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炊き込み御飯とすまし汁

 瑞希はシャオとチサの髪の毛を軽く纏めてから、朝食の準備に取り掛かる使用人達が溢れかえる厨房へと顔を出す。


「すみませんお忙しい時に。竃を借りても大丈夫ですか?」


――皆ぁ! ミズキさんが朝食作るってぇ!


 使用人の言葉に瑞希に注目が集まる。


「勿論たっぷり作るので皆の賄いでも食べれますよ?」


 女性ばかりの厨房内では歓喜する黄色い声が一斉に上がる。

 瑞希が調理場の手伝いをする際に、使用人達に味見をして貰っている内に根付いた習慣でもある。

 料理に携わっている者達だけに、美味い物や新しいレシピは単純に嬉しいのだ。


――今日はどんな料理だろっ!?


――ミズキさんの朝食って久々だよね~?


――この前のふれんちとーすとなんか結局取り合いになったもんね!


「……むぅ。相変わらず大人気や」


「ミズキっ! あんまり鼻の下を伸ばすでないのじゃ!」


「伸ばしてないだろ~? それに美味い物は誰でも食べたいんだよ。シャオだって楽しみだろ?」


「当たり前なのじゃっ! ところで今日は何を作るのじゃ?」


 食材を作業台の上に並べていた瑞希が答える。


「今日はグランの好みに合わせて……炊き込み御飯だ!」


「……前に話だけ聞いてたペムイ料理やんっ!」


「そうそう! 良い機会だから作ろうと思ってな! じゃあチサはメースとマクで出汁を取ってくれるか? 出汁は炊き込み御飯にも、汁物にも、出汁巻きにも使うからな! シャオは出汁を取るのを手伝ってから、出汁巻きを任せる。卵料理は得意だもんな? チサの管理してる糠漬けはどうだ?」


「くふふふっ! 任せるのじゃっ!」


「……昨日寝る前に入れたリッカ(キュウリ)が食べ時っ!」


「じゃあ手分けしてさっさと作ろうっ!」


 瑞希は大きく手を叩き、作業開始の合図をする。

 最近では瑞希も二人に任せる事が増え、最初の頃に比べスムーズに調理を進める事が出来ている。

 息の合った作業光景に使用人達が見惚れる。


――私あの子達ぐらいの時料理なんか全く出来なかったわ……。


――私もよ。お母さんの手伝いもあんまりしてなかったかも……。


 厨房を預かる使用人の婦長がパンパンと手を叩く。


――私達も作業を急ぐよっ! ミズキさんが出来上がるまでに仕事が終わってない子は賄い抜きだからねっ!


 婦長の言葉に、使用人達は慌てて朝食の準備に取り掛かる。

 瑞希は苦笑しながらも自分の教え子達の作業に目を配りながら、野菜の皮を剥いて行く。

 手元に用意しているのはデエゴ(大根)カマチ(人参)ブマ茸(シイタケ)、ホロホロ鶏のモモ肉である。


「ん~……牛蒡とか油揚げが欲しい所だけど、まだ見つけてないんだよな……」


 瑞希は独り言ちながら食材を刻んでいると、周りの使用人達が瑞希の手元をちらちらと見て来る。


「そちらの食材で余ってる野菜って何かありますか?」


――シラムとかパルマンはありますよ?


――後は……ハクスがあるけど……使いますか?


「ハクスってどんなのでしたっけ?」


 瑞希に声を掛けられた使用人が瑞希の目の前にハクスを置く。

 まるで小さ目の丸太の様な見た目をしている食材に、瑞希は手に持って色々な角度から眺めてみた。


「……丸太? 木の根っこですか?」


――見た目は似てますけど、ちゃんとこういう実なんですよ? 皮を剥いて使います。


「へぇ~……どうやって使うんですか?」


――歯応えが良いので、私達は肉と炒めたりしますね。


「試しに使ってみます!」


 瑞希は分けて貰ったハクスの皮を剥き、小さく切って、味見をする。

 パキッという音を立て、咀嚼すると、こりこりと食感を楽しめる味だ。

 しかし、実と言うには甘さもなく、瑞希は炊き込みご飯にも使えると判断する。


「蓮根に近いか。炒めても食感は残るみたいだし、蓮根代わりに使ってみようか」


 瑞希がハクスを含めた野菜と、鶏もも肉を細かく切り分けると、シャオとチサから出汁が取れたと報告が来る。


「基本の出汁が取れたのじゃ!」


「……わっ、これ全部ペムイと一緒に炊くん?」


 チサは瑞希の手元にある大量の刻まれた野菜を見た。


「ペムイは何と合わせても美味しいからな! マグムと炊いても旨いし、キノコだけでも良い、具材の旨味をペムイが吸ってくれるんだ。今日は時間がないから使ってないけど、干しブマ茸の戻し汁を使うのも有りだぞ。カエラさんがチサの故郷のペムイを持って来てくれて良かったな」


