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ペペロンチーノとマンバケーキ

 ジュメールに到着し、サルーシ家で過ごす内は料理をする事もないと思っていた瑞希なのだが、今日も今日とて厨房で料理をしている。


 瑞希はシャオとチサに菓子を強請られていたので、それを作ろうと思っていたのだが、城に戻って来てみれば何やらミミカとムージがまた揉めたという話が瑞希の耳に入る。


 話を聞けば、ムージがアリベルに菓子を与えようとしたのだが、アリベルも甘いだけの菓子を美味しいとは思えず拒否をした。

 そして、買い物に連れて行って貰えない寂しさと、美味しくない菓子を目の前にし、アリベルは瑞希と瑞希の菓子を求めてしまう。

 ミミカもまたアリベルの言葉を肯定した所、ムージが男の料理と馬鹿にした事で三度ミミカとの言い争いが始まった。


 瑞希は申し訳なさそうに生地を混ぜるミミカの前で、苦笑していた。


「別に怒ってないって。厨房も借りようと思ってたし丁度良いさ」


「でも、いくらミズキ様でも肉も魚も野菜も使わず美味しい料理を作れなんて無茶ですよ!」


「わははは! 簡単な料理で良いって事だろ? それに野菜ってのもムージさんが認知してない野菜は使っても大丈夫じゃないか?」


「認知してない野菜なんてありますか?」


「俺が良く使う野菜があるだろ? 野菜というよりかは香辛料みたいなものだけどさ……良し、麺の生地はこれで完成! ミミカとシャオの生地は砂糖とバターと卵が混ぜ合わさったら、蒸したマンバと蟻蜜を加えて、マンバを潰す様にして混ぜてくれ」


「……ミズキ、麺の生地はこんな感じでええの?」


「上出来上出来! 後は何度も圧力をかけて伸ばしてから切れば良いんだけど、それは魔法でやるから置いといてくれ。チサはトッポ(唐辛子)とオオグの実を薄く切っといてくれるか?」


「……了解!」


 一緒に調理しているのはいつもの面子である。

 瑞希とチサが昼食を、ミミカとシャオが菓子を作っている。

 ミミカとシャオは瑞希に言われた様に生地にマンバと蟻蜜を加え、粗方潰した所に瑞希が振るったカパ粉と天然酵母を加える。


「ここからはさっくりと切る様に混ぜる。カパ粉は混ぜれば混ぜる程火を通した時に固くなるからな。粉っぽさが無くなったら終わりな。後は型に入れて、空気を抜いてから石窯で焼いたら完成。意外と簡単だろ?」


 瑞希は型に入れた生地を、トントンと調理台に叩きつけて生地内の空気を抜く。


「これって前にマリル叔母様に作った熟成ケーキに似ている様な……」


「殆ど一緒だぞ? こういうのはパウンドケーキって言って等分量の食材で作るケーキなんだよ。後はマンバを入れたり、ココナの種の様なナッツ類を入れたり、フルーツを入れたりして種類が増えるんだよ。マンバや蟻蜜を入れたりしなくてもちゃんと美味しい、素朴なケーキが焼き上がるんだ」


「へぇ~! じゃあちょこれーとを混ぜたり、生の果実を混ぜたりしても良いんですか!?」


「勿論良いぞ! 色々混ぜる食材を試したり、分量を配合を少し変えたりして自分好みのレシピを作れば良い。勿論焼き上がったパウンドケーキに生クリームを乗せたり、果実を添えたり、チョコソースを掛けたりしても美味い」


