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熟成ケーキと瑞希の頼み

 ダンスの練習を終えた瑞希はミミカと共に約束のお菓子を作っていた。

 ミミカにお土産の調理器具を渡した時は、嬉しそうに質問責めをしていたが、それも落ち着いていた。


 シャオとチサも最初は一緒にお菓子を作ると言っていたが、瑞希が酒をたっぷり使うお菓子だと告げると、鼻を摘まみながら、夕食の準備をすると逃げ出した。


 そして瑞希は、作業台をミミカと挟みながら二人でお菓子作りをしている。


「こんなにたくさんの果物をお酒に漬けてたんですね!」


「チョコレートを使う様になってからだな。お酒が効いたお菓子は多いし、果物も度数の高い酒も安価で買えるから、作れる内に作ってたんだ」


 瑞希はそう言いながら溶かしたバターや砂糖、卵を混ぜた生地に酒に漬け込んだフルーツを入れ混ぜる。

 そこに砕いたココナの種を混ぜ、カパ粉を振るって、木べらを使って底の方から大きく切る様に混ぜる。


「パンの生地とクレープ生地の中間ぐらいの硬さなんですね?」


「液体の状態で型に嵌めて焼くんだ。そういや今度ドマルと紙屋さんに行ってクッキングシートの代用品を作って貰おうかな」


 瑞希はココナ村のバッコに作って貰った金型に油を塗りつつ、クッキングシートの有用性を噛み締める。

 金型に生地を流し込み、作業台の上で、コンコンと、金型を持ち上げては作業台に落とす作業を見て、ミミカは質問をする。


「その作業も意味があるんですか?」


「これは生地の中に入り込んだ空気を抜いてるんだ。焼き上がった時に割れない様にな」


 瑞希がそう伝えると、ミミカは鼻息荒くメモを取っている。

 瑞希は生地が入った金型を温めておいた石窯に入れ、蓋をした。


「後は焦げない様にじっくりと焼いて、膨らんで表面が割れて来る。その後もじっくりと焼いたら焼成は終わりだ」


「まだ工程があるんですか?」


「あとは表面にも酒を塗るんだよ。じゃあ俺達は焼いてる間に食事にするけど、ミミカはどうする?」


「勿論私も一緒に食べますっ!」


 ミミカは当たり前の様に即答をするが、瑞希はそれで良いのかとミミカに尋ねた。


「バランさんとか、カエラさんと食事を取らなくても大丈夫なのか?」


「今日はあらかじめにミズキ様と食事をするとちゃんと伝えてますからね!? それにお父様は難しい顔をしておられたので何か仕事があるのかもしれません」


「そっか。なら今日の夕食は……」


 瑞希がシャオとチサの様子を見ていると、二人は楽しそうに土鍋を持ち出し何かを煮込んでいた。


「鍋か。洋食が続いてたからチサがペムイを食べたくなったんだろうな」


「それにしてもミズキ様は最近二人に良く御料理を任せますね?」


「俺達が食べる物だし、失敗しても良いからな。それにこう、人に食べさせるって事を続けているとシャオの人間嫌いも和らぐと思うんだよ」


 瑞希が微笑みながらシャオの事を話していると、ミミカは頷いていた。


「そういえば、シャオちゃんも最近は表情が柔らかくなりましたよね。ミズキ様の想いも伝わってますよ」


「そうだと良いんだけどな? シャオには言ってないけど、俺はいつ居なくなるか分からないだろ?」


 瑞希の唐突な発言にミミカは狼狽えた。


「そ、そんな事言わないで下さいっ!」


「ごめんごめん。言い方が悪かった! 俺はこっちで生まれた訳じゃなくて、こっちの世界に現れたって表現の方が正しいだろ? シャオは長生きするだろうけど、俺はちゃんと寿命って物を迎えられるのか分からない。女神様がこの世界に連れて来た理由ってのが何かあるなら、それはシャオの事だと思うんだよ」


「シャオちゃんですか?」


「シャオの過去に何があったのか詳しくは知らないけど、俺が居なくても生きていける様にするのが俺がここに居る理由かなって思うんだ。まぁ……」


 瑞希が言葉を続けようとしてミミカの顔を見ると、声を押し殺しながらボロボロと泣き始めていた。


「ミ、ミジュ……キ……しゃまが、居なくな……ったら、私は誰に御料理を、学ぶん……でしゅか……」


 瑞希は慌ててミミカにハンカチを押し付ける。

 ミミカは瑞希の手の暖かさを感じ、ますます涙が溢れてくる。


「最後まで言わせてくれよ。まぁ俺も居なくなりたい訳じゃない。幸いこっちの人達は良くしてくれてるし、友達も出来た。ここで生きてる事が楽しいんだよ。だから俺はちゃんと死ぬまで生き続けるって」


