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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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タバスの奥さん

 瑞希がむくりと体を起こすと、瑞希の胸元で寝ていた猫の姿のシャオがころころと転がり、瑞希の膝で止まると、大きく欠伸をした。

 隣で寝ているドマルはまだ寝ている様だ。


「お早うシャオ」


 シャオはぼふんと人間の姿に変える。


「おはようなのじゃ~」


 姿を変えてもふわぁと大きく欠伸をして、伸びをする。

 瑞希は昨日寝る前にテミルに借りた櫛を使い、シャオの髪を梳いてやる。


「気持ちいいのじゃ~」


 むにゃむにゃと瑞希にされるがままに髪を梳かれながら、素直な感想を漏らすシャオに、瑞希はシャオの髪を三つ編みにしてリボンを巻きつけてやる。


「ほい出来た。今日は三つ編みだ」


「三つ編み?」


 何の事かわからないシャオに、瑞希は手鏡を渡すと髪の毛を編み込まれたシャオが鏡に映る。


「また人の髪で遊びおって……くふふ」


 口では強がりな発言をしてても、シャオは髪形を気に入ったようだ。


「やっぱり慣れない環境だと早く目が覚めちまうな。朝食の材料でも買いに行こうか?」


「朝食!? 食べるのじゃ!」


 眠そうにしていたシャオなのに、髪を眺めて目が覚めかけた所に、朝食という単語で完全に目覚めた。


「じゃあお金もあるし、タバスさんに店を聞いて買いに行くか。朝食だから軽目だぞ?」


「ミズキが作るなら何でも良いのじゃ!」


 二人はベッドから立ち上がると、ドマルを起こさない様に外套を羽織り一階へと降りて行った。


 酒場の椅子に腰かけ、タバスはパイプを咥えながらぷかぷかと煙を浮かべている。


「お早うございます。泊めて頂いてありがとうございます」


「お早う。やけに早いんじゃな」


「目が覚めちゃったので朝御飯の材料でも買いに行こうかと思いまして」


「そうか。なら店を出て真っ直ぐ行ってどんつきを右に曲がれば食材が売ってるから買って来ると良い」


 瑞希はタバスの道の説明を想像すると、昨日野菜を買った場所を思い出す。


「あぁ、野菜が買える所ですね。他の店も開いてるんですか?」


「この時間じゃったら、卵屋とかパン屋も開いとる。保存用の干し肉なんかはモームを育ててる牧場の方に行けば売ってくれるぞ」


「ありがとうございます。では二人で行ってきます。何か他に買って来るものとかはありますか?」


「ならポムの実がもう無いから店用に買ってきてくれ。金を……」


「お金は良いですよ。使ったのは俺達ですし、昨日は儲かっちゃいましたしね」


 瑞希は笑いながら昨夜の出来事を思い返す。


「後で朝食を作りますから、タバスさんも一緒に食べましょう!」


「そうか。御馳走になろう。小僧の飯は美味いからな」


 タバスは二ッと笑うと二人を送り出してやった。


◇◇◇


 瑞希とシャオは手を繋ぎながら、てくてくと店に向かって歩いて行くと、ふとした疑問が過ぎった。


「そういや、バターもモーム乳も無しでどうやってパンを作ってるんだろ?」


「それが無いと作れんのじゃ?」


「いや別に塩と砂糖と水でこねても良いんだけど、酵母が無けりゃ膨らまないのに、それなりに柔らかかったし気になってな」


「今から行くパン屋で聞いてみるのじゃ」


「そうだな……っと、ここか?」


 扉に書いてある文字は読めないが、浮き上がる文字はパン屋と示されている。

 二人はそのまま扉を開け店内に入って行く。

 店に入ると焼き立てのパンの香りが鼻腔をくすぐって来た。


「おはようございま~す! もう営業されてますか?」


「は~い! 営業してるよ~!」


 奥から出てきたのは眼鏡をかけた40代ぐらいの御婦人であった。


「パンを買いたいのですが、ここにあるのは買えますか?」


 昨日から食べているパンが何個も並んでいたが、種類は一つしか無かった。


「もちろん! 一つ二百コルだよ」


「今タバスさんの宿に泊まってるんですが、タバスさんもここで買ってるんですか?」


「あぁ、タバスさんとこの! 奥さんが倒れられてからは買いに来てるね。ここのパンは元々タバスさんの奥さんに習ったんだよ」


「そう言えば石窯もありましたね。奥さんが倒れられたのって二カ月前のゴブリンに?」


「そうそう。あの時はタバスさんが血相を変えて村を走り回ってたから大変だったんだよ。ゴブリン討伐の依頼を出してからは毎日冒険者ギルドに詰め寄ってたからね。でも昨日そのゴブリン共は討伐されたらしいんだよ」


