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ミミカの苦手意識

 ダンスの練習をしている瑞希達はテミルの手拍子に合わせ、基本的な動作を学んでいく。

 シャオは背丈の似通ったチサとペアを組み、最初は戸惑っていたものの、すぐに慣れ、チサも子供らしい吸収力でさっさと覚えて行く。


 しかし、瑞希とミミカのペアはというと……。


「ごごご、ごめんなさいっ!」


「大丈夫大丈夫、俺も間違えた」


 瑞希はミミカに踏まれ、痛む足を我慢しつつも、なぜこんなにも息が合わないのか、首を捻る。

 ミミカ自身も基本的なステップは覚えているのだが、手拍子と相手が加わるとリズムがずれる。


「くふふふ! 下手くそなのじゃ」


「……普段ややこしい戦い方してんのに、何で出来ひんの?」


 お子様達が笑いながら瑞希達の動きを見ていると、瑞希がふと思いついたのか、アンナを手招きする。


「わ、私ですか?」


「ちょっと手を貸してくれ。チサの言葉で思い当たる節がある」


「やっぱり私が下手だから……」


「ちょっとした動作の確認だって」


 瑞希はアンナの手を取り、手拍子に合わせ動き出す。

 手を握るアンナは恥ずかしそうにしていたが、瑞希の動かす足に合わせ、ぶつからない位置で動く。

 瑞希達が基本的な動きをする最中、シャオが動いてはいけない箇所に風球を配置するが、瑞希はそれに気付いているのか、避ける様にアンナをリードし、踊り続けている。


「(ミズキ殿の顔が近いっ!)」


 恥ずかしがりながらも瑞希の顔をちらちらと確認するアンナだが、瑞希の目線は足元を見ていた。

 確認し終えた瑞希は顔を上げ、アンナの視線と自分の視線が重なると、柔らかく微笑み、一通り踊り切った。


「あ、ありがとうございましたっ!」


「いやこちらこそだよ?」


 何故か御礼を言うアンナはさておき、踊り切った二人を見てテミルが声を掛けた。


「出来るじゃないですか?」


「何でアンナだと出来るんですかぁー!?」


 ミミカは悔しそうに四つん這いのポーズを取り、床を叩いている。


「ん~……多分シャオとでも出来るぞ?」


 瑞希はそう言うと、背の低いシャオと手を繋ぎ一通り踊ってみせた。

 

「くふふふ! わしとミズキにかかればこんなもんじゃっ!」


「まぁシャオとは普段から手を繋いでるからわかりやすいな」


「じゃあなんで私とは出来ないんですか!? アンナとだって手を繋いでないじゃないですか!?」


「単純な話なんだけど……ミミカの動きが予想し辛いんだよ。アンナと試したのはアンナが不慣れな俺の動きに気付いて避けてくれるかどうかだ。シャオがこっそり風球を配置してたから、そこは踏まない様にしたけどな」


「どういう事ですか?」


「ミミカは苦手意識からか決めた動きをしようとし過ぎて相手を見なさすぎなんだよ。俺もこういうダンスは初めてだからどういう物かわからなかったけど、アンナとは以前に剣で勝負をした事あったから呼吸が合わせやすかったんだ。俺がもっと上手かったらミミカを上手くリード出来るんだろうけど……試しに俺が足を動かす前に合図を送ろうか?」


