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アリベルの誤解

 暇そうにしているシャオは、瑞希の膝の上でいつもの様に寛ぎ、左手のミミカとの間にはアリベルが、空いている右手側にはチサが陣取っている。

 瑞希達側からすればいつもの光景なのだが、さすがにこの場の空気を読んだ瑞希は、ポケットから飴の入った袋を取り出した。


「シャオ、チサ、向こうの椅子で大人しくしてたら、新作の飴をやるぞ?」


 その言葉に反応した二人は瑞希に飴をせがむ。


「ずるい~、お兄ちゃん! アリーにもっ!」


「アリベルの話なんだからアリベルはココで大人しくしとけ。はいあ~ん」


「あ~ん! ……これも美味しいね~!」


 瑞希はキラキラと美しい、飴をアリベルの口に入れると、アリベルは以前食べた物とは違う味わいを楽しむ様に顔が綻んだ。


「ミズキっ! わしも欲しいのじゃっ!」


「……うちもっ!」


「はいはい、袋毎やるから大人しくしとくんだぞ」


 シャオとチサは喜びながら瑞希から袋を受け取ると、別の椅子に移動し、新作の飴を口の中で転がしている。


「お騒がせしました……どうしました?」


 瑞希が下げた頭を戻すと、オリンとムージはアリベルが食べている飴が気になった様だ。


「先程この子達が口に入れたのは宝石……ではないですよね?」


「ただの砂糖を固めた飴ですよ?」


「なぜ砂糖がそんなにも綺麗な色をしている?」


「あぁ、今回の飴はシザーアントの蜜とジラの果汁を混ぜてますからそれで少し色が付いてるんですよ」


「貴様っ!? 人の妹に何を食わしてるんだっ!?」


 落ち着いた雰囲気だった事と、甘い飴を口にしていた事で、気が抜けており、ムージの大声で驚き、飛び跳ねた。


「アリー……この人嫌い!」


 泣き顔のアリベルは驚かせた張本人であるムージを指差し、瑞希に泣きつく。

 ムージはその言葉がショックなのか、再び撃沈し、瑞希が頭を搔きながらどうしたものかと考えているとオリンが話始めた。


「アリベル、私の事は覚えてないですか? サルーシ家はカルトロム家と昔から付き合いがありますから、それなりにはカルトロム家に顔を出していましたが……」


「え~……わかんない。こっちの嫌いな人は覚えてるけど……」


「ア、アリベル? もう少しムージさんに優しくしてあげたらどうだ?」


「だってミミカお姉ちゃんをいじめるし、アリーを驚かすし……やっぱり嫌い~!」


 瑞希はムージをフォローする筈だったのだが、余計にはっきりと拒絶をさせてしまう結果となる。

 ミミカはアリベルに懐かれているのが嬉しいのか、この短い時間でムージを嫌いになったのか、アリベルの頭を撫でているが、教育上は宜しくないだろうと瑞希は思う。


「アリベル、そんなにムージを毛嫌いしないで下さい。これでも貴方が居なくなった時に真っ先に動き出したのも、アリベルを襲ったという盗賊団のアジトを一つ潰したのもこのムージなんですよ?」


「……でも、助けてくれたのはお兄ちゃんだもん……」


「ちょっと待って下さい、アリベルを攫った犯人はわかってるんですか?」


 オリンは項垂れるムージの横腹を肘で突く。


「王家……いや、グラフリー家派閥の誰かだ。あいつらめ……ぶくぶくと肥え太っていくのは見た目だけにすれば良い物を……うちのアリベルを……」


 ぶつぶつと恨み事を呟いているが、一方の瑞希はどこか納得していた。


「えっと……王様であるガジス様が病床についているという話は聞きましたが、現在も容体は芳しくないんですか?」


 オリンとムージは瑞希がその話を知っている事に驚いていた。


「どこからか情報は漏れていましたか……王が倒れたのは知っているようですが、アリベルが狙われている理由も御存じで?」


「跡目争いの為にカルトロム家が引き取ったという話は聞いています。カエラ様やミミカに縁談が持ち込まれているのもそれが理由ですよね?」


 瑞希の言葉に、オリンは息を吐きながら椅子に深く腰を掛けた。


「概ねその通りです。ガジス様は王としても素晴らしい人物ですが、王を引き継ぐ子供達には王たる血筋は受け継いでも、その才能を色濃く受け継いだ男がいなかったんですよ」


 オリンはグラフリー家が疎ましいのか鼻で笑う。


「だからアリベルを利用してまで、ガジス様の跡目争いをしているんですか?」


「グラフリー派閥を納得させるためです。アリベルの様な存在はどちらの派閥からも喉から手が出る程欲しかったんです。サルーシ家もカルトロム家も祖先にグラフリー家の血筋はあっても魔法の才能には恵まれなかった。そのため跡目争いに縁は殆ど無かった。濃い血筋と魔力を大事にしているグラフリー派閥を納得させるには、アリベルの存在が重要だったんです」


「アリベルを母親から引き離す必要があったと?」


「勘違いされている様ですが、最初に引き離したのはグラフリー家派閥の貴族です。王宮で窮屈そうにしていたアリベルを見かけたムージが気にして、何とかカルトロム家で引き取ったんです。ですが直ぐにアリベルは誘拐され……貴方方に救出して頂いたのは感謝致しますが、アリベルは返して頂きたい……それもこれもカルトロム家の長男がグラフリー家との縁談を断らなければこんなに苦労もしなかったんですがね」


 オリンは最後の一文を吐き捨てる様に言い放った。


「ムージさんのお兄さんですか? じゃあその方がグラフリー家との縁談が結べればアリベルもカルトロム家に引き取られないし、この二人の縁談も必要ないんじゃないですか?」


