優しい味とうざい奴
「……にへへへ。甘くて美味しい」
瑞希が辺りを警戒しつつ、チサが狩ってきたダークオークの処理を行う。
シャオの魔法と組み合わせながら素早く取り行う間に、シャオは瑞希に肩車されつつ、チサはジーニャと共に馬車に腰かけながら、おやつのマンバケーキを食していた。
その味はマンバの優しい甘さを、生地の柔らかさが受け止め、先程迄の泣き顔はどこへやら、チサはニコニコと笑顔でおやつを噛みしめている。
「やっぱりミズキさんのお菓子は美味しいっすね!」
「……野菜を使ってるのに、おやつになるなんておもわんかった。それよりあの人なんなん?」
「さっき助けた冒険者の一人っすけど……なんかミズキさんの側にずっといるんすよね?」
「……綺麗な人やけど……」
作業をする瑞希の側には、美顔な冒険者が付きまとう。
ポニーテールに束ねた黒い髪と首元にスカーフを巻いているのが特徴の冒険者は瑞希の魔法の使い方に驚きながらも、その仕事に真剣な瑞希の表情の虜になっている。
「――あの? もう体調は良いんですか?」
「私ですか? おかげで元気です!」
「そうですか……所で、何でそんなに見るんですか? 何か珍しい物でも?」
「冒険者の方がここまで綺麗に処理をされるのも珍しいですし、何か意味でもあるのかと思いまして」
「あぁ……馬車の荷物を減らす為ですよ。さすがに魔物の毒が抜けてない冒険者の方も居ますし、ダークオークは捨てれないので、食べられない部分は捨てた方が良いかと思いまして。ウェリーの負担になりますしね」
「そうですか……。あの宜しければもう少し近くで拝見しても宜しいですか?」
「それは構いませんけど……あなたも冒険者ですよね?」
「私は冒険者と言っても諜報の方が得意ですし、今回はダークオークの依頼に釣られてしまいましたが、こういう仕事は普段目にしてないんです」
「諜報……あぁ、だからか」
瑞希は一人納得が云ったのか、作業を続けると、美顔の冒険者は瑞希の横にぴったりと位置付ける。
その状態を当然シャオは快く思わない。
チサもその状況に苛立ちを感じ、師弟揃って魔法を使おうかと思った瞬間、瑞希が声を出した。
「近すぎるから離れて貰えますか?」
「そうじゃ近すぎるのじゃ!」
「良いじゃないですか? こっちの方が手元が良く見えますし」
冒険者はそう言いながら瑞希の側面にしなだれかかる。
瑞希はその行為に鳥肌が立つ思いで、声を荒げる。
「だぁー! 気色悪い! もっと離れろ!」
「ひ、ひどい……」
立ち上がった瑞希に対して、冒険者は泣くような仕草を見せる。
苛立つ二人の少女はさておき、瑞希が女性に対してこの様な暴言を吐く所を始めて見たジーニャが慌てて間に入る。
「お、落ち着くっすよミズキさん!」
「え~ん、え~ん」
「あほかっ! どんな理由で女性の振りをしてるか知らんが、俺は男に興味はないっ!」
「「「……男?」」」
瑞希に男と呼ばれた美顔の冒険者は泣き真似をぴたりと止め、泣き顔のままゆっくりと瑞希を見上げた。
その顔は男には到底見えない綺麗さと可愛らしさが存在している。
「ひどい……私が男だなんて……」
「じゃあその首に巻いてるスカーフを取れよ。それに薄っすら髭が生えてるぞ?」
「嘘っ!?」
冒険者は瑞希の言葉に慌てて顔を触るが、髭後らしきものは全く見えない。
だが、その行動に瑞希以外の三人が驚いた。
「嘘つき! 生えてないじゃないの!」
「おう。でも男だってのは嘘じゃなかったろ?」
悔しそうにする冒険者に対し、瑞希以外の三人は更に驚いた。
「こ、この人この見た目で男っすか!?」
「……女性にしか見えへん」
「絶対嘘なのじゃっ!」
