荒れ果てた街コバタ
馬車に揺られながらのんびりと過ごしながら、現地であるコバタへと到着した瑞希は、馬車を下りると同時に、キーリスやウォルカに比べ、活気のなさに驚く。
「確かにこれは荒れてるなぁ……」
「活気がないのじゃ」
「……子供が蹲ってる」
瑞希達は炊き出しを行う予定の広場に一度降り立ち、辺りを見渡しながら街の現状を口にする。
遠い視線の先にはテオリス城よりは小さいが、石造りの城が建っており、門番には兵士というのが見当たらない。
街の者達は怪訝な顔をしながらテオリス兵の様子を伺っている。
バランは大きく息を吸い込み遠くまで聞こえる様に言い放った。
「聞けっ! コバタの民よっ! 私はモノクーン地方北部を治めるバラン・テオリスだっ! この街を任せていたダマズ・アスタルフの話は聞いたっ! 今これよりこの街はテオリス家の庇護下に入る! 街の現状っ! 日々の暮らしっ! それら全ての改善を約束するっ! そしてこの街にいる魔法使い達よっ! テオリス家があるキーリスから流れて来た者もいるだろうっ! 私は考えを改めたっ! もしも今の現状を悩んでいる者がいるならば、その才能をこの街の発展のために協力をして貰いたいっ!」
覇気を纏いながら大声で宣言をするバランの言葉に痩せ細った二人の子供が近づいて来る。
テオリス兵はバランを守る様に子供の前に立ちふさがるが、バランは兵士の肩に手を置き制止する。
――街が良くなったらお腹いっぱい食べれる……?
兄であろう幼き子供は妹と思わしき子供と手を繋ぎながらバランを見上げ質問する。
「約束しよう。この街を必ず豊かにしてみせる。それよりお前達の父と母はどうした?」
――パパとママは魔法使いについて行ってから帰ってこない……。
幼き兄は俯きながらそう答える。
子供が言う魔法使いとはミタスの事であろうと気付いたバランは、コバタの現状に気付いていなかった自身のやるせなさに固く拳を握る。
バランはしゃがみ、子供達に目線を合わせる。
「そうか……。魔法使いが憎い……か?」
――わかんない……でも、パパとママを返して欲しい……。
「そうか……。今から私達は人探しもする。お前達の親が見つかったならば必ずここに連れて来よう」
バランは立ち上がり、再び大きく息を吸った。
「行方不明になっている者がいるならば名前と特徴を教えてくれっ! 今から我が城の兵士がコバタの治安維持を努めるっ! そして、ダマズに代わりこの街を牛耳っている不届き者よっ! 今から会いに行くから覚悟を決めておけっ!」
バランが言い終わるや否や、上空からバランに向けて火球が迫って来る。
殺気に気付いていたグランは、バランに迫る火球に向け剣を振る。
剣の風圧で散らばった火の粉に臆する事なく、火球が放たれた位置に視線を向ける。
「あそこだっ! 捕らえろっ!」
グランは建物の上に立っていた者に剣を向け、テオリス兵を動かす。
ミミカの火球を切り払うバランの姿は見ていたが、グランもが出来る様になっている事に瑞希は少し嬉しくなる。
「グラン、怪我したなら我慢せずここへ来いよ?」
「ふんっ! お前等の魔法に比べてこの程度の魔法など気にもならんわっ!」
「頑張れよ! じゃあ俺達もちゃっちゃと準備をしますか……。腹を空かしてる子供達もいるしな!」
瑞希はそう言いながらバランに持って来て貰った食材を取り出した。
何の事はない、モーム乳とペムイ、そしてここに移動する最中に事前に作っておいた鶏ガラスープと刻まれたパルマン等である。
「ミズキ君、ここは任せても良いか?」
「俺達なら大丈夫ですよ! 心強い妹達が居ますからね!」
「くふふふ。わし等の邪魔はさせんのじゃ!」
「……邪魔するならうちの魚さんの体当たりさせる!」
瑞希はシャオと手を繋ぎ、足場の土を盛り上げ、簡易的な竃を作り上げる。
