閑話 田舎の酒場
全く、婆さんが帰って来てからというもの、あの静かじゃった店がこんなにも活気付きおった。
婆さんも婆さんで怪我をする前より心なしか元気になった様じゃ。
「モーム肉のはんばーぐ上がったわよ~!」
「あいよ~!」
いや、間違いなく元気になっておる。
それにしても婆さんめ、食べた料理を説明しただけで見事に再現しおった。
ミズキの料理話をした時は、感心しながらしきりに頷いておったが、まさか作れる様になるとは思わんかったぞ。
――タバスさん良かったなぁ! 女将さんが戻って来て!
――このはんばーぐなんか女将さんしか思いつかねぇよ!
――やっぱり女将さんがいると、ここの鶏は焼いてるだけなのに美味いんだよなぁ……。
――女将さんがあってのこの店だよなっ!
「聞こえとるぞ馬鹿もんっ! 文句があるのならわしの料理をだすぞっ!」
――勘弁してくれよタバスさんっ!?
客共は大笑いしながら酒を飲んでいく。
それにしてもミズキ達は元気にしておるのだろうか?
「お爺さん、ホロホロ鶏のスープが上がったよ~!」
「あいよぉ! 今行く!」
喧騒の中を掻き分け、料理を取りに行き戻ると、気になる会話が聞こえて来た。
――聞いたかよウォルカの話?
――オーガの群れを子連れの冒険者達が少人数で討伐した話だろ?
――その話も結構前だろ?
「その話、詳しく聞かせてくれんかっ!?」
――ウォルカの街に行った時に聞いたんだよ。重症の怪我人を治してそのままその冒険者とオーガの群れを討伐した冒険者がいるって。オーガキングまでいたらしいよ。
――それより今はキーリスだろ? 祭りの日に悪い魔法使い達が騒動を起こした話! 確かそん時もふらっと現れた冒険者が怪我人を治したんだろ?
ミズキじゃっ! あいつめ、元気にしておるじゃないか。
――どうしたんだよタバスさん? にやにやして。
「何でもないわいっ! それよりお前さん達、話の御礼に一杯奢ってやるっ! 何が良いんだ?」
話を教えてくれた客にエールをやると、客共は嬉しそうに飲んでいく。
婆さんの所に料理を取りに行くと、まだ顔がにやついているらしい。
「あら、何か良い事があったのかしら?」
「ミズキが元気そうにしてる話を聞けてな。あいつめ、偶には顔を見せに来れば良いものを……」
「噂が立つって事は忙しいんでしょ。私達はお客さんから話を聞いてあの子の活躍を楽しみましょうよ」
「全く、カパ粉は足りとるのか。うちのカパの方が絶対に美味いはずじゃっ!」
「まぁまぁ、ほら御自慢のカパ粉を使ったパンも焼けましたから皆に持って行って下さいな」
婆さんに焼き立てのパンを入れた籠を押し付けられる。
綺麗な焼き上がったパンはわしがあいつ等に出してたパンとは雲泥の差じゃな……。
――タバスさぁん! 面白い話したら一杯奢ってくれんだろ!? うちのかみさんがさぁ……
「ふんっ! かみさんを怒らせるお前に驕る酒はないわい! 偶には早く帰ってかみさんの料理を食ってやれっ!」
――おいおい、飲みかけを取らなくても良いだろうに!?
――はっはっは! 愛妻家のタバスさんにそんな話は駄目だろ~?
「誰が愛妻家じゃっ!?」
――良く言うぜっ! 女将さんが戻って来てから生き生きとしてるくせに。偶にはキーリスにでも二人で買い物に行ってきなよ、馬車なら乗っけてやるからさっ!
――そうそう! 祭りの時なんかはんばーがーっていう料理を出す屋台が凄かったんだぜ? そういや女将さんのはんばーぐに似てる肉が挟んであったな……。
「……その屋台の店員は楽しそうにしておったか?」
――銀髪と黒髪の女の子二人と一緒に皆笑顔で頑張ってたぜ? ありゃあ黒髪の子が店主の妹だな。
「店主の妹は銀髪の子じゃ。お前、一杯奢ってやる、何が良い?」
――なんでだよ!? 基準が分からん!?
――やったね! 果実酒をくれっ!
客共は今日あった出来事や噂を再び話し合う。
静かだったあの時、あいつ等に出会えた事でまたこうして賑やかな日常が戻って来た。
婆さんと二人だったわしの人生に気になる奴が増えた。
あいつ等とまた会える時まで元気にしとかんとな――。
少し短いですが、5000P到達記念の閑話更新です。
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次もまた何かの到達記念に閑話更新をする予定ですので、その時はまたお付き合いください。