「嘘じゃねえって。スカーフは喉仏を隠すためだろ?」
「ち、違うわよ! お洒落の為よ!」
「まぁなんだって良い。別に女性の振りをするのに偏見はないけど、べたべたはするな。作業の邪魔だし、男と分かってる奴にべたべたされるのは嫌だからな」
瑞希はそう言うと終盤に差し掛かった作業の続きをし始めた。
残された冒険者は悔しそうにしているが、チサとシャオは瑞希に尋ねた。
「何で男だとわかったのじゃ?」
「店には色んな人が来るからな~。勿論女性になりたい男性の人だって食べに来るし、その逆も居る。色んな人を見てるからなんとなくわかるんだよ」
「……でもあの人は女の人にしか見えへんで?」
「ん~……男っぽい動きというか……そうだな、試しに二人共地面にぺたんと座れるか? こう、お尻を着けて、両足も地面に全部接する様に」
瑞希が二人に説明している座り方は、足をM字に地面に着ける座り方だ。
二人は首を傾げながらもその座り方をなんなく披露する。
「できるのじゃ?」
「……当たり前やん?」
「その座り方って男性は殆ど出来ないんだぞ?」
二人はその話を聞いて、冒険者の方に視線を向ける。
冒険者はまだ諦めていないのか、簡単に出来そうな座り方にこれ幸いと、瑞希の説明通りに座ってみせる。
「で、出来るに決まってるわよ……」
意地か、元々の股関節の柔らかさか、その座り方が出来た冒険者は二人の少女に苦痛の表情を隠しながらも笑顔を向ける。
「そんなに苦労する座り方じゃないのじゃ」
「じゃあそのまま、背中の後ろで手を組んで、体を前に倒せるか?」
「……余裕」
「出来るのじゃ!」
二人の少女はペタリと体を倒すが、冒険者は我慢しきれなかったのか、声を上げてしまった。
「無理いぃ~!」
「だろ? 男性と女性では骨盤の作りが違うんだよ。世の中には出来る男性もいるだろうけど、それは稀だろうな……よし! 解体終わり! 後は馬車に積んでジュメールに戻ろうか!」
瑞希はシャオの出した水球で手を洗うと、そのまま手を繋ぎ、地面に穴を空け、残滓を埋める。
チサは瑞希の言葉に何か引っかかったのか、瑞希の服を軽く引っ張る。
「……なぁなぁ、何で男性と女性で作りが違うん?」
「へ? それは男と女だし……」
「……だから何で違うん?」
「え~っと……」
瑞希がどう説明したものかと悩みながら、視線を泳がせると、ジーニャに目が留まる。
「それはジーニャに聞いてくれ」
「うちっすか!?」
「だって同性の方が説明しやすいだろ? 唯でさえチサは男親なんだし、いつかはそういう教育も必要だろ?」
チサは首を傾げながらも、ジーニャに話を聞く。
ジーニャも説明に困りながらもあやふやに答えていた。
「えっと……その……雄しべと雌しべがっすね……」
「(すまんジーニャ)」
瑞希は心の中でジーニャを拝みながら、毛皮と内臓を取ったダークオークを馬車へと積み込む。
馬車内では未だ動けない冒険者達が横になっているが、治療魔法で怪我は治しているので比較的に顔色は良くなっている。
「モモとボルボ、帰りはちょっと重いけど頼むな?」
「キュー!」
「キュイ!」
瑞希の治療で足の痛みも消えた二頭は任せろと言わんばかりに、瑞希に鳴き声を返した。
帰りの馬車内では、男とバレたにも関わらず、美顔の冒険者が瑞希の横に座ろうとする一騒動があったため、瑞希はシャオを膝に乗せ、ジーニャを隣に座らせた。
ジーニャはやたらと饒舌に、チサはヴォグの背中で少し赤面しながら、帰り道を進んで行くのであった――。
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