理をする時の火魔法を代わる代わる次々と掌に出現させる。


「後は治療魔法を使ったりかな?」


 瑞希は自身の良く使う魔法を確認しながら頷くが、その光景を見ていた二人は驚きを隠せない。


「貴方そんな使い方をして魔力量は大丈夫なの!? 無詠唱で複合魔法だなんて!」


「複合魔法? 魔力量は元々多いみたいなので特に問題はないですね」


「ミーちゃん……素敵……やっぱり私の王子様……」


 うっとりと呆けるフィロだが、その言葉に瑞希は嫌そうにしている。

 店主はそれを知ってか、フィロに告げる。


「フィロ、あんたもう邪魔だから仕事に戻りなさい。風の魔石を取りに来たんでしょ?」


 店主はそう言うと、フィロに腕輪を手渡す。

 呆けるフィロの頭に腕輪がぶつかると、フィロは我に返ったのか、腕輪を拾い上げる。


「それと、さっきギルドにあなた好みの仕事が入ったみたいだからちゃんと受けて来るのよ」


「はぁい……ミーちゃん、寂しい思いをさせるけど……「さっさと行けっ!」」


 瑞希はフィロに全てを言わせる前に店から追い出した。

 フィロの得意とするギルドの仕事が何かに感づいているからだ。


「これで静かに話せるわね」


「あいついつもあんな感じなんですか?」


「やぁねぇ。惚れた男の前だけよ。前に惚れてたのはカインって言ったかしら。うちの常連のパートナーの男なんだけど、その時は魔石の試し打ちに使われてたわ」


「ヒアリーならやりそうだな……」


「あら? 知り合い?」


「二人共友人です。キーリスの方で世話になりました」


「世間は狭いわねぇ。なら、貴方ヒアリーの魔法は見た事あるでしょ?」


「ありますね。足元から火柱が出たり、火が絡みついたりする魔法ですよね?」


「そうね。それが複合魔法って言って元となる火魔法に、風魔法を混ぜて火力を上げているの。単純な火魔法なら火球にしたり、垂れ流しになったりするでしょ?」


「あぁ、成る程」


「あの子は元々火魔法の才能の方が強いからね。風魔法は魔石で補っているのよ。さっきも言った様に基本は特性に合った魔石を使うけど、ヒアリーみたいに苦手を補う考えの子もいるわ。それは人によりけりね。魔石を使う子は水魔法が得意なのよね?」


「水魔法が得意で、ショウレイを使います」


「ショウレイって……天才の周りには天才が集まるのかしら……」


 店主はぼやきながら、瑞希達を手招きしながら工房へと案内するのであった――。

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