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クリームリゾットと轟音

 具材を炒め終えた瑞希は、大鍋に研いだペムイを入れる。

 想像もつかなかった調理方法にペムイ大好き女子のチサが興味津々に大鍋を覗く。


「……生のまま入れんの?」


「ペムイにバターを吸わせるんだよ。そしてここに……」


 瑞希がおもむろに大鍋にモーム乳を入れようとするが、モーム乳でペムイを炊こうとする瑞希の行為に、チサは慌ててその手を止める。


「……何してんの!?」


「何って、ペムイにモーム乳を入れるんだよ。ミーテルでドリアを食べただろ? あんな感じでペムイはモーム乳にも合うぞ?」


「……そんな事ないとは言い切れへん……けど、ペムイを炊くのにモーム乳て……」


「大丈夫だから心配すんなって! モーム乳と鶏ガラスープを入れて、このままペムイが柔らかくなる迄煮るんだ」


「くりーむしちゅーみたいじゃな? ペムイは粥みたいになるのじゃ?」


 シャオも鍋を覗き込みながら出来上がる料理を想像する。


「近いぞ? リゾットって言ってな、ペムイを使った洋風の料理だ。ポムの実を使ったトマトリゾットとか、海鮮の出汁を使ったリゾットも作れるんだ。ペムイはどこの国でも愛される穀物だよな」


 瑞希は大鍋の掻き混ぜながら、水分量の調整をする。

 本来のリゾットは米の粒が残る様に作るが、今回はリゾットというより粥に近い。

 食器を使わなくても、啜るだけで食べれるようにするためだ。


 チサはペムイがどこでも愛されるという言葉が嬉しかった様だ。


「……ペムイは美味しいし、量も作れる! ちゃんと田を作ったらこっちでも皆お腹いっぱい食べれるで!」


「そうだな! そうなったら良いよな!」


「くふふふ。ミズキのペムイ料理が色々食べられるのじゃ!」


 瑞希がかき混ぜるのを止め、シャオが弱火にすると、髪の毛が乾ききっていない幼い兄妹が瑞希の服を掴んだ。


「おっ? さっぱりしたか? もう少ししたら料理も出来上がるからな?」


 鍋に近付いた事で、先程から香っていたモーム乳の甘い香りが幼い兄妹の腹を叩く。

 良い音を鳴らす兄妹は恥ずかしそうにするが、瑞希は幼い兄妹と目線を合わせるためにしゃがみ込み、シャオと手を繋ぐと二人の髪の毛に温風を当て、手櫛で髪を乾かす。


「さっさと乾かさないと風邪ひくからな」


 幼い兄妹は心地よい風と瑞希の手さばきに目を閉じながら身を委ねる。

 瑞希は兄妹の髪の毛が乾くと、終了の合図の様に二人の頭をポンポンと叩くと、立ち上がり、大鍋を掻き混ぜ様と動き出そうとするが、幼い兄妹が足元から離れない。


 その光景を見たシャオは素早く瑞希の背中をよじ登り、幼い兄妹を牽制する。


「こらシャオ、調理中によじ登るな!」


「ミズキは子供に懐かれ過ぎなのじゃっ!」


「全く……少しはチサを見習って……」


 瑞希はチサを比較に出そうとするが、チサの方に視線をやると、今にも飛び掛かりそうなポーズで固まっていた。

 気付かれたチサはばつが悪そうにゆっくりとポーズを解き、自分の着ている服を手直す様に誤魔化した。


「……ちゃうねん」


「はぁ……。とりあえずもう料理も……」


 瑞希が大鍋の方を見やると、漂う香りのせいか、瑞希達の和やかな雰囲気のせいか、腹を空かせてコバタの住民達が集まって来ていた。


「バランさん達が声を掛けてくれてるのかな……。お前等、引っ付いてても良いけど、熱いのが飛んだりするかもしれないから気を付けろよ?」


「くふふふ。そんなもん余裕で避けてやるのじゃ」


 二人の兄妹も瑞希の言葉にコクコクと頷くと、瑞希の服を掴みながら付いて行く。

 瑞希が大鍋の前に立ち、ペムイの加減を確かめると、塩と胡椒で味付けをして、最後に細かく切ったチーズを鍋に投入する。

 コバタの住民達は、また見た事もない食材が登場し、首を傾げるのだが、漂って来る香りは間違いなく美味そうな香りだと感じ取り、蛇の生殺し状態の様に、涎を垂らしながら完成を待っている。