 瑞希はそう言いながらチサの頭をぐりぐりと撫でる。

 カエラが気を利かしたのか、ペムイ好きの瑞希の為に、ミーテルから積んできてくれたのだ。

 残り少なくなってきたペムイを補充出来た事に、瑞希よりもチサが喜んでいた。

 しかもウィミル城への御裾分けにと、かなりの量を運んでくれたのだ。


「……ペムイはおとんのが一番美味い!」


 その中でも瑞希に渡されたのは、チサの親父であるザザが育てたペムイであった。


「よし、じゃあたっぷり取った出汁を三つに分けて、味付けをしようか!」


「その前にわしの頭も撫でるのじゃ」


 瑞希は苦笑しながらも空いている手でシャオの頭を撫で、シャオは嬉しそうにしている。

 瑞希がシャオとチサを撫でる、そんないつも見る光景を、使用人達は微笑ましく眺めていた。


「はい、終わり! じゃあ出汁の味付けな。炊き込み御飯用は少し濃い目に、出汁巻き用はそれよりも少し薄く、すまし汁用はそのまま飲むからそれよりももう少し薄くても良い。……こんな感じだ」


 瑞希は手早くジャルとペムイ酒で味付けをする。

 味見をするシャオとチサは頷きながら、味を確認し、瑞希は出汁の荒熱を取る様に魔法を使う。


「出汁巻きの出汁が熱かったら卵と混ぜた時に凝固するからな。チサはそっちの大鍋に研いだペムイを移してくれるか?」


「……ペムイはどれぐらいいる?」


「そうだな……あの人達とグラン達、それと俺達が朝食で食べる量なんだけど……」


 チサは辺りを見回し、使用人達とグランの食べる様子を想像する。


「……一人当たり……おとんが食べるぐらいやな」


 チサは一人納得しながら大量のペムイを研ぎ始める。


「まぁ余ったらおむすびにしても良いけど……皆そんなに食べるか?」


「ミズキは自分の料理の恐ろしさを理解してないのじゃ」


「……ミズキの料理に慣れてへん人は食べれる時に、食べれるだけ食べたなるで?」


「そんな事……」


 瑞希がそう言いかけた時に、チサの言葉に頷く使用人達の姿が目に入る。

 瑞希は苦笑しながらも、ペムイに合わせる様に、炊き込み御飯の具材を増やしていく。


「よし、じゃあシャオ、魔法で熱湯を出してくれ」


「構わぬが、野菜の下茹でをするのじゃ?」


「いや、鶏肉を洗う。このままペムイと炊いたら脂が多くなりすぎてギトギトになるからな」


 瑞希がボウルに入れた鶏肉に、シャオは魔法で熱湯を入れる。

 瑞希は軽くボウルに入った鶏肉を混ぜ、そのお湯を捨てる。


「これだけなのじゃ?」


「おう。これで余分な脂とか臭みがこの捨てたお湯に移るんだ。さっきも言ったけど、ペムイは味を吸収するからな。臭みなんかも吸収しちまうんだよ」


「見えぬひと手間じゃな?」


「美味しい料理には大事なひと手間だ」


 瑞希とシャオが笑い合ってると、ペムイの用意が出来たチサが瑞希を呼ぶ。


「……魔法が使えるからペムイを研ぐのも楽やわ」


 チサの頭の上にはいつの間にかふわふわと金魚が浮かんでいた。


「本当にシャオもチサも魔法が使えるのが羨ましいな! いつも助かるよ。じゃあペムイの吸水が終わったら、大鍋にペムイと出汁を入れて、具材を入れる! 後はいつもみたいにペムイを炊けば完成だ! 意外と簡単だろ?」


「……どんな野菜でもええの?」


「基本的にはカマチみたいな根菜とか、茸が良いな。葉野菜だとぐずぐずになるからな。魚と炊いても美味いぞ? けどまぁ大概の食材はペムイと炊いたら旨くなる」


 瑞希の言葉にチサが誇らしげに返答する。


「……ペムイには無限の可能性がある!」


「そうだな……俺の故郷の人達はペムイが好きすぎて色んな料理を生み出したからな。ペムイが好きなチサなら新しいペムイ料理を思いついてもおかしくないよな?」


 瑞希がチサに微笑みかけ、チサは嬉しそうに頷く。

 使用人達は、完成間近になった瑞希達が作る料理が気になり、手元がおろそかになった事で、再び婦長に活を入れられるのであった――。

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