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異世界で始める飲食巡り~誰でも使える魔法の作り方~  作者: 正岡千之
第一章 瑞希の長い一日、さよならココナ村
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瑞希の長い一日

 瑞希はぐるぐるとシチューをかき混ぜると、厨房に残っていたパンを切り分け、シャオの魔法でトーストにしていく。


「シャオの魔法はほんとに便利だな。焼く、混ぜる、冷やす、何でも出来るし……」


「腹が減ったのじゃ~まだ出来んのか?」


「ん~? もう出来てるけどドマルがまだ……」


 そんな話をしているとドマルが厨房に戻ってきた。


「四人とも食べるって! あれ? パンまで焼いたの?」


「俺達はともかく、ミミカ達は捕まってたから食事もしてないと思ってな……シャオも食べそうだしな」


「バターを付けて食べたいのじゃ!」


 瑞希とドマルは顔を見合わせて笑うと、階段を下りる音が聞こえて来た。


「じゃあ、席の方に鍋ごと運ぶか。ドマルは皿を頼む。シャオは食器をお願いな」


「「わかったよ」「わかったのじゃ」」



◇◇◇



 二階に居た四人が酒場の席に座ると、瑞希達が食事をもって席にやってきた。


「ミズキ様! 助けて頂いた上に食事まで作ってもらうなんて!」


 ミミカが立ち上がり、席にやってきた瑞希に慌てて取り繕う。


「良いから良いから。俺達も腹は減ったし、何人分作っても手間は一緒だよ」


 そう言いながら瑞希はお玉でクリームシチューを皿に取り分けていく。


「じゃあ早速頂きます!」


 瑞希は両手を合わせて食べようとするのだが、四人の女性達は目の前に置かれた白い液体を前に固まっていた。


「え~っと……食べないんですか?」


「それは……その……」


「なんと言うか……」


 テミルとアンナがもごもごと口ごもっていると、ドマルとタバスはシチューを口にする。

 そんな中、シャオが鶏肉を匙に乗せふうふうと冷ましてから口を大きく開くともぐもぐと幸せそうに咀嚼をする。


「美味いのじゃ! ホロホロ鶏の肉が柔らかく溶けてしまうのじゃ!」


「小僧……これもモームの乳を使ったのか……何でこんなに美味いんじゃ」


「シャオちゃんが言ってたように甘みがあって美味しい! それにとろとろしたスープで体が温まるよ!」


 シャオと男性達から美味い美味いと声が次々上がると、ミミカとジーニャが動き出す。


「ミズキ様が作った料理……不味いはずがないわ……」


「そんなに美味いんすか? こんなに白いのに?」


 二人は意を決して恐る恐るシチューを口にする……。


「「美味しいっ!」」


 一口食べ始めると、お腹も空いていたこともあり二人はパクパクとシチューを食べていく。


「じゃあ私達も……」


「食べましょうか……」


 テミルとアンナも遅れながらもシチューを口にする。


「美味しい……とっても優しい味なのね」


「美味い! ミズキ殿は料理までできるのか!?」


 女性達がパクパクとシチューを食べていると、瑞希の横に座っていた少女が大きな声で……。


「おかわりなのじゃ!」


 ピカピカになったシャオの皿が瑞希の前に勢いよく差し出される。


「早えな!」


 瑞希は笑いながらシャオの皿を受け取るとシチューを注いで行く。

 すると、瑞希の目の前に二枚の皿が飛び込んでくる。


「「私も」「うちも」「「おかわりっ!」」


 ミミカとジーニャが負けじとおかわりを要求する。

 瑞希はここの世界の人間にも自分の料理が求められた事に笑顔になる。


「お口に合ったみたいで良かったよ。このクリームシチューはパンにも合うんだ。ちょっと行儀が悪いけど、パンでこうやってシチューを掬って……」


 瑞希はトーストをシチューにつけてパクっと食べる。

 シャオは瑞希の真似をしてトーストをパクパクと幸せそうに食べて行く。


「確かに! スープなのに噛み応えが生まれてさらに美味しく感じます!」


「それよりもこの白いのが濃厚で美味しいわ。キリハラさんこれは?」


 瑞希はドマル達に説明したようにバターの説明をした。


「はぁ~モームの乳からこんな物が……」


 テミルは瑞希から話を聞き感嘆の声を漏らしていた。