「その奥様は今どこに?」


「大分痛めつけられたみたいだし、おまけに足の骨も折れてたみたいでね、キーリスで治療をしてるんだよ。タバスさんに聞いてないかい?」


 タバスの話しぶりに勝手に亡くなったと勘違いしていた瑞希は、うかつな発言をしなくて良かったと胸を撫でおろした。


「こんな時に治療士様がいてくれたら良かったんだけど、回復魔法を使える人なんて滅多にいないからね。時間をかけてキーリスで治療してるらしいよ」


 その滅多にいない人が目の前にいるんですが……。

 そんな事は思っても口には出さず、パンの事を聞いてみる。


「ここのパンは柔らかいですが、何か入れてるんですか?」


「あら? あんたもしかしてカパ粉焼しか食べた事なかったのかい?」


「どう違うんですか?」


「カパ粉焼は昔に主食で食べられてたんだけどね、水と塩で練って薄く焼いた物で、まぁそれなりに美味いんだけどね。このパンはこれを使って練ってるんだよ」


 御婦人がブドウの様な物と紫色の液体が入った瓶を取り出す。


「良い香りだろ? 昔どっかの誰かがこの木の実を洗って食べようと思って水に漬けたまま忘れてたらしくてね、匂いも腐った匂いじゃないからカパ粉焼に混ぜたらしいんだよ。そしたら生地が膨らんできてそのまま焼いたらこのパンみたいになったらしいんよ」


(あぁ、天然酵母液か!)


 瑞希は納得がいったのか、ふとした疑問を持ちかける。


「モームの乳とか、卵は使わないんですか?」


「モームの乳をかい? あれは飲むもんだろ? 使った事ないね~。でもココナ村じゃ皆このパンを買ってくれるし、このままのパンでも美味しいだろ?」


(確かに競争相手もいなかったら皆買うか。でももっと美味しい物をとは考えないのかな?)


「タバスさんの奥さんのパンはもっと美味しかった様な気がするんだけど……まぁ私にはこれが精いっぱいさ!」


「お姉さんのも美味しいですもんね! じゃあ十個ほど頂けますか?」


「くふふ……やっぱりお姉さんなのじゃ」


 シャオは昨日の事をくすくすと一人で思い出して笑っていた。


「たくさん食べるんだね! 初めて見た顔だし一個おまけしておくよ! ありがとね!」


 瑞希は金銭のやり取りをしてパンの入った籠を受け取る。


「籠はまた後で返してくれりゃ良いからね!」


「ありがとうございます!」


 瑞希達は店を後にすると、卵屋を探して歩く。


「パンの事は分かったのじゃ?」


「天然酵母って言って果実から取れる菌をパンに混ぜてるんだよ」


「……ミズキが何を言ってるか分からないのじゃ」


「まぁ美味しくなる様な調味料を入れてると思えば良いよ」


「ならミズキも作るのじゃ?」


「いや……餅は餅屋って言うし、パンとして買えるなら無理して作る事もないよ」


「むうぅ~……でもミズキのパンも食べてみたいのじゃ」


「パンとかそんなに作った事ないしなぁ……ならいつか卵を使うドーナツとか作ってやるよ。重曹とかベーキングパウダーはあるか分からないし、酵母液も作っとくか……」


「どーなつ!? なにか分からんが楽しみなのじゃ! そこに卵屋があるのじゃ!」


「なら卵はたっぷり買っとこうか」


 瑞希達は卵屋に入ると、見た事のない鳥の絵が飾ってあった。


「ごめんくださぁい!」


「あいよー!」


 恰幅の良い中年の男性が現れる。


「卵を買いたいんですが……この絵の鳥って何ですか?」


「何言ってんだホロホロ鶏だよ? 知らないのか? 卵も取れるし、身も美味い万能な鳥なんだぜ?」


「これがホロホロ鶏なんですね! 昨日タバスさんの所で食べさせて頂きました!」


 鶏に似ているが、空を飛んでいる絵なので鶏と違い飛べるのだろう。


「タバスさんの所に泊ったんかい? 飯が不味かっただろう?」


 店主は笑いながら瑞希に尋ねる。


「最初に出されたのは不味かったですね……」


 瑞希は苦笑しながら返事を返す。


「奥さんの料理は美味かったんだがな~。ホロホロ鶏を焼いたやつもただ焼いてるだけなのになんか美味いんだよな~。早く傷を治して帰って来てくんねぇかな~……てか、最初にって事は後から食べた料理は違うのかい?」


「後から食べたのは自分で調理させて頂いたんで、ホロホロ鶏も美味しく頂けましたよ」


「兄ちゃん男なのに料理できんのかよ? 変わってんなぁ。俺はかかぁに任せっきりよ! じゃあ卵も兄ちゃんが使うんかい?」


「はい! 美味しい卵と鶏肉だったんで!」


「嬉しい事言ってくれんじゃねえか! ならどれぐらいいる? 肉もいるかい?」


「肉も買えるんですか? なら……卵は50個程、鶏肉は5羽分下さい!」


「あいよ! さばいとこうか? 骨とかはいらねえだろ?」


「いります! 肉は剥がしてもらって良いので、骨は骨で下さい!」


「骨なんか何に使うんだよ? やっぱり変わってんなぁ! なら捌いたらタバスさん所にすぐ届けるから店で待ってな!」


「ありがとうございます! おいくらですか?」


「ちょうど1万コルだ!」


 瑞希は金を渡し店を後にした。


「ミズキの手にかかれば骨まで食えるのじゃ?」


「さすがにそのままは食えないけど、美味しいスープが取れるからな!」


「それは楽しみなのじゃ!」


「それにしてもタバスさんの奥さんは料理上手みたいだな! 会えないのが残念だよ……。なら後は野菜を買って宿に戻るか!」


「あの()()()()の所じゃな?」


「その()()()()の所だよ」


 二人はパンを片手に昨日初めて買い物をした八百屋の御婦人の店に向かって行った。

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