 瑞希の説明にお菓子大好きな三人は期待を膨らませる。


「な、なんじゃその夢の様なお菓子は!?」


「って言っても今はモーム乳も無いし、チョコレートもない。果実は買ってないし、マンバは混ぜ込んだから添える分が無い。残念だけどシンプルに食べるしかないな」


「それなら知りたくなかったのじゃっ! ミズキに意地悪されたのじゃ!」


「……期待したのに……」


「何でジュメールではモームを育てないのかしら!? 生くりーむの美味しさを知らしめたいですっ!」


 涙目、落ち込み、怒り出す。

 三者三様に瑞希の言葉に反応すると、瑞希は笑いながら石窯にマンバケーキの生地が入った型を入れる。


「わははは! そのままでも美味いから大丈夫だって! さぁ麺を切って湯がくぞ。もう片方の竃では鉄鍋にオオグの実とトッポ、それとこのハル油を使って調理だ」


 瑞希は市場で買ってきた瓶を取り出す。

 キーリスでもオリーブオイルの様な植物油はあったが、この油はそれよりもオリーブの様な香りが濃かった。

 市場の者に聞いてみた所、この油の元となるハルの実はこの辺りで多くとれるらしく、他の街では他の油と混ぜ合わせるという話なのだ。

 当然、油はその土地で取れる作物によって香りも違い、ボアグリカでは色々な油が売っているという話を聞いて瑞希はまだ見ぬ食材に心ときめいた。


「やっぱり旅は楽しいなぁ! オリーブオイルも手に入ったし、これでイタリア料理も解禁だな」


「洋食の一部なのじゃ?」


「料理の区分けってのは油で決まる部分も多いからな。イタリア料理ってのは洋食に数えても良いかもしれないけど、洋食はバターを使う事が多いのに対して、イタリア料理はオリーブオイル、こっちじゃハル油を使う事が多いんだ。後は中華料理なら胡麻油必要だし、同じ料理でも油が変われば雰囲気がガラッと変わるんだ。天ぷらなんかも……「……ミズキ、お湯沸いてるで?」」


 饒舌に話していた瑞希にチサが話しかける。


「おっと、喋り過ぎたな。じゃあ生パスタを茹でてくれ。こっちの鉄鍋も弱火で点けてくれるか?」


「わかったのじゃ!」


 瑞希の手元の鉄鍋を乗せた竃にシャオが魔法で火を点ける。

 鉄鍋で焼き物をする時には油だけを熱するはずなのに、今回は少し様子が違う事にミミカが質問をする。


「油を温める前にオオグの実とトッポを入れておくのは何故ですか?」


「熱した油にオオグの実とトッポを入れると、香りが出る前に焦げるからな。大事なのは油に食材の香りを移す事だ。こうやってじんわりと火を通して香りが出て来た所に、パスタの茹で汁を加えて乳化させるんだ」


「……にゅうか?」


「モーム乳は水より少しとろっとしてるだろ? あれは水分に脂肪が混ざってる状態なんだ。鉄鍋に入れてたハル油に塩が入った茹で汁を加えて、水よりも粘度を高めてパスタに絡みやすくするんだよ。油だけだと物量的にソースにならない。水分だけだと麺に絡まない。だから水分と油をしっかりと混ぜて乳化させてから、茹で上がったパスタを入れて絡めると……」


 瑞希は乳化させた液体に茹で上げたパスタを加え、胡椒とジャルを少し加えて、鉄鍋を振ってしっかりと絡める。

 一本の麺を味見に啜り、納得のいく味に仕上がったパスタをトングで掴むと、用意された皿に盛り付けていく。


「これでペペロンチーノの完成だ! 正式名称はアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノらしいけど、要はハル油とオオグの実とトッポを使った麺料理だな」


「……ジャルを使ってんのに洋食?」


「わははは! ジャルは隠し味だから本当のレシピだと必要ないぞ? 俺が好きな味ってだけだ。マンバケーキもその内焼けるし、熱い内に使用人の方々に運んで貰おうか! 俺はケーキが焼けてから行くからミミカ達は先に食べててくれ」


「一緒に食べないんですか!?」


「これはトッポが効いてるからな。シャオとアリベル用にトッポ抜きのも作らないといけないだろ? それを作ってから一緒に食べるよ」


「くふふふ! トッポ入りのは嫌なのじゃ」


 シャオは自身の好みを忘れられていなかった事が嬉しい様だ。

 作り方の一部始終見ていたサルーシ家の料理人と使用人達は、見た事もない変わった料理を怪訝な表情で運んでいくのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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