「シチューもパンも美味いっす! もう一杯おかわり良いっすか?」


「ちょっと待てジーニャ! 私のおかわりが先だ!」


「待つのはお主達じゃ……わしのおかわりが先じゃ!」


 三人がわいわいとシチューの取り合いをしていると、ミミカが涙を溢し始めた。


「良かった……こうして皆で無事に食事が出来て……」


「ミミカ……」


「お嬢……」


「ミミカ様……」


「ミズキ様。この度は本当に危ない所をありがとうございました! こうして楽しく食事を出来るのも全てミズキ様のおかげです!」


 シャオはこの隙にシチューのお玉を掴もうとすると、瑞希に頭を押さえられピタッと動きを止めた。


「俺のおかげじゃなくて、シャオのおかげだよ。俺一人で出来るのは料理だけで、シャオがいなけりゃこの料理もこんな短時間で作れないしな」


 シャオは瑞希に頭を撫でられながら、むふぅ、と鼻息を荒くふんぞり返っている。


「その通りじゃ! でもわしはこんな美味いもんは作れんから、その点においてはミズキのおかげなのじゃ! 感謝すると良いのじゃ!」


「何でお前が偉そうなんだよ!」


 瑞希はぐりぐりと頭を撫でると、シャオ達の皿にシチューを取り分けていき、シャオは再びシチューを食べ始めた。


「まぁここにミミカ達を魔法で連れて来たし、今更隠す事も無いけど、シャオは魔法使いだ。ただ、冒険者や魔法使いとして名を挙げるつもりもないし、俺は色んな料理を食べたり作ったり出来たら良いんだ。テミルさんには伝えてたけど、出来れば俺達の事は公けにはしないで欲しい」


「でもそんなにすごいなら冒険者をすればめちゃくちゃ儲けられるっすよ!?」


 瑞希の言葉にジーニャが食いついた。


「ん~確かにお金は大事だけど、別に過ごせるだけで充分だよ。行く先々で美味しい物を食べたり、初めて見た食材で料理したりする方が、魔物と戦闘をするより何十倍も楽しいんだよ」


「ミズキは本当に欲が無いよね。商人としてはもったいないと思うんだけどな」


「ドマルの仕事だって自分が行けない土地の物が手に入る時にお客さんが喜んでくれるだろ? それを慈善事業でやるっていうなら俺も反対はするよ? 自分が納得するお金とお客さんが納得する商品の天秤が釣り合った時に双方が喜べる結果になるわけだ。俺はそれが冒険者稼業だとどうやっても釣り合わないだけだよ」


「双方が納得行く天秤……」


 ドマルは取引に置いて自分が泣く立場に立つことが多く、瑞希に言われて自身の気弱な性格な部分を考えさせられていた。


「料理ってそんなに楽しいんですか?」


 ミミカが興味津々に瑞希に尋ねる。


「少なくとも俺はゴブリンを狩るより全然楽しいよ! こうやって皆に美味いって言ってもらえたり、おかわりを要求されたりすると俺まで幸せな気分になれるからな!」


「私もお父様に美味しいと言ってもらえるでしょうか?」


「愛情を込めて一生懸命作れば、必ず美味しい物は出来る! だからミミカもお父さんに美味しい物を作ったら喜んで貰えるはずだ!」


「あ、愛情っ……!」


 ミミカは自分のために愛情を込められたと勘違いをしてしまう様なお年頃の女の子であった。


「キリハラさん……少し宜しいでしょうか?」


「どうしました?」


「ミミカ達がゴブリンに襲われた事は、私が真っ先にキリハラさんにお伝えしたため、ギルド経由ではまだキーリスには伝わっておりません」


「それは……良かったんでしょうか?」


「今回はミミカ達が即座に無事救出されたために結果的には良かったのですが、ギルドを経由しないため依頼ではなく個人的なやり取りで終了いたします」


「それなら別に良いんじゃないですか?」


「ですがギルドを経由すると依頼報酬やライセンスの等級が上がったりとキリハラさんにとって良い事が多いのです……」


「でもそんな事をしたら、ゴブリンに襲われた事が領主様に伝わって侍女の二人がやばくなりませんか?」


「「え?」」


「いやだって、領主の娘を危険に巻き込んだ上に、ミミカのわがままとはいえここまで連れてきてるんだぞ?」


 二人の顔がみるみる青ざめて行くと、テミルが言葉を続ける。


「その通りです。ですが、無事に城まで戻り、ミミカが二人を巻き込んだだけと庇うのであればこの二人にはお咎めは無いと思います。ミミカは無断で城を出たのですからお叱りを受けるのはしょうがないとしても、この二人は助けてあげて欲しいのです」