 ミミカはその言葉を聞いてぐすんと鼻を啜る。

 瑞希は言葉を続けた。


「ただ……な? 俺にもしもの事があって、シャオが寂しがってたら相手をしてやって欲しいなって話だよ」


「……そんなの嫌です」


 瑞希はミミカの反対する言葉が気まずかったのか、指で頬を掻く。


「シャオちゃんが長生きをするなら、ミズキ様のお子様がきっとミズキ様の様にシャオちゃんの相手をしてくれます。私は……私達はミズキ様と一緒に歳をとって、今の様にシャオちゃんとも仲良くしていたいんです……」


「俺の子供か……シャオに見せたらどんな顔するんだろうな?」


 ミミカは涙が止まると、瑞希の質問に笑顔で答えた。


「きっとお姉さんぶってあれこれ世話を焼きますよ。シャオちゃんの事だからちょっと過保護になりそうです」


「確かに。無理やりにでも魔法を教えそうだしな」


「きっとその頃のシャオちゃんなら御料理も教えますよね」


「わははは! その姿は見てみたいな」


「そうですよ。だからもう居なくなるとか言っちゃ駄目ですよ?」


「わかった。約束する。それにしても俺に子供が出来るのはいつになる事やら……」


 瑞希は笑いながらぼやくが、瑞希の言葉にミミカは意を決したのかゴクリと唾を飲み込んだ。


「そ、それでしたら私が……「「夕食が出来た(のじゃ)っ!」」」


 既の所でシャオとチサが夕食の完成を嬉しそうに告げ、瑞希の元に走り寄って来た。


「今夜は鍋なのじゃ!」


「そりゃ楽しみだな! シャオは何を作ったんだ?」


「わしの担当は肉なのじゃ! 鶏肉のつみれとオーク肉の薄切りを作ったのじゃ!」


 瑞希は、ふふん、と得意げにしているシャオの頭を撫でる。

 チサも報告し、頭を撫でて貰おうとしたが、ミミカの顔を見て、近寄って行く。


「……何で顔と目が赤いん?」


 チサの質問にミミカが苦し紛れに答える。


「な、何でもないよ!? パルマン(玉ねぎ)が目に染みたの!」


「……お菓子作りでパルマン? 変なお菓子なんやな?」


「だ、だってミズキ様だもの!」


 説明になっていないのだが、その言葉でチサは納得する。


「……確かに。ミミカもお鍋食べるやろ?」


「あ、うんっ! グランから話は聞いてたから楽しみだわ!」


「……ふっふっふ。出汁と野菜はうちの担当なんやで」


 チサもまた得意げにしている所で、チサの頭にミズキの手が乗っかる。


「じゃあ食堂に運ぼうか。鍋は俺が持って行くから皿と箸の準備を二人で頼む」


「「わかった(のじゃ)!」」


 二人はそう言うと、食器の準備をし始める。

 瑞希は二人の後ろ姿を目で追いながら口を開いた。


「さっき話してた内容はシャオ達には秘密な?」


「はい……」


 ミミカはタイミングを逃した事を悔やんでいるが、ミズキはそんな事には気が付かず、言葉を続けた。


「それと今更だけど、俺達を受け入れてくれてありがとうな? これからも迷惑をかけるかもしれないけど、宜しく頼む」


 ミミカは、急に瑞希に御礼を言われた事に驚くが、瑞希がこれからも自分を頼ってくれるならと、肩の力が抜けた。


「はいっ! 勿論ですっ! ミズキ先生にはまだまだ習う御料理が一杯ありますからっ!」


「わはは。なんだそりゃ」


「ミズキー! 早く御飯にするのじゃー!」


「腹ぺこの妹を待たせると怒るからさっさと食事にしようか!」


「はいっ!」


 ココナ村でのハーマとの別れを見て、そしてシャオの事を考え、少しだけセンチな気持ちになっていた瑞希は、ミミカに吐露する事で随分と気持ちが楽になる。

 ミミカもまた思い返してみれば、瑞希が頼ってくれた事が嬉しくなり、食事中はニヤついてしまうのであった――。

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