その大きさは見張りのテオリス兵が持ってきた大鍋を置くには十分な大きさだ。
「ではミズキ君、皆への炊き出しは任せたぞ。途中途中で炊き出しの事を民衆には声を掛けておく。野蛮な奴がいれば容赦はするな。私達はあの城へ踏み込むぞっ!」
「「「「はっ!」」」」
「お気をつけてっ!」
バランを始め、グランの小隊と大部分の小隊編成をされたテオリス兵がウェリーに直接跨り街の中を駆けていく。
残された瑞希達の護衛をする兵は、バランの背中を見送り、瑞希はふっと息を吐くと、気持ちを切り替えた。
瑞希は大鍋にバターを入れ、刻んだパルマンとブマ茸を入れると、それを見越したシャオが魔法で火を点ける。
「シャオ、バターを使う時は?」
「焦げやすいから火加減に気を付けるのじゃ!」
「正解!」
瑞希はいつもの様にシャオと楽しそうに調理について話し合う。
ふわりと漂うバターの香りと、楽しそうな雰囲気に、先程バランと話していた兄妹が近寄って来る。
――なんか美味しそうな匂い……。
「美味いぞ~? まだ少し時間もかかるから、先にそっちで風呂にでも入るか?」
瑞希は念の為に持ってきた大きなたらいの様な物を指を差す。
グランから事前に汚れた子供が多いと聞いていたためだ。
――お……ふろ……?
「飯を食う迄時間はあるからささっと体を流すと気持ち良いぞ? 新しい服も持って来てるから綺麗になって、腹が膨れたら気持ちも元気になるからな」
瑞希は二ッと笑い、笑顔で兄妹に伝えると、兄妹はおずおずとたらいの方へと歩いて行く。
「チサ、たらいに水を入れてやってくれ。シャオは小さ目の火球を頼む」
「……にへへ、わかった」
「任せるのじゃ!」
チサは魔力を高め、尾ひれの長い水で出来た金魚を呼び出し、金魚は口から大き目の水球をたらいにゆっくりと落とす。
シャオが溜まった水に火球を落とす。
火球に触れた個所がボコボコと沸騰すると、直ぐに火球は消え、湯気が立ち上る。
「ほら、直ぐに沸いただろ? そのままでも良いからたらいの中に入って、着替えを貰えばいい、お湯は気にしなくても何度でも入れ替えてやるからな」
幼い兄妹は何度も瑞希とたらいを交互に見る。
「シャオ、ちょっと鍋を見ててくれ。焦げない様に混ぜてくれたら良いから」
瑞希は大きな木べらをシャオに手渡し、幼い兄妹の背中を軽く押す。
「ほれ、履物を脱いで、お湯の中に入って良いぞ、泥だらけの服も脱いで、そっちに置いとけ。ざばっと湯で泥を流すだけでも綺麗になるからな」
瑞希は手際よく服を脱がすと、兄を持ち上げるとたらいの中に入れる。
暖かな湯に触れた事で、何かが緩んだのか兄はボロボロと泣き出してしまう。
瑞希は兵士から布を受け取ると、湯につけ、兄の顔と体を拭う様に拭く。
「あったかいだろ? でもな、兄貴が妹の前で泣くな。妹の前では格好良い兄ちゃんの方が頼りがいがあるだろ?」
瑞希はそう言いながら笑顔を見せると、兄はぴたりと泣き止み、瑞希にぎこちなくも笑顔を見せる。
「そうそう。そしたら妹の体も拭いて綺麗にしてやれ、お兄ちゃん」
「ミズキっ! いつまで混ぜてれば良いのじゃ!?」
「すぐ行く~! じゃあ俺はそこで料理の続きしてるから何かあったら呼んでくれ。兄ちゃんに体を拭いて貰ったら髪の毛乾かしてやるから、後でこっちに来いよ~」
瑞希は幼い兄妹にひらひらと手を振ると、シャオの元へと戻る。
残された兄が妹の体を温かな湯で拭いてやると、妹は気持ち良さそうに微笑む。
その顔を見た幼い兄は唐突にばしゃりと湯を自分の顔にかけ、妹が驚いていると、ぽたぽたと雫を落としながらも先程見た瑞希の様な笑顔を妹に見せるのであった――。
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