 ミミカはしゅんと沈んだ顔をしていると、瑞希がポリポリと頬を掻きながら言葉をかける。


「気にしなくても、冒険者稼業に興味はないし、等級にも興味がないのでギルドの報告はしなくても良いですよ」


「そう言って頂けると助かります。ですが報酬の方はミミカの所持金を全てキリハラさんに渡します」


「うぇっ!?」


 瑞希は驚きの声を上げるが、テミルは淡々と言葉を続ける。


「今日は夜も遅いので、タバスさんには私から宿代をお渡しして、私も含めてここに泊まらせて頂きたいのですが、ミミカの所持金は全てキリハラさんへお渡しいたします」


「そんな! じゃあ彼女達はどうやってキーリスに帰るんですか!?」


「そこで御相談なのですが、聞けばドマルさんもキーリスへ向かう途中だと聞いております。宜しければ彼女たちを一緒に送り届けてはもらえないでしょうか?」


「えぇぇー!!」


 ミミカは驚愕の声と共に立ち上がると、テミルの方に視線を送る。


「キリハラさん、もとい、シャオさんの力があれば例え魔物に襲われようとも安心が出来ます。私もミミカ達が襲われたと聞いた時は血の気が引きましたので……」


「確かにミズキ様達に送ってもらえれば安心だけど! でもそれって……!」


 ミミカはもじもじすると、ストンと椅子に座ってしまう。


「賛成っす! もうゴブリンの相手はコリゴリっす!」


「私も賛成です。頼りになる冒険者が付いてるのは……心強い……」


 ジーニャの元気な声とは裏腹にアンナの言葉尻は弱弱しくなっていく。


「ドマルは構わないのか?」


「別に構わないよ? 元々僕もミズキ達を雇ってた訳だしね」


「ではお願いしても宜しいでしょうか? ミミカ? 所持金をだしなさい」


「は、はい!」


 ミミカはテミルに言われると、スカートに入っていた硬貨を取りだした。


「ごめんなさい……ゴブリンに襲われたのでこれだけしかなくて……」


 テーブルに置かれたのは金貨が三枚だった。


「じゃあ僕もミズキの報酬を先に渡しておくよ」


 そう言うとドマルは金貨を一枚テーブルに置いた。


「えっと……金貨って一枚何コルですか?」


「金貨は一枚10万コルですね。命を救って頂いたのに少ない所持金しか渡せなくて申し訳ないです……」


「え!? じゃあ40万!?」


 日本で働いてた時の月給より多いお金が目の前に置かれた事により瑞希は慌てふためいた。


「こんなにいらないですよ! ドマルも! 剣とかもらってんだからこれは返すよ!」


「命を救って頂いた上に、護衛までして頂くんですから全然少ないです! 城に戻りましたら相応の御礼をさせて頂きたいのですが……」


「この上にさらに御礼!? いらないいらない!」


「ではこれだけでも受け取って下さい!」


 ミミカに有無を言わさず金貨を押し付けられると、瑞希はドマルの方をチラリとみる。


「受け取っておきなよ。ミズキが欲深くなくても、調理用の鍋とかは欲しいでしょ?」


 その言葉にぐらりと来た瑞希は大きくため息をつき、ミミカの金貨を受け取った。


「じゃあ旅の道中の食事や、材料代もここに含めさせて貰うという事で……。でもドマルには返すからな!」


「別に良いのに……」


「良くない! 何も知らない俺達に色々教えてくれたり、色々貰ったりしてるんだから受け取れない!」


「それなら僕も知らない料理を食べさせてもらったり、助けて貰ったりしてるから返してもらえないよ」


 ドマルはにこにこと瑞希に反論をする。

 そこにタバスが割って入ってきた。


「なら小僧は半分だけ金を返せば良かろう。小僧が言っておったお互いの天秤が釣り合うのはそこじゃろ?」


「それは良い案ですね! ミズキ、半分だけなら僕も受け取るよ?」


「はぁ……じゃあそれで良いよ」


 瑞希が金貨を一枚ドマルに手渡すと、ドマルは銀貨を五枚瑞希に手渡す。


「これで二人の天秤が釣り合ったね」


「こういうのをwin-winの関係って言うんだよ」


「それってどういう意味?」


「両者が勝ちって事だ」


 ドマルがそれを聞くと納得いったのか声を出して笑っている。

 そんな楽しい食事会が終わり、瑞希の長い長い一日は幕を閉じたのであった――。

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