確信の再会
夕方に差し掛かる頃、冒険者ギルドではざわざわとどよめきだっていた。
その理由は当然瑞希であり、ジュメールの冒険者が成し得なかったダークオークの納品をしたためだ。
瑞希はジーニャとチサ、それとダークオーク一頭を先に城に下ろすと、冒険者達と共にギルドに訪れた。
その道中に美顔の冒険者は寄る所があると、先に馬車を下りていった。
ギルド内の個室では瑞希とシャオ、依頼をお願いした職員がソファーに腰を掛け、会話をしている。
「毛皮と肉の鑑定が終わりました。間違いなくダークオークです。それにベノムタラテクトとギガントレントの確認も取れました」
「良かった。冒険者の人数も多かったので、馬車を軽くするために解体しましたが問題なかったですか?」
「はい! 毛皮もありますし、問題はないかと思われます! でもどうやってダークオークを見つけたんですか? ダークオークは人間の気配を感じると逃げると言われているのに……」
「え? ……まぁ偶々出くわしたんですよ」
瑞希は頭を搔きながら、チサが動物に囲まれながら移動していたのが、逆に良かったのかと納得する。
「ダークオークもですが、こっちの魔物もですよ! 普通は銀級冒険者が束になるか、白銀級冒険者が何名か必要な魔物ですよ! うちの冒険者達が行方不明になっていたのも納得です」
「その場にいた人達しか助けられていませんが……」
「冒険者は危険が付きまとう職業ですから致し方ありません……。キリハラ様が助けてくださった方々だけでもありがたい話ですので」
「そうですか。そう言って頂けると助かります」
瑞希とて助けられる命は助けたいが、どうにもならない事もある。
職員の話しぶりから察するに、連れ帰った冒険者と行方不明になっている冒険者の数は一致しないのだろう。
会話の区切りに妙な間が生まれた瞬間に、シャオの腹がなる。
「ミズキ、終わったのじゃったら早く帰るのじゃ! 今日はダークオーク料理なのじゃ!」
「もしかしてまだあるんですか!?」
「ダークオークは二頭居ましたので、一頭はこちらで貰います。元々私達の目的は肉でしたからね」
「ダークオークを二頭も狩って、ベノムタラテクトに……ギガントレント……。あの、キリハラ様? 昇級を掛け合いますので、こちらのギルドに所属して頂く事は……」
「出来ません。昇級に興味はありませんしね」
「そんなぁ~……」
がっくりと項垂れる職員に瑞希が尋ねた。
「それより、頼んでおいた情報は入りましたか?」
「キリハラ様がこんなにも早く依頼を達成するとは思っても見なかったので……」
「そうですね。私も即日で帰れるとは思ってませんでしたし……。ではそちらは引き続き宜しくお願いします」
「畏まりました。二、三日中には報告させて頂きます!」
職員は瑞希に頭を下げ、瑞希は職員から報酬を受け取りギルドを後にする。
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「思いがけない大金が手に入ってしまった……」
「くふふふ! 砂糖をいっぱい買うのじゃ!」
馬車をギルドに止めたまま、瑞希とシャオは街を散策している。
「これはチサが稼いだお金だからな。どうせならチサの為に使おうか?」
「チサは甘い物が好きなのじゃ!」
「砂糖は勿論買うよ。それ以外にも……そうだ、チサの装備を買おう! 背丈もシャオと同じくらいだし、大きさも合わせられるからさ!」
「それは良い案なのじゃ! そうと決まれば武具屋に行くのじゃ!」
「魔法使いは杖とか必要なのか? ヒアリーは何も持ってなかったよな?」
「魔石を媒介に魔力の通りを良く出来るのじゃ。ヒアリーは指輪型の魔石を使っておったのじゃ」
「指輪か……」
「その分魔石は小さくなるのじゃ。魔石の価格はわからんが、大きくするなら杖の方が良いのじゃ」
「ヒアリーが指輪で収めてる所を考えると、魔石は高いんだろうな。いや、ヒアリーの事だし動きやすさを重視してるかも。ヒアリーも短刀を腰に付けてたしな」
「チサはどうするのじゃ?」
「チサはまだ成長中だし、杖の方が良いんじゃないか? ヒアリーとカインみたいに二人で戦う訳じゃないし、後方の方が安全だしな」
「くふふふ。過保護なのじゃ」
