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カレーライスとスライム

 王都へ向かう道中、一日だけは野営をすると聞いていた瑞希は夕食の料理を鍋で煮込みながら、二種の魔物の死骸の前で腕を組み考えていた。

 一つ目は蟻に似た昆虫型の魔物で、鋭い牙を持った魔物でシザーアントと言い、瑞希はその魔物の尻の部位を眺めていた。

 もう一つは所謂スライムで、どこにでも生息しており、今目の前に置かれているのは小さく、膝位までの大きさしかないが、中には人以上の大きさにもなるものもいる。

 森の中では頭上から落ちて来るのを注意するぐらいで、すぐに引き剥がせばべとべとはするが、怪我はしない様だ。


 瑞希が二匹の魔物の前で考えている中、煮込まれている鍋の中からは食欲を誘る香りが放たれており、休憩中の護衛は瑞希の側にある鍋を何とか覗こうとしている。

 こうなったのも、移動中の料理は全て瑞希達が作っていたため、グランの隊は勿論、カエラの護衛隊までもがその美味さの虜になっているからだ。


「ミズキ、いつまでも魔物を眺めておらんで、夕食にするのじゃ。周りの視線が凄いのじゃ」


「あぁ……なぁシャオ、もしかしてこの蟻の尻の部分って甘いか?」


 シャオは瑞希が気になっている部位を眺め、鑑定する。


「樹液の様な甘さがあるのじゃ。シザーアントは木を噛み、中の樹液を食料にしておるのじゃ。恐らく、尻の部分に樹液を蓄える様な器官があるんじゃな」


「やっぱりかっ! じゃあそれを切り取って……こっちのスライムに毒は無いか?」


「無いのじゃ。お主まさかスライムまで調理するのじゃ?」


「ゼリーみたいな体してるから茹でたら寒天みたいにならないか気になってな。シャオ、鍋に熱湯を頼む。俺はこっちの魔物を切り取るから」


「それは良いが、好い加減周りの奴の視線に気付くのじゃ!」


「周り……?」


 瑞希は、シザーアントの蜜袋を解体する前に辺りを眺めると、煮込む鍋の香りに誘われた兵士達が涎を垂らしながら待ち構えている。

 その中には涎こそ垂らしてはいないが、カエラまで混ざっていた。


「ミズキはん御飯はまだ……? うち、こんなええ匂いする料理しらんねんけど……。チサちゃんがペムイを炊いてるさかい、ペムイに合わせる料理やんな?」


「も、もう少しで出来ますから! チサ、ペムイはもう炊けるか!?」


「……もうちょっと! ウィミルの兵士さんに美味しいペムイを炊きたいから!」


 チサがペムイに拘るのは、自身がペムイ好きというのもあるが、ウィミル城があるミーテルの街ではペムイがないがしろにされていたためだ。

 テオリス兵の面々は瑞希が調理した美味いペムイしか食べておらず、当然不味いという印象はないが、ウィミル兵の中には精米前の不味いペムイを食べてた者もおり、チサはペムイが不味いという印象をこの旅初めてのペムイ料理で払拭したい様だ。


「……という訳で、もう暫しお待ちを」


「そんな殺生なっ!」


 何故こんなにも全員が鍋の香りに惹かれるのかというと、瑞希が煮込んでいる料理は香辛料を使っており、嗅いだ者の鼻腔をくすぐるカレーである。

 しかもペムイに合わせる様に、メース出汁を使っており、カパ粉を炒った物を使い香ばしさととろみを付けてあるのだ。

 キアラに教えたのはどちらかというと、ナンに合わせる様なレシピであり、今回は野外で大量に作るならカレーライスを作ろうと決め、どうせなら出汁を使ってマリジット地方の人も喜べる味にしたのだが、それがいけなかった。


 チサは知っているカレーが、よりペムイにも合う様に作ると言われ俄然張り切り、出汁の美味さを知っているグラン率いるミミカの護衛隊は勿論、既に瑞希に胃袋を鷲摑みにされているカエラの護衛隊も、初めて見る料理にも拘わらず興味を惹かれていたのだ。


