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残党と瑞希の説得

 ――轟音と共に崩れる城の壁の下では残党と思わしき男が瓦礫に埋もれる。

 テオリス兵と残党達は散り散りなり、応戦しつつも、グランとバランは残党のボスと思われる二人と相対していた。


「ひゃはははっ! 兄貴ぃっ! このでかいのは俺がやるわっ! この間殺し損ねたからさぁ!」


 グランに向けて魔法を放つ小柄な男は笑いながら兄と呼ばれる男に宣言する。

 バランに相対している大柄な男は鉈の様な剣を振り回し男が笑う男に答えた。


「ならば、この領主の首は俺が貰う! そうすればキーリスも俺達の物だっ!」


「舐められたものだな……」


 バランは大柄の男が振り回す鉈を真正面から剣で受け止めた。

 動きを止められた大柄の男はさらに力を込めるのだが、バランはピクリとも動きはしない。


「どうした? 俺の首を取るんだろう?」


 バランが剣に力を込めると、大柄の男は徐々に力負けをし始めたのだが、不敵に微笑んだ。


「剣だけしか使えない馬鹿がっ!」


 男は鉈剣を構えたまま、バランに向け至近距離から火魔法を放つ。


「……剣すらまともに扱えない阿呆が。聞いて呆れる」


 魔法が放たれるその瞬間、バランは剣が振れるだけの距離を取り、火魔法を切り裂いた。

 魔法を放った事で勝利を確信していた大柄の男はその光景に驚き、ほんの一瞬固まるのだが、バランに取ってはその一瞬で充分だった。


「――来世でやり直すが良い」


 バランの言葉に大柄の男の意識はそこで途絶えた。

 兄である男が倒れた事で、グランと相対する男に動揺が走る。


「あ、兄貴? 兄貴っ!?」


「貴様は人の心配をする余裕などあるのか?」


 グランは小柄な男を弾き飛ばし、再び距離を詰め始める。

 小柄な男は素早く詠唱を始め、手を翳し、水魔法を放つ。

 その鋭そうな水魔法が放たれた方向はグランではなく、以前グランが庇ったグランの部下だ。


「ひゃはははっ! こうすればてめぇは守るよなぁ!?」


 グランは部下に迫る水魔法を気にもせず、小柄な男を斬り捨てた。


「がふっ……てめぇ……自分の命を選びやがったな……」


「同じ手を二度も食う様な柔な鍛え方はしていない。そうだなっ!?」


 小柄な男の擦れ行く視線の先には、以前の様に死を感じ固まる兵士ではなく、自分が出来る行動の中で、不細工だとしても自分が生きる行動を起こし、転がり避ける兵士の姿があった。

 転がりながらも視線は相対していた残党から離す事なく、放たれた水魔法は相対していた残党の男に突き刺さる事となった。


「貴様の浅はかな魔法で俺の部下を救ってくれたのか?」


「……ちく……しょうが……」


 小柄な男はそう言い残しこと切れた。

 グランは剣を納め、自身の部下である兵士に走り寄り引き起こす。

 グランに引き起こされた兵士は、どこか憑き物が落ちた様な晴れやかな顔をグランに向ける。

 グランが辺りを見渡せば残党達は全て倒れていた。


「どうやらミタスの洗脳から意識を取り戻した盗賊達が牛耳っていたようだな。傷を負った者は手当を! 怪我をしていない者は城内の探索にかかれっ!」


 バランの号令と共に動けるテオリス兵は城内へと走る。

 残ったバランはグランに話しかけた。


「お前を襲ったのはこいつらで間違いないのか?」


「……はい。ただ私が切ったこいつは別の奴も兄と呼んでいました。先程バラン様と相対した者とは別の人物です」


「残るはそいつだけか……」


 バランが呟いたその時、城壁から土魔法が放たれた。

 その気配に気付いた二人は、次々と迫る槍の様な土魔法を斬り落として行くが、全てを斬り落とした視線の先では、城壁から街中への方面へ魔法使いが飛び降りて行った。


「不味いな……グラン、住民から死傷者を出したくない。急ぐぞ!」


「はっ!」


 グランはバランに返答し、剣を鞘に納め、街へと素早く走って行くのであった――。


◇◇◇


 街中で炊き出しを行う瑞希は、いつの間にか住民の子供達に群がられていた。

 風呂に入り、新しい服を着せられ、腹も膨れた子供達の新たな欲求は遊びだったのだ。

 瑞希の後ろをちょこまかとついて回る子供達の姿と美味い食事が振る舞われた事で、住民達の間では和やかな雰囲気が生まれていた。


――ねーねー! 遊んでぇ~!

――遊んでぇ~!


「今は仕事中だから後でなっ! シャオ、干しウテナが馬車にあるからこいつらに配ってくれっ!」


「何じゃとっ!? あれはわしのおやつなのじゃっ!」


「作ったのは俺だろっ! またすぐ作るから今回は譲ってくれっ!」


「うぬぬぬ……じゃあわしにはまたどーなつを作るのじゃっ!」


「約束するっ! キーリスに戻ったらドーナツな!」


「……もっちりの方も食べたいっ!」


 すかさずチサも話に加わり、大好きなドーナツを要求する。


「わかったわかった! ほら、お前等、あの姉ちゃん達に付いて行けば美味い果物が貰えるぞっ!」


――甘いのっ!?

――食べたぁいっ!