 瑞希は四つん這いのミミカの手を取り、立たせる。


「ミミカの足を出す方の手に軽く力を込めるからな? それまでは勝手に足を動かすなよ? 目線は上げとけよ。俺の手の加減だけ集中な」


「はいっ!」


 瑞希はテミルの手拍子に合わせ、ステップを踏むワンテンポ先で手に軽く力を込め、ミミカの出す足を決める。

 ミミカは手や肩、背中に瑞希の軽く込められた力を感じとると、瑞希の足と共にステップを踏む。


「(で、出来てるっ!? ……よね?)」


 ミミカが確認のために目線を下げようとするが……


「ミミカ、手に集中」


「は、はいっ!」


 瑞希の一声に顔を下げる事なく、瑞希の手に神経を集中している。

 たどたどしくはあるのだが、何とか形になっており、ミミカ自身も足を踏んだり、パートナーとぶつかったりする事がなく続けられている事に気付き始めた。

 それと同時にテミルの手拍子と、自身のステップが合っているという実感を掴めた所で、瑞希が手に込める合図を弱めていく。


「(あれ? 今合図あったよね?)」


 瑞希からの合図を感じたと思ったミミカは足を出し、瑞希はその足と同時にステップを踏む。

 踊りが続く事で間違ってないと思ったミミカは瑞希と動きを合わせる。


「出来てますよミミカ様」


「ほ、本当に!?」


 ミミカの集中が途切れた事で、ミミカの足が瑞希の足に重なろうとするが、瑞希はそのまま腕に力を込めミミカの体を崩し、手を回して受け止めた。


「ごめん。足を踏まれそうだったから……」


「ご、ごめんなさ……(はわわわわっ!)」


「ん~……後半の方はミミカもリズムは取れてたし、苦手意識も少しは取れたんじゃないですか?」


 受け止めているミミカの体を起こし、テミルに確認する。


「そうですね。ミズキさんが相手だと余計な力が抜けてスムーズでしたわ」


「そりゃ良かった。ミミカも今の感じを覚えとけば、他の人と踊る時も大丈夫じゃないか?」


「他の方となんか踊りませんよっ!」


「いや、舞踏会とかだったら誘われたら踊るもんなんだろ……?」


「じゃあミズキ様も女性の方に誘われたら踊るんですか!?」


「貴族でもない俺が? そもそも誘われないだろ?」


「そんなの分からないじゃないですかっ!?」


 ぷんぷんと怒りながら迫るミミカに瑞希はたじろいでいるが、それを眺めていたシャオとチサも加わる。


「……他の人はあかんで。うち等が許してんのはミミカ達だけ」


「他の女が来たら睨みつけてやるのじゃ」


 いつもの様に三人に文句を言われる瑞希を、軽く噴き出しながらテミルがアンナに話しかけた。


「ヤキモチ焼きに囲まれているとミズキさんも大変ね?」


「もしミズキ殿が他の貴族の方に……そう言えば姫様にもミミカ様ぐらいの御年の方がおられた様な……」


 ぶつぶつとアンナが懸念をしている姿にまたしても、テミルが笑ってしまう。

 

 すっかりと練習の空気ではなくなったのを感じたテミルは手を鳴らし、その場の空気を戻す。


「とりあえずミミカ様の婚約者役としてミズキさんがおられますので、もしも他の方に誘われても丁重にお断りして頂いても構いません。それに分かっておられるとは思いますが、王族の方々は位を気になさる方が多いので、ミズキさんやドマルさんを婚約者として連れていかれるのであれば、相応の御覚悟をしておいて下さい」


「「やっぱりそういうのはあるんですね……」」


 瑞希とドマルは声を合わせ項垂れる。


「うち等は所詮田舎者やと思われてるし、元から扱いなんかは痴れてるて。それに血縁関係なんかを気にするんは分かるけど、血で優秀さが決まる訳やないやろ? 偉いから凄い時代なんかもう時代遅れや。凄い人が偉くなったらええねん。やからうちはドマルはんが貴族やなくてもええんや。私の代でウィミル家に新しい血を入れたるわっ!」


「あ、あの……あくまでも役ですよね? 牽制ですよね?」


「あ、当たり前やっ! 物の例えやんか! せやからドマルはんも何か言われても気にせんとにこやかに微笑んどき。ごちゃごちゃ言うてくる奴よりうちに選ばれたドマルはんの方が男としては凄いねんから!」


 ウィミルの喧騒に圧倒されるドマルだが、カエラの脅迫にも似た説得を受け入れ頷く。


「ミミカ様もバラン様に感謝してくださいね?」


「お父様に?」


「カエラ様はウィミル家の現当主様ですから、結婚相手の基準を自分で決められております。ですが、貴族の結婚とは血の繋がり、貴族の繋がりの為、政略結婚をさせるのも普通です。ですからもしバラン様が結婚相手を選べば、どんな相手でもミミカ様の婚約者となります。バラン様はミミカ様が結婚したい相手が見つかればその方との縁談は否定しない筈です。きっとアイカ様もそんなバラン様と結婚なされて幸せだったでしょう」


「うふふ。私だってお母様の気持ちはわかるわっ! それにカエラ様の意見には私も賛成だわっ! どうせならテオリス家を強くしたいものねっ!」


「その意気やでミミカちゃんっ! お隣さん同士やからうち等の代になったらお互い頑張るでっ!」


「勿論ですっ!」


 ウィミル家の現当主とテオリス家の次期当主は力強く握手をする。

 そんな強すぎる女性の婚約者役に任命された平民の二人は胃が痛くなる様な気がするのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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