 

 瑞希はチーズが溶け、ペムイも柔らかくなっている事を確認し、少し味見をすると、丁度良い味に落ち着いたのか、完成の合図の様に大きな木べらを鍋の淵にコンコンと叩きつけ、木べらに付いた余分なペムイを鍋に落とした。


「じゃあ料理も完成したので順番に配りますね~! たっぷりありますから焦らず並んで下さ~い!」


 瑞希はテオリス兵から木で出来たカップの様な物を受け取り、木べらをお玉に持ち替えて次々にカップに入れて行く。

 シャオは瑞希の背中から見ていた事もあり、とろりと煮込まれ、チーズがお玉から薄く伸びる様を見て、食欲が掻き立てられたのか、慌てて瑞希の背中から降り、ぴょんぴょんと跳ねながら瑞希に強請る。


「うぬぬっ! わしにも寄越すのじゃっ!」


「わかったから落ち着けって! 滅茶苦茶熱いからお前等も気を付けて啜れよ?」


 瑞希は竃の後ろにいる子供四人にクリームリゾットが入ったカップを手渡す。

 子供達はふうふうと息をかけ、早く食べようと冷ましているが、チサはカップの中身をしげしげと覗き込んでいた。


「……モーム乳で炊いたペムイ……」


「美味いから食ってみろって。ペムイとモーム乳は相性が良いんだぞ?」


 チサはふぅっと息をかけ、両手で持ったカップに口を付け啜る。

 木で出来たカップでは、リゾットの熱さに気付けなかったのか、啜ったリゾットの熱さに吃驚する。

 舌を出し、火傷をした箇所を落ち着かせ、もう一度ゆっくりとリゾットを啜る。

 今度はリゾットの熱さを想定出来たのか、口の中に入って来たリゾットを冷ます様に、口の中で生まれた熱い空気をホフホフと吐き出し、濃厚な乳製品の旨味に集中する。

 モーム乳のコク、鶏ガラスープの旨味、ペムイの甘味、時折感じるバターの風味や、パルマンと茸の食感を感じ、飲み込んでから思わず笑い声が漏れた。


「……にへへへ。ペムイって凄いなぁっ!」


「美味いだろ? お前等も美味いか?」


――美味しいっ!

――おいしぃ~!


 二人の兄妹は一口目が余程美味かったのか、早く食べるために一生懸命カップに息を吹きかける。


「くふふふっ! この料理はいずれいつでも食べれる様になるのじゃからそんなに慌てんでも良いのじゃ。のうミズキ?」


「わははは! その通りだっ! 皆さんもどうぞ召し上がって下さい! この料理はコバタが落ち着いたらいつでも食べれる様になる、そんな料理ですからね!」


 瑞希はそう言いながら次々に住民にクリームリゾットを配る。

 大人も子供もカップを受け取り、クリームリゾットを口にした者は、その美味さに衝撃を受けている様だ。

 ある者は知り合いを呼びに、またある者は大声で美味さを叫び、集まる住民達の騒ぎにさらに住民が集まるという連鎖反応が起き始める。

 瑞希が手を止める事なく、リゾットを配っていると、城の方から轟音が響き渡る。

 瑞希はピクリとその音に反応するが、住民達を不安にさせぬ様に声を上げた。


「まだ食べてない人もいると思うので、どんどん作りますね~! お代わりが欲しい人は居ますか~!?」


 瑞希のお代わりという言葉に、リゾットを口にした者は轟音等どこ吹く風か、一斉に挙手をする。

 瑞希はその光景に苦笑しながら思わずたじろぐが、瑞希は後ろから服を引っ張られる感覚に、ふと後ろに視線をやると、幼い兄妹が既に食べ終えたカップを手にしながら諸手を上げてお代わりを求める。

 瑞希は自分の仕事はここからだと、作り上げたリゾットが無くなる前に、再び気合を入れて大量のリゾットを作り始めるのであった――。

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