 瑞希の言葉に子供達はわらわらとシャオとチサの元に集まる。

 シャオとチサは、瑞希が暇を見つけて作っていた干しウテナをモモが曳く馬車へ取りに行き、子供達はシャオとチサに付いて行く。

 だが、最初から瑞希に纏わりついていた兄妹は変わらず瑞希の服を掴んでいた。


「お前等は貰いに行かないのか?」


 兄妹は頷き、瑞希の炊き出しを見守っている。


「ん~……見てて面白いか?」


 瑞希の質問に、幼い兄妹は素早く首を縦に振る。

 腹が膨れ、最初は死んだ様な目をしていた兄妹は、今やキラキラと輝く様な目で瑞希の仕事を見つめていた。


「俺が料理に興味を持った時もこんな感じだったのかな……?」


 瑞希が独り言ちながら炊き出しの料理を作り上げていると、干しウテナを手にし戻って来た子供達が、美味しい、甘い、と次々に騒ぎ始めた。

 その声を聞いた、ウテナの実を齧った事のある大人達は瑞希にウテナの事を尋ねた。


――ウテナが甘いってどういう事だよ?


「皮を剥いて、殺菌して、干しただけですよ。そしたらウテナの渋さが抜けて甘くなるんです」


――そんな魔法みたいな事があるのか?


「ありますよ? どんな物でも工夫をすれば料理に使えるかもしれないですし、バランさんがコバタを復興すればこの料理もいつでも食べられます。試しに干しウテナを食べてみますか? シャオー!」


 瑞希の声掛けに、シャオが干しウテナを一つ瑞希へと投げた。

 瑞希はしっかりと干しウテナを受け取り、質問をしてきた男へ手渡した。

 男は他の住民が見守る中、恐る恐る干しウテナを齧ると、その甘さに言葉を漏らした。


――うめぇ……。


「でしょ? この辺はウテナの木もたくさんありますから、きちんと作ればコバタの名物になるんじゃないですか?」


――じゃ、じゃあこの木の枝なんかも料理に使えんのか!?


「木の枝はさすがに……」


 瑞希は苦笑しながらも別の男が差し出す木の枝を受け取り、匂いを嗅ぐ。

 仄かに香る甘い香りを感じた瑞希は答えた。


「あぁ、でもこれなら燻製に使えますね。ベーコンとかウィンナーを作る時に良さそうかも……これってなんの木ですか?」


――そこら辺に落ちてた木の枝だ! くんせい? べーこんとかうぃんなーってのは美味ぇのか!?


「美味しいですよ! 俺もまだ作ってないですけど、このリゾットに入れたらさらに美味しくなりますよ。保存食だし、今度一度作ってみようかな……。思い出させて貰ってありがとうございます!」


 瑞希は燻製の存在を想いださせてくれた目の前の男に笑顔で感謝をする。

 その顔に加え、御礼を言われると思わなかった男は、瑞希の存在に陥落してしまう。


――い、良いって事よっ! なぁこの街は本当にあんな魔法嫌いの領主に任せて良い街になんのか? ここで荒くれてる奴等は元々キーリスで追い出された魔法使い崩れの奴も多いんだぞ?


――そうそう! 魔法が使えるからって我が者顔で歩く冒険者も多いしよ!


「バランさんの魔法嫌いも払拭されましたし大丈夫ですよ! 俺達も魔法を使ってるでしょ? それに魔法を使える人の協力があればこの街の発展も早くなりますよ?」


 瑞希の言葉に異を放つのは魔法使いによって追い詰められた住民達だ。


――そ、そうは言っても魔物の群れだって、ダマズが死んだのだってバラン様の仕業だろう!? それに魔法使いがこれ以上でかい顔すんのも気にくわねぇよ!


 瑞希はその言葉にカイン達が監視するジョセの事を思い出していた。


「皆さんがそう思うのは仕方ないと思います……。けど、信じて下さい! バランさんは人が苦しむ様な計画を立てる様な人じゃないです! 俺達が自由に魔法を使ってる様に! 魔法を使って美味しい食事を皆さんに振る舞う様に俺達に命じたのもバランさんですよ? それに魔法をきちんと人の為に使える人も大勢いるはずです! 何を信じるかは皆さんの自由ですが、どうせ信じるなら未来の自分が楽しくなる想像をできる相手を選んでください!」


 瑞希の言葉にざわざわと住民達がどよめき立つ。


――元々ダマズが居た時も税金が高くて暮らし辛かったよな……。


――ミタスがあの魔物達を追っ払ったかもしれないけど、その後変な奴等が出入りする様になったわ!


――俺の連れの魔法使いはあいつについて行って帰って来てねぇぞ!


――今この街を荒らしてるのだって、ミタスが連れてた奴だろ!?


――どうせ誰かを信じて偉いさんを選ぶなら私はこのお兄さんの事を信じるわっ!


――バラン様を信じて付いて行ったらこの料理がいつでも食べれる様になるんだよな!?


――俺も! この料理をいつでも食える様になるなら兄さんの言葉を信じるぞ!


「大丈夫です! この街でペムイとモームが育てれるなら、このクリームリゾットはいつでも食べれます!」


 瑞希がそう言い放った直後、住民達が集まっていた広場から悲鳴が響き渡った。

 悲鳴の先から人混みは割れ、とても大きな人型の魔物を連れた一人の男が佇んでいるのであった――。

いつもブクマ、評価をして頂きありがとうございます。

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