交渉の理由
職員の話を纏めると、ダークオークの依頼に惹かれたジュメールの冒険者達は、一攫千金を求めこぞってこの依頼を受けた。
ギルド側も見つけるのが難しい魔物なだけで、危険は少ないため人海戦術で誰かしらが見つけて、早々に依頼を達成すると思っていたのだが、依頼を受けた冒険者達が帰ってこない。
比較的に簡単な討伐依頼や街のお手伝いの様な依頼は、若い銅級冒険者や鋼鉄級冒険者になりたての冒険者でもこなせるのだが、森の中に現れるトレントや虫型の魔物等の害獣指定の魔物は危険が伴うため中堅の冒険者に依頼がしたいのだ。
魔物討伐は若手の冒険者に任せるには心許なく、稼げるようになって来た中堅冒険者は居ない。
そんな中ふらりと現れた瑞希達の存在は、ギルドからすれば願ったり叶ったりだ。
事情をある程度話し終えた職員は一息ついてから、話を続けた。
「――という訳で、キリハラ様には依頼をお願いしたいのです」
「それは魔物駆除でしょうか? ダークオークでしょうか?」
ドマルの質問に、職員は言い辛そうに言葉にした。
「りょ……両方です……」
「ですよね。先程も申し上げた通り私達は別の仕事中ですので、元々依頼を受けるつもりはないんです」
「で、でも先程はダークオークを狩りに行くと言ってましたよね!? そちらのお嬢さん達もやる気になってるじゃないですか!」
「あはは。この子達は美味しい物に目がありませんからね。ダークオークも美味しい料理のためですから、こちらに納品はしないと思います」
「金貨三十枚ですよ!?」
「特にお金には困っていませんし、お金より食材を欲しがるのがミズキ達なんですよ。面白いでしょ?」
ドマルは笑顔で瑞希の紹介をするが、相対する職員は悲壮な表情を浮かべる。
瑞希としてはダークオークを狩るついでに魔物駆除の依頼は受けても良いのだが、ドマルがわざわざ交渉しているのならば何かあるんだろうと、耳を傾けながら手持無沙汰にシャオの髪の毛で三つ編みを編む。
シャオは髪の毛を触られるのを気持ちよさそうにしているが、チサは暇なのか瑞希にヴォグと遊んでくると言い残し、この場を離れた。
「で、ではダークオークと魔物駆除を同時にして貰えるならば金貨三十五枚は保証致します!」
「ミズキ、ダークオークの肉ってどれくらい必要なの?」
「ん~、ミミカやグラン達にも食べさせたいから半頭分もあれば充分かな」
「じゃあ納品は半頭分で……」
「無理ですっ! ダークオークの依頼は王家様からの依頼ですから、半分しか納品出来ないというのは……」
「グラフリー家からの? 何かの祝い事ですか?」
「詳しい理由は分かりませんがグラフリー家の御子息様からの依頼で……私達もそこまで難しい依頼ではなかったですし、報酬もきちんとお支払い頂けておりますので請け負ったのですが……」
「依頼が達成されないと?」
「王家様からの依頼ですので、ギルドの信用問題に関わります。どうにかして依頼を達成したいのですが、依頼を受けた冒険者は戻っておらず、こちらでも調査はしているのですが未だ原因は掴めておりません。そうこうしている内に害獣指定の魔物も増え始めているんです」
「ダークオークは一頭で充分ですよね? ある分だけとかは言いませんよね?」
「一頭で大丈夫です! 報酬以外にもお力になれることでしたら何でも仰ってください!」
ドマルは聞きたかった言葉が聞けたので、あらかじめ想定していた条件を述べる。
「では条件をいくつか……」
「報酬額でしょうか?」
「いえ、報酬額はそのままでも良いので、秘密裏に一仕事お願いできませんでしょうか?」
「何か事情がありそうですが、犯罪とかではありませんよね?」
「勿論! ただの人探しですよ。但し条件としては、今回の討伐依頼を受けたのも、人探しをしているのが私達というのも伏せて欲しいんです」
「何か理由が在るんですか?」
「私達の冒険者の仕事はあくまでもついでですので、ランクや名誉は必要としてません。人探しも大々的には出来ない相手なのですが、こちらの街で情報収集の伝手がないんです」
瑞希はドマルの言葉を聞きながら一人納得し、商人のドマルに対し、心の中で賛辞を贈る。
「そういう事でしたらこちらで信用のおける冒険者を使い、秘密裏にお探しさせて頂きます。お探ししている方の御名前はお伺いしても良いですか?」
「……言っても良いよねミズキ?」
「ある程度リスクはあるけど……ギルドを信用しても良いですよね?」
「依頼主の守秘義務は王家様だろうが、平民だろうが貫きますので安心してください! 情報が漏れたりすれば冒険者ギルドの信用問題ですから」
職員の女性は真剣な目で瑞希と視線を合わせる。
シャオの頭に手を置いたままの瑞希は、わずかなシャオの頷きを感じ取り、ドマルと商談を変わる。
「……なら信用します。捜索して欲しいのはシャルル・ステファンという俺達と同い年ぐらいの女性です」
「シャルルと言えば……一時噂になっていた、王家様に妾として迎え入れらた平民の方ですよね? 王宮に居られないんですか?」
「詳しい話は省きますが、今は王宮にはいないらしいんです。知人の話だと王都でも見つからないそうなのですが、依頼を出す訳にも行かないのでどうしようかと思ってたんです」
「その方が見つかるのが一番良いのですが、お話を聞く限りは、足跡の情報だけになるかもしれませんが構いませんか?」
「手掛かりがあるだけでも助かります。何分こちらには何の手掛かりもありませんので」
「畏まりました。ではこちらの依頼も宜しくお願い致します。キリハラ様達はジュメールにはどれぐらい滞在なされますか?」
「最短なら三日程ですね。とりあえず俺達は森で害獣駆除に向かいますので、情報はダークオークの納品と交換にしましょうか?」
「本当にダークオークは見つかるんですか?」
シャオの事なので、魔力を辿って見つけるだろうと確信している瑞希だが、それを公言する訳にはいかないので、返答は有耶無耶にした。
「どうでしょうね? そこは運ですので。但し、何頭か見つけた場合でも一頭しか納品しませんよ?」
「はいっ! それで大丈夫です! キリハラ様、何卒宜しくお願いします!」
「こちらこそ宜しくお願いします」
瑞希が職員と握手を交わすと、ギルドの入り口からチサの声が聞こえた。
――しつこいなぁっ! ヴォグに跨って良いのはうちだけ! ヴォグも嫌がってるやろ!
――良いではないかっ! このブルガーは俺にこそ相応しいんだっ!
――あかんて言うてるやろ! ヴォグも唸ってるやんか!
――お前がきちんと命令すれば良いではないか!
話を聞くに、ヴォグを巡って言い争いをしている様だが、相手の声は少年の様だ。
瑞希達が急いで冒険者ギルドを出ると、太った少年が痺れを切らしチサを力づくで退けようとした所で、ヴォグに服を咥えられ宙吊りにされるのであった――。
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