 瑞希は心待ちにする皆を宥め、作業を再開すると、シザーアントの蜜が手に付いたので一舐めする。


「美味っ! シザーアントの生態的にはメープルシロップなんだろうけど、蜂蜜みたいな香りもするな! 花とかも食べてんのかな?」


「わしも一口欲しいのじゃっ!」


 瑞希はナイフに付いた蜜を指で掬い、シャオの口に近付けた。

 シャオは嬉しそうに瑞希の指を口に入れ、その甘さを堪能する。


「なっ? 美味いだろ?」


「美味いのじゃっ! 宿で出された菓子などより、この蜜の方が美味いのじゃ!」


「キアラのお土産に教えてやろう。これならカレーにも使えるし、良い食材だ!」


「わしにもなんか作って欲しいのじゃっ!」


「それなら……まずはスライムからだな。茹でてみるか」


 瑞希はスライムを持ち上げ、シャオに軽く水洗いをして貰ってから、沸いている熱湯に放り込む。

 スライムは周りの部分からドロドロと溶けだし、瑞希は小さくなったスライムをトングで掴むと、最初の感触との違いに気付き、一度鍋から取り出した。

 スライムは体の核である部位周りが熱で凝縮したのか、最初よりも固くなっており、ぐにぐにとした感触に変わっていた。

 瑞希はその核周りの部位をシャオの水に突っ込み、冷やしてみると、何とも心地良い弾力を持った物になった。


「スライムって面白いな。 どんな味だ?」


 瑞希がスライムの端に小さく噛り付いてみるが、歯を押し返す強い弾力と、何の味もしない事に気付く。


「固っ! この厚さじゃ駄目だな……味はしないから、薄く延ばして調味料を付けたらクラゲみたいに食べれるかな……」


 ぶつぶつとスライムの食べ方を考えている瑞希にシャオが声を掛けた。


「ミズキ、こっちの茹でた鍋はどうするのじゃ?」


「そっちは試しにこのバットに移してくれ。それから氷水で冷やしてみる」


 瑞希は茹でたスライムを一旦置き、スライムの茹で汁をバットに移し、氷水で間接的に冷やしてみた。

 すると、弾力を持って固まり、瑞希はシャオの鑑定を疑う事なく、躊躇せず口に入れる。

 ゼリーの様な食感ではなく、もう少し弾力のあるところてんの様な感触だ。


「うん。ところてんだな。シャオ、今日はこの二つでデザートも作れるぞ!」


「くふふふっ! そう来ると思ったのじゃっ! 楽しみなのじゃ!」


「ところてんと一緒なら寒天も作れるかな? シャオ、スライム茹で汁は冷やして食べるけど、半分は冷やしてから食べずに、後で冷風でゆっくり凍らせてくれるか?」


「凍らせるのじゃ?」


「ゼリーとか寒天にするなら、この茹で汁のままだと弾力が強すぎるからな。この茹で汁を乾燥させて棒寒天みたいなのを作れないかと思ったんだ。もし棒寒天が出来たらジラの果汁でゼリーを作ったりも出来るし、チサに約束したあんみつにも使えるしな」


「くふふ。瑞希のお菓子ならたくさん食べたいのじゃっ!」


 先程からのシャオの言動から察するに、シャオも宿で食べた貴族向けの菓子は口に合わなかった様だ。

 ただ甘く、より甘く、を貫いている菓子を美味いと思えるほど甘味中毒ではなく、シャオから言わせれば甘味が好きなのではなく、美味い甘味が好きなのである。


「なら、スライムで作ったところてんは甘くしようか。俺はどっちも好きだから両方食べよっと」


「両方? 何か違いがあるのじゃ?」


「ところてんにはな……」


 瑞希がそう言いかけると、チサが瑞希の袖を引っ張る。

 チサの手元には綺麗に炊き上がったペムイがしゃもじに乗っかっており、どうやら瑞希に味見をして欲しい様だ。

 瑞希はその意図を汲み取り、ペムイを摘まむと味を見てから、チサの頭を撫でる。

 その光景を見た兵士達は遂に夕食が出来たのかと、歓喜するのであった――。

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