シャオも弟子のチサが可愛いのか、瑞希がチサを大事にしているのを嬉しそうに笑う。
瑞希もその笑顔を見ながら嬉しそうに笑う。
思えばシャオが気に入った人間も増えて来た様だ。
こうやって二人で街を歩く事も慣れて来たし、当初の様に人間を毛嫌いしている様子もない。
傍から見れば手を繋ぐ仲の良い兄妹に見える二人は、楽しそうに歩いていた。
後方から視線を感じながらだが。
「ふむ。面倒臭いからやってしまうのじゃ?」
「最近シャオと手を繋いでるとより鮮明に気付くようになった気がする……」
「くふふふ。良い事なのじゃ! 味覚と一緒じゃな。最初はこれが甘い、これがしょっぱいと説明しておったのが、ミズキだけでも他人の魔力に気付く様になったじゃろ? そこにわしが手伝えばより鮮明に分かる事になったのじゃろ」
「なんか納得行った。とはいえ、後ろの奴ってあれだろ? おかまの冒険者」
「正解なのじゃ!」
「いったぁーいっ!」
どうやらシャオは正解を告げると同時に、魔法を使った様だ。
頭を抑えながら物陰から現れた美顔の冒険者は、出会った時よりも女性らしく見えた。
「痛いじゃないの!」
「こそこそと付け回すお主が悪いのじゃ。して、何の用じゃ?」
「た、偶々、歩く方向が一緒だっただけよ! それに街中で魔法を使うなんて憲兵に連れてかれるわよ!?」
「はて? 魔法など使った記憶はないのじゃ。お主が勝手に頭を抑えながら飛び出してきたのじゃ」
「そんなはずは……」
冒険者は辺りを見回すが、頭に当てられた何かは見つける事は出来なかった。
「何でよ~……」
「んで、俺達に何の用だよ?」
瑞希は溜め息を吐きながら冒険者に尋ねた。
「助けてくれたお礼をしようと思っただけよ。その前にちょっと化粧直しを……ね?」
冒険者は瑞希にウィンクをするが、瑞希はその行動にげんなりする。
傍から見れば女性にしか見えない冒険者だが、中身が男性とわかっている瑞希にとっては嬉しくない好意だからだ。
「化粧直しって……確かに綺麗になってるけどさ……」
「でしょでしょ!? すっぴんを見られた時はどうしようかと思ったわよ~!」
冒険者は瑞希の何気ない言葉を誉め言葉と受け取り、上機嫌のまま凄い早さで瑞希に近付いた。
「だぁぁ! 近いから離れろ! お礼は良いからさっさとギルドに安否報告に行ってこい!」
瑞希は抱き着こうとする冒険者の頭を抑えながら、押し返した。
「冗談よぉ! やぁねぇ!」
「絶対本気だっただろ……」
「それはさておき、助けて貰ったのに名前も名乗ってなかったわね。私はフィロ・ラーエン。銀級冒険者で、諜報活動を主にしているぴっちぴちの二十歳の女の子よ! 趣味は筋肉……「しれっと嘘を混ぜるな! それに趣味が筋肉ってなんだよ!」」
瑞希は我慢できなかったのか、自己紹介途中に突っ込んでしまう。
「筋肉の躍動感を見るのは止められないわ! この街にも前に友人のカインって冒険者がいたんだけど、その筋肉も凄かったわぁ~……横に居るヒアリーって女狐がいっつも邪魔してくれたけどね」
カインも災難だっただろうと、瑞希は心の中で同情をしていると、フィロは言葉を続けた。
「でもミーちゃんには運命を感じたわ! しなやかな筋肉から繰り出される剣筋に、無詠唱で魔法を使う魔力量! あぁ、私の王子様がここにいたのね……」
「ちょっと待て……ミーちゃんって俺か?」
「当然じゃない! ミズキ・キリハラ、二十四歳、右利きで、異例の速さで昇級してる話題の冒険者。可愛い妹ちゃんといつも一緒なのよね」
「何でそこまで……」
「あら? 私にかかれば情報収集なんて簡単よ」
「ちょっとした用事ってそれかよ……。じゃあ自己紹介も終わったし、俺達は買い物に行くからここでお別れな」
「んふふふ。魔石が欲しいなら御礼に良いお店紹介するわよ? 私も丁度買いに行こうと思ってたし」
「……どうする?」
「丁度良いじゃろ? それにミズキに危害を加える様ならわしが……やってやるのじゃ」
その『やる』という言葉にはどういう漢字が当てられるのか、瑞希は頭を悩ませながらも、フィロの申し出を受け入れるのであった――。
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