「「ふざけるなっ!」」


 オリンとムージは声を合わせて瑞希の言葉を否定する。

 まずはオリンの言い分だ。


「ウィミル家もテオリス家も一人娘で、その縁を繋ぎたいと思う貴族は山ほどいるんですよ? それにあの馬鹿がグラフリー家との縁を今更結ぶと思ってるんですか!?」


「なんやうち等モテモテやん? ドマルはんも鼻高々やろ?」


 オリンの言葉にカエラが微笑みながらドマルに話を振るが、ドマルはオリンの言葉でますます胃に痛みを覚えるのか、苦笑している。

 続いてムージの言い分だ。


「アリベルはカルトロム家の人間だっ!」


「え? でも、長男の方がグラフリー家と縁を結べるなら跡目争いにアリベルは必要ないですよね? アリベルはカルトロム家の暮らしも窮屈に感じていた様ですし……」


「アリーはお姉ちゃんとこの方が良い~! 御飯も美味しいし、怖い人もいないし!」


「アリーは可愛いなぁもうっ!」


「えへへぇ~!」


 満面の笑みで放つアリベルの言葉に、ミミカはその愛くるしさから思わずアリベルを抱きしめる。

 二人がキャッキャしている中、ムージは拳をわなわなと震わせ。声を荒げながらこう言い放った。


「ならば俺も一緒に住むっ!」


「嫌ですっ! お断りしますっ!」


 ミミカはきっぱりとムージの言葉を否定する。


「人の可愛い妹を奪うつもりかっ!?」


「アリーは貴方の妹じゃないでしょっ!」


「理由はどうあれアリベルはカルトロム家が引き取ったんだぞ!? まごう事なき俺の妹だっ!」


「それならアリベルはテオリス家で引き取りますっ! それで名実ともに私の妹にしますっ!」


 再び二人が揉めだす中、瑞希はこっそりとオリンに話しかけた。


「えっと……もしかしてムージさんって、もの凄くアリベルを溺愛してますか?」


「……その通りです。ただ、カルトロム家を始め、ムージの性格も誤解されやすいのです。頭は悪いですが良い奴なんですよ? アリベルが攫われた時も、証拠も無いのに一人でグラフリー家に乗り込もうとしてカルトロム家とサルーシ家の当主が全力で止めました」


 二人の会話にカエラも混ざる。


「あのおっちゃん等昔から仲ええもんな。いつ帰ってくんの?」


「二、三日すれば王宮から戻ります。カルトロム家の馬鹿と一緒にですが……」


「オリンさんもムージさんも長男の方を馬鹿にしてますけど、縁談を断った理由はなんなんですか?」


 オリンは深く溜め息を吐いた。


「……見た目です」


「相手の?」


 瑞希の言葉にオリンが力なく頷く。


「あの馬鹿は……状況を考ろよ……向こうが惚れてるんだからそのまま受ければ良い話をややこしくしやがって……子供の頃からそうだ……」


 ぶつぶつと恨み辛みをオリンが呟き、カエラは笑いそうになる。


「カエラ様? 笑ってますがあの馬鹿が貴方を見れば間違いなく惚れますよ?」


「うちはもう無理やわ~他当たって貰わんと」


「はぁ……なら他の貴族達はどうするおつもりで?」


「そんなんこれから顔出しに行って断りに行くつもりやで?」


「グラフリー派閥の人間も、反対派閥の人間も貴方方との縁を結びたいんですよ?」


「あの、その話なんですけど……」


 ドマルは二人の会話におそるおそる手を挙げ会話に参加する。


「なにか?」


「グラフリー家の令嬢様ですが、その方にお会いする事は可能でしょうか?」


「はっ! 貴方方があの方をどうにか出来るとでも?」


 ドマルの言葉をオリンが鼻で笑う。


「可能かどうかはわかりませんが、私も商人ですので女性を綺麗に見せる衣類や化粧品の類いは仕入れております。衣料品が有名なキーリスの商会から仕入れた物ですので、品質は間違いないです。もしその方にお似合いの御召し物があれば……」


「会う事は可能ですが……いや、こちらとしては計画が御破算になったんですから、それぐらいの協力はしてもらいましょうか。もし、協力してくれるのであれば、カルトロム家もサルーシ家も御二方の縁談は無かった事にして貰って結構です」


「はぁ? そんなんうち等に得なんてないやん? 元々断るつもりやったんやし」


「得ですか? そうですね……こちらに滞在する間の面倒は私達の家が責任を持ちます。貴方方は遠方だから知らないでしょうが、今王都では二つの派閥に別れていますからね。後ろ盾があるに越した事はないでしょう?」


「それは脅しのつもりで言うてるん?」


 カエラは、気の良いお姉さんの雰囲気から領主としての雰囲気に変わり、オリンに詰め寄る。


「脅しのつもりではありません。事実です。いくらバラン様でも、この場に居ない限り貴方方を守る事は出来ない。アリベルの件もありますが、こんなふざけた縁談の断り方をすれば跡目を狙っている家が逆上する可能性は高いでしょう?」


 カエラはオリンの言葉を聞き少し考える。

 口を開く前に瑞希とドマルに視線を向けると話始めた。


「ほな、もう少し得を増やしてや?」


「物ですか? それともお金とか?」


「そんなんいらんわ。一つは人探し、もう一つはうちの旦那の為にあんた等と仲の良い貴族を紹介してもらおか」


 カエラは引き連れて来た二人の為にオリン達に要求の詳細を述べるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

本当に作者が更新する励みになっています。


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